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5.賽は勝手に投げるのです。

ご覧いただきありがとうございます。


現在の季節がわかりました。

こぼれている設定が多いのです。


お楽しみください。


8/19 一部訂正しました。


「ピートにわたくし、お願いがあるのです」

「ほう、何なりとお申し付けください。奥様の願いとあらばこのピート、尽力いたしますよ」

「実は随分と気が早いとは思うのですけど、ネリィのバースジュエルを見つけようと思うのです。ネリィの瞳を見ているとどんな石がいいのかつい考えちゃって、気になって気になって仕方がないから、いっそもう見つけてしまおうと思ったのよ。親としてこの子に最高のバースジュエルを用意したいのです!」


バースジュエルとは1歳の誕生日に親から子に、子どもの瞳と同じ色の石を送る、この国ではごく一般的な風習である。

石は庶民ならガラス玉が多く、富裕層になれば宝石に、貴族であれば魔石を用意する。

特に貴族の場合は親の魔力を魔石に込める習わしがあり、魔力を込めた魔石は子どもに降り掛かるあらゆる不幸を退けてくれると信じられていた。

小さい頃は箱にしまってベットの脇にお守りとして飾り、子どもが10歳を迎える時に初めてアクセサリーなどの身に着ける物に加工されるのだ。


ちなみにゲームのネイリーンはあの事件が起こってしまったので、本来行うはずだったお披露目も兼ねた盛大な誕生日パーティーは開かれなかった。

しかもバースジュエルも貴族に係らず親の魔力が込められていない、ただ大きいだけの魔石を送られただけだ。

なんともしょっぱい気持ちにさせられる設定。

散々だな、ネリィ。


私はきちんと用意するからね。

魔力も念もがっつり込めるから安心してね!


そんな希望もあるけれども、今この話題を出したのはその為じゃない。


「早めに用意をしてじっくり魔力を込めてあげたいの。それに出来れば魔石は売られている物から探すのではなく、自分の目で見て選びたいのよ。でも私はどこの産地の魔石がいいとかは疎いから。ねえピート、どこかに良質な魔石が採れる場所はないかしら?」


そう、最後のコレが言いたかったのだ!


「そうですね…」


ピートは自身の顎髭を触りながら考え込む。


さあ来い、ピート!あのワードを口にするのだ!


「魔石の産出でしたらサザノスでしょうね。規模も量も申し分ありません」


来ましたーーーーー!!!

サザノス入りましたーーーー!!!!

待ってましたよ、その言葉!

これです。

狙い通りです。


「サザノス。そうね、確かに私でも聞いたことがあるわ」


堪えるんだ、私。

喜びを顔に出してはいけない!


「サザノス鉱山はギルバート様のご学友が管理されているのですよ。ラインベルト伯爵の三男、オーガン様です。大変優秀な方で旦那様の信頼も厚く、彼なら任せられると旦那様自ら説いて管理者になっていただいたようです」


…なんと!知らなかったな、その設定。

じゃあギルバートはそんな学生時代からの友人で、さらに自身の信頼を置いている人に裏切られるって事か。

そりゃ荒れるし人間不信にもなりますね。


これからの展開を知っている私は、ギルバートを思うとなんとも暗い気持ちになる。


なんでまたそんな優秀と言われる人間が犯罪に手を染めたのかしら?

調べていけば真相もわかると思うけど。


「それは知らなかったわ。それほど優秀な方ならいつかご挨拶したいわね」

「奥様が公爵家に嫁がれた時はちょうどギルバート様の当主就任も重なって嵐のような日々でしたし、少し落ち着いたと思ったらハリオット様がお腹に居ることが分かりましたからね。のんびり領地を訪れることができなかったので会われる機会がなかったのでしょう」


それもそうだったわ。

わたし、結婚当初は本当にひどいものだったのよ。

ギルバートのお父様とお母様は私達が結婚してすぐに2人で放浪の旅に出るんだって当主の座を息子に譲ってどこかへ行っちゃうし。(今だってどこいるのか手紙が届かないとわからないし。)


多少前もって当主を譲る準備がしてあったとしても(きっとこれはこの日の為に前々からやっていたもに違いない。)年若い私達がいきなり公爵家の当主になるのは本当に大変で、それこそピートの力を借りまくってどうにか代替わりの挨拶から仕事の引き継ぎやらをこなしてた。


