53.シシリ村とガームさん
お読み下さりありがとうございます。
誤字脱字も減ってなくてすみません、助かっております。
久しぶりに更新になってしまいました!
そしてファンドールオールスターには至らなかったです。ごめんなさい!!
ではお楽しみ下さい~
入り口から村を縦断するように真っ直ぐ伸びる道を、背中を丸めた村長リジルの後についてぞろぞろと進んでいく。
シシリ村は小さいながらも奥へと進んでいくと、思っていたよりも多くの人が住んでいた。
山間の村らしい丸太小屋のような家が、沿道だけでなく少し奥に入った場所にもちらほら建っていて、村の中央に位置する広場には道具屋やパン屋のような商店も数軒だがしっかりあった。
広場の真ん中には共用の井戸があり、洗濯に来ていたのであろう数人の女性が桶を抱えて談笑している。
鍛冶屋の大きな煙突から吐かれた煙が、青い空にもくもくと登っていく光景は、この村に流れるゆっくりとした空気と相まってなんとも長閑な気持ちにさせてくれた。
「いい村ですね」
私達と目が合うと村人達は驚いてすぐにサッと頭を下げてしまうが、遠目で見る村人達の表情はどれも明るい。
きっとこの村の暮らしが風景同様に平和で豊かなのだろう。
ミジルは自分達の村を褒められ気が緩んだようで、ついさっきまで緊張して固まっていた顔をパッと明るくさせ「ありがとうございます」と噛みしめるように笑ってくれた。
「着きました。ここが私の家です。どうぞ狭いですがお上がりください」
ミジルに連れられてやって来たのは、村の外れに建てられた他の家よりも少しだけ大きな一軒家だった。
どうやらここが村長ミジルの自宅らしい。
なんというか、村長という要職についている割には地味…というか普通の家よね。
これまで見て来た『長』の名が付く家々はまさしく『長の家!』といった感じに周りよりも数段大きかったり豪華な家ばかりだったから、拍子抜けというか、違う意味で意外で驚いた。
「我が家の隣がガームさん、いえガラム様ですね。ガラム様の家でして、あちらの窓からなら帰って来たかがすぐにわかります。今日は裏の山で一狩りしてくると言っていたので、もうしばらくすれば戻られるるはずです。それまでこんな小さなところで申し訳ないのですがお待ちください」
そう言うとミジルはその先のダイニングへと私達を案内する。
一枚板のテーブルの先には、少し前のガタガタと震えていたミジル状態になっている中年のふくよかな女性がいて、私達と目が合うなりそれは深々と頭を下げた。
「妻のベスです」
「ようこそいらっさいました。ベスと申します」
ブラウンの髪をざっくりとまとめたベスは、挨拶を噛んでしまった気恥ずかしさで顔がゆでタコのようになってしまっていた。
「いきなりの事で驚いただろうが助かった。礼を言う」
ギルバートが感謝の意を伝えると、村長夫婦は揃って滅相もないと手を大きく振る。
長年連れ添ったからこそのそのシンクロした動きがとても微笑ましい。
「どうぞお掛けください。今すぐにお茶を用意しますので」
ミジルに促され私達は用意された椅子にそれぞれ座ると、セドリックが護衛達にガラムが家に戻ってくるのを例の窓のところで見張るように指示を出した。
護衛がいないとしてもこの小さな部屋にはそれなりの人数がお邪魔しているので、人口密度はかなりのものになっている。
一人一人がこうもくっつくように座るなどそうもない事なので、子ども達は楽しそうにキャッキャとはしゃいでいた。
「さて、では熊狩りの作戦を立てないとな」
その場を仕切るようにギルバートが皆に声を掛ける。
「作戦ですか?普通に会いに行ってはダメなのですか?」
「ハリオ。相手は逃走癖のある熊だそ。万が一にも捕獲し損じるなんてことは許されないのだ。どうせ時間もある。ならばしっかりと作戦を練って確実に仕留めようではないか」
ギルバート…
絶対に今までの恨み辛みを発散させようとしているわね。
尤もらしいことを言いながら、絶対に一泡吹かせたいのだろう。
「そうですね。お子様方に囮にでもなっていただいて背後からロープで縛りあげてはいかがですか?」
セドリックまで一体お義父様に何をされたというのかしらね?
