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最後の戦い

 リアの両目が光に満ちる。何だこれは。今までもその状態には何回もなってきたが、両目というのは見たことないしここまでの光も見たことがない。


「ぐほっ」


 リアは一つ大きく咳をすると床が鮮血に染まる。


「リア!?」

「よそ見とは余裕な!」


 レスティアの剣が迫り、俺はそれを何とか剣で受ける。負傷しているとは思えないほどの一撃だった。

 俺はそれ以上リアに注目することは出来なくなる。しかしリアはすぐに他の敵にかかっていったらしく、敵の悲鳴が聞こえる。リアならそこらの奴らに遅れをとることはないだろう。血を吐いたことだけが気がかりだが。俺も早くこいつを何とかしなければ俺の獲物たる大臣をリアにとられてしまうかもしれない。


「一つ言っておく。お前がきちんと職務を果たし魔神の実験を止めていればこんなことにはならなかったんだ!」


 俺は一歩後退してレスティアの間合いから外れるとと詠唱を始める。


「最果ての地に住まう七つ首の龍よ、その業炎で聖騎士を焼き尽くせ」

「帝国を守護せし初代帝クローディオよ、非道なる者の魔の手から我と帝国を守り給え」


 呪文が終わるなりレスティアを囲むように炎が発射される。七つの炎は何者をも焼き尽くす勢いでレスティアに迫るが、レスティアからは聖なる光が発される。そして光の膜がレスティアを包んで防御する。


「炎よ、さらに強く」


 レスティアは防御結界ごと炎に包まれて見えなくなる。周囲は炎のごうごうという音でいっぱいだが、俺はレスティアが聞き取れるようにことさらに大きな声で叫ぶ。


「さて、聖騎士様が動けないうちに大臣の首でもとってくるかな」


 そして一方向だけ意図的に炎を緩める。この辺の制御は難しく、炎は大きくなったり小さくなったりして踊り、レスティアへの包囲が解ける。

 が、制御が粗くなったために俺が意図して弱めたのではなく、力不足だと思わせることが出来たようだ。


「貴様!」


 レスティアは結界を解くと、炎が緩まったところから駆け出してくる。結界が解けたところから一部の炎が入り込んでくるがその程度の火力では聖鎧を貫けない。が、そんなレスティアの行動は俺の意図した通りだった。あんな大臣でも真相が不明なうちに殺されるのは困るらしい。待ち構えていた俺は


「かかったな!」


 とレスティアに向けて剣を振り降ろす。


「卑怯な!」


 レスティアは俺の剣を受けようとする。俺の剣がレスティアの剣にぶつかり、剣を握る両手に衝撃が走る。が、レスティアは左足を怪我しているせいか体に踏ん張りが効かなかったようである。


「ぐは!」


 レスティアの剣は俺の剣を受け止めたものの、俺の剣圧に耐え切れずその場に転倒する。俺は勝手にそれをオルフェイアの加護と思うことにする。


「じゃあな」


 俺はそんなレスティアの顔に剣を振り降ろした。本当は急所を一突きにしたかったが、鎧を貫く自信がなかったので顔を斬りさく。レスティアは血しぶきと悲鳴を上げてのたうちまわる。


「最果ての地に住まう七つ首の龍よ、聖騎士を焼き尽くせ」


 瞬間、レスティアを中心に炎が舞い上がる。今度こそ、レスティアは業火に包まれて炎上した。正直、運命が少しでも違う形で俺たちを引き合わせていたらここまで敵対はしなかっただろうし、仲間になっていたこともあったかもしれない。それを思うと、少しだけ胸が痛んだ。


 さて、俺がレスティアを倒して戦況を確認すると。驚くべきことに大広間で立っているのは俺とリアを除けば帝と大臣だけだった。まあ、帝は玉座に座っているのだが。

 辺りには帝国の精鋭だったと思われる魔術師や聖騎士、兵士たちが所せましと倒れている。死体の中央に立つリアは鮮血で真っ赤に染まっていた。その様子は人間というよりもさながら悪鬼のようであった。


「お前……本当に化物だな」

「これくらい出来なかったら一人で仇討ちなんて試みないって」


 それを言われると納得しかない。しかしリアの額には大粒の汗がいくつも光っていて、口元は血でまみれている。あれは返り血なのか? 俺は一瞬疑問に思ったものの、どちらにせよここまで来たらやることは一つである。


「じゃあ、行こうか」

「おう」


 再びリアの両目が輝く。リアは玉座に向けて、俺は大臣に向けて駆けていく。


「おい大臣、話が違うぞ」


 初めて帝が動揺を顔に浮かべた。が、大臣は余裕の表情を崩さない。俺は微妙に違和感を覚えたがこいつが何を企んでいようとどうでもいい。


「大臣、覚悟!」

「往生際が悪いよ、陛下!」


 そう言ってリアはひと際大きく跳躍する。そして広間の奥、少し高くなっているところにある玉座の正面に着地しようとする。リアの剣はしっかりと帝に向かって構えられ、目にも止まらぬ速さで近づいていく。

 これで帝は死んだ。

 俺が確信したとき。リアはひと際大きく息を吸い込む。そして血を吐いた。正面にいた帝は血で染まり、あろうことかリアはそのままその場に倒れこむ。


「リア!」

「おお、そんな奥の手があったのだな」


 帝は大臣を感嘆の目で見るが、大臣はあんぐりと口を開けている。要するに今のはリアは力の使い過ぎで体がもたなかったということだ。大臣の策略でも何でもない。結局、リアはあれほど憎んだ天命に迎えられたのだ。


