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35.夜会は戦場です

いつもお読み頂きありがとうございます。

とうとうブクマが400人越え!!本当にありがとうございます。

飽き性な私が書いていられるのも皆様の存在のおかげです。

これからも頑張って書いていくので引き続きお付き合いください。


ではお楽しみ下さい。

心に新たな指針を刻んだあの日から6日が経った。

今日はとうとう婚約者選定夜会の当日だ。


さて、ここで説明しておきたいのはこの婚約者選定の夜会についてだ。

王家主催なのはもちろんのことなのだが、実はこの夜会、王家側が“婚約者選定の夜会”だと謳っている訳ではない。

貴族の間で王子が10歳を迎える前に集められる夜会の事を勝手にそう呼んでいるに過ぎないのだ。

では何故この夜会がそう呼ばれるようになったのか。

それはこの夜会が通常と違い明らかに特別仕様の夜会となっているからだろう。

どこが特別なのかというと、普段は参加の認められない子どもがこの夜会では正式に参加者として招待されることにある。

といっても、王家が招待する子どもは限定されていて、それこそ王子の婚約者候補として残った数名とその家族だけ。

そう、非常にわかりやすいあからさまな思惑を感じる招待リストになっているのだ。

故に貴族達はこの時期に夜会の招待状が届くと、もうこんな時期なのかと暗黙の了解のように呼ばれた子どもの確認をし、候補の中の令嬢が今後の国母としてやっていけるのかを見てやろうとまるで審査員にでもなったような意気込みで夜会へ参加するのである。


いつからこの風習が始まったのかは知らないが、貴族みんなに査定されるなんて随分と酷な事を年端もいかない令嬢に課すものだと思う。

ただ貴族からすれば決定権は王にあるとはいえ、明らかに資質を疑う者については声をあげることが可能になるのでそれなりに評価をされているシステムではあるのだ。


そして今回呼ばれたのは我が家を始めとした3組だけ。

こんな注目を一身に集める夜会なので、私達はまるで戦場に赴くかのような心意気で仕立てたドレスを戦闘服として身に纏い王宮に降り立つのだ。


本来ならば熱を出して寝込んだ日から昨日までの間に、ヴァーパスで懇意にしていた人達の元へ挨拶と情報収集目的で回る予定がだったのだが、どうやら私の周りには心配性が多いようで“体調回復が一番です”と全ての予定をキャンセルされてしまった。

本番に向けて安静を求めらるのは分かるのだが、夜会という戦場に何の用意もなく丸裸で挑まなければならない気がしてベットの上で私はずっと落ち着かなかった。

「このまま夜会に突入してはあの難しい貴族達相手に上手く立ち回れないわ」と青い顔をして私が嘆くと、「お時間はあるのですかこれを全て覚えて行かれるといいですよ」と有無も言わせぬ笑顔を浮かべたピートが分厚い書類の束を私の前に差し出してきた。

