18.とっておきの秘密
ご覧いただきありがとうございます。
誤字脱字の報告もいつもありがとうございます!
間違えが多くて本当に申し訳ありません。
ちょっと間が空いてしまいましたかな?
ようやく書けます。
ネイリーンの設定が。
ではお楽しみください。
「母上、まだ準備は終わりませんか?」
「おむつを替え終わったからもう出られるわよ」
私は慣れた手付きで片付けを済ませ、手に抱いた赤ちゃんを隣にいる乳母に手渡した。
「これでよしと。後は頼んだわね、ミリア」
「はい、お任せ下さい。ではあちらでお留守番をしていましょうね、マルクス様」
エンナントの主寝室は湖側にあるので、窓を開けておくと爽やかな春の風が部屋に入って来る。
まだ少し肌寒いかも知れないわね。
私はソファに掛けてあったショールを羽織って扉の前で待ちぼうけをしている少年の所に急ぎ足で向かった。
「お待たせ、ハリオ。さぁ行きましょう。本当に久しぶりの外出だわ!」
そう、そこで待っていた少年は7歳になったハリオットである。
気が付けばもうエンナントに移り住んでから4年が経とうとしていた。
私も、子どもも、周りを取り囲む状況も随分とこの4年で変わっていた。
ギルバートは私と2人で今までを取り戻すように領地内のあらゆる土地の視察に励んだ。
改めて訪れてみると資料や報告では知り得なかった様々な事がその土地その土地にはあることがわかり、私達はもっと細やかな領地経営を目指そうと決心した。
その為には各有力者との信頼関係なくして始まらないのをあの一件で思い知ったので、ギルバートは苦手だった人付き合いを自身の課題にあげ、一歩踏み込んだ付き合いが出来るよう励んでいる。
その結果、このエンナントで友人と呼べる人達が増えたのはとても嬉しいことだった。
ハリオットは学術都市であるエンナントととても相性がいいようで、魔石狂いに拍車をかけて図書館に通い詰め知識をどんどんと吸収している。
しかも最近は魔石だけでは飽き足らず、魔道具の方も囓り始め魔力関連の専門図書館である第一図書館の研究所まで出入りしているようだ。
そしてあの赤ちゃんだったネイリーンは4歳を超え、今では可愛らしい小さなレディに育っている。
自然豊かなエンナントに移り住む時に思い付いたネイリーン・ハイジ化計画による、動植物などの自然にどんどん触れ合わせ、情感豊かな優しい女の子にする方針が功を奏していると思いたい。
では、先程の赤ちゃんは誰なのかって事になるわよね。
あの赤ちゃんは、なんと……
去年の秋に生まれた私とギルバートの3人目の子どもなのですよぉ-!!!
いや、まあ、夫婦仲こじれるどころか絆が深まっちゃたしね!
王都にいるよりも遙かに同じ時間一緒に行動しているわけだからね!!
そりゃ子どももできるわなって訳ですよ。
名前はマルクス。
ただいま生後半年の男の子である。
ギルバートと同じシルバーの髪とネイリーンよりも濃いエメラルドグリーンの瞳。
ハリオットもシルバーの髪だが髪質はギルバートと違ってサラサラのストレートだ。
それに対してマルクスは髪質もフワフワで完全にミニチュアギルバートであった。
この子の誕生は私の中では結構ビックリな出来事で、その理由は本来のゲームにはステフィアに3人目の子どもは生まれていないからだ。
ところが現実は私の元に赤ちゃんが生まれて……
これだけでも随分とゲームから外れたことになるんじゃないかな?
