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第34話 割とよくある、非日常

 美食系のグルメ漫画に多い描写であるのだが、インスタントの食品や、ファーストフードのあれこれを比較対象に出して、相対的に無添加やら、手間をかけた料理の方が美味しい、という結論に達するという物がある。

 だが、それはあくまでも美食家が多く登場するグルメ漫画だからこそ成立する描写であり、こと、現実に限れば、最新のインスタントやファーストフードの料理は、素人の手料理などをあっさりと凌駕してくるものだ。

 何故ならば、インスタント食品やファーストフードというのは、それぞれの企業が社運をかけて作り上げた一品。

 コスト、味、その他諸々を考慮しつつ、その道の専門家たちが話し合って、鎬を削り合った結果、ようやく店に並ぶのだから、当然と言えば当然だろう。

 故に、下手な素人料理よりも、それらの料理は美味しく感じられるし、コストの面でも非常に優秀だ。

 もっとも、健康面を考慮すると、毎食それらでローテンションするわけにはいかないし、何より、万民に分かりやすい味を目指した結果、味が濃くなりやすく、また、飽きやすい。

 そのため、家庭料理や、学校給食のそれとは違い、真に美味しく味わって食べるのならば、一定以上の冷却期間という物が必要なのだ。

 …………まぁ、ここまで長々と語ったわけだが、結論としては簡単である。


「うーん、この安っぽいフライドポテトの味、好きだなぁ」


 久しぶりに食べる、ファーストフードは美味しい。

 特に、チーズバーガーとフライドポテトという二つのシンプルな組み合わせが、俺としては一番お気に入りだ。

 昨今、ファーストフードの種類は多いけれども、費用面、味のクオリティなどを考えると、開店当初から一度も外れることのなかったチーズバーガー、フライドポテトという当たり前に美味しい二つを選ぶのは当然のことだ。

 無論、新しい味を探求する意義を否定しているわけじゃない。ただ、誰かと会話しながら食べる時であれば、こういう慣れ親しんだ味の方が俺としては安心できるというだけの話。


「お前、赤貧アルバイターに奢らせやがって……」

「え? 虎尾さんってもう、大学生って年ですよね? 仮にアルバイターだとしても、年下の男子が頼んだ、やっすいファーストフードのメニューも奢れないほどに困窮していたんですか? ああ、それはすみません、気付きませんでした。ええ、ご安心を。俺はきちんと財布を持ってきていますので、奢ってもらわなくても大丈夫ですよ?」

「上等だ! 奢ってやらぁ!」

「ありがとうございます。ゴチになります」

「くそがぁ! 上手く言いくるめられた感がひでぇ!」


 場所は田舎町にあっても違和感のない、ハンバーガー系列のファーストフード店。

 そこで、俺と虎尾さんは互いに向かい合うようにして座り、少し早めの夕食を済ませながら、取り留めも無いことを話し合っていた。


「それで! うちの妹とお前の関係は!?」

「友達だって言ったじゃないですか」

「嘘だ! クソ親父の影響で、うちの妹は身内の俺が引くぐらいの男嫌いだぞ!?」

「じゃあ、克服したんじゃないですかね?」

「そう簡単に克服出来てたまるか!」

「じゃあ、簡単じゃなかったんでしょう」

「他人事みたいに言うな!」

「すみません、倉森……ああ、妹さんのプライベートに関する話題なので、そこら辺は妹さんの許可を貰ってからお願いします」

「ぐうの音も出ないことを言うんじゃねぇ……」

「はぁ、このポテトおいしー」

「…………折角、奢ったのに……コストとリターンがまるで釣り合わねぇ……」


 ただし、俺としては勝手に倉森の事情を虎尾さんに話すわけにはいかないので、徹底してのらりくらりと話題を受け流していくスタイルだ。

 この手の人は経験上、会話や質問を受け流され続けると虚無感に負けて、さっさと諦める事が多いので、割と対処が楽である。

 そう、威圧と暴力で社会の隅を渡ってきた相手ほど、俺は対処するのが楽なのだ。何故ならば、大抵の威圧やら暴力やらは俺に対して意味は無いし。一定ラインを明確に超えた場合、俺よりも先に協会の方が動いて処理をしてしまうからだ。

 そのため、どう足掻いても一定ラインを超えないであろう虎尾さんとの会話は、楽な部類の中でもさらに楽なのだ。

 あー、チーズバーガー美味しい。ピクルス嫌いな人が結構いるけど、俺はこの安っぽいピクルスの味もオッケーだぜ。


「もう、飯食ったら帰ろうかな……」

「それがいいんじゃないですか?」


 小腹も満たせたし、良い感じに虎尾さんのメンタルが折れてきたし、そろそろ頃合いだな。

 俺は手早く自分の分のゴミを処理して、さっさと虎尾さんへ解散の挨拶を告げようとして、そこでふと、奇妙な音色を耳にした。


――――りぃいいいん。


 空気が震えるような、甲高い金属音。

 脳を芯から揺さぶるような、癇に障る高音。


「…………ぐ、なんだ、こりゃあ……あ?」


 俺の眼前に居る虎尾さんは、頭を押さえた後、何かを振り払うように頭を振るった。

 次いで、周囲から喧騒が消える。見ると、先ほどまで俺たちの周囲で会話をしていた学生グループ、スーツ姿のサラリーマンたちなどは全員、意識を失くしてテーブルに突っ伏している。

