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27.ネイリーンという女の子2 sideシャスティン

お読み頂きありがとうございました。

誤字脱字の報告もありがとうございました。


いやー難産でしたね、ネイリーン勝手に動きまくるので。


では王子目線その2、お楽しみ下さい。

ネイリーンの衝撃の告白に僕の頭は真っ白になっていた。


毒…って言っていたよね。

間違いじゃないんだよね?

ちょ、ちょっと待って。

え?ネイリーンの研究室なんだよね?

誰か他の人が研究しているとかじゃないんだよね?

だとしたらこの部屋の中はなんなんだ?!

とてもこの小さな女の子が出入りするような所とは思えない。

城の研究室にも入ったことはあるが、あそこと同じにしか見えないぞ。

ていうか、毒って何だ!毒って!!

4歳の女の子だぞ!

公爵家の令嬢じゃないのか!!


僕は驚きに見開いたままの目でネイリーンを見た。


「毒と言いましても私はまだそんな大した物は作れないのですよ。ちょっとしびれたりお腹を壊したりする程度です。もっと人が倒れるような強い物を作りたいのですがまだ早いですと先生の許可がおりませんの。悲しいですわ」


小さな手を頬に当て悲しげに俯いている姿はまるで深窓の令嬢のようなのだが、その口から飛び出す言葉はあまりにも過激だ。


「あ、私のお勧めの毒をお教えしますね!私が作ったわけではないのですけど」


僕が混乱している間にネイリーンは机の上に「危険」と表示された瓶を次々と並べ、早口でそれらの原料やら効能やらを捲し立ててきた。


「こちらはジャナバという花の根から採れる毒で特に強い幻覚症状を起こします。そしてこちらの毒は一舐めでもすれば急激な吐き気と頭痛を引き起こしてわずか1時間であの世行きですのよ!すごいのです!!」


開いた口の塞がらない我々を置いて、ネイリーンは溌剌と毒の説明をしていく。

“わずか1時間であの世行き”という令嬢の口から出てきたとは思えない言葉に“すごい”と言われても、僕はどう答えていいものかわからない。

王子ということで色々と経験はしてきたけど、ここまで頭がごちゃごちゃになる事は初めてだ。


「な、なぜ其方は毒などを研究しているのだ?」


怒濤のように繰り広げられた説明がようやく一段落したところで、僕はもっともな質問をネイリーンにぶつけてみた。


「なぜと仰いましてもたまたま私の興味を引いたのが毒だっただけですわ」

「いや、きっかけがあるであろう、きっかけが。普通の令嬢はそもそも毒など手にもしないぞ」

「…そうですわね」


腕組みをしたネイリーンはその時を思い出そうとしているのか、うーむと首を捻って眉間に皺を寄せた。


「きっかけといえばあれでしょうかね。お兄様と一緒に森へ行って花を摘んでいた時ですわ」


思い出したのかポンと両手を胸の前で合わすネイリーン。

その姿はパッと花が咲いたように愛らしかった。


「ある花は綺麗に咲いているのにその隣の花は虫に食われてボロボロになっていたんです。私、不思議に思いまして側にいた乳母に聞いてみましたの。“なぜこっちの花は隣の花と違って虫に喰われていないの”と。乳母は二つの花を見比べるとこう私に言いました。“こちらの花には毒があって虫もその毒を嫌がって寄ってこないのですよ”って。私驚いてしまって、動きもしない弱々しい花だと思っていたのに自らを守る為に毒を持っていたなんて。そうしたら今まで綺麗だとしか見ていなかった花が急にすごく強いものに思えたのです。そこから色々な花について調べ始めまして気が付いたら毒に夢中でしたわ」


えへへと気恥ずかしそうな顔をしているが話の内容との違和感がすごい。


うん、きっかけは分かったよ。

なんとなくそうなる経緯も理解できた。

でもなー。


「ネイリーン嬢。聞いてもよろしいですか?」


珍しくゼクソンが話しかける。


「なんでしょう?」

「ここは誰かが使っていた研究室なのですか?」

「いいえ。ここは私が毒に興味があると知ったお父様とお母様がわざわざ用意して下さった研究室です。毒について教えてくださる先生も付けてくださって、私お父様達には感謝しきれませんわ!」


飛び跳ねて喜びを表すネイリーンに少しくらりとしてしまう。


「ギルバート達自らが…」


娘が毒に興味があると言って何故止めないんだ、ギルバート…

いや、止めるような事ではないのか?いや、毒だぞ?

何が正解なのかもうよく分からない。


「ぶわーはっはっは!!!」


僕が思い詰めていると、後ろからベスパーバの大きな笑い声が響いた。


「よいですぞ、ネイリーン嬢。興味のあることはどんどんなさればよい」


目尻を垂れ下げたベスパーバがネイリーンに近づいて嬉しそうに言った。


!!やっぱりおかしい事じゃないのか?!


