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56.偶然でしょうか、必然でしょうか?

少し冷えるなと目を覚ますと、カーテンの隙間から淡く白い光が差し込んでいた。


少し早く起きてしまったみたいね。


隣では穏やかな寝息を立てて眠るギルバート。

私は起こさないようにゆっくり起き上がると、ベットサイドに掛けてあったガウンを羽織ってカーテンを軽く引いた。


「まぁ、どうりで寒いはずね。このくらいなら積もりもしないでしょうけど」


飛び込んできたのは白んでいる空からチラチラと舞い落ちる小さな雪の粒だった。

湖に白く小さな粒が音もなく降っていく様は、このところ熱を帯びたように慌ただしかった毎日を諫めるかのようにただただ静かだった。


王都からシシリ村を経て、無事このエンナントへ戻ってきてから早数日。

昨日ようやくお義父様達も帰還を果たしてくださった。

前領主であり、これから領主代行として腕を振るっていただくお義父様達を歓迎すべく、取り急ぎだがメイデルテン様を始めとする身内のみを急遽集めて、ささやかな宴を開かせていただいた。


本当に戻ってくるのか、到着までは本当に心配をしていたのだけれど、迎えに行かせた馬車から降りてきたお義父様達は、あの日の完全村人仕様が嘘のように正装に身を包み、威厳溢れる前領主夫婦の姿だったので、さすがお義父様だわ…と舌を巻いたものだ。

ただ宴会になってしまえば、しかもそれが内輪だけともなれば尚の事すぐに気が緩み、メイデルテン様と肩を抱き合ってガバガバと浴びるほど酒を飲んでいた。

きっと今も私室で酒瓶を抱えながら仲良く床でお休みになっておられることだろう。


ともかく!

これで王都に心置きなく引っ越しをする手筈は整えられたわ。

あとは各々で引き継ぎ作業と、荷造り……これが大変なのはわかっているけれど、やればいいだけだもの。

春が訪れるまでにはなんとかなるでしょう。


それよりもあの時にハリオットに告げられたあの一言の方が問題よ。


久しぶりのただ楽しむだけの宴は、それはそれは会話に花が咲いたわ。

エンナントに住む親戚が一堂に会したのだから、皆の思い出話や最近の動向など話題が尽きる事はない。

そのうちメイデルテン様が子ども達に聞いてきたわけよ。


『王都はどうだった?何か楽しめる事はあったか?』とね。


いや、普通よ。

叔父が初めて訪れる(ハリオは3歳まで住んでいたけど記憶ないから省くこととする)王都の感想を聞くことなんて。

そりゃ聞くわよ。


ネイリーンはもちろん王宮内の研究所について怒涛の勢いで話し、マルクスは初めての王宮の夜会を興奮した様子で話したわ。

聞き入る大人達はうんうんと頷きながら微笑ましく目を細め、『さてハリオットは?』となったわけよ。


そこでハリオットが口にした一言があまりに予想外な事柄を含んでいたため、私は顎が外れるんじゃないかっていうくらいの衝撃を受けたのよ。

稲妻が落ちるようなあの、事実をね。




『私は下町を散策したことでしょうか。エンナントにはない品々が多数あって本当に心が躍りました。そうそう、市で買い物をした時には、えーとなんて言っていたかな?あぁボッタクリにも合いそうになったんです』


『ボッタクリって、あなたどこでそんな言葉覚えたの?』


『その時隣にいた女の子から教わったんです。気に入った魔道具があったので、店主の言い値で支払いをしようとしたら、その子が「この商品にこの値段はおかしい。こんなのボッタクリよ!」ってすごい剣幕で店主を怒鳴りつけ、お金を渡そうとした私の手を掴んで止めたんです。いや凄かったんですよ、その子。商品の特徴を的確に突き、そこから導かれる正規の値段はいくらだとごねる店主をあっという間に論破したのです。見事な手腕でした』


『あら、賢い子なのね。それだけ商品に詳しいのなら商人の家の子なのかしら?お礼はしたの?』


『いえ、ボッタクリがいかに悪質かと、カモにされる自分にどれだけ隙があるのかを店主と私に諭すと、支払いをしている最中に何処かへ行ってしまって……その後も探したのですが見つかりませんでした。しっかりお礼をしたかったのですが。変わった目をした女の子だったのですぐに見つかると思っていたのですが…』


『変わった目って?』


『瞳の色が何色も混ざっていたのです。青と緑と黄色が混ざり合っていてとても美しい瞳でした。気になって調べてみたら2色位なら稀にあるらしいのですが、その子は3色で…』


『…今、なんて言いました?』

『え?瞳の色が何色も混ざって』

『最後よ!』

『え?いや、その子は3色で?』




……おわかりいただけただろうか…

ハリオットが言った衝撃的な一言が。


この世界には多種多様な色の瞳がある。

ほとんどの人は単色で、本当に稀に2色持つ人もいるらしいが、私ですら今まで会ったことはない。

なのにハリオットが会ったという女の子は、『3色』

3色の瞳は虹色虹彩と言い、その存在はもはや伝説級。

その瞳を持つ人物は王を凌ぐほどの魔力を秘めているらしく、そんな瞳を今のこの世界で持っているのは……


『シェリーに会ったていうの…?』


誰の耳にも届かないほどの小さな声でだが、思わずその名前を口にしていた。


そう、そんな人物など、この世界のゲームの主人公である、シェリーに他ならないからだ。


まさかのハリオットとシェリーの遭遇に、一瞬頭が真っ白になる。

これはどう捉えたらいいのかしら?

元のシナリオにはハリオットのことなど詳しく載っているわけもないし、そもそもすでにシナリオ内の闇落ちハリオットと今のハリオットは掛け離れている。

これから起こることへの必然なのか、それとも本当にたまたま起きた偶然なのか。

どちらにしても、見えない歯車が噛んでしまった感がしてならない。


『母上?大丈夫ですか?』


ハリオットの不安そうな声にハッと意識を戻す。

とりあえず今出来ることは何もないわ。

この件がどう転ぶのかなんて、神のみぞが知る事なんでしょうし。


『ええ大丈夫よ。あまりにも珍しいことで驚いてしまったわ。いい出会いでしたね』


そうだ!今は気にしないでおこう。

たかが街角で居合わせたくらいじゃないか!

うむ、よくあることだ!!


『はい!気になったので今第一図書館で調べています。研究もしたいのでいつかまた会えるといいのですが…』


………歯車はしっかりと嚙み合わさってしまったようだった。


ご覧いただきありがとうございます。

また誤字脱字報告もいつもありがとうございます。


当初モブでしかなかったハリオットが、いつの間にかちょこちょこキーになるようなことをしでかすようになってました。成長したんですね。


次回は一気に時間軸が動く予定です。

ではまた次回!

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