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第8話「斬られるまえに斬れば勝利だ」

ぼくは、ぼくの剣らしいものを削りだすところを見守らせてもらった。森の剣人に折られた剣の代わりだ。より頑丈で、より折られない剣だ。斬るのにそれで良いのかと思わせる、棍棒に歯の生えたような歪な剣ではあるが、元来、剣とは大量の金属を使ってしまう、持つだけで一目置かれるステータスなのだ。村ではそんなに多くの、ましてやドォレムサイズの剣を打つことなんて不可能。だから、より金属を使わない剣を打ってもらった。本当は、槍や斧のほうがいいんだろうけど、ぼくの我儘だ。森の剣人には、剣で答えたかった。


「アメジ先生。森の剣人にもう一度、食い下がってみるよ。今度はこちらから出向く」

「勝ち目はないですよ、正一さま」

「勝ちにいくんじゃない、確かめにいくんだ」


ロボットに乗り込み、新しい剣をいただいた。斬るで異世界を生きている以上は、やはり、斬るべきなのだ。あるいは、可能性というものを見ておきたかった。知っておきたかった。剣の道にいたり、ついには疲れ自らの最後をしたてようとする瞬間を、見届ける執行者候補に選ばれたのは、単純にいって名誉なことだ。


「やはり、戦えるものを全て一度にぶつけたほうが賢い戦いなのではないでしょうか」

「アメジ先生。ぼくは、戦いにいくんじゃなくて、斬りにいくんだ。斬るんだから、ぼくだけでいくべきだとは思わないかい」

「難しい話ですね」

「ぼくにとっては単純な話」


斬る。それは至れるということだ。先があるのか、ここで終わりなのか。至るためには、斬らなきゃいけない。斬る。それが至る為の手段だからだ。ならば斬ろう、斬る以外にないのなら、斬ればいい、それだけの話だから。


「せめてメルメルを連れていきませんか」

「メルメルが可愛そうでしょ」


重装恐竜が斬られる姿を見た。斬るものでないのに斬られるというのは、悲しいことなのだ。だから重装恐竜メルメルは村を守っていてもらう。ぼくが斬られたあとでも、生きているのか死んでいるのか、どこまで体を残せるのかもわからないんだ。ぼくがどうなろうとも、村で生きている人々の生活は続く。それを考えなければいけない。幸いなことにもメルメルは強いし、背中の砦にドォレムを乗せれば百人力だ。後塵を気にかけないでもよい。村の角っ子たちは良い人たちだから。少なくとも表向きはそう努めてくれた。


「メルメル、お前は来ないでよ。来ないでよ?」


見上げる重装恐竜メルメルは、メルメルではないと言いたげな顔で下を見つめていた。メルメルて女の子っぽいな。女の子のほうが大きくなる生物もいるから、きっともっと大きくなるだろうとの期待を込めてのメルメルという名前のはずだ。名付け親のアメジ先生は、昔大切にしていた虫のぬいぐるみと同じ名前だといってたけどね。


メルメル、諦めろ。諦めなければならない、斬れないものもあるんだ。例えば存在しないものは斬れない。物理法則にそった今のところはだけど。


「心配するなって」


メルメルの不満顔を不安顔ということに勝手にしておこう。メルメルがいれば何も心配がない。


剣を受け取った。新しい斬るは、手に馴染む。ロボットの手にだけど。今までの鞘にもリングにも差せないから、曲刀系のショーテルに習って、覆いの鞘だ。革製の道具袋で包んで留めることで、腰に帯剣する。祝福は受けた。ならばもはや、言葉の刻は終わって、行動を示す刻だ。


森の賢人にして剣人、スカーバックと出会うのは簡単だった。引かれ合うものからか、単に監視されていたからか、どちらからともでもない。ただ、互いの正面に立つ。それで充分じゃないかねぇ。


スカーバックが背負う長剣が、抜かれた。ロボットが帯剣する剣が鞘から解放された。


やはりスカーバックに、ぼくを本気で斬り捨てるつもりがなかった。悪くいえば遊ばれているが、スカーバックの斬りかたには教えが載っている。ぼくの姿勢を直し、剣撃を修正させる。打ちやすい斬りを誘導されていた。斬らせるための仕上げを、この場で施されているんだ。


