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14.事実確認

ご覧いただきありがとうございます。


セドリックのターンです。

いっぱい喋ります。

鞭は持ってません。

いつもならオーガンが座っているはずの強堅な造りの椅子に、今座っているのはギルバートだった。

私はその右隣に用意されたディノンの椅子に腰を掛け、机を挟んだ先に視線を落とす。

そこには後ろで手を縛られ床に転がされるように座らされているオーガンとディノンの姿があった。


あのまま鉱山内で事情聴取を行う訳にもいかないので、ギルバートは皆に執務室へ移動するように命じたのだ。


人も獣も眠る静かな時間なのに、この執務室だけは周りから切り取られたみたいに重苦しい空気に満ち満ちていた。


「では聞こうか。セドリック」


机に両肘を突き自分の顔の前で手を組んだギルバートが、自分の左に控えていたセドリックに促す。


「はい、旦那様」


セドリックは一歩前に出るといつの間に用意していたのだろう書類の束を取り出し、その内容を読み上げ始めた。


「ラインベルト伯爵三男 オーガン・ラインベルト、貴殿はサザノス鉱山管理責任者という立場を利用し、兵器転用を目的と知りながら隣国エジルブレンにペスキー、マガラカ、アズカオスを中心とする赤の魔石の売買を主導しましたね。この行為はマグノリア王国の定める法に違反しているだけでなく、国家転覆に繋がる重大な叛逆行為ですが間違いないですか?」


書類から目線を上げてオーガンを一睨みする。


「……」

「沈黙は肯定とさせていただきます」


セドリックは淡淡とした口調で先を続けた。


「さらに、無許可の魔石探査法の使用。鉱山運営に関わる書類の偽造、稀石レディロウの所持報告義務違反、国及びファンドール公爵家への虚偽報告にファンドール公爵夫人ステフィア様への暴行殺人未遂。これらも間違いないですね?」


オーガンは答えない代わりにわなわなと怒りに満ちた瞳でセドリックを凝視している。


「これだけの罪を犯す動機をもう一度正式に伺いたいところですが、鉱山で無様に叫んでいた内容なのでしょうし省かせていただきます。何か仰りたいことはございますか?」

「…貴様らなぞに開く口はない」


セドリックは一度後ろのギルバートの方に体を向け、様子を窺うと彼は何もないと言うように顔を一度振った。

再び前に向き直し持っていた書類のページを捲る。


「では次、ディノン・ソーサー……いえ、マハルト・サラーナ子爵子息とでも呼んでおきましょうかね?」

「!!なぜそれをっ?」


セドリックの言葉についさっきまで我関せずとそっぽを向いていたディノンがバッと顔を上げた。


「粗方調べたと先程旦那様も仰っていたでしょう。エジルブレンに縁のある貴方を調べるのは当たり前の事です」

「しかし、戸籍から何まで不備はないはずだ」


ディノンの顔がみるみる青ざめていく。


「あまり私達を嘗めないでいただきたい。怪しいと思った人物の戸籍など端から信用しておりません。限りなく白に近くとも自身の直感で動かせていただいております。大体いつもどこからか粗が出て来るものです。しかしながら今回は少し苦労いたしました」


そう言いながらセドリックはディノンの座る方へ足を運び始める。


「マハルト様、と呼ばせていただきましょうか。マハルト様のお父上であらせられるサラーナ子爵はマグノリアとの混血児で、その血故エジルブレンでは大変肩身の狭い思いをされていたようですね。双子の男児がお生まれになった時、いつか役に立つ日が来るかもと1人は跡取りとして手元に置き、もう1人はマグノリアにいる同胞の子と入れ替えた。違いますか?」


ディノンの前まで来るとピラリと一枚の写真をディノンに見せる。

そこにはディノンの面影がある少年と夫婦が映っていた。


「この方が本物のディノン・ソーサーですね。と言っても双子なのでご自身と同じに見えるでしょうが…」


!!!


え?じゃあそこにいるディノンはマハルト・サラーナと呼ばれる人物で、本物のディノンは双子の片割れってこと?

怪しいとは思っていたディノンだが、想像よりももっと複雑で根深い人物のようだ。

私は写真の中で笑っている少年の事を思う。

今彼はどこにいるのだろうか。

まさかそこにいるディノンに殺されてないわよね??

私は焦燥感に駆られ思わずセドリックに視線をぶつけた。

セドリックは私の気持ちが分かったのかこう続ける。


「本物のディノンはこちらで保護させていただきました。こんな日がいつか来るものだと養父母から言い聞かされていたとはいえ、長年マグノリアで育った彼にエジルブレンへの義理などあるはずがありません。養父母も今まで家族として暮らしてきた息子を今更になって殺せと言われても無理というものでしょう。養父母に匿われていたところを説き伏せてご一家ごと保護させていただきました」