ネイリーンにとってもいるはずのない弟の存在は今後大きな影響を与えることになるだろう。
マルクスの誕生は現実がシナリオ通りに進んではいない証のような気もして私は本当に嬉しいのだ。
「お母様、もう準備はいいのですか?」
裾に何重ものフリルが付いた可愛らしいピンクの膝丈ドレスを着た女の子がトコトコと私に向かって歩いてきた。
肩下まであるフワリと緩いウェーブの掛かった栗色の髪に、意思の強さを感じる大きくぱっちりとした翡翠の瞳の女の子。
「お待たせ!ネリイ!一年振りかしらね?一緒に出掛けるのも。お気に入りの場所に案内してくれるなんて楽しみにしているわよ」
この言葉を聞いて4歳になったネイリーンがはち切れそうな笑顔でギュッと私にしがみついて来た。
「とても素敵な場所なの。お母様もきっと気に入るわ!」
私はネイリーンと手を繋ぎ、隣のハリオットを引き連れてエントランスへと向かった。
実は今回の出産は今までの無理が重なったのか妊娠中から大幅に体調を崩してしまったのだ。
絶対安静と医師に告げられ妊娠期間の後半はほとんどベットで過ごし、何とか無事に出産はしたけれど今度は産後の肥立ちが悪く、これまた半年間屋敷から一歩も出ずに安静に過ごした。
動き回れるようになったのは先月のことで、本日ようやく医師から外出の許可が下りたのだ。
約一年間、子どもと一緒に外に出かけることも出来ず、満足に遊んでもやれなくて悔しかったが、もう一安心!!
完全復活だ!!
するとハリオットとネイリーンが私のいない間に2人でよく出掛けたお気に入りの場所があるからお祝いにピクニックに行きましょう!と素敵なお誘いをしてくれたので、これから皆で1年ぶりにお出掛けをすることになったのだ。
ギルバートは残念ながらお仕事ですがね。
エントランスホールには今日のお供であるシーネとナナリーと護衛のゾルディクス、そしてマーサもいた。
王都では侍女長であったマーサはエンナントでも引き続き侍女長を勤めているが、このエンナントの屋敷にはマーサが以前から師と慕う古参の侍女が勤めていたので、以前よりも私に時間を割いてくれるようになったのだ。
妊娠と出産で多大な心配を掛けたマーサにも一時の寛ぎになればいいと今回は渋るマーサを強引に同行させることにした。
「では参りましょうか」
2台の馬車に分かれて屋敷の門を出る。
屋敷から国立図書館まで伸びる道の途中には大図書館同士を結ぶようにグルリと円を描く大通りがあって、私達はその通りをハリオットが通いつめている第一図書館がある東へと曲がった。
大通り沿いは何軒もの商店が軒を連ね活気で溢れ返っている。
色取り取りの装飾品から可愛らしい日用品まであらゆる物が店先に並んでるかと思えば、食欲をそそる臭いをプンプンとさせた屋台も沢山あった。
私達はお忍びでもない限り外を歩き回ることは出来ないが、もし歩き回れたら一日中楽しめるんじゃないかと思うほどの賑わいだ。
それもそのはずでエンナントは地理的にマグノリアの中央に位置し、国の北側に位置する王都へ入るにはこのエンナントを通る必要があるのだ。
そのおかげでエンナントは他国の商人の姿が他都市よりも多く、人も物資も溢れ活気に満ちていた。
「そういえばハリオットは今第一で何を調べているの?」
ちょうど第一図書館のある位置に差し掛かり、私はハリオットに尋ねた。
「僕は今手に持てるくらいの大きさの魔道具について調べています」
「あらどうしてかしら?」
「子どもの僕には大きすぎて使えない魔道具が多いので、僕でも簡単に扱える大きさの魔道具が欲しいからです。効果も出来れば落としたくないので小さくても高い効果が得られる魔石についても調べています」
なるほど。
要は自分でも扱える魔道具の研究って事かしら?
でも子どもが高い効果の魔道具を持ったらそれはそれで危ない気もするけど…
「出来上がったら見せてちょうだいね。きちんと大人の言うことを聞くのですよ」
そんな簡単に開発は出来はしないだろうが、興味のあることはどんどんやればいい。
ただし危険な事はしないこと、これが我が家のモットーだ。
「はい!所長のジスコ先生も手伝ってくれるので楽しいです」
所長も公爵の息子相手に大変ではなかろうか。
今度ゆっくりお礼でもしに行こうと思った。
「お母様、私は第一よりも第二の方が好きよ」
ネイリーンが私ともお話ししてと声をあげる。
「第二は確か自然についての図書館よね」
南に位置する第二は植物学や動物学などの自然科学全般が専門だ。
野山に親しんでいるネイリーンが好きだというのも頷けた。
「お花や昆虫の図鑑を見るのがとっても大好きなの!」
ああ、カワイイ!!
