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聖騎士

 それから一週間ほど歩くと帝都ダーレスが見えてきた。ダーレスに近づくにつれて同じ方向へと向かう人が増えていき、帝都が見えるころにはちょっとした行列のようになってきていた。


 俺が幼いころに見た、焼け落ちる前の王都グラントの城に比べて倍はあろうかという規模と威圧感を備えて帝城はそびえたっている。

 尖塔は天を突きさすようにそびえたち、中心の居館はこの地方を統べる帝にふさわしい十層構造となっており、そんな城を守る城壁はいかなる敵の侵入をも拒むように幾重にも巡らされている。

 そんな帝城を囲む城下町の広さはグラントの何倍あるだろうか。そしてさらに、そんな城下町を囲む城壁が築かれている。城壁は黒々とした無機質な石の壁で、見る者に圧迫感と威圧感を与える。

 

 そんな光景を見ると俺はエルロンド王国が負けたのもやむを得ないという気持ちになってしまう。

 俺たちは街道をそのまま進み、正門と思われる大きな門から入ることにした。


「こういうところを軍勢で攻めても絶対落とせないけど、私一人なら易々と侵入できるからね。一人仇討ちっていうのも案外悪くないものだよ」

「そんな馬鹿な」


 城に気圧されている俺とは対照的にリアは物騒なことをあっけらかんと言い放った。


 門からはひっきりなしに人々が出入りしている。見張りの兵士はよく見ると何人もいるが、通行人全てを調べることなど不可能なのだろう、ただ人通りを眺めるだけだった。俺たちもそんな人混みに紛れて帝都へ入る。


「こんなに人が出入りするなら城壁なんてなくせばいいのにね」

「そのうちなくなるんじゃないか?」


 前に来たときはもう少し門の警備が厳しく、人通りも少なかった。帝都の繁栄が極まり、外への軍事的脅威がなくなれば城壁はただの邪魔なものに成り下がってしまう。この繁栄を見る限りそれはそう遠くない日のことのように思えた。


「……あれ、何か視線を感じない?」


 リアの目がきらりと光る。

 が、残念ながら俺は何も感じない。


「分からない」

「そう? 思い過ごしだといいんだけど」


 リアは首をかしげるが、深くは気にしていない様子だ。たくさんの人が狭い門を通るせいで周囲は人でごった返しており、見られているかどうかなど全く分からない。人混みに流されたり持ち物をすられたりしないか気を付けるので精いっぱいだった。やはり近々城壁はなくなると思う。

 俺たちがやっとの思いで人混みを抜けたときだった。


「待たれよ、そこのお二方」


 突然、戦争にでも行くのかといういかつい甲冑を身にまとった女騎士に声をかけられる。そして騎士の供と思われる兵士が男女一人ずつ脇を固めている。俺は思わず緊張してしまったが、リアの方は相変わらず自然体だった。


「なにー?」

「いや、どこかで見た顔だと思ってな」


 そう言って騎士は俺たちの顔をじっと見つめる。凛とした表情、切れ長の瞳、長い髪を頭の上でまとめている。いかつい甲冑には帝国国教会の聖印が刻まれており、聖騎士であることが分かる。

 聖騎士というのは教会に属する騎士であり、主に警備や魔物との戦いを専門としている。聖騎士には篤い信仰心と高潔な人格が必要とされ(本当に聖騎士が全員それらを併せ持っているかは俺は知らない)、聖騎士であることはそれだけで人々の尊敬を集めると言われる。ちなみに、俺は彼女とは初対面である。


「初対面です」


 俺は懸命に平静を装って答える。が、彼女は特に俺の言葉など気にも留めない。そしてリアの顔を見てはっと何かを思い出したように頷く。


「私は聖騎士のレスティア。今は帝都の警備をしている。……分かった、貴殿に似ているのはオルバルド殿で、貴殿は……」


 オルバルド、という名が出てリアの表情がさっと変わる。誰あろう、リアの父にしてエルロンド王国最後の将軍である。俺は当時幼かったからオルバルドの顔は覚えていないが、リアの顔にはその面影が残っているのだろうか。


 リアの表情の変化を見たレスティアの表情もまた急変する。

 急に腰の剣の鞘に手をかけると抜剣した。ここから起こったことは俺は初見では意味が分からなかった。

 が、意味が分からないなりにとりあえず順を追って記す。


 レスティアの抜剣は別に目にもとまらぬ速さとか、気が付いたら剣が抜かれていたとかそういうものではなかった。失礼ながら“普通に”剣を抜いて斬りつけただけである。

 それに対してリアは一瞬きらりと目を輝かせ、右手がぴくりと動く。おそらくレスティアの普通程度の抜剣を見切ったのだろう。


 そういえば前に剣を抜いたときも目が輝いていた。これが剣神の力の発露なのだろうか。


 しかしすぐに輝きは消滅し、リアの体から力が抜ける。無防備となったリアをレスティアのそこまで鋭くない剣が襲う……と思ったら切っ先は首筋を切り裂く寸前で止まる。


「うわあ」


 リアは少し間の抜けた悲鳴を上げる。


「気のせいか。すまなかったな」


 レスティアはほっと息を吐くと剣をしまう。リアの首筋から一筋の血が流れる。リアの表情はさすがに引きつっていたが、どこか気の抜けたようでもあった。

 俺は彼女らが何を思って今の一連の立ち回りをしたのか全く理解できなかった。


「何するんですかいきなり」


 俺は訳が分からなかったが抗議してみる。いくら聖騎士と言えど、いや聖騎士だからこそいきなり剣を抜いて斬りつけるなどということが許される訳がない。

 するとレスティアははあっと息を吐いた。


「本当にオルバルド殿の忘れ形見ならこの程度の剣で斬られはしない、ということだ。迷惑料だ、持っていってくれ」


 そう言ってレスティアは小さい袋を俺たちに一つずつ放る。リアが受け止めると、かしゃりと硬貨の音がした。

 俺はその対応を見て馬鹿にされたような気がして怒りがこみあげてくる。


「おい、いきなり他人に斬りつけて他人違いで済むかよ」

「まあまあ、そう言わずに。もらっておこう、ね?」


 リアは俺に向かって放られた分の袋も受け取り、俺に手渡す。俺がそれを受け取るとレスティアは軽く手を上げて去っていった。俺はしばしの間呆気にとられる。

 しかしレスティアの言葉とさっきのリアの反応から考えると……そういうやりとりは劇や芝居の中でしかありえないと思っていたが。


「おい、もし今相手が寸止めしてくれなかったらどうしたんだ?」

「必殺の剣か、試してる剣か、見たら分かるよ」


 リアはあっけらかんと言い放つ。確かにレスティアの抜剣は必殺の剣というほどではなかったが、まさかリアは剣を抜いた瞬間にそれを見極めて剣を抜くのをやめたということか? 

 その洞察力、咄嗟の判断力、そして相手の剣を避けない度胸。

 俺は改めてリアのでたらめな強さを思い知ったのだった。

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