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43.小会議室の尋問 1

お読み頂きありがとうございます。

最近の専らな悩みはPCを開くと襲ってくる眠気です。


さて、夜会編も終盤に入ってきました。

進みが遅いですがお付き合い下さい。

あれだけ盛大に催された夜会会場も今はセッセと後片付けをするメイド達がいるだけだ。

国中から集まった貴族達も王都内の屋敷に帰る者、その足で自領に帰る者、王都内の宿泊施設に泊まる者とそれぞれ散っていった。


ただ、私とギルバート、そしてベスパーバとその夫人だけは陛下の指示により、王宮内にある一室に案内され、今はテーブルを挟んだ状態で睨み合うように座らされている。

医者について行ったネイリーンを除く子ども達は、この場にいてもしょうがないので従者に任せて一足早く屋敷へ帰らせておいた。


通された部屋は、先日私達が王宮を訪れた際に通された絢爛な面談室ではなく小規模な会議室だった。

美しい天然木のシンプルなデスクとチェアーが置かれているだけの部屋は、椅子の数の割に大きい部屋だったのでガランとしたスペースが多く、それがかえって今のこの張り詰めた空気を強調しているように感じた。


少しすると侍従がお茶を淹れてくれたので、お茶でも飲んで落ち着こうかしらとカップに手を伸ばすと、同じ事を思ったのか、私の目の前に座るベスパーバ夫人も同じタイミングで手を伸ばした。

わざとでないとはいえ、お互い何となく気恥ずかしい気持ちになり苦笑いを浮かべ会釈をする。


ミュリエラ様と同じローズピンクの髪を結い上げているベスパーバ夫人は、心細そうな顔でお茶を飲みつつチラチラと私の様子を窺っていた。

その様子から派手な印象のベスパーバやミュリエラ様と違い、大人しく控えめな女性なのだろうと思えた。

彼女は陛下に呼び出しをされたこの現状にかなり参っているようで、その顔にはくっきりと困惑の色が浮かんでいる。


そんな妻と違い隣のベスパーバは、腕組をしながら目を閉じて動かない。

先程検査に出された小瓶の事でも考えているのだろうか?

小瓶の結果次第ではミュリエラ様自身による事件の可能性も出てくるのだ。

あれほど執拗なまでにネイリーンだと騒いでいたのがひっくり返りそうになりつつある現状について、何か思い巡らせているのかもしれない。

しかし本当に小瓶から蜘蛛がいた痕跡が取れたとして、あれだけ騒いでいたベスパーバは大人しくミュリエラ様が犯人だと認めるのかしら?


芳しい香りを放つお茶のおかげで徐々に緊張が解れてきた私は、この待ち時間を使って一度考えを整理することにした。


これがミュリエラ様による自作自演だったっとして狙いは何なのかしら?

考えられるのはやはりネイリーンのせいにし王子の婚約者候補から外させることだろう。

何度もネイリーンのせいだとわめき散らせば、証拠がなくても周りにいた貴族達にネイリーンがやったのではという疑念を抱かせることは出来る。

そしてその疑念を上手く使えば状況的証拠のみでネイリーンを犯人に仕立て上げる事も可能だ。

一度拘束されてしまえば、貴族達からはネイリーンの婚約者候補としての資質を問われることになり、いくら王が推したくても推しづらい状況になるだろう。

ミュリエラ様が王子の婚約者としてどうしても立ちたいのなら、最大のライバルであるネイリーンを蹴散らすのが最も楽な方法なのだから。


その時私はふと、中庭で泣き崩れたミュリエラ様の姿を思い出した。


一人暗い庭のベンチで佇んでいたローズピンクの髪の少女。

最初のキツい印象とは裏腹に、話してみれば愛しの殿下とネイリーンが仲良く踊る姿にショックを受けて泣いている、どちらかというと庇護欲をそそる子だった。


そういえばあの時、ミュリエラ様は私とは関係のない事で思い悩んでいるって言っていたっけ。

そして別れ際にはこちらが慌てるほど、何度もごめんさいと頭を深く下げていた。


……あれって、もしかするとこの騒ぎのことだったのだろうか?

でも自分からこんな手まで使って陥れようとする相手に、あれほど謝罪の念を抱くかしら?

蹴落としてやると息巻いているのなら、お前たちさえいなければと睨みつけてきそうなものなのに。


あの思い詰めた雰囲気に必要以上の謝罪。

なにか引っかかるわね。

もしかしてミュリエラ様自身で計画して実行するというよりも、誰かに強制され『やらざるを得ない』状況に追い詰められていた……そう考えた方がしっくりするかしら。


そうね、少なくともまだ成人にも満たないミュリエラ様が独断で事を起こしたとは考えられない気がしてきたわ。

あれほど沈んでいたのは、これからしなくてならない事に対して強い罪悪感をおぼえていたのでは?


仮にミュリエラ様自身で考えて事を起こそうとしたとしても、その背後にベスパーバが絡んでいることは間違いないだろう。

先程のギルバートの追求時の慌てぶりを見る限り、蜘蛛を放つ事ももちろん知っていたっぽいし。


検出結果が出たら、一体今度はなんと言うのだろうか……



―コンコンッ

「陛下がいらっしゃいます」


そう言って扉番の衛兵がガチャリと扉を開けると、まず始めにいつぞやの穏やかな雰囲気など微塵も感じさせない張りつめた空気をまとった陛下が入室された。

そして陛下に続き、キラリと光る銀縁の眼鏡姿が冷たい印象の宰相ドベルスキー様、そして初代国王さながらの雄々しさ漂うルベリオス王弟殿下が入室した。

待っていた私達4人は直ぐさま立ち上がり頭を下げる。


やだ、御三家そろい踏みじゃない!!


