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第1話「ガッツのない奴に栄光はない」

昔からさ、あれだよ。現実ってヤツがぼくにはサッパリわからない難問だ。頭が悪いからかなぁ?


見える景色はとてもよく知ってる。目をつむってたって、ここが、高校に行く途中道で、桜並木がある綺麗な場所で、人がそこそこいる故郷の土地で町てのはわかるよ?ぼくはぼくにだって詳しい。生徒手帳には、きっちり『佐藤の正一』て名前がスタンプされてるんだ。あっ……もう高校生じゃないんだった。でも学ランを着ているから、対外的にはまだ高校生だ。高校生に見られるのなら、それは高校生だよね。


桜の花は満開で、満開だから散っている。これ以上に咲き誇ることはなく、完成されているのだから、あとは散るだけだ。悲しいなぁ。できることなら、ぼくが斬り散らしたかった。やっぱり自然て偉大だ。ぼくが考えることなんて、いつも自然が先にやっていることの後追いでしかない。でも一回くらいは、自然を超えて斬ってみたいなぁ。


でも平和な日本社会だと、刀剣は超のつく違法だ。法律違反は悪いことだよね。銃刀法違反は駄目、捕まるから。でも斬りたいなぁ。刀と剣だと斬れも違うのかな。試したいなぁ、試し斬りだ。やったことがないから、やれるならとても楽しみだ。今までは、手でしか斬ってこなかったから、うん、できるならだけど、それはとても楽しみだ。


「斬りたいなぁ」


ぼくは彼らを見ながら呟く。いやまったく偶然だけど、悪そうな輩が三本ばかし斬ってくれー、斬ってくれーと悪いことをしている。桜の枝を折っているのだ。それはもうポッキリと。楽しそうではない。なぜ斬らないのか穢らわしい、そこは斬れよ。いや、斬ることを知らないのだ。知らないことを知っていたらぼくはびっくりだ。やはりここは、斬るを啓蒙するべきなのだろうか?


「は?なんだテメェ、クソが見てんじゃねぇよクソ眼鏡!」


下品な男にキレられた。この斬りはつまらない。だが斬る楽しみを知っているようでちょっと楽しい。楽しくない。斬るを知っているのになぜ斬らないんだ。ぼくの中では怒りが湧きあがっていた。


斬り試しは三本。言葉刀、トンガリ靴、筋肉木偶。三者三様、ゆえに一本一本に感謝を込められる。個体差がある。それは斬り方を変えてしまう。芸術だ。だから斬るのは好きだ。究極の一振りよりも、一つと同じ一閃がないことが素晴らしい。だが全てを芸術的に斬る。とても難しい。ぼくはまだ至れていないから悲しい。


「いい子ちゃんかよ」

「おい、あんまりやりすぎるな」

「殺しゃしねーよ」

「病院送りもだ。前は警察沙汰になりかけたのを忘れたか」

「うーん、あれだ、ガッコーの喧嘩!それがいい。学ランだし、よくあることだろ?じゃ、ボコすのも仕方ねーよ。喧嘩を売られたなら、セイトーボウエイ?」

「ったく……」


んー?周囲から人間が消えた?ただならぬ気配に避けられたかも。車は通ってるけど、車窓からまじまじ見られても困るから見てないかも。事故は大変だ。


試し斬りの三本が、ぼくを斬ろうとした。でもまあ、斬れないよね。試し斬りでしかないし、ぼくは斬れると考えてた。斬れるなら、わざわざ斬る必要があるかな?ないよね。でも斬った。どばーって、皮膚をねすっと斬って、筋肉をより分けて、骨を断ち切った。うん、斬れるから斬らないこともあるけど、斬れそうだから斬る、そういう日もあるよね。


「なっ!?テメェーー」


刀剣があればなぁ。少なくとも、ぼくの爪や皮より絶対硬い。綺麗に斬れるんだろうなぁ。斬ったことないからわからないけど。だったら嬉しいなぁ。


「ーーぎゃっ!」


うーん。音が美しくない。萎えちゃうよ。声はいらないね。だって気分が悪くなるから。


「ーー!ーー!?」


何かの本で、剣士は下半身も大切だった気がする。そうだよね。どっしり構えないと、強い一撃は無理だ。土台はしっかり。足も動かさないと、固まってしまう。適度な運動は健康にもいいんだ。足のつま先を振るう。うーん、剣には遠し、槍にはできるんだけど難しいね。刀剣は好きだけど、刀剣だけが美しいものじゃないよね。うん、猫は美しい生き物だ。


