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第2話「時には女の子にも強引に」

斬る、鞘もとい理想の乙女探し。人間かは問いません。日本由来の斬りたい盛りの善良な男子……とロボットを養ってくれる女の子か嫁か乙女か鞘はいないかなぁ。


食糧は恐竜だ。斬って斬られて、勝って負けて逃げて追って。生肉ばかりの生活だぁ。水も血で喉を潤すしかない。まともな水が恋しいよ。ロボットの体は、少なくともぼくより頑丈だ。燃料的なものがないけど何で動いているんだろう?ロボットが食べてるものは、返り血くらいしかない。吸血食なのかな。


とまぁ、やっとこさ、恐竜の後をつけて見つけた湖に顔を沈めながら考えてた。水でお腹を壊したら死ぬかも。腹を壊して死にたくはないなぁ。でも血以外も飲みたい。


湖にはロボットが腰までつからせてあげた。汚れ塗れなんて可哀想だ。だからお風呂に入ってもらっている。日本は寒かったけど、こっちはちょっと暖かい。暑すぎるくらいだ。下着も全部脱いで洗って、ロボットに干しかけて天日干しだよ。不衛生だと病気になっちゃうかもだし。


恐竜たちも水を飲みによくくるようだ。大人しそうな、でも全身が鎧と剣を兼ねた皮で守られた恐竜が湖に唇を濡らしている。チロチロと水を飲むさまは猫みたいだ。ぼく、猫は好きだ。でも恐竜がいるなら、鰐みたいなのもいるのだろうか。デッカいやつ。斬れるのかなぁ。水の中だと、斬れるかわからないなぁ。丘にあがってもらっても、やっぱり背中とか鰐皮は分厚そうだねぇ。怖いよぉ〜、斬れないかも。


どこかに町でもないかなぁ。日雇いのお仕事がしたい気分だ。お斬りの仕事があれば嬉しいけど、ないかなぁ。あー、でもお金が稼げるのが一番だ。お金があって、たくさん長生きすれば、たくさんチャンスがある。長生きすることは大切だよね。どこかに国とかあればもっといいかも。もっともっと長生きするにはロボットと、どこかの勢力に入るのが一番だ。


なら隊商みたいなの探したり?ずっと探してるんだけどねぇ。護衛で雇ってくれないかなぁ。水場だから誰かしらは立ち寄るかも。張ってみる?待ち伏せだぁ。


狩場の設定が良くて、食事にも水にも困らない。やっぱり飲み水て偉大だなぁ。大自然万歳だよ。湖を中心にいくらでも斬れるもの。たくさん斬ったよ。でも食べる為だからなぁ。剣とロボットに申し訳ない。だって斬りたいと思っている筈だから。


誰かが見てるわけではないし、血塗れになると衛生上悪いから、すぐに乾くよう基本的に全裸ですごすのが楽てやっと気がついたよ。気がつくまでに、恐竜の頭蓋トロフィーでちょっとした家を建ててしまった。暖かい温暖な気候は偉大だなぁ。陽の光で殺菌してくれるし、何より寒くてかじかまない。かじかむと斬りにくいんだ。


「おぉ?」


湖の影で涼んでいると、やっと見つけたんだ。やっとやってきてくれた。文明だよ。文明て素晴らしい。馬車だ。しかも恐竜ではない可愛い子たちが水を汲んでいる。優しそうだなぁ。言葉が通じるかな?それとも斬られるかな。


「おーい!」


ロボットの隣から、ぼくは大声で叫んでみた。きっと届いているはずだ。恐竜と何度か声量対決して鍛えたから届く筈、たぶんだけど。よかった小さすぎることはなかったようだ。対岸にいた可愛い子たちが、体を震わせた。ぼくは嬉しくて手を振ったよ。悲鳴をあげられたけどね……悲しいなぁ。悲鳴をあげてくれたのはメイドさんかな?メイド服っぽい。文明的だね。服といえば、ぼくは何も着ていないせいで、生殖器もモロだしだ。これは失礼だなぁ。心が斬られても仕方ない。なかなか深い斬りだったよ。


ぼくはロボットに乗り込み、近づいた。ざっぱざっぱと、湖を泳いでね。泳ぎを覚える時間はいくらでもあったんだ。鰐て怖いんだよ。


「こんにちわだよ」


挨拶は大切だ。礼を尽くせないと呆れられてしまう。それはナマクラにしてしまって、斬れなくするのと同じだ。だからぼくは手を振って友好的に話しかけたんだ。腰を抜かしているメイドさんは一人。手には木製の水汲み桶をもってる。異世界だから長耳さんかもと思ったけど違うようだ。普通の美少女で、目が一つで、羊見たいなヒズメの足跡を残してる。靴を履いてないのかな?斬れそうだ。


