第4話「鬼を泣かせる理由なし」
村は、思ってたのと違う。ヒトツメイドさんたちの生首馬車と一緒に入った村の印象は、『要塞』だ。五重の水堀があって、ロボットよりも遥かに高い、黒い石の城壁がそびえていた。城壁の上にはマガジン付きバリスタが並んでいて、城壁の中には巨大なトレビュシットがある。攻城戦の絵巻物で見る、石を飛ばす巨大シーソーだ。それらはロボットと同じドォレムが使うことを前提にした大きさのものが半分だった。全部ではないけど多いなぁ。ただ、火薬の要塞砲とかウォールガンとかは見当たらない。でも火薬の匂いがする。火のついた火薬の匂い、花火の匂いだ。
「静かだね」
城壁の門を潜った先の、村からの出迎えもドォレム。ちょっと小さすぎだけど、槍を持った完全武装で、威圧的だ。乗ってる人間が半分剥き出しだ。こっちのが風を感じられて楽しそう。自転車とかに感じる好感だねぇ。人間……人間?地球人と同じ人間ではなさそう。角っ子だ。角で斬ることはないと思うけど、角て折れそう。突き合わせるのかな。飾りかも。可愛い。
斬る。斬らない。斬る。ヒトツメイドさんが、代表者会議てきなので村長の城に入っていく。城なのだ。気になることといえば石の壁にはつい最近の弾痕が穿たれていた。人間の身で扱う銃よりも、ちょっと大きすぎる気がする。城壁にはなかったな。あと中の土が何ヶ所か、つい最近に掘り返して埋めたあとだ。
ぼくは他のヒトツメイドさんと生首馬車で留守番。待て、のできる忠犬だからね。何でも斬ったら信用問題だよ。信用は斬っちゃ駄目。ーーて初恋の人が言ってた気がする。
「正一さま」
ヒトツメイドさんが小声で訪ねてきてくれた。村の城に入ったヒトツメイドさんとは別人だ。だけどヒトツメイドさんには変わりないから、やっぱり彼女はヒトツメイドさん。ぼく、誰かに声をかけて貰うのってわくわくするんだ。
「なに、なに?」
「いいえ。……何故、ちょっと浮かれているのでしょうか?」
「やっ!気にしないで」
真面目に斬り返されてしまうと照れてしまう。恥ずかしい。素振りの練習をしていたら、筋の筋を斬ったくらい恥ずかしい。カウンターの上手いヒトツメイドさんだ、気を引き締めよぉ。
「角の人は初めてでしたか?」
「うん。でも一つ目ほどの印象はないなぁ」
「はい。でしょうね、でございます」
背中のほうで、潜ってきた門が閉まるのを感じた。村のドォレムが、『内向きに警戒するよう』門の前に立つ。角っ子が剥き出しでドォレムにまたがり、こっちは銃を持っていた。戦国時代の抱え大筒みたいな大きいのだが、ドォレム相手にはこのくらいが必要なのかなぁ。火縄ではないから硝煙の香りはないけど、火薬の匂いがほのかにする。あっ、角っ子の角が『ちょっとズレた』のを見ちゃった。
「角っ子て産まれたときから角が生えてるの?」
「はい。小さいですけれど生えてます」
「へぇ。じゃ、生え変わるときはぐらぐらするのかなぁ」
「そのように聞いてますけれど、角の生え変わる時期は真逆ですね」
「そっかぁ」
斬られたら、不名誉とかで新しい仮の角をつけるのかな?義手義足ならぬ義角。
「……警戒されてるねぇ」
「はい。そのようですね」
馬車の中でメイドさんたちが何やらごそごそと準備していたら、城壁の上のバリスタが、ゆっくりと、内側を向き始めていた。メイドさんたちが、馬車の中で銃の準備を始めている。フリントロック式で鉄製ローダーにバヨネットも準備万端。首にかけるのは早合の吊るされたネックレス。薄い胸はこのためだったのか!と関心してしまったのは、胸甲をぴったり着込んでいたから。怖い!これは斬り始めだ。
ぼくはロボットで、馬車に預けていた矢筒から何本か矢だけ抜き取る。数は三。弓は当たる気がしないのでまた今度。今回は矢だけだ。人間の腕て、物を投げるのに優れているんだ。斬る、とはちょっと違うから邪道だけど、刀や槍を投げるのて、普通だよねー。普通、普通。だからーー全力で投げ斬った。