「……え?」


瞬きは一度。それだけ。でもぼくが瞳をほんの一瞬、まぶたで覆って開いてのその後で、なんだか全然違う景色が見える。おかしいなぁ。試し斬り三本を斬ったよね?でも今は、そんな痕跡がどこにもなくて、心地いい自然に先を越された桜たちがどこかに消えてしまった。不思議だね。


緑の揺れる壁に囲われてしまった。背の高い草の草原だ。大きいなぁ、ぼくの身の丈よりも大きい。あっ、でも179cmで180cmない残念身長らしいからこのくらいの雑草のほうが普通なのかな、世界的には。


恐れなく先へと進む。進むしかないから。で、ミステリーサークルを見つけた。サークルではないし未確認飛行物体が草を折ったのでもないだろうが、未確認物体が転がっているのは見つけたんだ。未確認!心がそそるねぇ、だって男の子だから。


「ロボットだー」


ぼく、感動だなぁ。ロボットて大好きなんだ。全長は10mはいかないかな。目測だけど。雰囲気は、鎧そのものが歩いている形だ。人間型だね。ちゃんと腰刀と矢筒に弓を持っている。うんうん。ビーム砲もいいけど、ロボットが人型ならやっぱり斬るだよね。わかるよ、とてもよくわかる。


「こんにちわ」


ロボットは胴体を巨大直刀で突き込まれたかのように穴を開けていた。ぽっかりと。だから胴体の中を覗き見たら、中に腐乱死体しかなかった。ぼくはとても残念だ。このロボットのお話ができると思ったのに、とても残念だ。ぼくにはイタコができないし、死体と会話なんてとてもとてもできないのである。悲しいね。


ちょっとごめんね?ぼくは腐乱死体様にそそっとどいてもらって、代わりにロボットに乗り込んだ。だってね?このロボットは刀を差していたんだよ?ぼくは巨大な刀を振れないよ、ただの普通のどこにでもいる人間だから。だからロボットさんの力を借りるんだ。刀があるなら、斬らせてあげないと駄目だよ、絶対そうだよね。


「うーむ」


血糊でべったりカリカリの一席は少々座り心地が悪うあるが、まあ我慢できるので問題なかった。たかだかロボットの一体や二体、操るのは容易いことだ。少し動きを試したが、すぐにこのロボットの腰刀に鞘を滑らせることができた。鯉口があるのか妙に引っかかるが、慣れてしまえば知ってしまえば勝手知ったれ問題なしだ。


腰刀にしては長い。長いのか?ロボットの腕三本分の長さ。唾は十字形、片刃で唾から拳一個分には刃がなく刀身上に更に唾のような十字形の広がりがある。波紋はなし、刃は波打たない真っ直ぐさ。どことなく、西洋剣のツヴァイハンダーの雰囲気を感じた。


「うん」


悪い感じじゃない。良い感じだ。剣を振るう実感に価値があるか?剣を振るうことに意味があるのか?違う、斬ることに意味があるのだ。必要とあれば、パワードスーツを着込むし、小手先の技も使う。斬れるなら、それをやるだけだ。


ロボットが立ち上がる。通常では駄目な感じの軋む音がするけど、たぶん大丈夫だ。腹を斬られたみたいに少しだけ足が震えているが、立てない感じじゃない。うん、頑張れ、頑張れ。頑張った。


「良い子だ。とても素直だ。流石は機械、振れば触れる。ありがとう」


高い視点、ロボットの身長から見た景色はやっぱり高くて遠かった。10mは盛りすぎてたな。10mは無さそうだ。でも大きい。巨人だ。それってワクワクだ。ワクワクついでに恐ろしいものと目があった。とっても怖いよ。えぇ、竜ですねぇ、恐竜かな?

