第1章5話 『魔術』
椅子に座って待つこと30分。
ギルドマスター室に入った魔術師の老人が中々出てこない。
「アベルくん、魔術師さんは逃げないから落ち着いて待とうよ。
ずっと魔術について知りたいって言ってたから気持ちはわかるんだけどさ。」
アンナさんが俺の前に座り呆れたようにそう言う。
自分では気づいてなかったが、ずっとそわそわしていたらしい。
「さっきちらっとギルドマスター室から話が聞こえてきたんだけど、1週間はこっちに滞在するみたい。」
「そんなにこっちにいるんですか!」
本部の冒険者だからすぐにでも戻るのかと思っていたがそうではないようだ。
さすがに1週間丸々俺に時間を割いてくれるとは思っていないが、1日くらいなら時間を作ってくれるかもしれない。
「もうすぐ、12歳になるし、冒険者になる前に魔術師さんと会う機会ができて良かったね。
…まぁ、アベルくんはその前にセレーネさんを説得しなきゃだけどね。」
「うっ…。」
未だに俺はシスターを説得できていない。
冒険者になりたい、と言う話をすると不機嫌になり話を聞いてくれないのだ。
「まぁ、セレーネさん頑固だからね。中々説得難しいと思うけど頑張って。」
「はい…。」
難攻不落のシスターをどうやって攻めるか考えていると、ギルドマスター室からギルマスと魔術師の老人が並んで歩いてきた。
「ほら、あそこの小さいのが魔術師に憧れてるやつだ。
色々教えてやってくれ。」
「さっき声をかけてくれた少年じゃな。
儂はローウェル、魔術師をしておる。」
「はじめまして!アベル・グラントです!」
「アベル、お主は魔術師になりたいそうじゃな。」
「はい!魔術師になって冒険者として活躍したいんです!」
ローウェルさんは目を細めて笑う。
「そうかそうか。いい夢じゃのう。そう言うことであればこの老骨が多少は力を貸せるのう。」
ローウェルさんは俺とアンナさんが囲んでいた机に座る。
「まずは魔術師としての素養があるかどうか、これが大前提になる。
アベル、手を出してみなさい。お主の素養を確認させてもらおう。」
「わ、わかりました。」
ドキドキしながらローウェルさんに向かって手を差し出す。
女神の話が確かなら、俺には膨大な魔力がある。
ならば心配する必要はないだろう。
ローウェルさんは俺の手を掴み目を閉じた。
「おっ…おぉ!」
ローウェルさんの反応に俺はもちろん、ギルマスやアンナさん、ギルド内にいた冒険者も耳を傾けていた。
「おっ…んん…?ほぉ…。」
1分くらいしてからローウェルさんが目を開ける。
「…残念じゃがお主、才能がないのぉ。」
ローウェルさんが俺にそう告げる。
「い、今なんて言いました…?」
恐る恐るといった感じで聞き返す。
「じゃから、才能がない。お主、魔術は使えんよ。
…まぁ、なんじゃ。魔術だけが戦う方法ではない。魔術が使えるから強いというわけではない。他にも強くなる方法はいくらでもある。
儂も若い頃は…。」
ローウェルさんが自分の若い頃の話を長々と始めた頃から、俺の耳にはローウェルさんの言葉が聞こえていなかった。
ふ…ふ…ふざけんなあのクソ女神ィ!