隣にいるシーネまでもそれは嬉しそうに口角をニヤリと上げているし。
「奥方様は任せておいてください。奥様がいらっしゃれば綺麗に釣れますわ」
「シーネ…釣りじゃないのよ、訪問しに来たのよ」
「あはは!おもしろそー!!」
脳筋のマルクスを筆頭に子ども達は目を輝かせて喜んでいる。
「あの、領主様。先程セドリック様から聞いてはいたのですが、その、本当にガームさん…は前領主様のガラム様なのでしょか?」
このカオスな空間の中、申し訳なさそうにミジルがギルバートに話しかけた。
「ガームとは熊のように大柄なくせにやたら笑顔で、気が付くと無茶振りばかりしてくる銀髪の男のことか?」
「無茶振り…とまではいきませんが…大まかに言えばその通りですが」
「ならば本物に間違いないだろうな」
「…あぁ、そんな…」
ギルバートの言葉を受けミジルはがっくりと肩を落とした。
当たり前かもしれないが、お義父様達は身分を隠してこの村に住んでいたのだろう。
陽気な村人の正体が、自分の住んでいる領の前領主だと確定しミジルは明らかに動揺している。
「知らなかったとはいえガーム…ガラム様には随分と馴れ馴れしく接してしまいました…」
「気にしなくていい。逆に迷惑をかけたことを重ねて謝罪しよう」
「いえ、迷惑だなんて…お世話になりっぱなしでしたし」
「あのミジル、聞いてもいいかしら?お義父様達はいつ何のきっかけでこの村へいらしたの?」
泣きそうなほど眉を下げるミジルに、私は前から疑問に思っていたことを思い切ってぶつけてみた。
数あるファンドールの町村の中で、なぜこのシシリ村が選ばれたのか不思議だったのだ。
するとミジルは記憶を探るように顎を斜めに傾けながら目をつぶって考え込む。
「そうですね、初めてお会いしたのは十年程前でしょうか?夜も更けた頃、村の入りに怪しい人達がいるとの報告が入りまして、村の男衆を連れて声を掛けてみたのです。黒いフードを被った一行で非常に怪しかったのですが、事情を聞いてみると奥様が足をくじいて動けなくなり、医者と宿を探しているとのことでした。私はこれでも村で医者をやっておりますので、怪我人を放っておくことはできず我が家に招き入れることにしたのです。」
ほう、村長で医者とはずいぶんとミジルは働き者なのね。
言われてみればミジルの身体は山仕事するようながっしりとした体形ではないので、納得といえば納得だわ。
「怪我が治るまでの間、村に滞在して頂くことになると、世話になるのだからとガームさん、いえガラム様」
「ガームでいい。もう癖が付いているのだろう。構わぬ」
「あ、ありがとうございます。ガームさん達はその礼だと言って村の溜まっていた仕事を率先して片付けてくださったのです。当時この村は人手が非常に足りず、廃村の危機でしたのでそれは助かりまして」
「え?廃村??こんなに人がいるじゃない?」
聞き捨てならない単語にびっくりして少し声が大きくなってしまった。
ミジルはそれを受けて困ったように笑い続ける。
「ええ、あの時のシシリ村は今よりもずっと貧しく村民もどんどん減っていました。そんな村だから国内から移住してくる者などもちろんおりません。偶然でも村に来て仕事を手伝って下さったガームさん達には本当に助けられました。しばらくすると奥様の怪我が完治し、とうとうガームさん達の旅も再開だということになったのですが、村の現状を知ってしまったガームさん達一行は何やらその場で話し込み、奥様以外のお付きの方々はこの村に置いていくので住まわせてやって欲しいと言ってきたのです」
さすがそこは前領主。
シシリ村の現状に黙ってはいられなかったのね。
と言いたいけれど、お義父様達に旅のお供がいたとは知らなかったわ。
いえよく考えれば前領主夫妻がお供もなしに旅をするはずもないわよね。
でもファンドールで誰かついて行った者がいるとは聞いたことがなかったので、一体誰と旅をしていたのかも気になる所だわ。
気の合う馴染みがいつのまにいたのか、それとも旅の途中で意気投合したのか、いずれにいせよその仲間もよく旅の途中でこの村に残ると決めたものだ。
よっぽど村の生活に馴染んだのか、もしくはいつものようにお義父様にいいように丸め込まれたのか…
「よくお付きの方は了承したわね」
「ええ、私達もそんな事はしないでいいと言ったのですが、話を聞くとお付きの方々は何でも国を追われて着の身着のまま逃げてきた異国の方だったようでして…。風貌から異国の方とは思っていたのですがまさかそんな事情をお持ちとは知らなかったので驚きました。それでたまたま旅をしていたガームさんと知り合い行動を共にしつつも、実の所どこか定住の出来そうな場所はないかと探していたんだそうです。だから丁度いいのだと諭されるとこちらも断る理由もありませんので、そのまま村に住んで頂くことになったのです」
なるほど。
そういう経緯だったのね。
私はウンウンと相槌を打つ。