ドォレムの使う矢はバリスタの槍と同じか大きいくらい。剥き出しの角っ子『もどき』は乗っていたドォレムもろともに肉骨を削ぎ落とされ飛び散った。残り二本。
「気づかれた!ヤっちまえ!!」
「うおおおぉぉぉー!!!!!」
剣を抜く。じゃらじゃらと、リングが叫ぶ。ぼくは日本人だ。流れに身をゆだね、なすがままにことをなすのに優れた民族としての血があるらしい。斬る。斬るのだ。それだけがわかっていれば、流水と同じように動けた。斬る。あたりまえの行為だ。斬る、さぁ、始まったからには斬らねばならないよ。
「盗賊か!」
メイドさんたちの乗る馬車に、火花と生首の骨肉が花開いていた。ぼくは、やっぱり斬った。銃、バリスタが最優先。バリスタはまだ旋回しきっていない、二本めの矢を投げ、縫いつけた。あと一本。人間にあるまじき足音とともに肉薄してくるものがいる、半回転で身を捻りつつ、抜剣済みの盗賊ドォレム二本の突撃を確認した。ロボットと似ている、騎士級か。混戦を想定した装備らしき、小盾に短剣の組み合わせ。
ーーうおおおっ!
盗賊の声が聞こえる。剣を回転させて持ち直し、剣先を自分へ向けた。刃を握り込み、上段で振りかぶり、殴りつける。当然、盗賊ドォレムは小盾を上に構えて防いだが、鍔を小盾の縁へ引っ掛け剥ぎ取る。しかし盗賊ドォレムは身を低くしつつ、短剣を押し込みにかかってくる。だけどぼくが剣をさらに半回転させ、剣を短く持つ方が速い。盗賊ドォレムの短すぎる短剣よりも先に、胴体を刺し貫いた。力の抜けた盗賊ドォレムを蹴り飛ばす。
二本めがくる。
盗賊ドォレムは小盾でいきなり殴りかかってきた。腕の力と盗賊ドォレムの重量ののった小盾による強烈な衝撃は、最初の一本を斬ったときの隙からかわせない。上半身を揺さぶられ、ロボットの足元が揺らいだ、バランスが崩れかける。元より穿たれていた古傷である、ロボットの胴体の穴から、大質量が撒き散らす破片が飛び込んできた。盗賊ドォレムは畳みかけようと身を下げた低空タックルを仕掛けてきたが、後ろへ小さく飛びかわしつつ、バランスを空中でとりなおして着地。盗賊ドォレムはタックルに執着した。ぼくはこれに剣を突き込むが、首と肩の装甲に火花が散っただけでかわされる。だが油断したらしい。突き込んだ剣先を内側になるよう手首を回し、剣で盗賊ドォレムを引き寄せると、呆気なく首が飛んだ。首を飛ばされた暴風に盗賊ドォレムの乗り手が目を塞いだ隙に、鉄肘を捩じ込む。飛んだ盗賊ドォレムの首の根元、剥き出された盗賊の乗り手にロボットの影が落ち、ぐしゃりと潰れたものが染みだした。
「斬る余裕がないか」
思っていたよりも、斬り難い。城壁へと駆け上がれば、槍を構えた盗賊ドォレムとまだ生きているバリスタだ。ハンドルが回され、バリスタが、放たれた。空気を切り裂く轟音が近づくが速すぎる。せめて、角度をつけて滑らせる。バリスタの槍は胴体の装甲を大きく削ぎ落としながら、外れてくれた。角度が浅かった。三本目の矢は折れてしまった。バリスタはマガジン付きだ。ハンドルをぐるりとさらに回され続け、マガジンから落ちたバリスタの矢へと次の張力が既に引かれつつある。もう一度、かわせるかな。無理だ。剣を投げようと決断した瞬間、バリスタは燃えあがった。城壁下から、可燃物を撃ち込まれたように見えたけど。バリスタを操作していた盗賊ドォレムから火だるまの盗賊が転げ落ちた。
斬るとは違う、鈍い、鉄が潰れる音が、突撃してくる槍持ちの盗賊ドォレムの一本を襲う。胴体に大穴を開け、足をもつれさせながら転けさせた重い、飛び道具からの一撃。それはメイドさんたちが撃った、長く太い銃の斉射だ。援護射撃で助かった……。斬られる前に、手持ちの大きい銃も危険なんだ。あと燃やされるのも。ロボットの腹には古傷がある。油を流し込まれたら、ぼくも丸焼きだ。
