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宿敵

 俺も嘆息しつつ剣を抜く。すると兵士の一人がこちらに話しかけてくる。


「お前たち、何者だ!? 目的はなんだ!」

「言う訳ないでしょ」


 たちまちリアが斬りかかる。相手は五人いたが狭い廊下では数の優位はいかしきれない。二対二を三回繰り返してあっけなく俺たちは敵を蹴散らした。


「さて、先を急ごう」


 俺たちは廊下を駆け抜け、大広間と書いてある方向に向かって走る。敵は兵士を適当に送り込んでも犠牲を増やすと判断したのか、要人の周りを固めているのか、廊下は不自然なほど無人だった。


 さらに走ること数十秒ほどだろうか。俺たちは門のような巨大な扉の前に到達した。扉には巨大な帝国の紋章が刻まれている。本来なら両脇に門番でも立っていそうな門だが今日は不在だった。この重厚な雰囲気から察するにこの奥が大広間なのだろう。


「ここか」

「そうみたいだね」


 リアが感慨深げにつぶやく。まあ、まだ向こうに帝や大臣がいるのかよく分からないが。


「で、どうやって開ける? 魔法で吹き飛ばすか?」

「ううん。私、この日のために帝への口上を考えてたんだよね。だから堂々と入る」

「そうか、分かった」


 絶対待ち伏せされているだろうとか思うところはあったものの、俺はリアの復讐に便乗している身である。それにリアの復讐は生き様である以上、格好良くなければならないと言ったのは俺である。そのためリアの意見を尊重することにした。

 リアは覚悟を決めた表情で扉に手をかける。そして一思いに開……こうとして顔をしかめた。


「ごめん、鍵かかってた」

「格好悪!」


 相手も、待ち構えてるなら鍵ぐらい開けておいてくれればいいのに。リアは仕方なく剣を抜くと鍵だけ切断し、改めて扉を開ける。


「ごほん、では改めて。入ります!」

「おお」


 今度こそリアは扉をばーんと開け放つ。

 大広間の最奥には玉座があり、そこに帝と思われる玉冠を被った人物が座っている。強大なアガスティア帝国の頂点に立つ人物であるため、俺は勝手に人間離れした姿を想像していたが、少し顔かたちが整い、豪奢な服に身を包んだただの人間であった。俺たちの登場に一瞬だけ驚いたようだが、すぐに平静に戻る。

 その傍らには俺が憎んでやまない大臣が興味深げにこちらを見つめながら立っている。こちらは俺の想像通り、数多くの人間を食い物にしてのし上がってきたような強欲で残忍な目をしており、でっぷりと太っていた。


 そしてその前方には何十人もの兵士、聖騎士、魔術師が布陣していた。そんな人々の中には足に包帯を巻き左手で杖を突いているレスティアの姿もある。さながら俺たちを待ち受けていたという風情である。帝らしき人や大臣本人がいるのは意外だったが。


「やあやあ、我こそはエルトランド王国前将軍オルバルドの娘、リア! 父の仇、王国の仇をとるためアガスティア帝国帝陛下の御首を頂戴仕りに参った! いざ尋常に勝負せよ!」


 リアはその華奢な身体のどこからそんな声が出るのか、と思われるほどの大音声で叫ぶ。広間は一瞬しんと静まり返ったが、帝と大臣は向き合って小声でしゃべっている。


「誰かと思えば将軍の娘だったか」

「私はてっきりイレーネ姫が直々に参ったのかと思っていましたが、違ったようですな」

「おい、無視してんじゃねえよ!」


 俺はついいらいらして叫んでしまう。そう、彼らはスポーツの観戦中に雑談でもしているかのような雰囲気でまるで緊張感がないのだ。護衛がいるからと安心しているのだろうか。確かに通常二人では突破出来ないほどの数ではあるが、お前らに用があるのに何で他人事なんだ。

 が、怒りに燃えている人物はこの場にもう一人いた。聖騎士レスティアである。レスティアはそんな俺の方につかつかと歩いてくる。


「貴様! 魔神の跳梁を見過ごした挙句帝都に狼を突撃させて無辜の人々の命を奪おうとするなど言語道断! それこそ悪魔の所業だ! 人類の敵め! よくもおめおめと私の前に現れたな!?」


 どうも狼の大移動は俺たちの仕業と思われているようだ。まあ普通に考えてそう思われるか。「帝を殺しには来たけど狼は違う」と言い訳しても状況は何も変わらない気がするので俺は黙って剣を構える。

 が、レスティアの言葉に反応したのはリアだった。


「帝国に敵対するのが人類の敵? 勝手に人類の代表みたいな顔しないでくれないかな」

「だが、帝都には王国の者を始め、様々な者が暮らしているのは事実だ! それら無辜の民を巻き込むのは許せん!」

「じゃあそこの偉い人に侵略戦争をやめさせてよ。まあ、もう遅いけど」

「話にならん!」


 激昂したレスティアは右手一本で剣を抜く。

 この場の誰もがリアの言葉を聞き流していたが、帝国に国を滅ぼされた身としてはなるほどと思った。


「レスティア様!」「奴らは我々にお任せを!」


 周りの部下が止めにかかるが、レスティアは彼らを振り払い、前に出る。


「レスティアよ、確かにこやつらは人類の平和を脅かしている。討ち果たすのだ」


 上座にいた大臣が命じる。その言葉に今度は俺が激昂する。


「貴様! お前の魔神研究の方がよほど人類の平和を脅かしているだろうが!」


 魔神、という言葉にレスティアは俺たちに向かっていた足を止める。そういえばレスティアは大臣が禁忌の魔法に手を染めていないか気になってはいたらしいな。そして、俺の言葉に大臣は初めて俺の方を向く。


「事実無根の誹謗中傷とは感心しないな」

「大臣よ、余は魔神の実験まで許可した覚えはないぞ」


 帝らしき人物がのんびりとした口調で大臣を咎める。


「ですから陛下、これはテロリストが適当なことを言っているだけでございます」

「そうか。レスティアよ、出来ればそやつは生け捕りにするのじゃ!」


 大臣の魔神実験がいけないのもそうだし、調査のために俺を生け捕りにするのも理にかなっているのだが、この状況で相変わらず当事者ではありませんみたいな態度が俺には腹立たしかった。とはいえ、もし殺さないよう手心を加えてもらえるならそれはそれでありがたい。


「一応言ってやる大臣よ! 悪魔契約の濫用により魔神になってしまった者を元に戻すことに協力してもらえるなら許してやろう」

「元に戻す?」


 大臣は俺の目的が予想と違ったからか、一瞬だけ虚を突かれたような表情になる。だが、それもほんの一瞬だった。


「魔神のことなど全く分かりませんな」


 このような大臣の態度に苛立ちを覚えていたのはレスティアも同じなのだろう、会話を聞いてさらに苛立ちが増しているように感じられる。

 しかし帝や大臣に苛立ちを向ける訳にもいかず、結果として憎悪をこめた視線で俺を睨みつける。


「お前を斬り殺して、魔神のことはおいおい私が調べてやろう。死ね」

「おい、余は生け捕りを命じたぞ」

「謀叛人はさっさと殺せ!」


 目の前に憎い敵がおり、帝と大臣が相反する命令を出すという混沌とした事態についにレスティアは耐え切れなかった。


「知るかああああ!」


 レスティアは剣を抜きこちらに駆け寄ってくる。

 すると、リアは小声で俺にささやく。


「じゃあ、そいつは任せた。後の者たちは大したことなさそうだし、私が何とかするよ」


 こうして俺たちの最後の戦いが始まった。

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