意外なベスパーバの肯定に僕は驚いた。

どちらかというと貴族の令嬢らしからぬ事だと嫌みを言うと思っていたのに。


「ありがとうございます。私はこれから毒を極めていきますわ」

「それはそれは、精進なさるといいでしょう。ええ、他の事などさし置いてでも」


満足そうに笑うベスパーバにネイリーンもガッツポーズで応えている。


「公爵家のご令嬢がまさか毒とはなぁ、ゼクソン伯爵。驚きましたなぁ」

「はぁ…まあ…そうですね」


ゼクソンはどことなく気のない返事だ。

まあ元からあまりベスパーバと仲がいいわけじゃないからな。

今回の視察だって本当はベスパーバが来るはずじゃなかったし。

他の者だったのにいつのまにかベスパーバに代わっていて僕は驚いたんだから。


「殿下、申し訳ありませんが私は済ませなくてはならない用事がありますのでここで一度部屋に下がらせて頂きます」


先程までネイリーンと談笑していたくせに、いつの間にか僕の前に立っていたベスパーバが言う。


それにしても急な申し出だ。

かと言ってそう言われてしまえば僕はこう言うしかないだろう。


「わかった。私はもうしばらくハリオット達といよう」


退席の許可を出すとベスパーバはさっさと部屋を後にした。


「どうしたのだろうな、ベスパーバは」

「…安心なさったのかも知れませんね。もう見張る必要もないと思われたのでしょう」

「?どういうことだ?」


含みのある言い方で返事をするゼクソンを見上げると、ゼクソンは口の端を上げるだけでもうそれ以上は答えてくれなかった。

この顔をするゼクソンに何を言っても無駄なことを僕は知っている。


「まあよい。今はベスパーバよりもネイリ-ンだと思うしな」


目線をネイリーンに戻すと、ちょっと目を離した隙にネイリーンはハリオットを助手にして何やら生成作業をし始めていた。


「お兄様、しっかり押さえてくださいね」


おい、ネイリーン。

仮にも王子である僕を放って何をしているんだ。

ああ、ハリオット、完全に顔が無になっているじゃないか。


顔の死んでいるハリオットが支えている容器を混ぜ棒を持ったネイリーンが必死の形相で混ぜている。


貴族の令嬢が王子の前でする顔じゃないよ、それ。


「シャスティン殿下はその青色の液体をここに注いでください!」


え?僕もなの??


「お早く!!」


容赦のないネイリーンに僕は慌てながら青い液を持ってハリオットが支えている容器の中に注ぎこんだ。


ぐるぐるぐるぐる


そこにいる全員が何故か黙ってネイリーンの混ぜる容器の中を凝視している。

しばらくすると容器の中からもくもくと白い煙が上がり始めた。


おお、すごいな。


素直に感心していると、次の瞬間ポンっと小さな爆発が起こった。


「はい!出来上がりですぅー!!」


ふうとばかりに額の汗を拭いながらネイリーンは容器の中身を得意げに私に見せて来る。

そこには僕が入れた液体よりももっと濃い藍色の液体がドロリと揺れていた。


「これは何だ?いや、これも毒なのか?」

「ふふ、これは毒…ではありませんわね。眠り薬です。使いようでは毒にもなりますかね?」


ネイリーンは慣れた手付きでその薬を小さな小瓶に移し替えている。


「これは私が初めて覚えた生成方法です。植物の成分を取り出す方法で、この液体は染料にもなりますのよ」


瓶の蓋を閉めると今度はラベルの部分に「ねむりくすり」とペンで書き記した。


「其方もう字が書けるのか?」

「簡単な基本文字だけですわ。字が分からなくては本も読めませんし」

「賢い方ですね」


最後に布で周りを拭うとネイリーンは私の前に瓶を差し出してきた。


「はい、シャスティン殿下。今日の記念ですわ。毒ではありませんしお持ち帰り下さい」


僕はもらって良いものかゼクソンを再び見上げた。

ゼクソンもどうしていいものか判断に困っているようだ。


「では私が持っていましょう。勝手に飲まれては困りますからね」


ゼクソンは腰を低くして小瓶を受け取ると、そのままの姿勢でネイリーンを見つめた。


「ネイリーン嬢、貴方が興味を持たれている事は公爵家の令嬢としては喜ばれる物ではないと思われますがそのことについてはどう思いますか?」


ネイリーンはゼクソンの問いに少しの間キョトンと呆けたがすぐニコリと微笑んで答えた。


「関係ありませんわね。一体誰に喜ばれる必要がありますの?私は私がやりたい事をやりますわ」


ゼクソンを真っ直ぐ見つめる翡翠の瞳が凛として語りかける。


「令嬢としてだとかは大事なことだとわかっておりますわ。私、これでも公爵家の一員ですもの。でも私が好きなことは誰に決められる物ではありません。止められても勝手に考えてしまうもの」

「お父上やお母上に止められても?」

「そうですわね、見つからないようにこっそり続けますわ!だーれも私を止めることはできないです。あ、この事はお父様達には秘密ですわよ」


人差し指を口元に当てる可愛らしい姿に僕の心がどくんと跳ねた。


この気持ちはなんだろう。

ただ可愛いとかじゃないんだ。

ネイリーンは自分の中にしっかりと譲れない物をもう持っている。

それは誰に何を言われても構わないんだっていう強さみたいなものだ。

他の子には見ることのないその強い意思を宿した笑みに僕はどうしようもなく引きつけられた。


この気持ちはなんだろう?


僕は胸の真ん中でまるで早鐘を打つように跳ねる鼓動の意味をネイリーンを眺めながら考えていた。


王子、何に目覚めちゃったかな?


さて次回はステフィアさんに戻る予定です。


ではまた次回

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[一言] 悪役令嬢ルートに乗ったら毒殺令嬢爆誕
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