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10.ツキは私が持っている

お読みいただきありがとうございます!

サザノスもだいぶ進んできましたね。

サクサクと進めて行こうと思っております。


ではお楽しみください!

「ちょっとはしゃぎすぎたわね」


棟内を一通り回り終えた私は応接室に戻り、出された紅茶で一息入れていた。

応接室の窓からは遠いけれど町の様子が見えて、今は夕暮れに向けて買い物を済ませようとしている主婦の姿を見ることが出来た。

ぼんやりとその様子を眺めながら私はこれまで見てきた事柄を頭の中で整理する。


エジルブレンと関わりのありそうなディノンが鉱山管理の中枢に入り込んでいる事

サザノスはとても管理された有能な鉱山である事

オーガンがディノンの助けもあるとは言え、採掘する場所を選んでいる事

執務室には水脈を見つける魔道具が置かれている事


うーーん、怪しい所もあるけれど、これだっていう決定打がないのよね。

エジルブレンに流してる証拠とか、繋がっている証拠とか。

ディノンの存在は怪しいけれど混血は街中にもいるはいるし。

混血だけでエジルブレンと繋がっているという事にはならないし。

書類とか盗み見られたら良かったのだけれども、公爵夫人とはいえそこまでは出来ない。

しかもギルバート達が戻ってきたらもう帰らなくちゃいけないし。

困ったもんだなあー


どうしていいものか思い悩んでいると、目線の先にポツポツと雨粒が落ちてきた。

どうやら雨が降ってきたようだ。

外を行く町の住人は急いで軒下や商店に駆け込んでいく。


―ドォーーーーンッ!!!

いきなり辺りを劈くような雷鳴が響いた。

私も思わず体がビクッと竦んでしまう。


「え??雷??」


―ドンッガラガラガラァーーー


何の前触れもなしに雷が鳴り始めると、その次の瞬間にはザバーっとものすごい勢いで雨が降ってきた。


「いやぁービックリしたね」


張り詰めた空気に穏やかな声が割り込んでくる。


「ギルバート!大丈夫だった?」


振り返るとちょうど鉱山の見学を終えたギルバードとハリオット、オーガンが部屋に戻ってきたところであった。


「ははうえー」


ハリオットも突然の轟音が怖かったのだろう。

怯えた様子でパタパタと私の方へ駆け寄ってきたので、「大丈夫よ」と抱きしめてあげた。


「山の天気は変わりやすいとは聞いていたけど、こんなにいきなり悪くなるのだね。驚いたよ」

「時期などにもよりますがこれは私もビックリしましたね。それにしても凄い雨です」


オーガンも窓の外をジッと見ている。


「鉱山内は大丈夫なのですか?」

「山ごと崩れたらどうしようもないですが、扉や止水板もありますし、いざとなれば浸水を防ぐ魔道具がありますのでご安心下さい。これ位なら皆どうするかわかっているので大丈夫ですよ」

「そうですか。オーガン様は随分と鉱山の皆様を信頼なさっているのですね」

「ええ、彼らは私が誇る家族のようなものですので」


オーガンは今日見た笑顔の中で一番優しい笑顔を浮かべていた。

本当に彼らを信頼し、愛している、まるで小さな領主のような表情だった。


「しかし、この雨では鉱山と違ってギルバート様達の馬車を出す事は難しいかも知れません。雨が止んだとしても道がぬかるんでいて車輪がはまってしまうでしょう。この辺りの道は街道と違ってそこまで舗装されていませんので。崖に落ちてしまえば命の危険もあります」


なにそれ、怖い!!

崖に落ちるとか本当にいやなんですけど。


「そうですね、今晩は急ですがこちらの屋敷にお泊まりになって、明日お帰りいただくのが宜しいかと思います」


ディノンがそう続く。


「いいのか?私は助かるが」

「もちろんでございます」


オーガンは頷いた。


お泊まり?ここで一泊お泊まりするの??

そしたら夜とかにこっそり探ったり出来るかも!

まさに棚からぼた餅!略して棚ぼたである。


「では部屋を準備してまいりますので、ここでお待ち下さい」

「私達も一緒に行って部屋を整えて参ります」


主人の泊まる部屋を人任せになど出来ないとばかりに、セドリックとミリアがオーガン達の後を急いでついていった。


「思いがけない外泊ですわね」

「旅にアクシデントは付き物だからな。日程的には余裕を持たせてあるから心配はいらなけどね」


外はひどい雷雨だけれども、ゆったりと紅茶を飲むギルバートがいるだけで空間が柔らかくなる。


「ちちうえ、ここにお泊まりするのですか?」

「ああ」

「ネリィはひとりで泣きませんか?」


ギルバートの裾をキュッと引っ張りながら険しい顔でハリオットが問う。


「まぁ、優しいお兄様ね。ナナリーもいるから大丈夫よ。あ、でも連絡は入れなくてはいけないわね」

「そこはセドリックに任せておけば良いさ。あいつもピートまではいかないが気の利く男だよ」


こうして思わぬ雷雨により急遽サザノスで一晩お泊まりすることになった。

案内された部屋は先程までいた管理事業棟ではもちろんなく、向かいの居住棟である。

居住棟は無駄のない事業棟とは違い明るい雰囲気で廊下にもカーペットが敷き詰められてある。

所々に花も飾られており、調度品も置かれていた。

私とギルバートとハリオットは一番大きな客室を。

セドリックとゾルディクスの男性陣とシーネ、ミリアの女性陣で一部屋ずつと別れる。

セドリックとシーネは夫婦で同室と言いたいところだが、その分け方だと若い男女が同室になってしまうので倫理的にも却下である。


残念だったな、ゾルディクス!