「え、あ……」

「ぼくは佐藤の正一。きみの名前は?」

「……た、ただのメイドです」


そっかぁ。


「ヒトツメイドさん、どうして湖にいるんだい。しかも後ろにあるには馬車だ。ヒトツメイドさんてそういうのがお仕事なの?」

「えーと、はい。我が家は人手不足ーーなんてことはなく!わたくしがまだ新米ですので、様々なお仕事を経験させていただいている最中なのです」


ヒトツメイドさんは馬車修行中らしい。とっても偉いね、勉強家さんのようだ。将来、今日の学びが役にたつんだろうね、きっと。うんうん、と思わず関心してしまった。ぼくも見習わないと。


「ヒトツメイドさんはお一人なの?」

「はい。はい、そうです。一人ですね……いえ、一人ではないです。あの馬車の中には屈強な兵士がざっと五〇は完全装備で待機しています」


馬車に?ぼくは馬車を見たが、一台だけだ。四頭引きの馬車で、九本足の馬が四頭、水を飲んでいる。とても五〇人も入りそうにないけど、もしかしたらこの世界の人間は手足を変形させてサイコロ並みに四角くなるのかもしれない。


「もう一人、雇ってみない?今ならこのロボットもついてくるよ。安いよ、衣食住をくれて、斬れるならもっと価格を斬っちゃうかも」

「マジですの?」

「マジ、マジ。今ならお試し価格で、初期費用ゼロ」

「はい。……うーん、ちょっと考えさせてください」


ヒトツメイドさんは、うんうん唸る。たくさん考えているようだ。ちょっと微笑ましい。ヒトツメイドさんの一つ目が、ぐにゅんぐにゅん、眉間に皺が寄っている。斬るのかな、斬られるのかなぁ。


「はい。はい、メイドは考えましたよ。やはり雇うのはやめるべきだと思いました」

「首切りだー」

「はい。元より繋がっていない首ですので、勝手にコロコロ転がっていてください」


えっへん、とヒトツメイドさんは胸を張る。胸がないのに、ないから悲しい。でも綺麗だ。削ぎ斬られたみたいに見事な曲線。お見事だぁ。


「じゃ、お仕事は無しだねぇ」


ちょっぴり残念。でもまた次がある。恐竜でも斬りながらのんびり待つとしようか。ぼくは待てる男なのだ。


「何か依頼とか斬るとか斬りがあったら、また会えるかもねぇ。ぼくはここにいるからよろしくぅ」

「はい。いいえ、わたくしの一存ではできないので、もし戻ってくるとしたら、お屋形さまも一緒ですね」

「お屋形?」

「はい。このあたり一帯を開墾して所領にされる、予定のお方です」

「領主さまだ」

「はい。はい、そうですね」


ぼくはお屋形さまとやらが来るかもしれない日を待つとしようか。ここはこれで居心地がいい。必要以上に斬る必要がないし、斬れるとわかったもので溢れていて幸せ者だ。でもロボットが心配だ。けっこーガサツに扱ってるからなぁ。剣も刃こぼれだし、石でも削り出すかなぁ。


「あっ、これお近づきの印だよ。美味しいよ」


お近づきのお土産をヒトツメイドさんに渡しておこう。人付き合いは大切。いつの世も、繋がりが次の繋がりに繋がっていくのである。この世界はいろんな生き物がいるし、斬り話もそのうちあるかもしれない。でも誰が持ってきてくれるかわからない。だからお近づき。親愛?ヒトツメイドさんは可愛い。しかも斬れる。抱きしめたいね。


「はい。……何ですか、これ」

「恐竜?の枝肉。栄養満点だと思うよ。ぼくの主食」

「……はい。いただきます。食料には不便しますから」

「修行は自給自足なんだ。厳しいね」

「はい。厳しいのです。だからとてもありがたいです」


熟成させてるから、アミノ酸が析出してる。美味しいのだ。美味しいものは心を豊かにする。豊かな心は発想できる。想像は大切だよね。豊かな斬りは、豊かな環境からだ。


ヒトツメイドさんは枝肉を前にして、なんとも言えない表情だ。あまり見慣れないのかも。ヒトツメイドさんだから。コックとかの領分なのかな。あー、でも、貴族とかには高級メイドてのがいるのを思い出した。他家から行儀見習いにやってくるお嬢さんがたがメイドになることもあるんだっけ。もしかしたらこのヒトツメイドさんも、どこかの家のお嬢さんなのかも。


