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第37話 ラブコメ包囲網と、今後の難題

最終話まで書き終わったので、エターの心配はご無用です。例え、私が死んでも作品は終わる。

後で、推敲して最終話まで予約でぶち込んでおきます。

 ホイ、チャマ。

 突然だが、貴方は誰かに裏切られた経験はあるだろうか?

 もちろん、真剣でシリアスな理由じゃなくても構わない。

 例えば、学校に行く前の朝。母親に『今日の晩御飯はカレーよ』と伝えられ、意気揚々と一日を過ごして帰ってきた結果、晩御飯に出てきた料理がシチューだったとか、そういう経験でも構わないのだ。

 なお、この経験をリアルで体験した灰崎君曰く、『心が完全にカレーになっていたところに、酷い裏切りを喰らったのでありまするぞ! まぁ、美味しかったのですが!』とよくわからない不本意さを味わったらしい。

 ともあれ、人間、生きていれば事の大小はあるだろうが、いつかは誰かに裏切られてしまう物である。

 肝心なのは、そこでどう対応するか、だ。

 裏切られた、と感じているのであれば、その前段階で必ず、その人には期待や信頼、信用を寄せていたはず。無論、それらが大きければ大きいほど、裏切られた時の落胆は比例して大きくなる。

 だが、時に裏切りとは必ずしも、相手を陥れるためだけに使われる物ではない。

 驚くことに、善意や好意によって、相手を一定の状況の嵌めるために使われることも存在するのだ。


「さぁ! 今こそ、わだかまりなく、二人できちんと今後について話し合うのよ!」

「…………あ、あの、先輩……わ、私、その……」


 俺の眼前には、二人の少女が居た。

 一人は、俺の共犯者にして、今回、盛大に裏切りをかまして来た張本人、七尾楓。

 もう一人は、七尾楓の影人であり、俺の初恋の相手である太刀川美優。

 前者は何故か、己の成果を誇るようにドヤ顔であり、後者は諸々の事情により、顔を真っ赤に染めて、もじもじとこちらを伺うように見ている。

 状況的には、手遅れであり、もはや、逃げることは出来ない。

 さて、どうしてこの俺が物の見事に裏切られて、このような状況に嵌められてしまったのか? それを説明するには、少しばかり時間を遡ることになる。



●●●



「おかえりなさい、伊織君」

「…………ただいま」


 諸々の騒動が終わって、家の近くまで久幸さんに送ってもらった結果、何故か、楓が居た。そう、帰宅すると、何故か、我が物顔で私服姿の楓が出迎えてくれて、「ご飯にする? お風呂にする? それとも、オ・セ・ロ?」などと意味不明な言葉を投げかけてくるので、俺は思考停止しながら、ご飯が食べたい、と答えた。

 いやいや、駄目だろう、俺。

 ここは毅然とした態度で、どうして、俺の家に楓が居るのか、そして、影人である太刀川との話し合いがどうなったのかを聞き出さなければ。


「今日の晩御飯はハンバーグだけど、何かもう食べて来ちゃったかしら?」

「いいや、全然!」

「そう、良かった。一応、キッチンを使う許可はちゃんと貴方の叔父さんに取ったから問題ないわ。ああ、叔父さん、またお仕事でしばらく留守にするみたいよ?」

「わかった、連絡ありがとう!」


 しかし、ハンバーグという言葉に俺の頭は一時的に思考を止め、食欲の権化となってご飯を貪ってしまうことに。

 や、確かにファーストフード店で小腹は満たしたが、その後、思いもよらぬ戦闘やら、逃走によってエネルギーが消費されてしまったので、食事による補給は急務なのだ。そう、俺は己の制限を解放すればするほど、燃費の悪い仕様になってしまうのである。

 だから、これは仕方ない。ご飯を食べることを疎かには出来ないのだ。

 それに、相手は見知らぬ誰かでは無いし、何より、叔父さんが許可をして家に入れているのだから、何も問題はないはず。


「なにこれ、とっても美味しい! 楓が作ったの!?」

「ふふふ、違うわよ。でも、貴方の知っている人よ?」

「あ、分かった! 太刀川だ!」

「はい、正解。美優から話を聞いてみたけど、貴方、美優の料理が大好きみたいね?」

「うん! 毎日作って欲しいぐらいに大好きだよ!」

「ふふふ、美味しい物を食べている時の貴方は心配になるぐらいに素直ね?」


 俺は即座に手荒いうがいを済ませて、食卓に着いた。

 そして、思う存分、用意された熱々のハンバーグをほおばって、美味を楽しむ。

 ああ、デミグラスソースがたっぷりとかけられた、げんこつハンバーグの豪快な美味さときたら!