「リア!」


 一方、俺の剣は大臣に命中する直前、見えないバリアのように阻まれる。そうか、大臣はあらかじめ魔法で防壁を作り、本当に安全地帯から見ていたのか。


「くそ……あと一歩で……」


 横たわったリアは玉座へと手を伸ばすが、その手を帝が踏みつぶす。


「ぐあっ」


 再びリアは吐血する。いつもなら目にも止まらぬ速さで帝を返り討ちにするところだが、今回はぴくりとしか動かない。


「お前ごときが余を血で穢し、ここまで追い詰めるなど許せん!」


 帝は苛立たしそうに無抵抗なリアの頭、手、背中と手あたり次第踏みつけていく。その様子を見て俺はなぜか体の中で何かが燃えていくのを感じた。リアのことはただ復讐に便乗した相手としか思っていなかったはずなのに。なぜか今力を失って帝に侮辱を受けているリアを見ると俺は怒りを覚えた。


 これは、オルフェイアの境遇を聞いた時と同じ気持ちなのだろうか。圧倒的な力を持つ者がそうでない者を蹂躙するのを見た時の不快さ。


 だとしたら俺は簡単に他人に入れ込みすぎじゃないか。俺にはオルフェイアを元に戻すという目的があるのに。そのためにはここでリアを見捨てて大臣を護るバリアを打ち破り、気絶させて城から脱出しなければならない。そうしなければオルフェイアは元に戻せない。その手段が今まさに目の前にある。


 が、いくらそう思おうとしても、リアの体を踏みにじる帝と苦しそうにするリアを見ると、俺は湧き上がるどす黒い気持ちを止められなかった。


 ふと視界の端で大臣が何かを唱えるのが見えた。しかしそんなことは今はどうでもいい。俺はリアを踏みにじる帝を殺す。完全に俺の目的からは遠のいてしまうが、俺は衝動的な怒りをこらえきれなかった。もしかしたら俺はオルフェイアがもう戻ってこないということを心のどこかで理解していたのかもしれない。

 俺は剣を抜くとまっすぐに帝に斬りつける。


「何!?」


 帝は素早く剣を抜くと俺の剣を受ける。しかしそこまでの使い手ではないのか、その手は震えている。そして横目で大臣を見る。


「おい、結界があるんじゃなかったのか?」


 帝の声はかなり上ずっていた。が、大臣は悠然とほほ笑む。リアが吐血したときは驚いたが、結局俺が帝に斬りつけたのを見てほっとした様子だ。


「大丈夫です。陛下の死後、帝国はこの私が盛り立てていきますよ」


 そうか、大臣はバリアで自分だけを護り、帝は賊に殺されたことにして帝国の実権を握るつもりなのか。何でこんな危ないところにいるのか、と疑問に思っていたがそういう目的がある大臣が帝を誘導したのだとすれば辻褄は合う。


「貴様!」


 帝は大臣を睨みつけて声をあげる。先ほどまでの傍観者然とした表情はどこへやら、帝は差し迫った死の恐怖に打ち震えている。


 そういえば、帝の後継者はまだ幼かった。今帝位を継げば大臣が権力を握るのも思いのままかもしれない。そういえば大臣を怪しんでいたレスティアも俺が殺した。俺たちは大臣に利用されたのか。


 だがそんなことはどうでもいい。とりあえずはこの男からだ。リアを冒瀆した癖に今俺に斬られそうになっていて脅えているこの男が憎い。帝は何とか俺の剣を支え続けているが、


「糞が!」


 俺は右膝を上げると玉座に座る帝の腹に叩き込む。


「ぐう!」


 帝は苦痛慣れしていないのか、思わず悲鳴を上げて剣を取り落とす。そのときの表情はもはや帝国を統べる者のものではなく、ただの死に脅える一人の人間のものだった。


「もらった!」


 すかさず俺の剣が一閃する。帝の首はぽとりと地面に転がった。

 八年前、あれほど強大に思えた帝国のトップの首は落ちてみれば呆気なかった。もちろん、それで帝国が滅びた訳ではなかったが。その証拠に大臣は歓喜に打ち震えている。


「ふはははははははは! 利用されてくれてありがとう! せめてものお礼にこのわしの魔法で直々に葬ってくれよう! ゴッドストーム!」


 大臣は帝が斬られている間にずっと俺を倒す呪文の詠唱を続けていたらしい。大臣の頭上にはほとばしる魔力の塊が出来上がっており、加速度的に大きくなっている。そして大臣が唱え終わると、閃光とともに凄まじい魔力の爆風が発生して俺を襲う。俺はとっさにリアの体に覆いかぶさる。


「バリア!」


 呪文が俺を襲うまでの間に唱えられたのはたったそれだけだった。

 だが、ゴッドストームが俺を襲うと同時に不思議なことが起こった。一瞬だけ閉じていたはずのリアの瞳がきらりと光り、俺の手を伝って白い光が俺の体に流れ込む。俺のバリアの魔法はただの汎用魔法に過ぎなかったはずなのになぜかすさまじい魔力が宿る。その直後、魔力の暴風が俺たちを襲う。


「うわあっ」


 圧倒的な衝撃に俺たちはバリアごと吹き飛ばされていた。だが、なぜかバリアは割れなかった。何かに凄まじい勢いで体をぶつけたと思ったら俺の意識はなくなった。

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