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20.王城から手紙

お読みいただきありがとうございます。

首を痛めてしまい泣きそうな作者です。

誤字脱字の報告もありがとうございます。

読み直してもあんなにあるなんてまだまだですね。

精進します。


ではステフィアさんのスイッチがまたオンになるようです。

お楽しみください。

エンナントの屋敷にはヴァーパスの公爵邸と比べれば少し小さいが、手入れの行き届いた美しい庭がある。

庭の中央には小振りな噴水があり、その周りには庭師が選び抜いたその季節で一番美しい花々が整然と咲き誇っていた。

今の季節はネモフィラと芝桜が植えられていて、空色とピンクのコントラストがとても春らしくて綺麗だ。

噴水から少し歩くと庭園全体を見渡せる位置にガゼボが建っており、ここでティータイムを取るのが私のお気に入りであった。


今日もいつものようにマーサを連れてお茶を楽しんでいると、珍しいことにギルバートとセドリックがやって来た。


「やあ、お邪魔してもいいかな?」

「この時間にこちらに来るなんて珍しいわね。今日はお暇なのかしら?」


ギルバートは“そんなことはないぞ”と呟きながら私の隣へ座る。


「今しがた王城から手紙が届いてね。すぐに君の目にも入れておいた方が良いと思ったのさ」

「王城…」


セドリックが私の目の前に白い封筒を差し出す。

シンプルながら上質な手触りの封筒を裏返すと確かに王家の封蝋が押されていた。


王城からの手紙か。

何かいやな予感がするわね。


私は封筒の中に入っている便箋を取り出し目を通していくと、ああ、やはりと思わざるを得ない文面がそこには記されていた。


「シャスティン殿下ももう5歳だからね。そろそろ婚約者選びを本格化させるんだろう」


ギルバートは頬杖を突きながら、あいている指でピンと空の封筒を弾く。


「ウチは四年前の事件があるから候補から外れてるかと思ったんだけどそうじゃないらしいね。夏にエンナントに視察に来ると言うけど、実際はネイリーンとの顔合わせが目的だろうな」


そう、手紙には要約するとこう書かれていた。


『シャスティンも5歳を迎えるにあたり、今夏、王太子教育の一環として学術都市であるエンナントに視察を行う事が決まりました。その際には年端の近いファンドール家御令嬢ネイリーン様にシャスティンの案内をお頼み申し上げます。宜しく頼んだよ!』 


ということらしい。


マグノリアの王家は5歳になると候補に挙がっているご令嬢と順次顔合わせをしていき、王子との相性やその子の資質などを確認される。

そしてその候補者の中から一番王子の隣にふさわしいご令嬢が一人選ばれ、王子が10歳を迎えると同時に正式な婚約者として認定されるのだ。


ゲームの中でもサザノスの件があったのにも関わらずネイリーンは王子の婚約者に選ばれていた。

それは今の王家にとってファンドール家が一番王国内のバランスの取れる相手だと言う事を物語っている。


現王のヴァルブル王陛下は賢王として名高いが、裏では宰相であるドベルスキー家の派閥と、王弟とその取り巻きの派閥との争いが深刻で、次期王となる殿下の婚約者をどちらの派閥から選ぶのかで大きく揉めていた。

陛下は表立っては言わないが、宰相の派閥に肩入れしているのは周知の事実なので、宰相の派閥から婚約者を選べばそれ見た事かと王弟派閥が反発するのは必至であった。

しかし、逆に王弟の派閥から選べば次期王がそちらに取り込まれてしまう危険性があるのでそれも憚られる。

ならばどの派閥にも属さない中立の家から選ぶのが一番と考えるが、王子の婚約者ともなれば家柄も大事。

公爵という大変高い身分ながらも中立を保ち、かつ王子と同じ年齢の令嬢を抱えるファンドール家は、サザノスの問題はあろうとも他家を抱えるリスクを考えれば断然安定している候補者であった。


