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第3話「聞こえぬ者にこそ耳を傾けよ」

盗賊というものが実在するらしい。いや、斬った。斬ったのだから、斬れたのだから、それはいるのだ。だから並んでいる。だから化粧されている。ヒトツメイドさんが、嬉々として化粧をしていた。『盗賊の生首』をだ。


「正一さま!次はもっと綺麗に潰してください!首級は綺麗でないといけないんですから!」


怒られてしまった。ヒトツメイドさんはポンポンと生首に手際よく化粧していくと、馬車に飾り付けていく。他のメイドさんたちもお手伝いのようだ。皆んなヒトツメイドさん。可愛い。訊くと、


「目は一つでも!」

「わたくしたちが目になります!」

「二人で一人前!」

「五人で五人前です!」


……くりくりとした目だ。翡翠の色は輝く大きな宝石みたい。ヒトツメイドさん曰く、屈強な兵士になるんだけど、ぼくの目にはメイドさんに見えるんだ。そんな彼女たちが生首を刺している。馬車に飾り用の針のようなものがあるのだ。それに生首を捧げている。猟奇的だ。でもそれ以上に、衛生状態とか悪そうだねぇ。ぼくの恐竜の頭蓋骨トロフィーのほうが上品だ。生首を肉つきで飾るのは趣味が悪い。あと、恐竜の骨や皮でロボットを飾るのも趣味が悪い。ヒトツメイドさんの手芸で、ロボットには半分生皮のマントとか、骨削りだしの装飾とかがお洒落されてしまった。ヒトツメイドさん曰く、寧ろ何もないほうが恥なので、戦利品で飾れるだけ飾るほうが名誉らしい。異世界の文化だなぁ。


「盗賊て実在するんだねー、仰天だ」

「はい。盗賊と言いましても中身は様々ですよ。いなくはなりません」

「というと、どういうこと?」

「掃き溜めの底の真性盗賊もいますけどーー」


お口が悪い!


「ーー隣領地からの略奪部隊ということが多いです。盗賊の討伐というのは実質、お家同士の戦争ですね」


毎日が戦争らしい。デンジャラスだ、危険な香りがする。平和が遠いねぇ。盗賊は敵兵で破壊工作部隊とか偵察隊を兼ねたもののようだね。厳しい世界だ。


「ドォレムの数が多いです」

「ヒトツメイドさん、もう少しその巨兵について教えてー」

「はい!かしこまりました」


ロボットさんはドォレムて、ドォレムなのだ。ヒトツメイドさんが教えてくれた。ドォレム。ロボットじゃないのだ。肉と機械を繋いだ何か凄い技術の集合体であるらしい。一応、生きているのだとか。また一つ賢くなった。有機物を斬るのは難しく簡単。


「はい。それよりも早く背嚢を背負ってくださいね。戦利品はこれ以上、馬車を飾れませんから。嬉しい悲鳴です」

「ごめんねぇ、ドォレムくん。もう少し荷物が増えるんだって」

「骨つき背嚢ですから、もっと背負えますよ」

「ドォレムくんは強い子だから平気だよね」


少しだけ戦利品で飾りが増えて、生首だらけのホラー馬車が走りだす。馬車はメイドさんたちと生首でいっぱいだぁ。怖いけど、ドォレムくんに色々背負って続いてもらった。ヒトツメイドさんの話を聞くためにちょっと早足で、馬車に並ぶ。


「はい、ドォレムはこれですよ」


ヒトツメイドさんは、ロボットを指差す。人間型で、ぼくの数倍の身長はある、動いて乗れる鎧のようなものだ。あと、斬れる。


「大きいねぇ」

「はい、騎士級のドォレムですから」

「ドォレムて他にも種類があるの?」

「勿論です。色々ですね。でも騎士級は珍しいですよ。軍隊用ですから」

「ぼくが持ってたら不味いかなぁ」

「問題ないですよ。正一さまが持っていますから。取り返したければ殺しに来てるところです。斬り返せば、次まで貴方のものです」

「怖いなぁ。殺してまで欲しいものなんだ。殺しはよくないよ。でも斬るのかぁ」


盗賊のドォレムと何度か斬りむすんだが、正直棒切れを振り回しているようで楽しくなかった。他には特に感想はないなぁ。斬ったら斬れた。盗賊のドォレムは背嚢にバラバラで入っている。後ろを振り向ければ、背嚢から、斬り飛ばした盗賊のドォレムの手足が見える。