恐竜だ。ただ尻尾が面白いねぇ。剣だよ、刀かな?どっちでもいいか、斬れるものだ。ぼくは斬られるらしい。そっかぁ。


素振りを何度かした。ロボットは、ぼくというか、人間と関節が違うらしい。動きがちょっとぎこちない。でも振れる。ならば斬ろう。斬ると決めたものが、斬られると決めたものが揃っているのに斬らないなんて考えがあるだろうか。ないねぇ。


恐竜は雄叫ぶ。体が震えた。びりびり、びりびり、と。音は空気の振動なんだから当たり前だ。心地の良い風とは違う、くすぐったさ。ーーくる。


「!」


恐竜が尾を横薙ぎに振るう。尾の先端は鉄塊のようで、それ以外は鞭のようにしなやかだ。そんな性質といったところか。音速を超えそうな、もしかしたら超えた音とやってきた恐竜の一撃をまずは受けてみた。鉄塊の想定材質はチタン合金、速度は音速。これはミンチになるかな?


ーー轟音。鉄打ちに相応しい衝撃と音が鳴り響いた。もっとも衝撃力の高い鉄塊の最高速を、ロボットの剣は受け止められた。頑丈だ。でも衝撃力は想定以上で、数歩下がる。恐竜の尻尾の鉄塊は横に流させた。下がらなければ、もう少し剣に負担をかけていたら、折れたかも。


多少のよろめき。その程度だけど、恐竜はめざとく第二撃を狙ってきた。鉄塊が引き寄せられて、宙に弧を描いて垂直に振り下ろされる。


いけるかな?


ロボットのつま先だけで、もう一歩下がる。うん、うまくいった。恐竜の鉄塊は大地を穿ち土爆の煙と埋まりはてた。ロボットに鉄塊を踏みつけさせ、戻させない。足が少しぐらついたけど、ロボットは押しとどめてくれた。焦る恐竜、尻尾の鉄塊にこだわる恐竜。可愛いね。


だから斬った。


恐竜の首の筋を断つ。鱗が天然の鎧なのかな?結構、硬いや。でも斬れた。斬れるのだ。斬れることがわかった。殺しはよくない。死んじゃったかな?悪いことをしたなぁ。


「あっ、生きてる」


斬れた首の裂傷からは血の泡を吹き出している。空気が混じった血だ。気管まで断てたみたいだ。牙だらけの口からも泡混じりの血をだらだらとヨダレの代わりに流す恐竜。目はまだ生きてる。でも体は大地に沈んだ。泥だらけ、血だらけ。汚いとは思わない。そういうものだ、斬ったのだから。だからこれは汚くない。もし汚かったら、ぼくのせいだ。ぼくはとても申し訳ない気持ちになった。今はぼくしかいないから、綺麗か汚いか誰にも答えてもらえないのだ。恐竜だって汚いのは嫌だろう。ぼくだって綺麗なほうが良い。恐竜は斬られても数秒間は息をして、そして死んでしまった。死んだのかい?悲しいことだ。死んでほしくはなかった。


「あら、女の子」


ぐるぐると恐竜を観察していると、恐竜が女の子だとわかった。強い女の子だった。好きな子になれたかもしれない。いや、今好きになった。女の子だとわかると、鋭い牙も、トカゲみたいなキツイ目も、引き締まった筋肉と鱗の皮膚に生える少々の毛も全て可愛らしく思えてくるのが不思議だ。


やがて、この乙女恐竜の体も腐りはて、黒い液体と骨に皮だけとなると思うと切ない。ぼくは仏教徒じゃないから合唱はできないけど、ぼくなりの祈りをこの恐竜に捧げた。ロボットから飛び降り、血溜まりの血を一つ掬いあげる。


もう一人のぼく、この出会いと別れにありがとう。ただの黙祷だ。血で塗れた手でロボットを触る。ぼくの手の形に血が塗られた。


ーーこんな恐竜がいる時点で、ここは日本どころか地球でもないわけだけど、じゃ、どこだろ?地球じゃないなら異世界だ。人間はいるのかな?話は通じるかな。多分無理だ。でも斬ることは通じるはずだ。斬るものがあるなら、斬ることは通じる。そう考えると、とても気が楽になった。


さぁ、ロボットくん。生きるために歩こう。その足を今しばらく貸してね。どこまでかまでの道連れだ。異世界だからなんだろうなぁ。どこも異世界だし、どこも同じだねぇ。斬ることも斬れるとわかったから斬るを探したいけど、でもできれば、恋人が見つかるといいなぁ。異世界ならいるのかなぁ。探そうかなぁ。うん、それがいい、とてもいい考えだ。無いものを探す、冒険みたいだ。ワクワクだねぇ。斬ることは知ってる。ならもっと上手く収めることも学ばないと。でないと次も斬れないよねぇ。

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