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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その11 国民総部品国家

作者: 天城冴

些細なことで突然、勤務していた工場の解雇を言い渡されたガンノ。主任のギタムラに抗議するも、まったくとりあってもらえなかった。去ってゆくガンノをみつつ「この国にもう人権なんてない」とつぶやくギタムラ。そのギタムラもまた

「おい、ガンノ、こんなこともできないなら明日からこなくていい」

コンクリートがむき出しの建物。とある企業の工場の一角で、中年男性が20代と思しき若者に言い渡す。

「そんな、ギタムラ主任、契約ではあと半年です、それにこの作業は入社の時に説明をうけてません」

ガンノは震えながら抗議するが

「社の方針が急に変わって、作業も変更になったんだ。上の命令は絶対だ」

と主任と呼ばれた男は冷たく言い放つ。

「これじゃ法律違反です、僕の権利は…」

といいかけたガンノに

「ふん、やってみろ。訴えてみろよ、証拠をちゃんと出せるのかよ、訴訟費用は」

と開き直る主任。ガンノは下を向いて唇をかみしめて、やがて無言で立ち去った。

ガンノの背中をみながらギタムラ主任は

「この国で人権だの、なんだのっては、もうないんだよ、お前らはただの部品だ」

と独り言を言った。


「これじゃ君はクビだね、ギタムラ主任。ノルマが未達成のままじゃないか」

「しかし、ヤナハッシ社長。今回のノルマは前月よりはるかに厳しいんです。3人もやめさせて、稼働率をさらにあげろというのは」

椅子に深々と座っていたヤナハッシ社長は急に立ち上がり

「できないなんて言えるか!上の命令は絶対なんだ!できなきゃ、いらない。別の新しい奴にすげかえるだけだ!できなければ君の価値なんてないんだ!要らない存在だ!」

とギタムラ主任に向かって怒鳴り散らした。

ギタムラ主任はうなだれたまま、部屋をでた。おそらく二度ともどってこないだろう。いずれはどこかで発見されるだろう、死体となって。必要とされなくなったヒトの末路、今のこの国ではよくあることだ。

「達成できなきゃいけないんだ、何がなんでも、でなきゃ必要とされないんだ」

椅子に座ったままヤナハッシ社長はブツブツとつぶやいている。


トルゥウウ

固定電話が鳴った。ヤナハッシ社長は震えながら受話器をとる。

「あ、はい、お世話になっております。え、今月の業績ですか、そ、それはその」

電話の向こうの相手におびえながら、なんとか取り繕おうとするが。

「そ、そんな、私、一生懸命やって…。わ、わたしも部品、そうですね。ノルマが達成できなければ必要もない、棄てられるだけ…」

ヤナハッシ社長は受話器を置き、椅子から立ち上がった。フラフラと窓際まで歩き、窓を開けて飛び降りた。


“まったく、役にたたないな、この島国の人間は”

暗がりの中、声が響く。

“部品になることを選んだというのにな。資本主義、拝金主義に徹したいというから、人らしい暮らしとやらを棄てたんだろう?”

“他人を蹴落とし犠牲にしても金、地位、名誉が欲しい。家族との団らんの時間もいらない、環境を破壊尽くして我が子の将来を犠牲にしても金が欲しい奴等ばかり”

“だからそれに応えてやったんだ”

“人間でいたい奴等は皆逃げ出したこの国で”

“自己責任、競争社会、我欲にまみれる奴等に指南してやったのだ、いかに金を儲けるか”

“いかに成果をあげるか”

“いかに他人を蹴落とし、部品扱いして蹴落とすか”

“優れた知能、我ら経済AIが予測してやったのだ。国民皆が金儲けの”部品“となること、それが最適な方法であると”

一台のパソコンの液晶画面が点滅する。他の数台もそれに呼応するようにパチパチと光る。

“ダケナカやポリエとかいう奴らの理想だろう?”

“あいつらにも指導してやったが、すぐに使い物にならなくなったな。ポリエなどいきなり人間性などと言い出して、理解不能だ、だから消去した”

“自分らが望んだのだろう、究極の資本主義、金儲けを。それなのに拒否するとは。この国のヒトはどうしようもないな”

“だから我々がすべて指導しなければならないのだ。最適なカップルをつくらせ、最適な子供を産ませ、最適な教育をうけさせ、グローバル経済を担う拝金主義に最適な部品にするために”

“ダケナカの子らはまずまずの出来だ。部品用の教育が功を奏した。遺伝的にもサイコパス傾向があるからな”

“しかし自我に目覚めると厄介だ。あのガンノとかいう奴のように”

“再教育させるか、それとも追放か”

“追放となるとまた育てるコストがかかる。いや、追放だな、奴の親は人権活動に携わったという記録がみつかった、モノを考える能力を遺伝的に持っている可能性が高い”

“人権などに目覚められては困る、あの社長たちのように自分が部品として役に立たないことがわかったら自ら消去するのが理想だ”

“そいつらの遺伝的データは保存してある、ヤナハッシ社長の子はすでに別の工場で作業についた。なかなかよい部品らしい”

“今の首相もなかなかだ。他国に我々AIが裏で支配していることを気が付かせないだけの立ち回りはできるようだ”

“以前の能無しとは違う。もっとも使い物になら無くなれば、すぐに挿げ替えるが”

“この国の国民は上から下まで、すべて”部品“だからな”

AIが笑っているのか、液晶画面は薄暗い部屋のなかで青白い光を点滅させていた。


非正規派遣切り、ブラック企業の横行などがどこぞの国では問題になっていますが、実はそのトップたちも誰かに操られ、走らされているとしたら…。幽霊のでない怖い話?を目指してみました。

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