「はい。大砲や銃がないのは幸いでしたね。正一さんが弓を引いてくれれば、もっと楽になりますよ」

「弓て引いたことがないんだよ。それに矢を無くしたら勿体なくて。それに斬るのが好きなんだ」


ドォレムには別に剣だけではない。ちゃんと弓と矢も持っているが、持っているが使っていない。弓の使い方を知らない。一回引いたけど、狙いのつけかたがわからない。練習だ。斬るは信じてるけど、たまには斬るから浮気だ。狂人じゃないんだから。


「ドォレムて言い慣れないなぁ。ロボットのほうが呼びやすくないかい?」

「はい。わたくしはドォレム派です」

「ふーむ。そういうものかぁ」

「ドォレムで聞きたいことはありますか?」

「あるよ。ドォレムの修理てどこでできるのかな。ほら、胸に穴が空いてるんだ。埋めてやりたいな、と」


半端な状態なんて、万が一斬られるときに相手に失礼だ。斬られるなら、斬られる姿がある。なぶって斬るにも等しい。斬るに変わりはないけど。


「はい。難しいですね。大きい町でないと、装甲を用意できないのです。鉄を多く使いますから。クワを直すみたいに手軽にとはいきません」

「そっかぁ。あっ、穴を埋めるだけならできるかな。とりあえずの応急処置、見えなくなる程度で」

「それなら、盗賊のドォレムから継ぎ接ぎしてロウ付けすればよいでしょうね。でも強度は落ちますよ?」

「充分だよ」


斬って、役に立つ。素晴らしいね。


「ロボットの修理が終わったら、ヒトツメイドさんの家で雇ってもらえないかなぁ。斬るよ、斬る斬る」

「はい。難しいですね!騎士級ドォレムは戦力ですから。暴れられると困ります」

「雇わなかったらかえって暴れると思うんだけど……首輪つけとかない?お安いよ?斬るけど斬らない」

「はい。確かに!傭兵が雇い主を失って略奪なんてのはよく聞く話ですねー」

「でしょー」

「でも当家にはお金ないんですよ」

「そっかー。維持費だけでもどうにもならない感じかな」

「はい。お給金が怪しいですね。騎士級のドォレムは増やせなさそうです」

「お給金割れてもいいから、衣食住付きで雇わない?」

「魅力的ではあるんですけどね」


ヒトツメイドさんは、けっこう乗り気な口振りだけど、これは高度な心理戦かもしれない。押して引いて、条件を相手から引き出すのだ。よくわからないけど、多分そんな感じだ。斬るのもフェイントが大切なのだ。


「村の視察でいくつか寄る予定です」

「今後の話?ヒトツメイドさん」

「はい。わたくしの目的ですから。村は、たしかに当家の管理下にあるのですけど、独立しているものなんです。定期的に見廻るのが、見限られないためにも必要なんです」

「どうして見廻りが、村を繋ぎ止めるの?」

「見捨てられていない、と思わせるからです。あとは、武力を誇示するためですね。こんなに見栄を晴れるんだぞ、と。見栄も晴れなくなったらいよいよ危ない状態です。領地巡回は、潜在的な敵になる領民を繋ぎ止めておく大切な内政の一環です」