その後しばらくはギルバートは王城の仕事や領地経営の激務に励み、私は公爵夫人として社交界での人脈作りをこなしと分担して二人で頑張ったんだよね。


ようやく一息つけたのはハリオットを出産する頃だったわ。


それを考えると仕事面では有能なはずのギルバートが宝石事件を見逃してしまったのは、信頼を置ける人を登用し任せることで過度になってしまった自分の仕事の負担を減らしていたからなのかも知れない。


手の回りきらない状況で信頼する人に仕事を任せておくのは決して悪いことではない。

ピートがいい例だ。

彼ならばこちらが最低限の指示さえ出せば、こちらの望む結果は放っておいても出してくれるだろう。

ただそれを望んでいいのはその人の能力が高いだけではなく、絶対的な信頼関係があってこそだ。


自分の家にある金庫の鍵を誰になら渡すことができるのか。

不測の事態を考えて、どこまでその人物を信用できるのか。


そしてギルバートは悲しいかな、その人物を見誤ってしまったんだろう。

自分の知らないところで犯罪が行われていることを、

彼は一方的な信用で見逃してしまったんだ。



「では奥様。私は一度サザノス鉱山で採れる魔石の種類や品質を調べてまいります。そうですね、サザノス以外の産地もいくつか並べて後日ご報告に参ります。よろしいでしょうか?」

「ええ。ギルバートにもこの事を伝えてもらえる?」

「かしこまりました」


ピートは優雅な礼を取るとくるりと踵を返し部屋を後にした。



ベットサイドに誰もいなくなると私はフゥと小さくため息をついて窓の外に目をやった。

ここから見える景色は整えられた屋敷の庭園ではなく、すぐ横に広がる林の木々達だ。

今は秋の盛りで黄色や赤に彩られた木々が風に揺れて葉を落としていた。


なんとも(あと)を引くほろ暗い気持ちが私の心に残る。


なんとか上手く事を運べたらいいけれど…




ナイスミドルのピートの仕事は早かった。

翌日にはサザノスを含めた何ヵ所かのデータを用意してきて、総合的に見てもサザノスが一番適していると報告をしに来てくれたのだ。


私はピートから受け取った書類に目を通すと、そこにはサザノスで採れた魔石や鉱石のデータが過去に遡って記載されていて、その種類と産出量の多さに驚いた。


ちょっと調べればデータは簡単に手に入るのか。


実は私、前世では経理事務だったのですよ。

なので数字には強い方なのです。

かと言って不正を見つけるのが上手いとかではないですが、データから何かしらを読み取ることは好きなのです。


そう、こんな風に。


「ピート。サザノスの産出量ってこの3年間で随分と伸びているのね。特にこの辺りの鉱石と魔石なんかは3年で倍よ」

「そのようですね。オーガン様が着任されてしばらくしてから伸び始めたようです。オーガン様は着任後すぐ鉱夫たちの労働環境の見直しや古い設備を整えたりされましたから。効率が上がったことが大きいのかもしれません」

「素晴らしいわね。でも全体というよりも一部が突出して上がっているのは不思議ね。何か新しい技術でも持ってきたのかしら?」

「…言われてみればそうですね。そのような話は聞いておりませんが」


私はオーガンがエジルブレンと繋がっていることを知っている。

穿った考えを持って数字を見れば、普段は素通りする事柄も爪に引っかかって気になってしまうのだ。


でもここではあえて何も知らないフリをして、ふと気づいたかのように疑問を口に出す。

そこに深い意味は持たさない。


特定の鉱物だけ産出量が上がるというのは不自然だ。

意図してそれを掘り出そうとしているのだろう。

でも鉱山と言うのはある意味宝探しのようなものだ。

掘ってみないと何が出るのかはわからない。

何か、特定の物を見つけられる革新的な技術がなければね。


エジルブレンは我が国とはまた違う文化形態だ。

こちらにない技術があったっておかしくない。

彼らが欲しがる鉱石を探させる為に何かしらの援助をしていても不思議ではないはずだ。



「不思議ねえー」


私は手を頬に添えて首を傾げた。


「そうですね…」



賽は勝手に投げておいた。

あとはピートがどう判断するかだ。

ピートは優秀だから自分の意図してる事に気づいてくれると、ステフィアさんは信用してるのですよ。


ナイスミドル頼んだぞ!

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