頭を下げながら私の心臓はドクドクと心拍数を上げる。

王家の夜会で起きた事件となると陛下お一人でどうにかするとは思っていないけれど、3大権力の揃っての入室は心臓に悪い。


なんせドベルスキー様とルベリオス殿下は、王宮内でバチバチと火花を散らしている宰相派と王弟派の首領である。

王弟派筆頭であるベスパーバに関わるこの騒ぎがすんなりと真相解明に辿り着けるのか、一抹の不安が私によぎった。


一番奥の席に陛下が座り、その両隣にそれぞれドベルスキー様とルベリオス殿下が座ると、私達も再び席に着いた。

一同が顔を合わすと陛下が重々しく口を開く。


「今宵の夜会で起きた騒ぎだが、一連の流れをもう一度確認する。ドベルスキー」

「はっ」


ドベルスキー様はいつの間にか作成していた書類を手に、抑揚のない声で夜会で起きた事実を淡々と述べていった。



「―――その後、ミュリエラ嬢は駆けつけた医者に伴われ現在は医局にて治療中です。また、彼らに同行したネイリーン嬢は現在、城内の生物研究所で捕らえた蜘蛛を調べているようです」

「ふむ」


ドベルスキー様の報告を聞き終えると陛下は、トントンと何度か指でデスクを打ち考え込んでいた。


「ネイリーンには聞きたいことも多い。一度こちらに連れてまいれ」

「はっ!」


陛下の命を受け、侍従の一人がそそくさと退室する。

それを見送ると陛下は「さて…」と今度は私達の方へ視線を向けた。

以前お会いした時の穏やかに細められたアメジストの瞳はなく、鋭い眼光を浮かべた陛下の目に睨まれると自然とゴクリと喉が鳴ってしまう。

一国の頂点たる王の睨みは獲物を狩る肉食獣のような獰猛さが漂っていた。


「ベスパーバよ」


いつもよりも低い声で呼ばれたベスパーバが「はっ」と今一度姿勢を伸ばして陛下へ顔を向けた。


「此度の騒ぎ、まずは偶然なのか故意なのかが一番の要点だと思うのだが、其方は騒ぎが起きた当初からネイリーンが犯人と騒いでおったな。その根拠はどこだ?申せ」


端的な陛下の問いにベスパーバが焦ることなく答える。


「はい。私が見ておりましたところ、あの時、ファンドールの皆様がいらしたのは会場のほぼ中央でした。会場に蜘蛛が入り込んだとしても、あれだけ人が溢れる会場を2匹の蜘蛛が揃ってミュリエラの所まで入ってこれるとは考えにくいでしょう。天井から落ちてきたのでは?とも考えましたが、2匹が同時に落下するとは思えません。故に蜘蛛は故意に放たれたと考えられます。では一体誰が放ったのかとなりますが、あの時ミュリエラとネイリーン嬢に連れはおらずお互い単独で対峙しておりました。二人を取り囲んでいた者もありません。さすればあの場で蜘蛛を放てるのは自ずとネイリーン嬢しかないと推察できるのであります」


自分の思いの丈をぶつけるように、ベスパーバはひときわ声を大きくして陛下に訴えた。


「うむ…確かにあの場で最も怪しいとされるのはネイリーンであろうな」


陛下の応えにベスパーバが嬉しそうに頷く。


「ええ、そうです。ネイリーン嬢は昔から毒に精通をしており、最近では生物毒にまで手を出していると聞き及んでおります。以前私がシャスティン殿下とエンナントを訪れた時も、それはそれは嬉々として毒と戯れておいででした。毒蜘蛛にももちろん詳しいでしょう」


陛下の賛同に気を良くしたのか、大きな身振りまで付けてベスパーバは饒舌に語る。


ベスパーバってネイリーンの毒情報、知りすぎじゃない?

なんで生物毒に手を出したことを知っているのよ。

え?それともネイリーンの毒好き情報って貴族の間でそんなに有名なのかしら?


社交から遠ざかっていた私は、我が家の内情がどれだけ伝わっているかなど把握していない。

ピートのお役立ち情報にもその項目は載っていなかったはずだ!(私が忘れているだけだったら本当にごめん、ピート。)

もし仮に貴族中に毒好き最新情報まで知れ渡っているとすれば、あの会場の中でベスパーバのように「蜘蛛=ネイリーン」となっていた人達は多いであろう。

あの時向けられた視線の意味合いが、ただの興味からではなく、軽蔑や猜疑心の意味が含まれいたとも思うと少し怖いと思った。


「確かにネイリーンは毒に精通しておる。だがしかし、私もネイリーンとは面会しておるだけにあれがどんな娘か知っておる。どうにも腑に落ちんのだがな……」


陛下もここ数日でネイリーンの人となりを掴んでいたため、私のようにネイリーンがこの騒ぎを起こすことに疑問を感じているようだった。


「まあ本人に聞いてから判断するとしよう。ではベスパーバに再び問う」


陛下がより一層鋭い目でベスパーバを捕らえた。


「ギルバートが拾ったあの小瓶にお主は見覚えはあるか?」

国王陛下のターンですね。

権力三つ巴でなんかしら起こるのか?起こらないのか?

私にも謎です。


ではまた次回!

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