それはこの夜会に来るであろう貴族達の名前と姿絵、派閥、その相関図に最近の動向など必要最低限の情報をまとめた資料だった。

ただ、国中の貴族がほとんど集まる王宮夜会の資料は、必要最低限といえども膨大な量だったので私は違う意味でもう一度倒れそうになったのだ。

なんとか今日までの間に読破できたので、直接の情報は得られなかったがある程度の情報は把握することが出来たと思う。

今、この煌びやかに整えられた会場で笑みを浮かべていられるのもピートのおかげといえよう。

まさにピート様々である。


「こんなにたくさんの人がいるなんて。すごいです」


私達の後ろに付いて入城してきたネイリーンが小さく呟く。

王宮一の広さを誇るこの大広間は、広いと有名な我が家の広間と比べても比較にならないほどの広さであった。

その大広間を所狭しと着飾った紳士淑女達が埋め尽くしているのだから、思わず声が出てしまうのも頷ける。


「それにさすが王の住まう王宮ですね。広いだけでなくこの絢爛で細やかな装飾達。圧倒されます」


穏やかな口調ながらも、興奮した様子で忙しなく目を動かしているのはハリオットだ。

確かにあの国立図書館を連想させる高い天井のフラスコ画に、そこから何個もぶら下がっている大きなシャンデリアの迫力には圧倒される。

さらに左右の壁を彩る花々と金色の燭台が織りなす美しいコントラストは、まるで付け入る隙すら与えない完成された譜面のような美しさだった。


「マルクス、騒ぐと思ったのに大人しいのね。大丈夫?」


夜会自体が初めてのマルクスは興奮よりも恐怖が先に来ているらしく、ネイリーンの問いかけにも固まったまま頷くのがやっとそうだった。



「まあ、ファンドール公爵家の方々よ。謹慎を解かれたのかしら?」

「あれが噂のご令嬢だな。さすが美しい」

「あんな事件を起こしておいてよくも堂々としていられるものだ」


私達一家が奥へと歩いていくと、あれほど広間にひしめいている人達がまるでモーゼの海割りの如く左右に割れて、しかし気にはなるのだろう。

こちらをチラチラ見ながらそれぞれが好きに声を上げている。


ああ、やはりこうなるわよね。想定内よ。

なんせ謹慎して9年。

全く王都に近づいていなかったのだから、久しぶりに私達が現れれば貴族達が様々に反応をすることはわかってたわ。

久しぶりの登城に驚愕する者、婚約者候補を立てた家として好意的に見る者、逆に今更何用だと我が家を拒否する者。

各自が自分の思惑と照らし合わせながら我が家との距離感を図っているようだった。

どんな感情が向けられても自分とギルバートだけならどうとでも対応できるが、今日は子ども達も同伴である。

あらかじめここに来る馬車の中で、子ども達には過去の件で周りから何らかは言われるだろうことは伝えておいた。

そして何を言われたとしても領主としての責任は果たしたのだから俯かず堂々としてなさいとも言っておいたのだ。

今、後ろにいる子ども達の様子を見る限り、マルクス以外は過度の緊張や気負いは見られないので良かったとホッと息を吐く。

幼いマルクスにしては難しいことよりも人と雰囲気に飲まれているようで、ある意味暴れん坊が抑えられて調度良い塩梅になっている気もした。

ネイリーンの婚約が確定している今、今日集まっている国中の貴族達に舐められないことは大事だ。

今後のこと考えれば、ここで貴族達に悪印象を持たれることは避けておきたい。

肝の据わった上の二人はともかく、社交場初体験で何をしでかすか未知数のマルクスの扱いが鬼門だったのだ。


「お久しぶりですね、ステフィア様。お加減はもう宜しくて?」


皆が遠巻きに見ている中、一組の老夫婦が私達の前に現れた。


「まぁ、ヨークサリン侯爵様にビルマニア様!お久しぶりでございます」


私が喜びに声をあげるとご婦人であるビルマニア様が私にカーテシ-で挨拶をしてくれた。

夫婦でお揃いの白髪とヘーゼルの瞳を持つ品の良いこのご夫婦は、前公爵夫妻の代から懇意にしているヨークサリン侯爵夫妻だ。

私達が公爵家を継いだばかりで右も左もわからない時に、夫婦揃って相談に乗ってもらったりと大変お世話になった、謂わば社交界の師のような存在である。


「先日はせっかくお時間を頂いておりましたのに急遽行けなくなり申し訳ありませんでした」


そんな存在の夫妻の元には損得の勘定なくご挨拶に伺う予定だったのに行けなくて、私はすごく申し訳ないく思っていた。


「いえ、お気になさらずに。ご自愛下さいませ。私達にはこうやって会う機会があるのですから」


いい年の重ね方をしたのがわかる皺の多い目を細めてビルマニア様が笑う。


「それよりもこちらのお子様方にご挨拶をさせていただいてよろしいかしら?」


私は子ども達の背を軽く押してビルマニア様の前に並ばせた。


「この子が長男のハリオット、娘のネイリーン、そしてエンナントで産みましたマルクスですわ」

「まあまあ大きくなられましたね。ご両親に似て皆様聡明そうですわ」


子ども達が一人一人挨拶すると、今度はヨークサリン侯爵がギルバートに声を掛けた。


「風の噂ではヴァーパスに戻ってこられるようですな。色々と大変とは思いますが何かあればいつでも声を掛けて下され。この老いぼれもまだ少しは役に立てるでしょう」

「何を仰いますか。まだまだ頼りにさせていただきますよ、ヨークサリン侯」

「この夜会の趣旨も皆はっきりとは言わないが、シャスティン殿下の婚約者候補に対する貴族達の最終査定でしょう。ギルバート様方は気負いしている様子はあまり見られないが、ほれ、あそこで固まっている2つの集団など殺気だっていてしょうがない。幼いご令嬢が中心におるのに大人があれではこの国の行く末も恐ろしいものですな」


ヨークサリン侯爵がちらりと視線を移した先には確かに2つの集団がいて、距離を取りつつもお互いを牽制しているように見えた。


右側に構えているのは宰相ドベルスキーと確か宰相派のジャブル宮中伯ね。

じゃあその前にいる黒髪のご令嬢がご息女のアニエスタ様かしら?


