19.森のピクニック
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また誤字脱字の報告もありがとうございます!
ピクニック後編です。
大きな動きはありませんがお楽しみください。
「ネイリーン・ファンドール!貴様が彼女に何をしたか、もはや言い逃れは出来んぞ!」
誰の目にもネイリーンの非は明らかで、これ以上の追求に意味はないと思われた。
人々は会場の中心で倒れ込んでいるネイリーンに、今までの憂さを晴らすように次々と悪態を吐き始める。
こんな重苦しい中でも互いを想うようにピタリと寄り添う王子と金髪の少女の姿に、ネイリーンは凄まじい憤怒と嫉妬に駆られ、目の前に転がっていたナイフを手に取ると二人目掛けて走りだす。
「殺してやる!」
鈍い光を放つナイフが2人の姿を映しながらそのまま振り下ろされると、王子はナイフから金髪の少女を自分の胸に抱いた。
「危ない!」
ナイフの勢いは収らず王子の背に照準を合わせてに真っ直ぐ向かっていくのを、胸に抱かれている少女は捉えて叫んだ。
その瞬間、少女の目が七色に強く光ると、ドウンッ!!!と大きな轟音と共に辺りに目がくらむほどのまぶしい虹色の光が溢れ出す。
「キャアアアアアア!!!」
会場中にビリビリと震えるような衝撃が走ると同時に、ネイリーンはナイフと共にその場から吹き飛ばされた。
七色の光はフォンフォンと聞いた事がないような高音を発しながら少女と王子を守るように揺らめいている。
少女が出した光に少女自身も王子も驚きの表情を浮かべるが、すぐにお互いの無事を確認するようにきつく抱き合った。
一方、七色の光に弾かれ倒れ込んでいたネイリーンは、すぐ側に控えていた王子側近のリオンや近衛騎士であるダントスが直ぐさま駆けつけ拘束された。
「離しなさいっ!なぜ邪魔をする!シャスティン殿下は私の婚約者なのよ!!離しなさい!!離せッ無礼者!」
取り押さえられても尚、ネイリーンは何かを掴もうと精一杯手を伸ばす。
その先にはまるでゴミでも見るように蔑んだ目で見下ろしているシャスティン王子がいた。
「もううんざりだな、貴様の顔など二度と見たくない。その声も聞いているだけで虫唾が走る。自らの行いを死ぬまで後悔するがいい!!連れて行け!!」
シャスティンが手をかざすと騎士達が引き摺るようにしてネイリーンをこの場から連れ出した。
「離しなさい!!シャスティン殿下ーー!!」
はっ!!!
一瞬飛んでたわ!!
よりにもよってネイリーンの最後シーンよ。
心臓がばくばくと早鐘を打っている。
今しがた、ネイリーンが毒に興味を持っていることをカミングアウトされました。
まさか毒好きになっているなんて…
ゲームで使うナイフが好き!よりはマシかも知れないけれど、あの場で毒薬をぶちまける事になりそうじゃない!!
「知らなかったわぁ…」
ちょっと遠い目になる。
上手く性格矯正出来ているかと思ったのに、思わぬ伏兵にやられた気分です。
これが恐れていたゲームの強制力なのかしら?
ただでは済まさんって感じがプンプンするわ。
普通、花は愛でる物でしょうが!
いや、毒も薬も紙一重なのは知ってるけどね、知ってるけど……
不安が……尽きない……
「奥様、怒ってらっしゃいます?」
怖ず怖ずとナナリーが私の顔色々を窺っている。
「興味を持たれたことはどんどんやらせてみなさい、との事でしたので。私も最初は驚いたのですが、ネイリーンお嬢様のお顔がそれはそれは輝いてらっっしゃたのでつい、そのままに…」
確かに興味のあることはどんどんやれがウチのモットーです。
間違っていない!
しかし初期段階で教えて欲しかった。
「いえ、怒ってなどいないわ。ただ思ってもみなかったことで少し驚いてしまっただけよ」
私はあくまで平静を装って返事を返した。
「よかった。お話するべきか迷ったのですが体調の優れない奥様にいらぬご心配を掛けてしまいそうだったので。シーネ様とも話して体調が戻られた時のドッキリにしちゃいましょうってことになったのです。ねっ!!」
シーネは私と目が合うと、それはいい笑顔で首を縦に振った。
「成功ですね」
シーネさんは意外とお茶目なところがおありのようです。
いまさら毒はダメだと言ってもしょうがないし、もうこれがネイリーンの個性なのでしょう。
受け入れよう。
ただ扱いだけは!!
