21.アトリエ研究室
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なんと!ブクマがいつの間に220人超えしてました!!
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誤字脱字もいつもすみません。助かっております。
今回はやる気スイッチオンのステフィアさんのその後です。
お楽しみ下さい。
「それはそこに置いてちょうだい。あ、これは丁寧に扱わなくてはダメよ。爆発するわ」
山のように置かれた荷物を使用人達と一緒に整えていく。
試験管、フラスコ、顕微鏡に天秤。
先に入れておいた鍵付きの薬品棚には薬品の瓶がズラリと並び、他にもかつて理科室で見た事のあるような心躍る道具を次々に並べていった。
ここは領邸の敷地内に建てられていたある離れ。
なんでも先々代の領主が自分のお抱えの画家の為にアトリエ兼自宅として建ててあげた物らしい。
木造二階建ての趣のある洋館は横の本邸と比べれば見劣りしてしまうが、一介の人から見れば十分過ぎるほどの広さと豪華さを兼ね備えていると思う。
ターコイズブルーの窓枠とポーチと一体化したテラスに茂る蔦が、少しレトロな味のある雰囲気を漂わせていた。
画家亡き後は誰か別の人物に渡ることもなく、たまに客人を泊まらせたりする以外ほとんど使っていない状態であった。
そこに今回目をつけたのは私。
使い道がなく放置に近い状態だったアトリエを、子どもの研究室として活用することに決めたのだ。
事の始まりはあの東屋のティータイムの後。
マーサはすぐに第二研究所と連絡をつけると、そのまま私の所に来てもらえることになった。
公爵夫人の呼び出しとあってか所長と副所長のツートップが直々来てくれたのはちょっと申し訳ない気持ちになったが。
「本日は突然お呼び立てして申し訳ありませんでしたわ」
「いえ、お気になさらずに。して、急ぎの用件と伺いましたがどういったことでしょうか?」
返事をしてくれたのは顎に立派な白髭を蓄え、いかにも学者という風貌のおじいちゃん。
第二研究所の所長であるアルフレッドリだ。
「ええ、私の娘のネイリーンにですね、一人専属の家庭教師をつけたいのです」
「ほお、確か今年4歳になられたばかりでしたかな?その年で学問とは早過ぎはしませんか?」
アルフレッドリが右手で髭を撫でながらチラリと私の顔色を探る。
そうよね、4歳児に貴重な研究員を1人寄越せっていってるんだもの。
「私もそうは思うのですが、本人が大変傾倒している分野がありまして。あの、なんて言いますか、素人が適当な知識でやるものではない気がしまして、それならばいっそ徹底的に教え込んでもらった方が安心かと…」
いくら詳しいといっても毒を素人が扱うのはやはり怖い。
採取だけでも間違って何かが起こってしまったら一大事だ。
だからこそ扱い方を教えてくれる教師を付けて、毒に関するありとあらゆる事を叩き込んで貰った方がよっぽどいい。
「はて?お嬢様は一体何の分野に興味がおありですかな?動物や植物とかでしょうか?それならば」
「毒です。」
「は?」
「??」
かぶせ気味に答えた言葉にアルフレッドリとその横にいた副所長が素っ頓狂な声をあげる。
そうよね、4歳の女の子の興味がそことは思わないわよね。
分かるわ、その反応。
私も先日まったく同じ表情になったもの。
「毒…今の所、毒草ですわね。まだ生物の毒には至っていないと思いますが、きっと時間の問題でしょうね」
我が子はものすごい勢いで思考を発展していくもの。
きっとすぐに生物の毒に辿り着くに決まっている。
ハリオットを見てるもの。
もう分かるわ。血よ、きっとこれは。
半ばあきらめにも似た気持ちが私の脳内を駆け巡る。
「……毒。4歳児が…」
副所長がぼそりと呟く。
アルフレッドリとは違い、隣に座る副所長は40代半ば位の女性で名をエキサイルと言った。
ワンレンボブの小紫色の髪と凜とした力強い真っ黒な瞳のその女性はアルフレッドリの隣にいると有能な秘書のように見える。
「はい。図鑑などで見かけた毒草を第二管轄のあの森から見つけては持ち帰ってきてしまうのです。随分と詳しいようでして」
「なるほど。あの森は多種多様な植物がありますからね。探そうと思えばそれなりの種類の薬草、もとい毒草が手に入るでしょう」
「ええ。今は見るだけで満足しているようですが、いつ何をしでかすか分かりませんので、きちんとした扱い方を教えて頂きたいのです」
アルフレッドリとエキサイルは互いに目を合わすと納得したようにうんうんと頷き合っている。
「ならばこのエキサイルを教師として派遣いたしましょう」
アルフレッドリが目を細めながらエキサイルの肩をポンと叩き言った。
「副所長を務める方を…ですか?」
「ええ、このエキサイルは薬学に通じておりましてその道ではかなりの者なのです。毒にも薬にも精通しております。ただ最近は研究に行き詰まりボーっとしておったので調度良いでしょう。公爵家のご令嬢を指導するとなれば下手な者では務まりますまい」
おお!副所長!