「食事の途中で悪いのだけれども、経過報告をしていくわね? 貴方のおかげで、美優と私の軋轢は大分解消されたわ。流石に、どうして偽装交際が必要になったか、までは話せなかったけれど、その内、ちゃんと話せるようになると思う」

「ん、それは大切だよねー。まぁ、ちゃんと物を言い合えるようになったのなら、今後は大丈夫じゃない?」

「そうね。だからと言って、美里さんみたいに毒舌になられても困るけれど」

「美里さん?」

「ああ、美優の二人いる姉の賢い方で、兄の影人をやっている人よ。大体なんでも出来る万能人で、忠誠も厚い人なのだけれど、物凄い毒舌なの」

「そっかぁ、毒舌は困るねー」

「ええ、だけど、もう少しだけ遠慮なく言ってくれてもいいのだけれどね?」


 ハンバーグに舌鼓を打ちながら、俺は先ほどの出来事を回想する。

 久幸さんと、運転手の女性のあの気心の知れたやり取り。ひょっとすると、あの人こそ、楓の言う美里さんだったのかもしれない。


「そろそろ、偽装交際を終わりにしていくための工作もしなければならないのだし、学校側の協力者として、美優が動いてくれれば頼もしいのよ。だから、もっと私は美優と話し合って、遠慮の無い関係にならないと」

「うんうん、頑張ってね!」

「いや、頑張るのは貴方もよ? 大丈夫? 私たちが円満に別れられるかは、貴方の仕事にかかっているのよ?」

「依頼人が余計なことをしなければ、大丈夫だよ!」

「ふふふ、食事中の伊織君は遠慮も無くなるからもろ刃の剣ね!」

「ただでさえ、演説の所為で別れづらいんだから、これ以上は止めてくれよな!」

「はい、それに関しては、はい……善処します…………そ、それよりも、伊織君! 美優のことなのだけれども?」

「うん? 太刀川に何か問題があるの?」


 俺が首を傾げると、楓は首を横に振った。


「いいえ、問題があるのは貴方よ、伊織君。ねぇ、どうして『美優の他に想い人が居る』みたいな演技をしたの? あの子、すっかり勘違いしてしまったじゃない」

「…………んー、その話かぁ」


 俺は残ったハンバーグとご飯を掻き込み、高速で咀嚼した後、味噌汁で流し込ませる。

 ごちそうさまでした、と。


「だって、そうしなければ太刀川は俺に負い目を感じたまま、余計な気遣いをしてしまうじゃないか」

「やはり、そういうことなのね? 貴方は、美優が出来る限り罪悪感を抱かないようにするために、あんな嘘を」

「さてね? あの時はついつい口が勝手に動いてしまったからな。実際のところ、俺にもどうしてそういったのか、俺自身のことでもはっきりとわからない。だけど、俺は思うんだよ、楓。仮に、ここで俺が太刀川への好意を露にしてしまったのなら、太刀川はきっと、罪悪感からそれを考慮せざるを得ない立場になってしまう。そうなってしまえば、今後、あいつはどうしても俺に縛られてしまうだろう? 俺は、そんな仄暗い青春を送るのは御免だね」

