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13.渦巻く敵意

お読みいただきありがとうございました。


書きたかった所の1つではあったけど書くのが難しかったです。


ステアさんのピンチからスタートですね。

では、いってらっしゃいませー!

もうダメだと思ってからしばらく経ったが、私の体にディノンの手が触れる気配がなかった。


なに?


目を開けるのは怖かったが、それよりも今の状況が知りたくて私は怖々目を開けてみる。

すると、私の首元には確かにオーガンの手が伸びていたが、触れる寸前の所でその手はガクガクと震えながら止まっており、その手首には黒く細い縄のようなものがぐるぐると巻きついていた。


「ぐっ」


ディノンの呻き声が頭上から落ちてくる。

私は黒い縄の元を辿るように顔を動かした。


「え?なんで…?」


あまりにも予想外な人物がそこに立っていたので、私は動揺を隠せない。


「遅くなり申し訳ありませんでした、奥様」


抑揚をあまり感じさせない声が私の耳に届く。


「…セド…リック?」


そこにはいつもの無表情を浮かべたセドリックが右手に鞭の柄を握り、もう片方の手でその鞭が外れないように固定している姿があった。

その姿はまるでいけないクラブの女王様を彷彿とさせる鬼畜ドS仕様であった。


―似合いすぎる―


死にかけておいてまず思ったことがこれなんてどうかしてる。

でも思わずにはいられない程その姿は神々し…もとい、様になっていた。

突然のセドリックの登場に私は放心状態になってしまったが、次の瞬間またもピンチに陥る。


「おい、近づくなよ!大事な奥様に傷が付くぞ!!」


オーガンは手にしたナイフを私に向けてセドリックを威嚇した。

いきなり現れたセドリックにそうとう度肝を抜かれたのか、その顔に色はない。

でもディノンの動きを封じただけで、私という人質がいる以上オーガン達の優勢は変わらなかった。

それはオーガンもディノンもわかるようで、顔色は悪いが段々と不敵な笑みを浮かべ始める。

その時だった。


「それは、困ってしまうね」

「!!!!」


その声にセドリック以外のこの場にいる全員が言葉を失った。

見慣れた背格好の男性がゆっくりと坑道の奥から姿を現す。

オレンジの灯りに照らされた癖のあるグレイの髪と、そこから覗くネイリーンと同じ翡翠の瞳。


「ギルバート!!」


私は思わず叫んだ。

そこにいたのはまぎれもなく先程まで部屋でハリオットと休んでいた私の夫。

ファンドール公爵家 現当主 ギルバート・ファンドールだった。


「なぜ、ここにギルバートが。お前、まさかギルバートに言ってあったのか!」


オーガンが血走った目で私を睨み付ける。


「おいおい、私のステアに怒鳴らないでくれ。仮に言っていたとしても私達は夫婦だ。何もおかしいことなどない」


確かにそうだ。

私は証拠がないまま言っても鼻で笑われると仮定して言わなかっただけで、きっと他のご婦人だったら真っ先に夫に言っているだろう。

そう考えると私がこうやって1人で動いてしまったのは迂闊だったのかもしれない。


「まぁステアは私に何も言ってはいなかったけどね」


そう言いながらギルバートはカツカツとこちらに歩を進める。


「くっ、来るな!!」


オーガンは私にナイフを向けたまま、もう片方の手でグイッと私を自分の方に引き寄せた。


「オーガン」


穏やかな口調とは異なりギルバートの表情はかなり厳しいものであった。


「…なぜだ…」


手を伸ばせば届く距離でオーガンとギルバートが対峙する。

その2人の間はピンと糸を張ったような緊張感で満ちていた。


「……」

「……」


どちらも何も言い出さないまましばらく沈黙が落ちる。


「なぜ、国を裏切った?」


ようやく絞り出された声は酷く弱々しい。


「何が君を凶行に駆り立てた?なぜ、私に何も言わなかった?」


眉間にこれでもかというほど深い皺が寄る。


「なんのことだ?わからないな」


顔を歪めるギルバートとは対照的にオーガンは白々しく答えた。


「あくまでも白を切るか。諦めろ、もう粗方調べは付いている」

「どういうことだ?」


オーガンの目がギョロリとギルバートに向けられる。


「きっかけは半年程前だ。ネイリーンのバースジュエルをどこで手に入れるかでサザノスを調べていたら、たまたまステフィアがサザノスの産出量の異変に気が付いた。私の執事は優秀でね、すぐに私の知らない所でサザノスの調査を始めていたよ。報告が上がって来たのはつい一月前だ。私は自分で言うのは何だが、身の内に入れた人間にはとことん甘いからね。君の事も報告を受ける前までは何も気にしていなかった」


ギルバートがオーガンに合わせていた視線を僅かに下に下げる。

いくらダメだと分かっていても、友から向けられる剥き出しの敵意を無意識に回避したいかのように。


「学生の頃から君は勤勉で正義感が強く、頼まれた事はいつもそれ以上の結果を出していた。伯爵家の3男という爵位を継げない立場とは言え、常に自分は国の為に何が出来るのかよく考え行動していた。その清廉な姿に私は憧れすら感じたよ。多くはない友人の中でも特に君の事は信頼していたからな」


ギルバートは一旦息を吐くと、再び視線をオーガンに合わせる。


「そんな私を執事もよく知っていたから憶測で言ってはこなかった。私が認めざるを得ない証拠を持ってきたよ。まさか、私の知らない所でエジルブレンと繋がり、あまつさえ兵器に使われる赤の魔石を大量に流しているなんて。思いもしなかったよ」