成功してるわっ、ハイジ計画!
無邪気な子どもらしい反応にほっこりしてしまう。
ハリオットはこの頃には立派な魔石オタクだったから、平凡な答えに私の心はホッとしてしまう。
「今度一緒に見ましょうね」
私が“約束ね”と小指を出すと、ネイリーンは“絶対よ”とその小さな小指を私に絡ませた。
しばらく馬車に揺られていると、目的地に着いたのか流れる景色が止まった。
「母上、着きました。行きましょう!!」
ハリオットが一目散に馬車から飛び降りると(こう言う所は昔と変わらないわね。)扉の外から早く早くと私を促す。
「お兄様、抱っこして」
扉の前で小さなネイリーンが両手を広げてハリオットに言った。
「もう、しょうがないなー。ほら!」
まだ7歳とそこまで大きくもないハリオットだが、カワイイ妹のおねだりに兄心がくすぐられるのか、口を膨らませながらもネイリーンを抱きしめて馬車から降ろしてあげていた。
なに、このカワイイ兄妹!!
超カワイイ!!私の子ども、マジ天使!!
ああ、前世のようにカメラがあればっ!
記憶だけじゃなく記録したい!!
そうだ、ゆくゆくハリオットに研究させてみよう。
なんかハリオットならどうにかしてくれそうだし。
私は尊い2人の姿に悶絶しながら、今はもう遠い現代文明の力を懐かしんだ。
ネイリーンに続いて馬車を降りるとそこは森の入り口のような木が生い茂った場所だった。
ほほう、ここがお気に入りの場所か?
一面のお花畑などを想像していただけにこの場所はちょっと意外だ。
「こっちよ!お母様!!」
ネイリーンとハリオットは手を繋いで森の中にスタスタと入っていく。
「え?ちょっと危ないんじゃない?」
私は片手を上げて呼び戻そうとすると、いつの間にか横に来ていたナナリーにその手を止められる。
「大丈夫ですわ、奥様。こちらの森は第二図書館の管理する森でございます。危険がないことは確認済みですので安心してお進み下さい」
「そ、そう」
ナナリーの言葉に安堵し、私は前を行く2人を追いかけた。
森の中は思っていたよりも日差しが入り明るかった。
なるほど、間引いたりと手入れされた森のようだ。
久しぶりの森林浴はとても清々しくて、私は深く息を吸い新鮮な空気をめいいっぱい体に取り込んだ。
「あまり先に行ってはなりませんよ、ハリオット様」
シーネが先を急ぐ子ども達に声を掛けると、ゾルディクスが2人を小走りで追っていく。
「ハリオット様もネイリーン様も慣れていらっしゃいますね」
ランチボックスを抱えたマーサが私の後ろで感心したように呟いた。
「ええ、この森を見つけてからお二人は週に二度程のペースで通われていましたから。私よりも詳しいかも知れません」
ナナリーがフフフと笑って二人を優しく見つめていた。
「ここよー、早くお母様!!」
ネイリーンが少し先で止まっておいでおいでと手まねきしている。
大人はゆっくりとしか進めないんですよ。
管理されていても森は森。
歩きやすい靴を履いてはいるが、慣れない道で悪戦苦闘なのです。
ようやく追いついたと足下ばかり見ていた視線を上げる。
するとそこは森の中にぽっかり穴でも空いてしまったかのように木が生えておらず、代わりに花が咲き乱れている花畑があった。
花畑はそこだけ大量の光が差し込んでいて、なんとも幻想的な風景を作り出している。
「まあ、なんて美しい!」
私は思わず感嘆の声をあげた。
そよそよと揺れる花はピンクに黄色に水色とパステルカラーが多く、春の柔らかな日差しによく映える。
私と同様初めてこの光景を目にしたマーサもうっとりとこの景色に酔っていた。
「ねっ!素敵でしょ。気に入った?」
ネイリーンがドヤ顔をしながらクルクルと花畑の中心で回っている。
「ええ、森の中にこんな場所があるなんて驚いたわ。よく見つけたわね」
「第二図書館の人に教わったんです。ここはよく探すと珍しい植物も見つかるんですよ」
ハリオットは早速しゃがみ込んで何かを探し始めていた。
