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和解?

 俺はあれほど戻りたくなかった帝都に戻ってきた。大臣にオルフェイアを戻させると決意したものの、問題は山積みである。


 まず、俺が大臣ならオルフェイアを戻すことは絶対にしない。魔神に近づくのは危険だし、自分が禁呪を使ったという証拠を露にするだけである。だとすれば大臣を捕えて脅迫し、戻させるしかない。


 当然今をときめく帝国大臣を捕えるのは容易ではない。警備も厳重だろうし、本人も魔術に長けている。


 とはいえ、他にオルフェイアを元に戻せそうな方法は思いつかない。例えば教会などに相談に行ったところで討伐されてしまう可能性が高い。

 時間をかけて魔神について研究するという方法もあるが、そのうちオルフェイアは帝国に討伐されてしまうだろう可能性があるし、時間が経つと戻りづらくなる可能性もあるので、ある程度急がなければならない。とりあえず大臣の屋敷でも見に行こうか。


 帝都は俺が出ていく前と変わらず賑わっていた。通りを行きかう人々も、商店の客を呼びこむ声も、祭りや結婚式を楽しみにする人々の談笑も今の俺には関係ないことだった。


 大臣の屋敷は帝都の中央、帝城の近くにある。今をときめく帝国大臣だけあって個人の屋敷とは思えないほど広大である。しかし無機質な高い塀で囲まれており、他の貴族と違って飾り気はない。

 人々はそれを質素倹約の証だとしているが、単に禁呪の実験に私財を投じているだけだろう。これでは偵察にならない。まあ、高い塀の中にそれなりの数の警備兵がいることは分かるが。


 どうする、大臣が外出するところを狙うか、それとも例の結婚式会場で狙うか。


「あれ? こんなところでどうしたの? てっきり逃げたと思ってたけど」


 そこで俺は知った声をかけられる。そこにいたのはリアだった。リアも同じ目的で来ていたのだろうか。

 結婚式会場、リア。なるほど、これはなかなか楽しそうだ。


「いや、色々あって大臣を捕えなければならなくなってな」

「捕える? それは殺すより難しいと思うけど」


 リアが首をかしげる。確かにそうだし、大臣を殺したい者はたくさんいても捕えようという者は珍しいだろう。


「そうだ。色々事情があってな」


 街中ということもあって魔神云々の話ははばかられた。


「そうなんだ。でも、いい顔になったじゃん」


 リアは俺を見て嬉しそうに笑う。確かに澄み切った心境ではあるが、それが顔つきにまで出てしまっているのか。まあ、リアの精神性はかなり常人と違っているから彼女の言うことは当てにならないが。


「買い被りだ」

「ふーん。それでどうやって大臣を狙うつもりなの? 私も大臣が捕まってないよりは捕まっている方が嬉しいから協力出来たらするけど」


 リアの物言いはあけすけである。聞いていてすがすがしい。


「確か結婚式には一般の人なら誰でも参列出来て、帝や大臣も参加するんだな?」

「そうだよ」

「その結婚式で帝を暗殺するやつがいるらしいから、その混乱に乗じて俺も大臣を狙おうと思う」

「簡単に言うけど、一般の参列者の席と大臣の席は遠くだよ」


 いや、最初に簡単に言ったのはお前だろうが。

 とはいえ、リアの復讐は過程そのものが尊いというところが見受けられるが、俺の場合は必ず目的を達さなければならない。だからリアと違って手段をちゃんと考えなければ。


「どうしようかな。妥当なところだとエルロンド側の関係者に混ぜてもらうのがいいかもな」

「それいいね。私、どうやって敵の警備を突破するかしか考えてなかった」


 相変わらずリアはリアだった。しかしリアほど自分の腕に自信があれば小細工を弄する必要はないのかもしれないとも思う。


「でも、もう式まで二週間ぐらいじゃない? 今から関係者に加えてもらうのは難しいんじゃない?」

「そうだな……なんか王国と手づるでもあればいいんだが」


 もちろん俺は王子なのだが、それを明かして帝国が俺の参列を許してくれるとは思えない。式の直前に急に名乗り出て参列してくる王子は怪しすぎる。

 待てよ? そう思うとちょうどいい存在が目の前にいるな。


「そういえばお前、オルバルド将軍の忘れ形見だったな」

「何が言いたいの?」


 リアが警戒の表情になる。無謀なことはする割に政治的に面倒なことを押し付けられるのは嫌なんだな。


「将軍の娘なら王国側の貴賓席にいてもおかしくないだろう」

「嘘でしょ……」


 リアはげんなりする。剣だけで貴賓席まで近づくのと比べたら絶対にこっちの方が楽だろう。俺も詳しいことは知らないが、普通に考えて一般の参列者は貴賓席から離れたところに席があり、帝国と王国の貴賓席は近いだろう。それとも、作戦のためとはいえ帝国に頭を下げる式に来賓として参加するのが嫌なのだろうか。


「じゃ、アレンは?」

「俺か。王国関係者の前に出たら王子だってばれるかもしれないしな。どうしようか、いっそルーカスにでも相談してみるか」

「それはいいかもね。ていうか私よりあいつの方が王国にツテとかあるし。まあ、本気出したらだけど」

「まじかよ」


 俺はベッドでぐうたれているところしか見ていないのでにわかには信じられない。しかし思い返してみれば大臣の孫とか言っていた。リアのような復讐バカより政治的なつながりが多くても不思議ではない。まあ、俺も他人のことは言えないが。


「じゃあ今更だけどルーカスのところ戻ろっか」

「そうだな」


 正直ルーカスからしたら割と当たり前の作戦に気づくのにどれだけ時間かかってるんだという話だが、リアの思考が偏っていたのだから仕方ない。


「じゃあ、お互い準備もあるだろうから明日の朝八時に帝都の正門集合で」

「分かった」


 ふと俺は準備とは何だろう、リアにそういうのがあるのだろうかと失礼なことを思ったが口には出さなかった。それに、今日はもう夕方だ。ルーカスがいるシルイに行くなら俺たちの足でも朝から丸二日ほどかかる。単に朝出発の方がいいということだろう、と俺は納得した。


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