飄々と言っているようだが、その唇は微かに震えている。

いや、唇だけではなかった。

手が、腕が、肩が、ギルバートの全身が痛々しく小刻みに震えていた。

その痛々しい姿に私は思わず手が出そうになる。

でもナイフを向けられ身動きの取れないこの状態ではそんな事すら出来はしなかった。


「ハッ!ただその場で待っていれば降ってくるように幸福を手に出来るお坊ちゃんなんかにわかるものか!!」


吐き捨てるようにオーガンが吠える。


「ただ公爵家の長男として生まれただけで、爵位も、金も、領土も、周りからの信頼も、努力などせずともなんでも手に入る貴様なぞに。苦労も知らずのうのうと生きている貴様なぞに俺の気持ちなどわかるわけもない!!」


私を掴むオーガンの手にグッと力が入る。


「俺だって真っ当でいようとしたさ!誰に見せることもなくひたすらに努力もした!結果だっていつも出していた!だがわかるか、どこまでいってもついてくるのは伯爵家の三男というレッテルだ!無駄な努力だとなじられ、爵位を狙っているのだと疑われ、挙句の果てに貴様に請われて着任したこのサザノスでも古参のやつらから”公爵に媚を売って得た職だ”と辱められる。この国にいる限り、俺の価値は俺自身を評価したものじゃない。この国にいる限り、俺が自身の力を掲げられる本当の場所なんてないのさ!だから俺はエジルブレンに行くんだよ!本当の俺を示せる国だ!マグノリアを攻める力を持ってな!!」


そんなことはない。

誰もが爵位だけで人を判別しているわけじゃない。

身分が低かろうと、爵位がなかろうと優秀で活躍してる人はいる。

そう言ってしまいたかった。

けどオーガンの言葉を聞く限り、彼がこれまで自身の努力や力をそのまま認めてくれる人物にあまりにも恵まれていなかったことが窺い知れた。

身分に縛られ、周りに貶められ、努力をしても報われることがなかったのだろう。

さらにギルバートに認められて赴任して来たにも関わらず、ここでも縁故だと自分の力を無視されてしまった。

いくら努力しても満たされない自己顕示欲が溜まりに溜まって、その解放をエジルブレンに求めたのかもしれない。

でも、そんなオーガンの事情を知ったとしても、自国を脅威に貶めるやり方が正道であるわけがない!!

信じて任してくれたギルバートを裏切っていい理由なはすがない!


「甘いわね!国を裏切るような奴がほいほいと仲間に入れるとでも思ってるの!?」

「何!!」

「あんたなんかエジルブレンに行ったとしても、次は国を裏切る痴れ者だと新しいレッテルを貼られ、ただ駒のように都合よく使われるだけよ!」

「き…さまぁ…」

「黙って聞いていれば、ギルバートが苦労も知らないお坊ちゃんですって?ふざけないでよ!彼がその立場で生まれて来たが為に、どれだけの物を背負って来ていると思ってるの?周囲のプレッシャーも、領民の人生も、自分の匙加減一つで決まってしまう重さを貴方は知らないじゃない!あなたの境遇がいかに不幸だったかは想像もつくし、同情もするわ。けどそれとこれとは話は別よ!貴方がやっている事はただ構って欲しくて駄々を捏ねている子どもと同じだわ!」

「こんのっ‥!!」


ギリギリと歯を噛み締め鬼のような形相のオーガンがそこにはいた。


あ、やばっ!つい言っちゃった!!

気付いた時にはもう遅い。

先程まではギルバートに向いていた敵対心が、轟々と渦巻いて私に標的を変える。

オーガンは手にしたナイフを振りかざし、一気に私に向けて振り下ろした。


「ステア!!」

「夜鷹!!」


-キィン-


2つの叫び声がこだまするのと同時に、金属と金属がぶつかって弾け飛ぶような高い音も聞こえた。


「ぐはっ」


ナイフを持っていたオーガンが手を押さえて床に蹲る。

そして驚くべき事にさっきまでオーガンがいた私の隣に、いつの間にか黒装束に包まれた細見の男が腰を落とした体勢で立っていた。


だれっ?!!


ナイフを向けられた恐怖といきなり自分の前にいる怪しげな男への恐怖でが上手く頭が回らない。

この人物がオーガンの攻撃から私を守ってくれた?

黒装束の男は私を背にしてオーガンを警戒しているようだから、少なくとも敵ではないと思う。

ただ見た目の怪しさから今諸手を挙げて味方だと喜ぶことは出来なかった。



「ステア!」


混乱し強張っている私をギルバートが抱き締める。


「よかった。もう大丈夫だ」


誰よりも安心な腕に包まれると、オーガンから解放されたのだとようやく実感出来て全身の力が抜け

た。


「夜鷹、捕まえろ」


後ろからセドリックの声がする。


「御意」


ぼそりと答える低い声が空気に溶ける。

すると黒装束の男はあっという間にオーガンを持っていた縄で縛り上げた。

セドリックの方を見るといつやったのかはわからないが、ディノンもオーガンと同じように縛られ、地面に転がされているのが見えた。


助かった…の、かしら


ガクリと一気に膝から崩れると、ギルバートの手がしっかりと受け止めてくれた。

セドリックの女王様姿は想像以上に来るものがありました。

ステアさんも緊迫してなかったら泣いて喜んだ事でしょう。

まだ書き足りないエピソードもあるので、今後どこかに足すか、S Sとして別で書くか悩んでおります。

では、また次回にお会いしましょう!

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― 新着の感想 ―
[一言] 夜鷹って江戸時代の娼婦の呼び名なんですが
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