足元にはクローバーがたくさん生えていたのでもしかしたら四つ葉もあるんではなかろうか。
「ねえハリオット、このクローバーの葉が四つなのを探してご覧なさい」
「え?何か起こるのですか?」
魔石とかには詳しいくせに、こういう事はからっきしなようだ。
「四つの葉がある物は、四つ葉のクローバーといって持っていると幸せになれると言われているのよ」
それを聞くとハリオットは目を輝かせて一心不乱に足元を探し始めた。
「何してるの?お兄様?」
そんなハリオットの姿を見てネイリーンが不思議そうに声を掛けた。
「この葉っぱが四つのを見つけると幸せになれるんだって!」
「何それ?!ネイリーンも見つける!」
子どもってこういうの宝探しみたいで好きよね。
ふふ、見つかるといいわねぇ。
あれでもない、これでもないとクローバーをかき分け探している2人をくすぐったい気持ちで見守った。
シーネとナナリーの2人の乳母(略して乳母ーズね)が慣れた手つきで少し離れた花がない草の上にシートを敷いて、休憩スペースを作ってくれていた。
大人達はそこに座りこの景色と2人の様子を堪能する。
森にこだまする鳥の囀りと、風が森を通り抜ける音。
そこに子どもがはしゃぐ声も加わり、なんとも幸せな時間がゆったりと流れている。
「マーサ、少しは寛げてるかしら?」
「充分ですわ、奥様。こんな風に森の中で過ごせるなんて、本当にありがとうございます」
今日のマーサはいつものお仕着せではなく、落ち着いた若草色のワンピースを着ていた。
あまり普段着姿を見せないのでとても新鮮である。
「エンナントに来てミリアはすぐに結婚をし、出産の時期が重なったからって本人の希望でマルクスの乳母になってもらったけど、マーサはいつまでも変わらないわね。そろそろ自分の幸せを考えてもいいのよ」
そうなのです。
ミリアはエンナントの屋敷を訪れた街の有力者に見染められサラッと結婚したのです。
ざーんねーん、ゾルディクスー。
あの時のゾルディクスは酒場で相当荒れていたと聞いています。
さらに、すぐに子宝にも恵まれたミリアはちょうどマルクスの乳母を探していることを聞きつけ、是非自分にとトンボ返りで違う形だが職場復帰までしてのけた。
芯の強い子とは思っていたが、こんなにしっかりしていたとは驚きだ。
そうなると私の周りで心配なのがマーサだった。
こんなに素敵な女性なのにもったいない。
私は力が入りすぎているマーサの肩を支えてくれる誰かを見つけてあげたいのだ。
「ご縁がありましたらすぐにお知らせ致しますわ、奥様」
森の癒し効果か、いつもよりも数段柔らかくマーサは笑っていた。
ああ、もったいない!!
その時、ネイリーンが私の元に何やら持ってやって来た。
「見つかったの?」
「ううん、飽きちゃった。でも、代わりにこれ見つけたのよ。お母様にあげる!」
ハイと渡されたのは紫の小さな花が沢山ついた植物だ。
「あら初めて見る花だわ。可愛らしいわね」
私は指でツンツンと花をつつく。
「そうでしょ!しかもこの花を精製して取れるオイルはしびれ薬になるのよ!」
??
なんて言った?
「他にも毒のある花いっぱいあるから見つけてくるねー!」
パタパタと栗色の髪をなびかせ、娘は森を駆けていく。
「しびれ、薬って言ったわよね、これ?」
ナナリーが私からさっと目を逸らす。
「毒のある花、って言ったわよね、今…」
今度はシーネが目線をあからさまに外した。
「ねぇ、ネイリーンってお花が好きなのよね?」
「………」
なんで誰も答えないのっ?!
「…ネイリーンお嬢様は…」
観念してかナナリーが苦笑いを浮かべて話し始める。
「毒草に興味がおありなようでして…」
ふらりと目眩を覚える。
思わず手を額に添えた。
「奥様!気を確かに!」
「大丈夫です。お子様とは思えない素晴らしい知識量ですよ!」
フォローになってなーーーい!!!
出ましたー!
ただの女の子のはずがないのです。
この設定が書きたくてこれを作ったのだ!
あーこれからどう動いてくれるか楽しみだー。