私は叩き込んできた貴族情報を頭から引っ張り出して素早く照合する。

ジャブル宮中伯は宰相派の中でも比較的穏やかな方だ。

本来なら自ら王子の婚約者などに娘を推すタイプではないのだけれど、釣り合いの取れる候補が派閥内では見つからなかったのだろう。

きっと宰相派から強い申し出でを受けて娘を候補者の一人へと薦めたと思われる。

そんなお父上のご気性を引き継いでいるのか、アニエスタ様は静かにその場でジッと控えていた。


一方左で固まる開戦派の集団の中心には見慣れたドヤ顔が見られた。

そう、開戦派の筆頭、ベスパーバだ。

私の嫌い補正が効き過ぎているのか、相変わらず小憎たらしい顔をして取り巻きに囲まれている。

そしてそのベスパーバの前で扇を口元に広げながら微笑んでいるのがきっとご息女のミュリエル様だろう。

ローズピンクの髪をこれでもかと縦ロールにして、これまた真っ赤なドレスを身に纏っている。

はっきり言って目立っている、いや、少し浮いているようにも見受けられた。

顔立ちはハッキリとした目鼻立ちの美人さんだが、もう見ているだけでわかるわ。

女王様タイプのきつい性格が顔によく表れていた。


あーあの子ネイリーンに決まったら激怒しそうだな。

もう私が一番って顔に書いてあるもの。

めんどくさいことが起きなければ良いのだけれど…


私はネイリーンと同じ候補者の面々を複雑な気持ちで眺めていた。

すると次の瞬間、ファンファーレと共に会場内に騎士の声が響く。


「マグノリア国王陛下、並びにエナミエル王妃陛下がご入場されます」


この声を機に会場の貴族達が一斉にその場で腰を曲げて頭を下げる。

カツン-カツン-カツン-

静まりかえった会場にいくつかの足音が響き渡った。


「皆、面を上げて楽にするがよい」


先日聞いたあの威厳に満ちた声が掛かると、会場内の者達は皆ゆっくりと姿勢を元に戻した。

壇上の2つの椅子の前には細かな刺繍が施された青の礼服に身を包んだ王と、華やかで品に満ちたクリーム色のドレスに身を包んだ王妃様が立っていた。

そしてその左右には王弟陛下やシャスティン殿下を始めとする王家の方がずらりと並んでいる。

王家の方々が一同に会する機会はそうはないので、こうやって並んでいる様は圧巻だった。


「忙しい中集まってくれて感謝する。今宵は我ら王家主催の夜会だがそう畏まらず楽しくやってくれ。では始めよう!音楽を!!」


王が開会宣誓をすると会場に音楽が流れ始め会場の空気も緩んだ。

するとその中を王妃を連れた国王陛下が悠然とホールの中央へと進んで行く。

ファーストダンスだ。


ほう…と皆がその優雅なダンスに見惚れる。

美男美女の国王夫妻はその姿だけでも皆の心を掴んでしまうと言うのに、ダンスを踊る様はまるで羽でも生えているかの如く軽やかで美しかった。

あっという間に一曲を終え陛下が席に戻ると、それと入れ替わるように次々にホールに人が集まりあっという間に本格的な舞踏会が始まっていった。


「ではまずは陛下にご挨拶に行くとしようか。」


ギルバートに促され私達は陛下の元へと足を運ぶ。

するとやはり皆考えることは一緒なようで玉座の前でちょうど候補者3家族が鉢合わせてしまった。


うわぁーこれはおそろしいわー


思わず顔が引き攣ってしまったことはもちろん、言うまでもないだろう。

始まりました!夜会編!!嵐の予感です。

書きたかったシーンが上手く書けるといいのですが。

次回は三つ巴スタートです。


お楽しみにー

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