城壁の上は、ドォレム一本分の幅しかない。盗賊ドォレムの生き残りは後ろへ下がる選択をし、ぼくは追いすがり、撃たれ沈んだ盗賊ドォレムを踏みつけ、乱れた槍の穂先を切り払いーー斬った。斬ったというより、叩き潰した。だが斬ったのだ。
「ふぅ……ふぅ……」
盗賊ドォレム、三本目だ。斬った、斬った。他愛大有りだけど、斬った。城壁の影から、大型銃をもつ盗賊が銃口を向けてきた。剣を振り、彼を肉を撒き散らしながら城外へと掃き捨てる。終わりかな?城内では、血濡れのメイドさんたちが銃剣に盗賊の生首を刺しては化粧していた。
「あれ終わってましたか」
城に入っていたヒトツメイドさんが帰ってくる。よかったぁ無事だったんだぁと思ってたんだ。彼女の手には髭もじゃの大男の、悲壮な、まだ首から血の滴る首級が髪を鷲掴みされてた。ヒトツメイドさんたちが怖い。
「何やらお屋形さまが捕虜られたとか吐かしていたのですが、どう考えても嘘なので家財になっていただきました。村の後始末に対しては価値が足りませんけど」
ヒトツメイドさんは価値の天秤に厳しいなぁ。重さを重視してる。重さで潰れてしまわないのだろうか。無理して重い剣を振っても斬れないものなのにね。
「盗賊が先回りしてたけど、よくあることなの?」
「はい。ありますね。村てほとんど他領ですから、勝手に夜逃げしたり、村ぐるみで盗賊したり、普通に裏切ったりがけっこうあります」
「世知辛いねぇ……」
「はい。いいえ、今回は盗賊に奇襲されただけで寧ろ珍しいです。村はただの被害者でした。村の救済にまわるのも内政ですが、あんまり戦争と大差はないですね。規模の問題です」
ぼくは斬った盗賊ドォレムの胸をえぐる。中から人間を引きずり出した。角が生えている。だがそれは簡単に取れた。後付けだ。角の根元は焼いたように黒くなってる。牛の角を始末したときのに似てる?そもそも盗賊は、角っ子たちとはまた人種が違うのかぁ。
「まさか四本だけってことはないよね」
村の城の傷跡は、ここで斬った討った盗賊の装備ではない。ならばまだいる。ならばまだ斬る。勝った。だけど、ぼくはロボットの握る剣にあらためて剣圧を高める。まだ終わっていない、まだ終わらせない。
槍に短剣に、武器様々の戦利品。必要性が形を成した斬るものたちは美しいなぁ。山と集めた盗賊の武具はコレクション魂が燃えあがるねぇ。斬る。斬るとは言葉ではない。だが心でもない。内外合わさり始めて斬れる。斬れるとの確信の中で武で斬る。やはりそれを体現するものは美しい。
メイドさんたちと角っ子たちが話し込んでいる。角っ子はぼろぼろの裂かれた服だ。元・角っ子だね。角は根元から斬られている。斬られていた。盗賊が角っ子のコスプレをした角は天然ものか。面白くない斬り方。服だけを斬る、角を斬る、薄皮だけを斬る。斬るの冒涜だ。
ーー見た。
山が動く。いやぁ、山じゃない。斬る信念を揺るがせる、そんな塊が大地と木々を揺らして愚直な心をも揺るがしてくれる、そんな奴だ。完璧さを否定する、壁とでも言うべき強者が首を持ちあげた。
「あ、あいつが!あいつが!あいつが!」
ぼろぼろの角っ子が恐怖と憎しみの混じった声を叫ぶ。城壁の内側から、城壁の外側にいるものを、見た。凄い。なるほど。脅威だ。斬れないなぁ。諦める?細切りは趣味ではない。せっかくなのだから花の両断、といきたいが、未熟ゆえの半端さで両断は一閃もまだない。だが、だからこそ良いじゃない。完璧さを求める不完全。恐れるな、斬れないから死なないわけではない。趣味ではないけど、殺しにかかる。
斬れないが、斬らなければ、ならないから。