「弱みに付け込むような恋愛はしたくない、と?」

「簡単に言ってしまえば、そうなるな」


 どれだけ俺が気にしていないと言っても、恐らく、太刀川は気にしてしまう。

 いいや、誰だって気にする。自分に非がある状態で、害を与えてしまった人物が、自分に対して好意を抱いていたのならば、それは気を遣ってしまう。

 好意を受け入れなければならない、と。

 それが贖罪であると。

 仮に、その相手に対して好意があったとしても、罪悪感が混ざった状態で、歪んでしまうのだ。本来、素晴らしいはずの恋が醜く歪み、相手を縛り付ける鎖となる。

 けれど、それでもまだ状況はマシだ。互いに好意を向け合っているのであれば、まだマシ。考えらえる最悪は、まだ存在する。


「それに、俺はまだまだ太刀川のことを知らないんだ。あいつの好きな食べ物、趣味、過去も、何もかもを。あいつが、好意を寄せる人間の有無さえ、俺にはわからない」

「…………そう、貴方は美優に正しく判断してほしいのね? 誰か、もう既に好きな人が居るとしたら、その人への好意を殺して欲しくない、そう思ったのね?」

「格好良く言えばそうだが、実際のところはどうだか。結局、俺がそれらを飲み込んで、相手を幸せにしてやる、という度胸が無かっただけの話かもしれないぜ?」


 俺は自嘲するように笑みを浮かべて、肩を竦めた。

 結局のところ、俺は自信が無いのだろう。色々相手のことを思いやった気遣いをしている振りをして、相手を奪い取って幸せにしてやるという気概に欠けているのだ。

 怖いのだ、きっと。

 太刀川美優という少女に対して、己の感情を曝け出すのが。

 何故ならば、自分が好きな人が自分を好きになってくれることなど、俺にはとても信じられないのだから。

 故に、俺は一線を引いて退くのだ。

 相手に想い人が居た場合を考えて、などという言い訳を口にして。

 …………もっとも、太刀川に想い人が居た場合、俺の想いを伝えることは最悪に近しい行動になるので、あながち間違ってはいないと思うのだが。


「なるほど。話は分かったわ」


 そんな複雑に絡み合った俺の想いを言葉の端から掬い取ったのか、楓は神妙そうな顔つきで頷き、言葉を続けた。


「つまり、私が美優に『好きな人居るの?』と聞けばそれで済むことね」

「…………ま、まぁ、そうだけど」

「何? 怖いの? ええ、怖いでしょうね、わかるわ。私も、鈴音に好きな男が居たとしたら、どうやって私色に染め直してやろうか、戦々恐々していたもの」

「意気揚々の間違いじゃないか? あー、その、それはさておき、でも、こう、やっぱり、はい…………ぶっちゃけ知るのが怖いです」

「うん、正直でよろしいわ。でも、知りなさい。今から電話をかけて訊いてあげるから、知りなさい。まずは、そこから始めないと貴方の行動の是非を問えないでしょう?」

「…………うぐぅ」


 楓の言葉に、俺は返す言葉も無い。

 ただ、粛々と死刑執行を待つ囚人の如く、行動の結果を待つのみ。

 やがて、楓はスマートフォンを手にして、太刀川に電話をかけて――――そこで、俺はふと耳にする。

 プルルルル、という典型的な電話の呼び出し音が、聞こえたことに。

 それは、自分の家の固定電話からではない。もっと近くの、そう、太刀川に貸していた部屋の中辺りから聞こえてきて。


「う、ううう」

「…………は?」


 段々とその着信音は近づいてきて、気付くと、ひょっこりとスマートフォンを片手に持った太刀川の姿が、そこにあった。

 太刀川は顔を真っ赤に染めて、無表情の仮面を崩して、へにょへにょの素顔を晒している。


「もしもし、美優かしら? ええ、一つ訊きたいことがあるのだけれど? 応えてくれない? 貴方、懸想している人はいるのかしら?」


 あまりの展開により、驚愕で頭が働かない俺を横目に、白々しく、楓はいかにも通話しているように言葉を発した。


「…………はい、います。私には、気になっている人が、居ます」


 次いで、おずおずとスマートフォンを耳に当てて、答えた太刀川の言葉に、俺の心臓が一瞬、止まったのではないかという衝撃を得る。

 ああ、やはりという納得する気持ちと、そんな! という嘆く気持ちが混ざり合って、俺の思考能力は著しく低下。


「――――天野伊織という、先輩のことが、気になっています」


 そして、おずおずと向けられた太刀川の視線に、今度こそ、俺の頭はパンクした。

 ええと、一体、何がどうなっているの?


 その後、俺が正気を取り戻して、楓の『小粋な裏切り』に気づいたのは、それからたっぷりと十分ほど経ってからのことだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] えんだぁ(ry [一言] (完結しても続きやって)いいよね!
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