33.おつかれのようでした。
お読みいただきありがとうございます。
今回は短めです。
休憩ですね。
ではお楽しみください!
この場を表現をするなら ドドン! だろうか。
ギルバート、私、ピート、セドリック、シーネ、マーサ。
この家の重鎮一同が揃って1つのテーブルを囲んでいる。
沈痛の表情を浮かべるギルバートと私。
ピートはそんな私達の事情を知っているのか哀れみの目で私達を見守っている。
無表情のままなのはセドリック夫妻で、何が始まるのか不安そうにしているのはマーサだった。
「では本日の国王陛下との面談について報告させてもらう。が、もちろんこれは極秘事項だ。分かっていると思うが今から言う事は他言無用で頼む」
「「はい」」
ギルバートはうむと確認すると、一呼吸置いてから口を開いた。
「陛下が仰られたのは大きく分けて2つだ。1つはネイリーンとシャスティン殿下の婚約話だがこれはもう決定との事だ」
「!!」
「で、でも夜会は一週間後のはずでは…?」
そうだよね、マーサ。
選定の夜会を控えているのにもう決定してるのかよ!って思うわよね。
何も知らずに各派閥の期待を背負って出来レースに乗り込んでくるご令嬢二人には、私が悪いわけじゃないけど申し訳ない気持ちでいっぱいだわ。
「すでに決定してるとは言えないからな、建前上行うとのことだ。しかし今の王宮内のバランスを考えると、やはりどこの派閥にも属していない我が家から婚約者を出すのが一番いいそうだ」
「そう、ですか…」
「まあ幸いシャスティン殿下がネイリーンを気に入っているようなので、今の所無下に扱われることはなさそうだが…」
「今の所…ね」
思わず口を挟んでしまう。
残念ね、ギルバート。
殿下はあっさり違う女に乗り換えるわよ。
「ネイリーンが正式な婚約者ともなればお妃教育として頻繁に城に上がらなければならない。故に、私達一家は謹慎から解き、ヴァーパスへ戻ってくよう達しが来た。これが2つ目の報告だ」
「やはりそうなりましたか」
ここで出てきたのはピートだった。
「察していたのか?」
「私はずっとここにおりましたから旦那様方よりも王宮の事情には詳しいのですよ。旦那様にも時折手紙で報告はしておりましたが、肌で感じるものもございます。大方、派閥同士の間に立てとでも言われたのではないですか?王宮の派閥対立は年々激化しているとも噂で聞いておりましたし」
「その通りだ」
テーブルに突いた両手を組んで、そこにがっくりと項垂れるギルバート。
「王家の婚約者の親ともなればいつまでも領地に引っ込んでいる訳にもいかないからな。婚約をだしに王宮の調整役として引っ張り出されるのだ。ただでさえ開戦派に目の敵にされている私を矢面に立たせるとは…。しかも不安なら手柄でも立てさせようか?などとも言われる始末だ。気が重くて仕方ないな」
良い表現をするならば、ギルバートなら難しい調整役を出来ると高く能力を買われたという事だろうけど、悪く言えば都合良く嫌な役割を押しつけられただけだ。
どちらを取るかなんだろうけど、どっちにしてもギルバートの心は重たいみたいね。
「正式な発表まではまだ時間があるが、こちらに移るとなると準備など忙しくなるだろう。婚約は伏せたまま謹慎だけが解かれたというように、各々準備や引き継ぎを進めてくれ」
「「はい」」
「後は…領主代理か…」
メイデルテン様はようやくお役御免だとのんびり余生を送っているのに、また引っ張り出さなきゃならないのね。
断りはしないだろうけど、こちらも引っかき回して申し訳ないわ。
「そうですな、そろそろ呼び戻しましょうか」
「誰をだ?」
「もちろん、前公爵である旦那様のお父上様とお母上様ですよ」
え?ピートさん?
お義父様達と連絡取れるの?
あちらからではなくこちらから??
「出来るのか??」
ギルバートも同じ事を考えたのだろう。
目を丸くしてピートを見ている。
「ええ、放浪の旅も数年前にようやく終わったようで、ここからしばらくいった場所に定住されております」
「知らんぞ、そんなことは。定住だと??連絡が少なくなっていたとは思っていたが…」
「緊急事態にならない限り知らせるなと言われておりました」
「すぐ呼び戻してくれ。まったく人の気も知らないで何を呑気な…」
まさかの義両親の現状だった。
しかし捕まえられるなら話は早いわ。
いままで自由にしていた分、しっかり領主代行としてエンナントで頑張って頂こう。
「予定が空きましたら直接お迎えに行かれてはいかがですか?もちろん先触れは出しておきますので」
「わかった。夜会後、帰郷日を一日ずらして行こう。元気なのかも気になるしな」
「それは…問題ないですよ、ええ、本当に」
何かあるの?ピート?