「村に残った方々は生活に慣れた頃、国を逃げるのに世話になった方達に現状を報告したいと、方々に手紙を出されました。すると驚いたことに今度は手紙を受け取った相手が家族を連れてこの村にやって来たのです。類は友を呼ぶとでも言うのでしょうか、彼もまた国を追われるように出て来たとの事でした。私達は驚きながらもやって来た彼らを受け入れ村に住まわせました。すると縁というのは不思議なもので、どこからか話を聞きつけた人達がぽつりぽつりとこの村に集まり始めてしまったのです。我が村にしてみれば異国の方とはいえ貴重な働き手。それに困っているとなれば断ることもできません。彼らからしてもこんな小さな村の方が身を寄せるには都合が良かったのでしょう。そして気が付けばいつしか村の半数は移民の方となっておりました」
「え?半分も?!!」
村の人口の半分が移民なんてこれまで聞いたことがなく衝撃が走る。
そりゃマグノリア王国内にはたくさん他国の商人が行き交っているが、言うほど街中で他国の者を見かけることはない。
現王の下、少しずつ各国との交流を深めているので多少観光客が増えたりとかはあるけど、まだまだ少ないのが現状だ。
まあエンナントとか、ヴァーパスは交通の要所だったりで他都市に比べて多いのだけれども。
こんな言っちゃ悪いが田舎の農村に、しかも移民として根付くなんて意外すぎるのだ。
困ったような嬉しいような笑顔を向けるミジルに、今度は私達夫婦は二人が同時に頷いて応えた。
「「それは、なんというか、すごいな」ですね」
田舎の村って閉鎖的な所が多いから中々余所者を受け入れないと思っていたのだが、シシリ村としては村の存続に関わる労働力の確保ができ、移民側は定住が出来ると互いの利益が一致した結果なのだろう。
ウィンウィンな関係なんだろうからいいのかもしれないが、出来れば領主に一言相談、もしくは報告して欲しかったかな。
万が一他国のスパイやらが潜んでいて侵略の拠点になんかなっていたら、それこそ我が家、ひいては我が領が破滅してしまう……
やだ!
今自分で言ってて『怖っ!!』てなったわ!
知らない所でトラップ多すぎやしないかしら?
「ガームさん達も近くに来た時には必ず顔を出してくれましたが、2年前に旅はもう十分だから自分達もここで暮らすといきなり言い始め、そのままこの村の住人になってしまったのです」
「自由ね」
「自由だな」
あまりにも自由なその行動にファンドール大人陣の顔に表情はない。
お義父様達の経緯は十分分かったわ。
しかし、その自由な生活とも今日でお別れです。
羨ましすぎるフリーライフは、ここにいる私達の手で終止符を打つことにしましょう。
その後私達は確実に獲物を仕留めるため、入念な打ち合わせを行ったのだった。
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「旦那様!隣の家に誰かが帰ってきました!」
1時間ほど経った頃だった。
見張りの護衛の興奮した声がミジルの家に響く。
「相手の風貌は?!」
「はい。目標は予想通り毛皮を被った大柄の猟師です」
「間違いない!熊だ!」
ギルバートは待ちに待った瞬間が訪れたと気合いの入った顔で皆の方を向いた。
「さぁ皆の者、用意はいいか?先程言った流れで頼んだぞ」
「「はい!!」」
そんな気合いの入りまくった面々を私とマーサは生温い目で見ている。
とてもじゃないが約10年振りに会う親子の対面ではないわね。
いえ、一旦は私も一緒になって盛り上がったのだけれども、あまりに大胆な提案が多すぎていち早く作戦会議から脱落してしまいました。
それでも残った面々はそれは楽しいそうにお義父様達捕獲計画を練っているので、まあ微笑ましく見守っていたのだけれども。
「先陣はハリオ、ネリィ、マルク!!いきなりお前達が訪ねていって相手を困惑させるんだ!」
「「ハイ!!お任せ下さい!!」」
3人の子ども達が並んでギルバートに敬礼を決める。
「絵姿でした見たことのないお前達を見て相手が怯んだ瞬間、一気に狙いを定めて私とセドリックで熊の手足の自由を奪う!護衛達は万が一逃げられた時を想定し、私達の後ろを固めておいてくれ!」
「畏まりました!お任せ下さい!」
今度はセドリックと護衛が握った拳を胸の前に構えて返事をした。
あーあ、なんてノリのいい主従なの。
ファンドールあんたーい。
「シーネ、ステア、マーサは裏口を抑えてくれ。もちろん護衛を連れてだぞ!そっちは総大将の母上の確保だ。宜しく頼む!」
会議には参加していない私達もしっかり作戦の中には入っているのよね。
嫌とは言わせないとキラリと光る目を向けられ、私はもう悟りの境地に立たされた僧侶のように慈愛に満ちた笑みを返した。
シーネ…勝手に私の手を掴んで上げないの…
「よし!狩りを始めるぞ!!」
「おー!!」
意気揚々と外へ駆け出す彼らとスゴスゴと動き出す私を、ミジル、ベス夫妻が困惑しながら手を振って見送ってくれた。
ファンドールがわちゃわちゃと悪のりしてる所をもっと書きたいのです!
次回どうしよう…




