第1章6話 『現実』
「魔術を使うために最低限必要なものがある。それはわかるか?」
「い、いえ、魔力くらいしか…。」
「それが1つ。もう1つ必要なものが魔力放出量じゃ。」
「魔力放出量…?」
「魔力は魔術を使うために必要なエネルギーじゃ。これが多ければ多いほど魔術を使える回数が増えるというわけじゃ。
そして、魔力放出量。これは1回の魔術でどれだけの魔力を使うことができるか、つまり魔力放出量に応じて行使できる魔術の規模が変わってくるんじゃよ。」
ローウェルさんはため息をつき、俺の顔をまっすぐに見つめる。
「アベル、はっきり言っておく。お主は魔術師として冒険者を目指すのは不可能じゃ。」
頭を何かで殴られたかのような衝撃を感じた。
「ふ、不可能と決まったわけじゃ…。」
「お主には膨大な魔力がある。儂なんか歯もたたん、もしかすると宮廷魔術師とも比較にならんかもしれんくらいの魔力がの。
じゃが、魔力放出量。これがアベルにはほとんどない。攻撃にも使えん基礎の魔術が使えるか使えんかくらいの放出量じゃ。」
「…。」
何も言えなくなった。
女神はそんなこと言わなかったじゃないか。もっと別の能力にしておくべきだった。この7年間は一体何だったんだ。
頭の中でまとまりきらない思考がぐるぐると駆け巡る。
「爺さん、もういい。アベルは頭がいいやつだ。
そこまで言わなくても理解している。」
「…儂は1週間この宿に滞在するつもりじゃ。この1週間は特に予定もない。
もし基礎の魔術について教わりたくなったらここを尋ねるといい。」
ローウェルさんはそう言ってメモを残し冒険者ギルドから立ち去った。
「アベルくん…。」
「…俺、帰りますね。」
アンナさんに声をかけられるが、今は何かを話す気にはなれない。
ギルド内で話を聞いていた冒険者たちもいなくなっていた。
聞いてられなかったんだろうなぁ。
他人事みたいに考えながら孤児院までの道を歩いた。