その間とその意味深な笑顔が余計な不安をかき立てるんだけど。
その後もこちらに居を移す具体的な日程や手順を重鎮で話し合った。
抗えない流れの道筋がどんどんと出来上がっていく事がほんのりと恐怖だったことは、私だけの秘密だった。
◆
◆
◆
「ステア、朝だよ。珍しいな、君が僕よりも遅いなんて…。ステア」
ギルバートが私を呼んでるわ。
起きなくてはいけないんだけど…
おかしいわ、体が重いし動かせないわ…
「ステア?あれ?……あつい…」
瞬間ガタッと隣から衝撃が伝わってきて、次にはつんざくような雄叫びが部屋中にこだました。
「ママママーーサーーー!!ステアがっ!!ステアがぁぁ!!」
どうしたの?ギルバート。
私が何?
うるさいとは思うけれど不思議なことにそれを言葉に発せられない。
「旦那様!どうされたのですか?朝からそんなバカみたいな大声を出されて!!」
ネイリーンを産んだ日のギルバートのようにバーンと勢いよく扉を開けてマーサがベットに駆け寄ってくる。
「マーサ!!ステアが起きない!!それに体がすごい熱いんだ!!」
「何ですって?奥様??大丈夫ですか?ヒッ!!」
確認のために私に近づいたマーサは私のおでこに手を当てると、まるで黒い悪魔のGでも見つけたかのにように顔を引き攣らせ身を竦ませた。
「なんてこと!すごい熱だわ!すぐにお医者様を呼んで参ります。ライラ、すぐに手配を!あと氷嚢と水分を準備して!旦那様はご自分のご準備を進めて下さい。本日も予定が詰まっておりますでしょう」
一度は驚きで動きを止めたけれど、すぐに通常運転に戻ったマーサはギルバートを含めた周囲にテキパキと指示を出していく。
「いや、ステアが心配だ。今日の予定はキャンセルしよう!!」
「何を仰りますの、旦那様!」
ここ最近は発動していなかったギルバートの過剰な家族愛の暴走をマーサが慌てて制止する。
「どんな用件よりもステアの方が大事だ!そうだ!!今日は私がステアの看病をし尽くす!!」
バックに日本海の荒波を背負ったギルバートがドヤ顔で叫ぶ。
「なにを考えておいでですか、旦那様」
そんなギルバートの背後に突如なんの前触れもなくセドリックが現れた。
「おお、セドリック。ステアが急病だ。悪いが本日の予定は全て」
「はい、恙なく行いましょう。行きますよ、旦那様」
ギルバートのことなど全く相手にせず、セドリックはまるで親猫が子猫の首根っこを掴まえるようにしてギルバートをズルズルと扉の方へ連れて行く。
「違うぞ、セドリック。私は今日ステアの」
「旦那様がここにいても邪魔なだけです。マーサさんに任しておくのが一番いいでしょう。貴方は奥様が余計な心配をせぬよう、今日の仕事をしっかり勤めるべきです」
「いや、それでも私はステアの側に…そばに」
-バタンッ
ギルバートの願いはセドリックにきっぱり論破され、あっという間にギルバートは部屋の外へ連れ出されて行った。
「さすがセドリックさんですね。あの旦那様をこうも容易く扱えるとは…」
侍女のライラが感心した声を上げた。
「さぁ困った旦那様が片付いたわ。こちらも手早く動きましょう」
本音が漏れてるわよ、マーサ。
しょうがない人だとは思うけど、あれでも有能な人なのよ。
周りの声も聞こえるし、朦朧とはしているけれど頭も働いている。
でも声は出せないし、体は鉛のように重くて動けなかった。
どうしたのかしら?私…
「奥様、聞こえますか?氷枕を入れますので頭を上げさせてくださいね」
ヒンヤリと冷たい感触が頭を包む。
「マ…サ…」
「すぐにお医者様がいらっしゃいますからね。大丈夫ですよ。お水飲まれますか?」
コクリと頷くと用意された吸いのみで水を飲ませてくれた。
冷たい水が喉を通ると少しだけ声が出せるようになった。
「しんぱい…かける…わね」
「いいえ、そんなことはございませんわ奥様。疲れが溜まったのでしょう。ゆっくり休んでください」
目を閉じるとグルグルと世界が回り出す。
マルクスを生んで以来かしら?
こんなに体調を崩すのは…
色んな事を考えたいけれど、今はどうやったって無理だわ。
ああ、ねむい…ねむいわ…
周りでバダバタと動く気配を感じながら、私はまるでブクブクと湖の底に落ちるかのように深い眠りについた。
ギルバートの壊れっぷりからいって、そうとう彼もキテルと思うのですが、丈夫なんですね。
ではまた次回!