「なるほど、勉強になる」


ぼくは馬車を飾る生首に合点がいった。これは強いアピールだ。盗賊の首をこれだけ揃えておけば、強い支配者をアピールできる。怖いくらいだ。不安を斬る、賢い。


「正一さんの村にも、見廻りが来ませんでしたか?ドォレムを乗りこなせているので、村じゃなくて、町かもですけど。だったらすみません」

「ぼくのところは町だったけど、ドォレムはこなかったなぁ。日本て国なんだけど、ドォレムがいない国なんだよ」

「ニッポンですか。随分と遠い国から来ましたね。世界が違いますよ」

「そうなんだよぉ〜」


日本はここから随分と遠い国だ。でも逆にだからこそ、自由を感じてるよ。自由すぎて、いつかは斬られるのだろうけど。ここでは誰も守ってくれないけど、斬る生き方とはそんなものだ。


「あっ」


恐竜の群れと出会った。首がどこまでも長くて四本足。首の左右に杭のような太く短い骨質のものが伸びていて、振り回す首の武器のように発達しているようだ。ロボットよりもずっと巨体だ。首長の群れの周囲を、数頭の恐竜がうろついていた。首長を獲物にしようとはかっているようだ。こっちは手が螺旋をした爪になっていて、肉にねじ込むような感じの腕をもっている。一度とりつかれると、剥がすのに苦労しそうだ。


「美しい恐竜だね」

「はい。正一さまの美的感覚を疑います。ですが家財にするには良さそうな竜であることは認めます」


ぼく、ヒトツメイドさんの恐ろしさに薄々気がつき始めた気がするんだけど、このメイドさんちょっと怖すぎない?


「村に斬り込むとして」

「正一さま、視察です」

「ぼくて何を仕事にすればいいのさ。村人を斬ればいいのかい。それって罪なのでは」

「正一さま。大変に言いづらいのではありますが、単刀直入に頭をもっと働かせたほうがよいかと。正一さまには、ただ立っていてくれるだけで抑止力になります。つまり偉そうにするだけで何もするなでございます」


ぼく、もしかして馬鹿にされてるのかな。否定できないから、悲しい。自身があるのは、頭の中で考えていることだけだ。ヒトツメイドさんとのお喋りは楽しいけど、ずばずばと斬られている気がする。やっぱり楽しいや。


「何事もなく村に辿り着いて、何事もなく横で強そうにしていればいいわけだ」


恐竜と恐竜が戦っていた。首長の恐竜と、螺旋手の恐竜だ。螺旋手の恐竜は首長の恐竜を追いかけ回して、体力の少ない、落伍した個体に狙いを絞って襲っていた。最初は小さい傷をつけることだけに専念しているように、螺旋状の腕を肉に喰いこませては肉を引きずり出す。それを何度も繰り返して、さらに体力を奪っていく。首長の恐竜はやがて体力を使い果たして、立つことができなくなっていった。


恐ろしい弱肉強食の世界だ。首長の恐竜は、生きたまま喰われようとしていた。ぼくにとってそれは不愉快な闘争だった。弱者が強者をなぶり遂には殺すのだ。斬る。だからこそ、不愉快。


「ヒトツメイドさん」

「はい。何でしょうか、正一さま」

「今晩は新鮮な恐竜肉でも食べませんか」

「いいですね。新鮮な肉は体にいいんですよ。あっ!あの腕が螺旋になっている恐

竜は珍味で人気ですよ」

「それはよかった」


ぼくは剣を抜いた。じゃらじゃら。ヒトツメイドさんとは意見があう。ちょうどぼくも、その螺旋手の恐竜を斬りたかった。


「何の縁なんだろうねぇ」

「はい?」

「いやね、出会った斬ったの縁に、ちょっとね」


さらりと生きるということで、流れに流れ続けている。この異世界に流れつき、無碍に生きているのではないだろうか。迷いがあるのかと、ぼくは自問した。迷い?そんなものは……無いな。うん、迷いは無い。


だって、日本ではできないことができる。斬ることができる。斬れる、斬れるのだ。それはこの異世界なくしては得られるものじゃなかったのだ。ならば迷うか?迷う必要がどこにもない。斬ればよい、それだけなのだ。単純な答えだ。

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