 己の顔や、服が食べかけの料理で汚れることも、全く厭わずに倒れ込んだその姿は、明らかに自然な現象ではない。少なくとも、集団寝落ちなどという微笑ましい事態ではない。


「…………虎尾さん。コンディションは?」

「あ、え? ん、だ。こりゃあ?」

「走れますか?」

「……や、走れるが。それよりも、これは一体――――」


 虎尾さんの言葉を遮るように、再度、念入りとばかりに鳴らされる甲高い金属音。

 ぐぅ、と虎尾さんが頭を抑えたところを見ると、これはどうやら俺たちのような者以外、つまり、一般人に対して強く影響を与える物らしい。


「ぐ、う……」

「落ち着いてください、虎尾さん。抵抗が無理そうだったら、意識を落としても構いません。この手の手段を取ったということは、一般人は巻き込まないという意思表示みたいなものですしね……『今のところは』ですが」

「…………何、を」


 虎尾さんの言葉に応える暇もなく、まるで仮想のような集団が店内へと入ってくる。

 精巧な猿の仮面。

 あまりにも、この場所にミスマッチな狩衣。

 腰に下げた、物々しい獲物。

 犯罪者よりも先に、映画の撮影か、ドッキリというフィクションに縋りたくなってくるような異様な光景に、虎尾さんは顔を顰めて、言葉を吐き捨てた。


「これは、なんの冗談だよ、クソッタレ」


 そして俺は、残念ながらこれが冗談ではないことを知っている。

 嫌と言うほどに知っている。

 これが、非日常の始まりであるということを。



●●●



 自分一人だけの戦いならばともかく、守るべき対象が居る戦いに余裕など存在しない。

 俺は素早く現状、出来る限りの制限を解除。戦いの始まりの気配を嗅ぎ取り、猿面の男たちが揃って抜刀を始めたところで、まず、先んじて動く。


「一人」


 障害物の間を縫うように動き、敵対者たちへとエンゲージ。

 未だ、抜刀の途中にある一人の腹部に掌底を叩き込み、戦闘力を奪う。


「二人」


 次いで、抜刀が終わった二人目の腕を折る勢いで叩き、そのまま寄りかかるようにして体重移動、そのまま、勢いよく足で間合いに踏み込んで、体ごと相手に叩きつける。その衝撃で、相手が壁にぶつかるほどの勢いで、吹き飛ばされるように。


「三、四、五」


 店内は狭い。

 振るわれる刃を避けるスペースは少ない。

 だが、同時に日本刀のような長物の凶器を自在に振るえるようなスペースは無い。加えて、既に、相手との距離を肉薄した俺に、人間の速度での斬撃に意味はない。

 三人目の刃を軽く体をひねることで回避。そのまま至近距離へ肉薄して、密着状態での打撃を腹部に叩き込み、意識を刈り取る。次いで、意識を刈り取った男を掴み、武器にして振り回す。四人目、五人目とこちらに向けて刃を振るおうとしていた奴を、腕力に物を言わせて叩きのめした。


「六、七…………ふぅ」


 大振りな俺の動きの隙を突こうとして回り込んだ六人目に、武器にしていた奴を投げつけて壁とサンドイッチ。割と派手な音が鳴ったので、死にはしない物の戦闘続行は難しいだろう。

 そして、最後の七人目だけは刀を抜こうとせずに、無手のまま構えていたので、特にひねりも無く速度と腕力で圧倒して、普通に勝利。内臓をある程度の衝撃で揺さぶられれば、大抵の常人ならば即座に膝を追って倒れ伏すのだから、普通の人間相手は楽でいい。

 これが覚醒者相手となると、ワンミスが死に直結するからなぁ。


「…………お前、強くね?」


 ふぃー、と戦闘がひと段落したので安堵の息を吐いていると、なにやら、保護対象(虎尾さん)がどん引きしたような目でこちらを見てくる。

 やれやれ、これでも純粋な戦闘タイプじゃないから、業界では中の上程度なんだけどね。

 けれど、この場に於いてはそんな言い訳がましいことを言ったところで納得しないだろうし、俺はいつものようにお道化た笑みで応えることにした。


「まぁ、慣れていますからね、割と」


 さてさて、この後、どう説明したらいい物やら。

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