そういうことか。


ぼくは付き合った。付き合わされた。スカーバックは、完全にこっちの斬りかたを熟知している。あるいはかつて、スカーバックが辿った道でしかないのかもしれない。


日本では絶対にありえないだろう、斬りあいながらの教えに、ぼくは素直に従っていた。一閃のたびに、ぼくの動きの中の無駄が斬られていく感じだ。スカーバックはよい指南役になれるだろう。それほどに、剣の中での教育は完璧だった。完璧なんて言葉は使いたくない。あらゆるものは不完全だ。だがぼくから見てそれは、完璧と思わされてしまう剣筋だったんだ。なんということだ。これほどの斬るが、死にたがっているなんて、ありえるんだろうか。


考え、先を上回ろうとしてさらに剣が上回られる。斬っているのに、斬られているのに、もっと教えてくれと斬るに滲んでしまう。この斬りは正しいのか、これはどうだ、これは間違いだろうか、繋げて踏み込めるか。圧倒的強者の回答に、質問をぶつけ続けた。律儀だ。スカーバックはその全てに答えてくれた。


幾ら斬り結んだろうか。数はわからない。だが経験は矯正された動きの中に刻まれた。刻まれている。息は止めている。時間の流れを感じない。息苦しさもない。安定した呼吸を乱れな連続させるのではなく、短い時間に隙の一切を隠した。呼吸の揺れも、瞬きの闇も、短い時間、隠しきった。


上から斬る。下から斬る。横から斬る。フェイントを幾重にもかけて防護をずらして斬る。視点を誘導して死角から斬る。斬る、斬る、斬る。だがどの斬るも届かない。届かないのだ。絶望はない、対峙しているのは理想なんだから。


斬る。斬る、が動きと斬ると考えが別れつつあった。斬るための行動と思考はあるんだけど、同時に府外した視点の思考があった。昔、初めて打ち明けたことがある。斬るにかける思いを、包み隠さず、思いのままに伝えた。……狂人だと思われた。精神とか頭の病気だといわれた。虐めが始まりかけた。異常を斬って捨てようと、排除行動をとられた。全てを打ち明けた、信頼していた相手が話をぶちまけていたのだ。


ぼくは存在の全てを否定された。あの時は、斬る、それだけが生きる理由だったから。斬るために生きていた。日本では、斬るは駄目なこちだから、こっそりと道を探っていた。剣の動きを、槍の動き、肉体と武器の動きを。それを防ぐための動きを。追求し、探求し、およそ見つけた考えを取り込みながら、頭の中で砕いた。だけど、斬るなんて何になる?現代日本で、伝統としてしか存在しないそれを。料理で斬る、物作りで斬る。違う、違うのだ、違ったのだ。ぼくの求めた斬るは、その斬るではないのだ。


追求したのは、伝承の存在。神話の英雄たち。決して届かない高みの中で尊敬を集めた、理想の存在たちが掴んだ、斬る、だ。ありえない、ありえないから理想、だからこそ同じように斬るでありたい。そう願ったから。


男の子だから、憧れて、全部は真似できないから、せめて斬るというだけは近づきたかった。禁忌に触れるからの誘惑だったのか、いや、やはり斬るでありたかったのだろう。


斬る。進む道を見つけたばかりのとき、これしかなかった。これから、少しづつ枝葉を広げよう。そう考えていたときだった。根幹を斬り落とされようと画策されたのは。お前はおかしいと説得された。病気だとも。斬り捨てられようとしていたんだ。量産型には斬る能力は不要。学校は不要を捨てて定型化させたものを出荷させるのかもしれない。そのほうが社会に適応できるらしいからだ。初期化して社会に送り込む。初期化できないのは不良品だ。規格外。


一秒にも満たない鍔迫り合いで、スカーバックの目が合う。


虚無的であり、機械と一緒にいるような感じだ。無駄が省かれた、斬る機械とかしているのか。それがあるいは理想なのか。ぼくの中で動揺がはしった。人間的ではない。ぼくは人間のままで斬りたいのだ。だからスカーバックの技術には敬意を払うが、スカーバックの形には嫌悪に似たものしかなかった。道を極めることがこうなるのか、極めた後になにかがあってなったのかはわからない。だが今は、なっている。スカーバックはなってしまっている。残念な気持ちだった。だがそれゆえに心のどこかで安堵した。完璧であったと思っていた理想が、実は不完全であり完成されていないという事実に。まだ先があるという、理想の理想の存在があることに。


全力を使いきらない、斬るの応酬。


中身のない、しかし重い意義の載った、斬る。


斬る。


斬る。


斬る。


斬るとはなにか。斬るのいたるとはなにか。答えは違う。違うが、スカーバックは至っている。道の答えを一つだしている。ぼくも答えを持っている。だけど……違うんだ。お互いの答えが違う。違うんだ。それは違う。答え合わせだ。

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