毒の扱いだけは制約を掛けるか何らかの形で管理しておかなければならない。
知識はあって無駄な物はないはず…ないはずである。
それから持ってきたお弁当を広げて皆で食べ、追いかけっこやかくれんぼをして楽しく遊んだ。
ハリオットはインテリのくせに意外と運動が出来るタイプのようで、私達大人では到底追いつくことができずにいると、そこは騎士であるゾルディクスが頑張ってくれていた。
途中、木の枝を剣に見立てて訓練を始める場面もあり、このまま魔石を忘れて鍛錬してくれないかとも思ってしまった。
ネイリーンは途中途中で摘んだ花を私に見せに来ては、これは根に毒があるだとか、こっちは眠り薬だとか説明してくれた。
その度に私の口元がひきつったのは言うまでもないだろう。
でも久しぶりに子どもとたくさん触れ合えて嬉しかった私は、自分の体力のなさをすっかり忘れていたようで、気がついた時にはかなり疲労困憊でグッタリしていた。
シートの上で休んでいるとお弁当を入れておいたバスケットの中に、ネイリーンが入れたのであろう、本日の収穫物なのか色取り取りの花や草がギッチリ詰め込まれているのが目に入る。
これらの花の大多数が何らかの毒があるんだなと思うと少しだけ引いてしまう自分がいた。
ハリオットもなんだかんだネイリーンに付き合って植物の採集に詳しくなっているようだ。
魔石に毒、大人になったこの2人は敵に回しちゃいけないなと思う。
「そろそろ帰りましょうか」
シーネは辺りを見渡し陽の傾きを確認するとナナリーに声を掛ける。
一度陽が傾くと森は一気に暗くなってしまうので、もう少し平気なんじゃないかくらいで帰らないと迷ってしまう可能性があるからだ。
それを知っている乳母ーズは慣れた様子で帰り支度を始めた。
「あ、ネイリーン様。それは私が持ちますわ」
花の入ったバスケットを大事そうに抱えるネイリーンを見たマーサが、慌ててバスケットを取ろうとする。
しかしネイリーンはそうはさせるかとばかりにぶんっとバスケットを振り回すと、「これはネイリーンのです!自分の物は自分で持つのです!」と頬を膨らまして主張した。
いやいや、それでは前が見えないじゃないの。
恐らくマーサも同じ事を思ったであろう。
どうしたものかと伸ばしかけた手が行き場を失いおずおずとしている。
「はい、ネイリーンお嬢様がナナリーの背に追い付きましたらお願い致しましょう」
そう言ってヒョイっとバスケットを取り上げたのはナナリーだ。
おお〜さすがネイリーンのあしらい方を心得てるわね。
ナナリーの乳母としての成長に感心する。
4年で随分と逞しくなったものだ。
ネイリーンの我が儘や欲求を上手くコントロールしてくれるナナリーは今や公爵家にはなくてはならないものだった。
視察で家を長期間空けることができたのも、彼女の仕事ぶりなくしてはなし得なかっただろう。
ナナリーには改めて感謝である。
それほど多くはない荷物を持って来た道を戻っていると、私の前を歩くマーサが石に躓いて体勢を崩してしまった。
「マーサ危ないっ!」
とっさに手を出そうとしたら、私の横からゾルディクスがサッと飛び出てきてマーサの体を支える。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとうございます…」
やってしまったわと恥ずかしそうにマーサが顔を上げると、ちょうどゾルディクスの顔が目の前にあって二人は見つめ合う形になった。
………
やだ、こんな急にトゥンクって入ってこないでよ。
目の前で赤面し見つめ合っている二人をこちら側から見ている私、シーネ、ナナリーの顔がみっともなく緩んでしまったのは致し方のないことだと思う。
ネイリーンの爆弾を知り、最後に思わぬイベントを挟んだピクニックはこうして無事に終わったのだった。
なんだかんだでゾルディクスが活躍して来たな。
このままだと、もしかして、もしかするのかな?
次回は物語が少し動きます。
予定ですが。
ではまた次回ー




