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番外「蜘蛛さんは転けました」

失望、安堵、あるいはやはり価値に見合わないものに対しての侮蔑でありましょうか。わたくしのもつ、たった一つの瞳が映している疑いようのない現実は、愚か者ですね。


「アントワーグ卿、貴方には失望しましたよ」

「そう言ってくれるな、エメリス。綺麗な一つ目が台無しだ」

「そうですか。褒められるのは光栄だな」


わたくしは、つい、でお屋敷の床を踏み砕いてしまいました。ふざけたことを言葉にすることは、避けるべき無価値です。このアラクネ種の領主は、価値の無い行動をおこし、価値の無い結果を残しました。帝国枢密院の監査官としては、将来性の無いものを支援する道理はありません。次の首の用意をするだけです。候補はあります。補佐する苦労は今と変わりません。


「俺はヘクテル家の馬娘みたいに、民を見捨てられなかっただけだがな。俺なりに考えた領主の役目をやったまでだ」

「お粗末な結果でしたね。懺悔の時間は必要ありますか?」

「待て。俺がアレへ出向いた結果がある。血の薔薇事件以来、帝国はガタガタだ。魔導局は独自の皇帝を祭りあげたし、帝国の三分の二は帝国という他国化している。要塞線の早期復旧は絶対に必要だ。絶対にな」


わたくしは処刑隊に銃口をおろさせました。


「捕まったのは迂闊だった。盗賊……いや、民族解放連合か。アレらに要塞を奪取されていたのは予想外だった」

「それで?」

「だが、俺自らと手勢は戦った」

「騎士級ドォレムを鹵獲されたのは万死に値します。本来、民族解放連合ではありえないドォレムの集中投入でした。正一さまが撃破してくれねば、わたくしたちのほとんどは死んでいたでしょうね。貴方の計画通り」

「偶然だよ」

「ほう……わかりました、そういうことにしましょう」


あの村で、あの要塞で、アンチワーグ卿の私兵が監視していました。盗賊の捕虜になっていたアントワーグ卿をいつでも救出するためにです。だが彼らは寧ろ動かなかった。全てが終わり、安全が確保されたことで村に到着したことになっています。アントワーグ卿は肉の一欠片にいたるまで傷らしいものはありませんでした。拷問もなしです。アントワーグ卿が盗賊としてのムカ族と、民族解放連合と繋がったと警戒しておきましょう。


「しかしだ、あんなものをどこで拾ってきた」

「佐藤正一さまですか」

「そうだ。それとあの騎士級もだ。随分と野良にしては珍しい」

「探せばいないわけではありません」

「探すだって?エメリス、君はいつから気長に探しものができる性格に変わったんだ」

「価値なきものにならば時間は使いません。ですが価値あるものならば、その限りではありません」

「なるほど。価値ありか。要塞に置く不用心を許容できるほどに?」

「正一さまは自己完結した心をもっておますから。寧ろ、その自己完結性に僅かでも繋がるものが欲しいくらいです」

「所帯でももたせるのか」

「それは正一さま次第でしょう」


ふむ、とアントワーグ卿は髭を整えました。彼のこれは考えている、と周囲にアピールする仕草ですが、大抵これをやってるときは深刻な考えも答えもありません。価値は低いです。


「惚れたか?」

「ぶっ殺しますわよ」


フリントを打つ音、少し遅れての銃声がしましたが、アントワーグ卿はまだ生きているので問題は何もありません。


「権威と権力。そのうちの権威を、お前はその正一とやらにやったわけだ。村を救ったドォレムライダー、佐藤正一。しかもゴロツキ傭兵冒険者とはわけが違う、村にとっては頼れる存在で害なし。人気もでるだろう。村の権力者にとっても扱いやすい戦力だ。信頼も実績も、最初の一歩を踏み出したんだから」

「さぁ、そこまで上手くはいかないでしょう。彼は渡界人ですから」

「亡霊だよ」


アントワーグ卿は蜘蛛の巨体を揺らし笑いますが、わたくしたちは笑えません。


「革命以後、無能も有能も一緒くたに領土回復活動だ。監視つきだが、権威をえた。これは本物にしたいものだよ」

「相応しい価値を見せていただければ、得られるものを得られるでしょう。アントワーグ卿、あなたに相応しい価値の贈り物がです」

「例えば鉛玉かな?」

「可能性は否定しません。ただ、わたくしたちの目は、二つ目と違って真実が二つというわけではありません」


アントワーグ家は、帝国生粋の貴族ではありません。その所領も皇帝代行枢機院から保証された貸与されているものにすぎないのです。相応しくなければ取り上げられる、学院の下っ端教員であったアントワーグ卿の命を賭けた博打です。価値の有無のついては、五分五分といったところでしょうか。馬鹿ではないのですけれど、馬鹿でないから有能とは別問題です。


「エメリス、大丈夫なのでしょうか?」

「わかりません」


わたくしは素直な感想と言葉で、皇帝の姉妹の一人である、シュルルに答えました。大丈夫ではないけど、大丈夫にもっていくのが、皇帝の姉妹としての務めですから。


「最優先は安定です。外敵を跳ね除け、領民を逃さず、確実な税収の保証です」

「そうですね」

「幸いなことに、要塞の再稼働で蓋の一つは取り戻しました」

「ノーグ要塞ですね」

「はい。ですが、ノーグ要塞には中身がありません。現状では無価値です」

「ドラゴンと傭兵が入っていてもですか?」

「シュルル、試しはやめてください」

「申し訳ございません、エメリス」


帝国は今、とても疲弊しています。価値のないものまでを扶養する体力は、残念ながらもうありません。あらゆる面でです。力を取り戻す。それは何よりも価値のある行動です。わたくしにとっても、わたくしたちにとっても、皇帝の姉妹としても。

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