その言葉にホッとする。

にしてもやはり殺すつもりだったのかと思うと恐ろしい気持ちになった。


「マハルト様もサラーナ子爵同様、随分と彼の国で苦労なさったようですね。あちらからしたらマグノリアとの混血貴族など貴族の末席にもいさせたくないようですし。なんとかのし上がろうと粉骨砕身で努力をし、彼の国でも有数の魔道士になったようですが結局は混血児。叶わぬ努力で言い渡されたのは魔石の探索ですか。悔しかったことでしょう」


セドリックはディノンの耳元でささやく。

ディノン、もといマハルトには思い出したくないことなのだろう。

唇を血が滲むほど噛みしめている。


「彼の国で思うような量が見つからなかった貴方は、お父上がいつか役に立つとマグノリアに置いていたもう1人の自分に成り変わってマグノリアで鉱山を調べるようになった。そして折良く国に対して敵対心を持った管理者がいるサザノスに目を付けた」


ここまで言うとセドリックは元いた場所に戻っていく。


「オーガン様の敵愾心をくすぐって自分の傀儡のように動かしていったのでしょう。見返りにエジルブレンでの爵位をとでも餌をまいて。自身もこの魔石でマグノリアの侵略が成功すればエジルブレンで認めてもらえると野心があったのでしょうね。彼の国でも持ち出しが禁じられ、マグノリアでも所持には報告義務のあるレディロウまで持ち出して」


ここでも私の知らない情報が飛び込んできた。

レディロウって珍しいのは聞いていたけど、そんな危険物のような扱いの魔石だったの?

ハリオットがラッキーだと無邪気に喜ぶ姿が、爆弾を見てはしゃぐ子どものような映像に切り替わってしまった。


「サザノスの調査は比較的簡単でした。産出量がおかしいと奥様が気付かれた以上にここでも操作されていて驚きましたよ。密売に使われた拠点もすぐに押さえることができました。ただ1つだけ、我々の力をもってもどうしても分からなかったことがありました」


ギルバートの左隣に着くとクルリと前を向いた。


「赤の魔石の探査方法です」


私は鉱山で見たあの魔道具が起こした光景を思い出す。

水脈調査の魔道具にレディロウを嵌め、赤い光に包まれあの光景だ。


「サザノスを調べていると貴方とオーガン様がいつも夜のある時間になると執務室に籠もられるのが分かりました。我々は潜入を試みますが優れた魔道士でもある貴方はこの執務室をピタリと包むように結界を張り巡らせていて侵入することすら出来なかった。人が出入りする日中なら私の優れた手足に隙を突いて探らせることが出来ても、オーガン様と貴方が怪しい動きをする夜だけは決して潜入することが出来ませんでした」


ここでセドリックがフッと口角を上げた。


「奥様を見張らせていた夜鷹の報告には驚きました。まさかあっさり奥様がこの部屋に入っていくなんて」


ああ、私が嵌められていたあの時ね。

珍しくセドリックが表情を崩したのは私が引き起こしたミラクルのおかげだった。


「報告を受けた私はすぐに旦那様を連れて執務室へと向かいました。あとは知っての通りです。どうしても繋がらなかった事がこれで全て繋がりましたよ。奥様には感謝いたします」


セドリックのレアな微笑みが私に向けられた。


じゃあ私が罠に掛からなかったら、いつまで経っても探索方法がわからないままだったってこと?

ポジティブに捉えるなら罠に嵌まってよかったし、罠を仕掛けようと思わせた私もグッジョブである。

あれ?

というか、いつから私はその夜鷹さんに見張られていたのでしょうか。

色々とモヤッとした部分もあったがこの場で晴らすのは違うなと感じ、釈然としないながらも私はセドリックにうんうんと頷いておいた。


「……罠に掛けたはずがそれが仇となったか」


マハルトが悔しさを噛みしめ、詰まるように言葉を放つ。


「わざわざ公爵と別れて迂闊な行動を取っていたから、繋がっていないと踏んでいたのに」

「それどういう意味かしら?」


思わず声を掛けてしまった。


「あんなあからさまに執務室を狙ってくるような女は俺が旦那だったら止めている。別行動で探らせるとしたらもっと狡猾に動ける人物でないとこちらにも被害が出るからな。どんな思惑かは知らないが、お前が単体で行動を起こしていることは見ていてすぐにわかった」


なんと!

いや、まあそうか。

うん、これでわかった。

私に捜査は向いていない。

今後は何が何でも誰かを頼ろう。


「以上でございます」


セドリックがギルバートの方を向いて頭を下げた。


「……ご苦労」


「オーガン、そしてマハルト殿、言いたいことはあるか?」


張りのある威厳に満ちた声が2人に投げかけられた。


「……」

「……」

「貴殿らの処分は事が事なだけにマグノリア王の裁量に委ねられる事となる。一両日中に王都へと移送するのでそれまでは地下牢にて待つがよい。セドリック、夜鷹、連れて行け」

「はっ!!」


ギルバートが命じると2人はオーガンとマハルトを立たせて執務室から出て行った。

ようやくここまで来ました!

サザノスも残りあと一話です。

私の中ではサザノスは序章なので早く本編に行きたい所です。


誤字脱字の報告、評価、ブクマ登録と本当にありがとうございます。

これからも頑張って書いていきますので宜しくお願いします!

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