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禁忌の結果

「我と契約せし理をつかさどる悪魔に請い願う。因果を捻じ曲げ、聖騎士は我に出会わなかったことにせよ」


 レスティアは前にリアに斬りつけた時とは比べ物にならない速さで斬りかかってくる。オルフェイアの魔法を止めるためだろう。これが彼女の本気の剣か。道理であのときリアは殺気がないと思う訳だ。しかし俺は何とかその剣を受け止める。


 カキン、と鋭い金属音が響いて俺の腕はびりびりとしびれる。


 それと同時に俺たちの周囲を黒い霧が覆った。霧からはなぜか得体の知れない禍々しさを感じる。霧はよく見ると霧ではなく、見たこともない文字の集合体であるらしかった。いや、この文字は見たことがある。それはオルフェイアの体に刻まれていたものだ。これが悪魔の言葉なのだろうか。


 思わずレスティアは俺とのつばぜり合いをやめて後ろに跳ぶ。そして目をつぶり詠唱を始める。それと同時に、二人の供が俺とレスティアの間に立ちふさがる。俺は二人に向かって斬りかかる。


「帝国を守護せし初代帝クローディオよ、邪悪なる者の魔の手から我と帝国を守り給え」


 突然、周囲に神々しい光が満ちる。


「うわっ」


 俺はまぶしさのあまり思わず後ずさってしまい、レスティアの供を斬ることは出来ない。そして目を開くと、光も黒い霧も共に消滅していた。レスティアは額からだらだらと汗を流し、二人の供はぽかんと口を開けて固まってしまっている。

 一方のオルフェイアは信じられない、とでも言うかのように立ち尽くしていた。が、すぐに気を取り直す


「……なかなかやるじゃない。でもこの程度じゃ終わらないわ」


 不意に、魔法がぶつかり合った余波なのか一陣の風が吹く。そしてオルフェイアの体を覆う黒いマントをめくりあげた。一瞬だったが俺はオルフェイアの体に黒い文字がびっしりと刻まれているのを見る。


 その密度は前回見た時の比ではなかった。これはまずい。俺は本能的にそう感じた。何か良くないことが起こるのを感じた。


 しかし俺に出来ることは一つしかない。次のオルフェイアの一撃で決まれば、これ以上オルフェイアは力を使わなくてすむはずだ。そのために俺はレスティアの対抗魔法を邪魔しなければならない。


「我と契約せし理をつかさどる悪魔に請い願う。因果を折り曲げ、在りしことを無にし、無から有を生み出し、右に向かう運命を左に向かわせ、死すべき者を生かし、生きるべき者を弑す……」


 オルフェイアは今回は気合が入っているのか詠唱が長い。俺も細かい原理はよく分からないが、詠唱が長いほど魔法の威力は上がる。気合が入るということなのだろうか。詠唱に合わせて再び黒い霧が辺りに広がっていく。俺もそれに合わせて詠唱を開始する。


「最果ての地に住まう七つ首の龍よ、その業炎で聖騎士を焼き尽くせ」


 虚空から七つの炎が現れ、獲物を狙って首を伸ばす蛇のようにレスティアに襲い掛かる。レスティアが炎に対して魔法を使えばオルフェイアの魔法は発動する。オルフェイアの魔法に対抗するなら炎で焼き尽くされる。レスティアが焼き尽くされる分にはオルフェイアの仕業ということにはならないだろう。


 が、レスティアは剣を抜くと炎を一閃した。剣が青白く光り、炎に触れると炎は消滅する。聖騎士だけあって剣にも破魔の力があるのか。この分だと剣をかわして魔法を当てても鎧にはじかれそうだな。


 そう思った俺は剣を抜くとレスティアに斬りかかる。いつの間にか、供の者はオルフェイアの魔法を避けるためか距離をとっている。なるほど、万一レスティアが魔法を受けたとき代わりに真実を伝えに行くためか。レスティアは剣を抜いて俺を迎え撃つ構えを見せつつ、詠唱を開始する。


「帝国を守護せし初代帝クローディオよ、理を捻じ曲げ世界を歪ませる悪魔が今顕現す……」


 俺は上段から剣を思いっきり振り下ろす。レスティアは詠唱しながらも器用に後ろに下がって剣をかわす。俺はさらに息をつかせぬよう剣を振り上げる。

 このような大振りの攻撃は本来なら絶対にしないが、レスティアは後退して避けるだけで反撃してこない。レスティアは再び後ろに下がるが、俺はレスティアが避けた瞬間、剣から手を離す。


「!?」


 思わずレスティアは首をひねって飛んできた剣を避ける。大振りの攻撃から放たれた剣はものすごい勢いでレスティアの顔の隣を飛んでいった。突然飛んできた剣にレスティアの詠唱は一瞬途絶える。


「……請い願う、因果を捻じ曲げ聖騎士と供二人は我に出会わなかったことにせよ」


 レスティアの詠唱が途絶えた隙にオルフェイアの詠唱が終わる。気が付けば黒い霧は周辺一帯を覆うくらいにまで広がっている。一方、レスティアの詠唱は中途半端なところで終わっている。これなら魔法は成功するのではないか。俺は思った。


 が、次の瞬間、オルフェイアの体から黒い瘴気のようなものが噴き出した。


「う……」


 オルフェイアはうめき声を上げてその場に膝をつく。


「これは」


 レスティアの表情が変わる。オルフェイアは俺に助けを伸ばすように手を伸ばすが、すぐにオルフェイアは瘴気に全身を包まれ、その手は俺に届かない。


「オルフェイア!」


 何が起きているのか全く分からないが、魔法に詳しくない俺でも良からぬことが起こっているのは理解できた。まずい、このままではオルフェイアが……


「うわあああああああああああ」


 オルフェイアの魂を込めた悲鳴が聞こえる。何だこの悲鳴は。一体何が起こっている。俺はなすすべもなく立ち尽くす。その間にもオルフェイアの体は瘴気に冒されていく。


「カウンターマジック」


 レスティアの方は魔法をオルフェイアに撃ちこむが、黒い瘴気に巻き込まれて消滅し、瘴気の塊はオルフェイアを包んだままみるみるうちに大きくなっていく。

 一方オルフェイアの魔法により広がっていた黒い霧は次第に薄くなっていく。そして直径数メートルはあろうかという球体になった黒い瘴気は突然晴れていく。


 中に立っていたのは黒い頭に黒い翼、鉤爪と尻尾を備えた人外の怪物だった。オルフェイアの姿は跡形もなかった。


 そいつが何者かは分からない。だが、直感的に俺はそいつが何かいけない存在であることを理解した。


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