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34.これから私は‥

お読み頂きありがとうございます。


がっつりステフィアさん回です。


お楽しみ下さい。

色とりどりのポスターに囲まれた六畳の部屋で、ニヤニヤと幸せそうな表情を浮かべた女性が一人テレビの前に座っている。

画面の中では、薄紅色の花びらが舞う中、風に揺れるピンクゴールの髪を抑えながら微笑む美少女と、これまた金髪の絶世の美男子が向き合っていた。


『初めまして、貴方が王子様?』

『…まずは人の事を聞く前に自分が名を名乗るべきだろう。』

『ふふっ、やだ私ったら。そうよね、私はシェリー。今日からこの学園でお世話になります。宰相様から王子様にお世話になるように言われていたから焦っちゃった。』 

『……話は聞いている。』

『ねえ、そんなに眉間に皺を寄せていると皆が怖がってしまうわよ。ほら、笑って、笑って!』

『!!なっなんだ!お前は!』

『ふふっ、王子様って想像していたよりもずっと幼い方なのね。』

『ぶ、無礼者!!』

『あ、赤くなった。』




目覚めると薄暗い中にぼんやりと天蓋の骨組みが目に入った。

一瞬ここはどこなのだろうかと不思議に思ったが、すぐにあっちは夢でこちらが現実なのだと認識できた。


この薄暗さ。

今は夕方なのだろうか、それとも夜明け前なのかだろうか?

自分がどの位寝ていたのか分からないので時間の経過が分からない。

ただはっきりと言えることは、寝ている間に汗を大量に掻いたようで、肌にぴったりと張り付いてた寝着が気持ちが悪いということだ。

そして熱が汗と共に体から抜けたらしく、だるさはあるが体はかなり軽くなっていた。


懐かしい夢ね。

前世の、しかもゲームをしている夢なんて最初の時しか見たことがなかったのに、今になって見るなんて何の暗示なのかしら。

あれは… ヒロインと王子が初めて会ったシーンね。

おしとやかで従順な令嬢しか周りにいなかった王子が、天真爛漫でしなやかなヒロインに会って今までの概念がぶっ壊されるのよ。

国の保護下に置かれているヒロインが学園で快適に過ごせるよう王子が後見人として世話をするようになり、一気に二人の距離は近づいて仲が深まっていく…確かそんな流れだったはずだわ。


それにしても私の記憶も大分薄れてきているようね。

大雑把な設定やずっと危機感を覚えている没落フラグについてはハッキリと覚えているけれど、ヒロインの顔なんて夢に見るまではほとんど忘れていたわ。

ピンクゴールドの髪と、そう、最大の特徴は他に例を見ないほど鮮やかな虹色虹彩の瞳だったわね。

単色の瞳と違い、彼女の瞳は深い青と緑の入り交じった水の中に黄色い花が咲いているかのような他に類を見ない瞳だったわ。

この瞳を持つ者は王を凌ぐほど魔力を秘めているとされるけれど、長い歴史を見ても数人しかいなかった為、今は伝説のようになっているのよ。

だから今となってはその瞳の存在そのものを知る人は王国の中でも一握りしかいないし、ましてや平民である彼女や彼女の周りの人達が彼女にとてつもない魔力があるなんて思ってもみなかったんだ。

確かゲームのプロローグで家族が暴漢に襲われたことで魔力が暴走し、それを機に国にその存在が明らかになり保護されるっていうシーンがあったっけ。


そうそうそうだわ!ああ思い出してきた!

だから彼女は途中入学の転校生なのよ。


1つをきっかけとして芋づる式でゲームの記憶が蘇ってくる。


そうよね、あと何年かしたら本格的なゲームのスタートだもの。

ネイリーン自身の矯正は結果はどうであれ結構やった気がするけれど、結局王子との婚約も決まってしまったし、これからどうなっていくのかしら?

本当にゲームの通りならシャスティン王子はすぐにこのヒロインに恋をして、ネイリーンを邪険にし始めるでしょ?

しかもネイリーンもヒロインが気に入らないからって執拗なまでのいじめを繰り返して…って…


でもそれこそ赤ちゃんの頃から今までネイリーンを育ててきた身としては、あの娘が気に入らないからって人をいじめるとは思わないのよね。

もっと言えば毒以外に興味を持つとも思えないし。

え~、これからシャスティン殿下に恋をして、狂気が満ちてくるのかしら?

恋は人を変えるって??



力の入るようになった手でベッドを押して体を起き上がらせた。

いつも隣に寝ているギルバートの姿は今日はない。

きっとネイリーンを出産した時のように別室で休んでるのだろう。

木枯らしがガタガタと窓を揺らす音が広い部屋に響くと病気のせいかしら?