そんな都合よくヒマしているなんて、ラッキーだ。
しかも薬にも精通しているなんて素敵すぎる。
「あの上手くいけば薬も一緒に覚えさせて頂けますか?さすがに毒だけというのは不安がありまして」
「ええ、もちろんです。毒と薬は表裏一体ですので毒だけを覚えるというのは無理がありますし、必ず解毒剤とセットで覚えるようにしていますから。使い方次第では毒だって薬のように用いる事も出来るのですよ」
これは良いことを聞きました。
毒狂いでもきちんと救済はありますね。
この先生ならきっとネイリーンを上手く導いてくれそうです。
「ではエキサイル先生にお願い致しますわ。ネイリーンをどうぞ宜しくお願いします」
私は座りながらだが深々とお辞儀をした。
エキサイルは自信満々の顔で「お任せ下さい。」と胸に手を当てるとこう続ける。
「ゆくゆく本格的に教え込んでいくのでしたら実験道具も一式揃えておくことをお勧めします。調合は不可欠になりますので、それ相応の施設があると宜しいと思いますわ」
はい!これであの使われていないアトリエに白羽の矢が立ったのです。
そこからは早かった。
エキサイルの手配で必要な道具はすぐに手配され、私はアトリエの使用許可をギルバートに取ってすぐに部屋の改装に入った。
そしてもう一つ同時に行ったことがあったのだ。
ネイリーンにだけ実験室を与えるというのは魔道具研究に没頭しているハリオットに悪いので、同じ建物内にハリオットの研究室も組み込み、こちらも専門の家庭教師を付けることにしたのだ。
ハリオットは既に第一研究所に顔を出している事もあって、家庭教師のお願いをすると二つ返事で喜ばれた。
どうやらハリオットは目の付け所がいいらしく、研究員にもいい刺激を与えているらしい。
どんどんとすごい所に息子は向かっているが、本当にこの子は将来は領主になるんだろうか。
マルクスに丸投げなんて事も可能性としてはありそうだ。
よくよく考慮しておこう。
こうしてわずか3日で使われていなかったアトリエは2つの研究室を備えた学び舎として生まれ変わったのである。
アトリエが完成した日の夕食時。
家族が揃ってあれこれの話に花が咲く中ギルバートが子ども達に話しかける。
「明日からなんだがな、ハリオットとネイリーンにそれぞれ家庭教師がもう1人つくようになった」
「家庭教師ですか?」
ハリオットはこれ以上やるの?と不満気だ。
「フフ、もう沢山ですと顔に出てるわよ、ハリオット」
「だってこれ以上勉強に時間が取られれば僕の魔道具研究が進まなくなってしまいます」
自分の最も好きな時間が削られるとしょんぼりしているハリオットを見てギルバートはしたり顔をしている。
「そんな事を言っていいのかい?お前の大好きな第一研究所からの先生だぞ」
「!!」
ハリオットの目が途端にキラキラと輝いた。
「貴方が今お世話になっているジスコ先生自ら教壇に立ってくださるそうよ。良かったわね」
「ジスコ先生がいらしてくれるのですか?!やったー!!」
いつもお世話になっている第一の所長を務めるジスコ先生の名前を聞いたハリオットの喜びようは凄かった。
勢いよく万歳と手をあげて持っていたカトラリーがそのまま放り投げられるんじゃないかと思うほどだ。
「私は何のお勉強をするのですか?」
兄の喜びを横に冷静なネイリーンはギルバートに尋ねる。
「ネイリーンには第二から植物などに詳しい先生がいらっしゃるよ」
「植物??毒草もですか??」
ああ、ぶれない娘だわ。
ギルバートも意味深な微笑みを深める。
「ああ、そうだ。毒についてしっかり教わってきなさい。きちんとした扱い方を知ればもっとお前のやりたいことも出来るようになるだろう」
ネイリーンは兄と違いじんわりと噛みしめるように頬を赤く染めていく。
それはギルバートの言葉を聞いて、今までやってみたいと思っていたけれど手を出さなかったあれこれを実現できるんだという喜びだった。
「ありがとう!!お父様!!ネリイ頑張ってお勉強するわ!!」
うん、毒だけどね!!
頑張って覚えていくんだぞ!!
かつてない程の熱気に満ちた夕食時はこうして楽しく過ぎていった。
新キャラがどんどん出てきますね。
名前がこんがらがりそうです。
さくさく進めて行きたいのですが結構キャラが暴走するので困っております。
ではまた次回!