「顔合わせねぇ…」


シャスティン殿下とウチのネイリーンのご対面。

あれくらいの年齢ならそこまでこちらが気を遣わなくても勝手に打ち解けられそうだ。

今のネイリーンは誰が見ても可愛らしいお嬢様だし、特に問題は起きない……


「あ!!大変!!」


私は思わず席から立ち上がる。

そこにいる皆が一体何事かと視線を私に向かわせた。


「毒よ!!」

「毒?」

「ええ、今ネイリーンがはまっている物!」

「あ、あぁ、セドリックから聞いているよ」


セドリックは報告済みですよと軽く頷いた。


「殿下といる最中に毒についてあれこれ話してしまったら、周りにいる大人にはどう映ると思う?」

「毒に精通する令嬢か、要注意だな」

「そうよ!」


今後、万が一王子に毒関連で何かあったら、真っ先に疑われたりしそうである。

ただでさえ没落フラグの立ちまくる人生なのだ。

ゲームの強制力なのか持っていた性格なのかは分からないが、性格矯正が思ったようにいかず、まさかの毒好きキャラになったネイリーン。

これが王城側に知られたら一体どういう形で引っ張り込まれてしまうのかわからない。


「ネイリーンの口に戸など立てられるはずもないし、好きなことなら尚更あの子は話してしまいそうだわ」

「いやいや、ネイリーンは毒で何をしようと企んでるわけじゃないし、言わせておけばいいんじゃなかい?」

「甘いわ、ギルバート!」


私はギルバートの両肩にグッと掴みかかる。


「冤罪は怖いのよ!そして権力を持つ者はこちらの意見などねじ曲げてしまうの!疑われることはないに越したことはないのよ!」

「あ、はい」


言い切った私は喉の渇きを覚え、席に戻り冷めてしまった紅茶を口に含む。


「ねえステア。君はネイリーンを殿下の婚約者にしたいのかい?」

「いいえ、出来ればここで平穏無事に生きて欲しいわ。あんな陰謀渦まく伏魔殿に可愛い娘を嫁がせたくはないもの。それに政略ではなくネイリーンを心から慈しんでくれる殿方でなくてはだめよ」

「そうだろう、私も同じ考えだ。あそこは恐ろしい場所だからね。可愛いネイリーンにいらん苦労はさせたくない」


両親揃って王家に嫁ぐ事をこんなにこきおろすのはいかがなものかと思ってしまうが、親の本音はこんなもんだ。

セドリックはともかく、マーサはそんな主人達の会話に冷や汗が出てしまうようだが。


「じゃあ思い切って毒好きを公言させて、あちらに引いて貰うというのはどうだい?」


ギルバートがニヤリと悪いことを思いついた悪童のような表情を浮かべて言った。


!!

その手があったか!!

私は勢いのままにギルバートの手を握った。


「それいいわ!!採用よ!!」


そうよ、こちらから危険人物と思わせて候補者から外して貰えば良いんだわ。

あちらから断ってくる分にはファンドールに何の落ち度はないし、将来もエンナントにいれば王子の周りで何らかの陰謀があっても知らぬ存ぜぬで済むじゃない!!


「ネイリーンには特に何も規制せず、好きなように好きなことを案内させればいいよ。子どもは子どもらしく素直に対面させてやればいい」


よし、刮目せよ!王家の者どもよ!!

そしてネイリーンの危険因子を見抜いて早々に立ち去るがよいのだ!!


回避不可と思われた王子との婚約話に一筋の光明を見出した私は、意気揚々とカップを掲げ飲み干した。


「そしたらもうどんどんと好きな物に浸かってもらいましょう!子どもの個性は大事にしなくてはね!」

「いや、わざわざお膳立てしなくて…」


苦笑いのギルバートの横で私は思わず高笑いをしてしまう。


今は春。

夏の王子来訪まではあと約3ヶ月ある。

礼儀作法の教育も欠かせないが、こうなったらもっとズブズブと沼に浸かれるよう親の私がバックアップ体制を取ってやらなくては。


「マーサ!第二図書館の研究所に連絡を取ってちょうだい」

「わかりました、奥様」


何かを察知したマーサは返事をしながら私に暖かいお茶を淹れ直してくれた。


「また忙しくなりそうだわ!」


すでにやるべき事の算段は頭の中についている。

とにかく婚約回避に全力で当たろうじゃないか!



メラメラと母のやる気に火を付けてしまったギルバートは、後で少しだけ後悔したと教えてくれるのはまだ先のお話であった。

ギルバートも結局はステフィアさんと同じ穴のムジナな気がしますけどね。

ネイリーン、覚醒せよ!


ではまた次回!

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