貴重なお肉だ。食べて美味しいし、餌に使って恐竜だって呼べる。欠点は、わりと凶暴な肉食恐竜しかやってこないことだけど。恐竜は肉の匂いを覚えているのかもだ。ヒトツメイドさんにあげた枝肉は、よく鰐が狙ってくる。強いけど、体を落とす突きなら分厚い背中だって抜けることは、何十本かトロフィーにして気がつけた。一閃で斬れないのは、ぼくの未熟。


あっ、鰐の目だ。


湖の面に、小さな目が二つ、潜望鏡のように覗いていた。ぼくを見てない。見てるのはヒトツメイドさんだ。鰐は波をたてずに、ゆっくり近づいている。ヒトツメイドさんは気がついていないようだ。ぼくはロボットに剣を抜く準備をしながら、跳べる姿勢をとった。剣はすぐに抜ける。鞘に入れておくのが面倒だったので、ちょっとだけ改造して、剣を差すのはただのリング状のものだ。抜きが速い。生身なら体を傷つけるけど、ロボットだから平気だ。我慢してもらいたい。


「はい。はい、わたくしにできるお礼なんてーー」


ごめんね。ヒトツメイドさんの言葉が耳に入っていなかったよ。鰐は眼前に迫っていた。最後のひとかきが、大きな波をたてる。鰐の長く、強靭な顎の中に生え揃った肉を断つ刀剣の数々、お見事!


「ッ!」


ロボットが跳ぶ。バッタのように、両の足が水を引きながら高さをとった。剣を引き抜く、リングと擦れるジャラジャラという音は聞き慣れた、斬るの合図。鰐は湖を飲み干す勢いに大顎を開き、ヒトツメイドさんを斬ろうとしていた。ヒトツメイドさんは突然の変化に呆けている。戦力外。ぼくは逆手で剣をもち、刃を鰐の横つなぎの殻に合わせる。背中は分厚い。鎧といっていい。だがそれは、亀みたく完璧な鎧ではない。鎧の隙間から鱗を刺せば、空中から落とす質量なら斬れる。鰐も動く。だけど、ぼくの目には止まっていた。


悲鳴はーーない。


鰐の鎧の隙間から、ロボットとささやかなながらぼくの体重を合わせた重力加速の衝撃は、剣先に鰐の鎧の隙間を斬らせた。剣先は鰐の柔らかい腹部までも斬り裂き、鍔が鰐の鎧にめり込み止まった。脊柱を斬った。


「……ふぅ、ふぅ……」


無意識で息を止めていた。このあたりの鰐は凶暴で強いのだ。まともにやりあって勝てないことは知っている。普通では斬れないこともだ。だけど今回はヒトツメイドさんがいたから、助かった。ヒトツメイドさんのおかげだ。普段なら、しつこく追いかけ回して、弱ったところを斬る。ロボットの体力は生物よりも高いからできる戦法だ。本当に、ヒトツメイドさんがいたから、勝った。


「大丈夫ですか?」

「はい。……はい」

「漏らしましたか、おしっこ」

「はい。ちょっと……わたくし死んでますか?」

「生きてるよ」


仕方ない。鰐のもつ刀剣は、一つの軍隊だ。ヒトツメイドさん一人では立ち向かえない死なんだから、お漏らしなんて普通だよねぇ。ぼくも怖い。だから笑えない。


「はい。借りです」


ヒトツメイドさんがメイド服を脱ぎ捨てた。お漏らししたのだから、ちょっと足とか濡れている。酸っぱい臭いだ。


「わたくしを抱きなさい」


ヒトツメイドさんは湖の中に裸のまま入ってきた。ロボットに中腰になってもらい、ぼくも湖の中に落ちる。あっ、ぼく裸のままだ。


「ぼくと斬り結ぶのか」


ヒトツメイドさんは猛者だった。だけど、斬られるなんてことはない。女の子相手にも、強引に押し斬れる。斬ることが大切なのだ。美しく斬ることも大切だ。だが斬れねば何よりも意味がない。斬る。斬るのだ。ヒトツメイドさんは「わたくしを侮辱するのですか!」と言っていたが、斬り合い、ぼくはヒトツメイドさんを斬った。


「同行しても?」

「……まだ求めるのですか、わたくしを辱めて」

「斬った。でも辱めてはいない。断じて誓う」

「……はい。それではよろしくお願いします。護衛は必要でしたから」


馬車を追う。ヒトツメイドさんが御者の小さな馬車だ。ぼくはそのヒトツメイドさんと馬車を後ろから追う。目的地は知らない。だけど、どこかには辿り着けるだろう。遠ざかる湖を一瞥し、どこかへと近づくのを感じた。


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