何とも心細くなってきてしまった。



次の秋を迎えればあの日からちょうど10年…

自分がまさか乙女ゲームの中の、しかも没落不可避の悪役令嬢の母として転生するなんて思いもしなかった。

自分の幸せのため、そして家族やそれを支えてくれる人達のためにもゲーム通りになるものかと奮起し続けて約10年か。

サザノスは無事に回避できネイリーンの性格破綻の原因である家族の崩壊は止められたけど、やっぱり現実はそれでOKとはならなくてエンナントへの自主謹慎。

それならこのまま静かに隠居生活でいいじゃないとも思ったけれど、ネイリーンはどっからでもフラグを引っかけてきそうな毒好きな娘に育ち、じゃあこの特性を活かして王子との婚約を潰そうと試みたけれど今度はまさかの王命で婚約確定なんてねぇ。


上手く躱せたかと思えばどこからか絡み取られて、まるでゲームと私で綱引きをしているみたいだわ。

どちらが先に力尽きるのか、緩めてしまえば一気に相手側に引きずり込まれてしまうようなそんな感じ。


フフっと誰もいない静まりきった部屋に私の小さな笑いが落ちた。

色々思い出したり考えたりしたおかげで私の考えもまとまってきたようだ。

自分の中で勝手に山場にしていた婚約者回避が上手くいかなかったことで随分とショックを受けてしまったけど、冷静に考えれば考えるほどゲーム通りにネイリーンが動くとは考えられない。


それは今まで私が動いて必死に抗ってきた証で、ゲームのネイリーンと今のネイリーンはどう考えても別人に育っている。

だからといってこれからシナリオの強制力がどう働いて変わっていくかはわからない。

先程も思ったように恋をして一気に変わってしまう可能性も十分にあるのだ。

油断禁物なのは確かだった。


けれどそればかりに囚われて、もうダメだと悲観している方がよっぽど思う壺のような気がする。

このままシャスティン殿下と結婚をするのか、はたまた振られてしまうのかはわからないけど(いや、まだ惚れてるわけでもないから振られるって言うのはなんか違うかな?)、どっちに転んでも円満に!!

そう!!円満に成すよう動いていけば良いんだわ。


本編が始まる学園入学まではあと5年ある。

私が思い出す限りこれからの5年間は特に大きいフラグはないはずだ。

あるとすれば数日後の夜会を経て正式にネイリーンが王子の婚約者になることくらいだろう。

私達家族もこれを機にヴァーパスに移ることは決定だ。

となれば私がこれからすべきことは、まずは足場をしっかり固めることなのかも知れない。

この世界は前世でやっていたゲームの中の世界かも知れないが、生きている私にとっては現実世界でしかない。

主人公とその周りの人達だけでまわっている世界ではないのだ。

王宮1つ取ってみたって派閥の対立や隣国との争いがあり、それには公爵家である我が家が関わらないはずがない。

これからギルバートも王宮職に復帰するのだし、そうなればきっと現実の方で新たな問題が起こるのは確実だ。

ゲームばかりに気をかけて現実が疎かになってしまえば、他の所で足下をすくわれることになるだろう。

どのような形で没落フラグが来るのか分からない今、多方面で備えていかなければ家族は守れない。


「休んでる暇などなさそうねぇ…」


窓に目をやると、先程の風のおかげで雲が流れたのかうっすらと雲間に月が浮かんでいた。

辺りが心なしか明るくなってきたのでどうやら夜が明ける前だったようだ。


よし!心は決まった!!


まずはヴァーパスに戻ってきたら放っておいた貴族社会にしっかりとした根を張ろう。

情報収集と何かあった時にどうとでも動けるようにしっかり味方を作ることも大事だ。

ネイリ-ンも今までと違い、私の目から離れることも多くなるだろうから、監視や手助けをしてくれる存在も必要かも知れない。

影からそっと見守ってくれるような存在……


そうよ!夜鷹がウチにはいるじゃない!!

ギルバートに相談してみるのも良いかもしれないわ。

誰か一人私の頼みを聞いてくれそうな人をお願いしてみよう。


あとはこれまで通りキチンと子ども達に向き合って愛情をしっかり掛ける事。

コミュニケーションが取れなくなると、あっという間にとんでもないところに行ってしまいそうだものね、うちの子はみんな。


色々とやることが見えてくると抜けてしまった力が漲ってくる感じがした。

やはり当てもなくさまようのではなく、目標を持つのはいいことだ。


たかがフラグの1つが折れなかったくらいでなんだ!!

最終的に没落せず幸せに暮らしていければ私の勝ちだ!!

これからはしっかりと防御機能を高めて、降ってくる槍どもを振り払っていこう。


段々と明るくなる空のように、晴れ晴れした私がそこにはいた。

ようやくヒロインの名前などが判明しましたね。

長かったなー。


ではまた次回!

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