ミリアを狙っているんはわかっているんだぞ。

わかっていないのはミリアだけだ。頑張って!


さて、夕飯までの時間は各自自由時間ということにした。

強引にでも決めないと律儀な従者達は私達の傍を離れようとしないので、部屋から出ないことを条件に休んでもらうことにしたのだ。


部屋に入って少しするとハリオットははしゃぎ疲れたようでいつの間にか長椅子の上で眠っていた。

あれだけ魔石に詳しくてもそこは4歳児。

ホッとする空間に来ると電源が切れたようにあっという間に眠ってしまうのだ。

動かして起こしてしまうのも可哀想なので、移動はせず私のショールを掛けてあげたら幸せそうな寝顔を見せてくれた。

ギルバートと私はそれぞれ一人掛けの椅子に座り、ギルバートはオーガンから貰った報告書に目を通し、私はセドリックがミニ図書室から持ってきたお土産、もとい鉱山の日報を読むことにした。


まずは今年度の日報を開く。

ディノンから説明を受けた通り、日付、採掘階層、採掘スポットなど細かな情報が載っている。

私は特に業務連絡や必要対応策を記す”所感”に目を通した。

ある日は掘り進めている岩盤が少し湿っているので近くに水脈がないか調査して欲しいと依頼していたり、またある日は、直進に掘る所をオーガンの指示で方向転換となったが、掘り進めていたら鉱脈にぶつかり大量の魔石が採れて驚いたと感想じみた報告もあった。

ペラペラとページを捲りながら気になる記述を探すが、今年度と昨年度はそこまで内容に変化は見られなかった。

ただオーガンが採掘場所を指定し、時には鉱夫達が想像している場所とは違う場所を掘らせたりと指揮の全権を握っていることは確認出来た。


じゃぁ次はオーガンの就任初期になるのかしら?3年前のね。


先程と同様にページを捲る。

何ページか進んだところで私の指はピタリと止まった。

そこには前の2冊には見られなかった驚くべき記述があったのだ。


”本日の採掘場所は昨日私共と技術の者で考察した通り、昨日のポイントから右方向へ作業を行いました。”

”本日の採掘状況を考えて、現場の総意で明日の採掘場所は一旦ここから退き、もう1つのルートを取るようにします。”


どういうこと?オーガンが場所を指定する記述がないわ。

これはまるで現場の意見で決めていっているように思える。

オーガンには報告を上げて後から了承を取っていたのかしら?


私は次々にページを捲った。

そしてある日に辿り着く。


”本日よりオーガン様の秘書であるディノン様から採掘場所の指定はオーガン様が行うと指示があり、現場の技術者らは反発しています。どうか説明をいただけると助かります。”

”オーガン様の指示された場所から次々に鉱脈が発見されて一同驚かされました。今後もご指導宜しくお願いいたします。”


ここからじゃない?!


私は食い入るようにそこに記されている文字を見る。

なんという強運なのかしら。

ちょうど転換の箇所が見つかるなんて!!

私は自分の持っているツキに敬意を払った。(正確には持ってきたのはセドリックだけど気にしない。)


ちょうどこの辺りから指示系統が変わっている。

そして見る限りオーガンの指示になってから鉱脈を捉える比率が飛躍的に伸びている。

これは、絶対に何らかの方法でオーガンは鉱脈を探すことが出来ているに違いない。

でも、どうやって??

あぁ、そこがわかればいいのに!

今までこの国では鉱脈の探査なんて出来ていない。

その方法こそがオーガンが密かにエジルブレンと繋がっている確たる証拠になるはず!

私の中の第6感というべき物が、ずっとここだと言っている。


やっぱり、執務室に忍び込むしかないかな?

これまた運良く今日はここに泊まることになったから、夜中にでもコッソリ行ってみればいい。

決めた!そうしよう!!


「どうしたんだい?難しい顔して」


!!!


顔を上げると目の前にギルバートの顔があった。


「んなっ…んでも、ありませんわ。そして近いわっ!」


思わず大きな声が出てしまう。


焦りました。

全く気が付かなかったわ。


「一体何を読んでいるんだ?小説とかではなさそうだけど…」

「え?あぁ、これはここの日報よ。良く書けているからファンドールに仕える者達にも参考にしてもらおうと借りてきたの。セドリックも良く書けていると絶賛よ。ほんと、内容も盛りだくさんで面白いのよ!」


あくまで参考書の体なので。

決して調査のためとかじゃないのですよ。

焦るあまりに弱冠早口になってしまう。


「へぇー、面白そうだね。後で私にも見せてくれ」

「もちろん、もちろん。今読んで下さっても構わないわ!」


私はドサドサと日報をギルバートの手に落とすと、そそくさとハリオットの方に近づいた。


問題はギルバートとハリオットに気付かれることなく抜け出せるかね。

ハリオットの髪を撫でながら、今晩の動きをイメージする。

私も今の内に少し眠っておきましょう。


「私も少し疲れたから横にならせていただくわ」

「ああ、そうするといい」


ベッドにポスッと倒れ込めば、私も疲れていたのかあっという間に眠りに落ちていた。


落ちるように眠るハリオとステアさん。

その横でギルさんは何を思っているのでしょうか?

ニヤニヤしながら二人を眺めていそうですけどね。


ブクマ100人超え、ありがとう御座います!

ビックリです!嬉しいです!!

ご期待に添えるようこれからも励んでいきますね。

評価してくれた皆様もありがとう御座いました!!

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