974:星々の彼方
降り注ぐ星々を逸らしながら、前へ前へと駆けてゆく。
打ち消すという手間が省ける分、接近に意識を集中できるのは大きなメリットだ。
無論、面による攻撃には流石に対処せざるを得ないが――その密度が薄い部分が目の前に来るように調整してやれば、容易く刃で斬り裂くことができる。
その先に見えたマレウスは、どこまでも嬉しそうに俺のことを観察していた。
理解が及んでいないのだろう。その未知が、奴を高揚させてしまっている。
(いいだろう、そのまま余裕ぶっていろ――)
歩法――烈震。
道が開けたその刹那に、一気に距離を詰める。
大公級にしておよそ三体分にも匹敵するリソースが収束した天狼丸は、マレウスにとっても脅威ではあるのだろう。
俺の攻撃を防ぐように、己の前面に星雲を展開した。
そこから放たれる無数の光線は、まるで針のように俺の行く手を遮ろうとする。
尤も――それらは全て、俺を掠めるようにして通り過ぎて行ったが。
「どうやって――ふふふっ!」
「余裕ぶっていられる状況か!」
広がった星雲を裂き、その向こう側にいたマレウスをようやく攻撃圏内に納める。
しかし、マレウスは即座に己の体を星の光で包み込み、後方へと向けて転移してしまった。
どうやら、天狼丸で攻撃を受けることが拙いと判断したのだろう。
それは同時に、天狼丸の攻撃は奴にとっても有効であることを示していた。
「素晴らしい。ですが、貴方は良くても他の者達はどうでしょうか?」
マレウスの言葉通り、俺は奴の攻撃を回避できていても、他のメンバーはそうではない。
今も、後方の面々は降り注ぐ星雲の攻撃に晒されていた。
けれど、あの場にいるのはアルトリウスだ。
動作の停止などという手段を用いられない限り、アルトリウスが状況を対処しきれないとは考えていない。
それに――
「ベル、援護に回れ!」
『ええ、勿論です!』
放たれるのは、《軍勢の守り手》の光。
この星空の下に集った仲間たちは、全てがその光に照らされ、強力な守りの力を得る。
タンクたちは、無数の攻撃に晒されながらもその力によって耐え抜き、後方の仲間たちを守っている。
その中央で、アルトリウスは反則ともいえる手段を持つマレウスを相手にしても、一歩として退くことは無かった。
それどころか、僅かな隙を見出しながらマレウスへと攻撃を飛ばしている。
星雲による防御によって防がれてはいるが、それでも多少はマレウスの手をある程度塞いでいることは事実であった。
「お父様、もっと先へ!」
マレウスがアルトリウスたちの攻撃を防いだ刹那、その隙間を縫うようにルミナの閃光が奴を射抜いた。
それは僅かなダメージでしか無いだろうが、眼前で弾けた光の魔法は刹那の間とはいえ奴の視界を塞ぐ。
歩法――烈震。
その刹那に、俺はマレウスへと向けて一気に距離を詰めた。
掬い上げるように放つ一閃は星雲を斬り裂き――その隙間から、緋真の放つ炎が槍となってマレウスに直撃する。
炎が爆ぜると共に奴の視界を塞ぎ、その刹那に俺はマレウスの死角へと大きく踏み込む。
「しッ!」
斬法――剛の型、輪旋。
大きく弧を描き、胴を両断しようと放つ一閃。
マレウスは全方位に星雲を展開して俺を牽制しようとし――それらをあっさりと貫いて、天狼丸の一閃が襲い掛かった。
「――――ッ!」
星雲を破壊された位置からこちらを割り出したであろうマレウスは、その場から大きく跳び離れようとする。
しかし、それを抑えたのは緋真の放った火球であった。
反対側から直撃したその魔法は、一瞬ではあるがマレウスの動きを制限する。
そして、その刹那――俺の放った一閃は、マレウスの脇腹を大きく斬り裂いた。
「……!」
刹那、ノイズが走るようなエフェクトと共に、マレウスの身に刻まれていた傷が消失する。
まるで攻撃が効いていないようにも思えるようなエフェクトだが――俺の目は確かに、マレウスの表情が苦痛に歪んだ瞬間を捉えていた。
マレウスは、確かにシステムの外側にいる怪物であるかもしれない。
だがそれでも、こいつ自身の矜持が勝利の方法が無いという不正を許さない。
ならば、正面から堂々と打倒してやるまでだ。
「っ……やはりその武器は、反則ですね」
「テメェが認めた武器だろうが」
己自身ではなく、武器に対して極限までリソースを収束させる。
その手段は、マレウス自身も認め、活用してきた方法なのだ。
今になって、それが認められないなどという戯言は道理が通らないだろう。
それに、今更その方法を封じてこようとしたところで、干渉を避けてしまえば済む話だ。
ジジイに天狼丸の使用を認めた時点で、これが牙を剥いてくる展開は避けられなかったのである。
「ふふ……ならばこちらも、もう少し本腰を入れるとしましょうか」
瞬間、マレウスは周囲に星雲を纏って空中へと浮かび上がった。
渦を巻く星々が宙を舞い、奴の掲げた腕へと向けて収束していく。
膨大なまでの魔力の気配。これが周囲へと放たれれば、俺はともかく他の者達が無事では済まないだろう。
ならば――
「《獄卒変生:黒縄熱鎖》!」
種族スキルを発動、額から角が伸びると共に、左手には黒い鎖が顕現する。
それを伸ばしてマレウスの右腕を絡め取った俺は、地を蹴って一気に跳び出した。
しかし、マレウスはそれに焦ることなく、もう片方の手をこちらへと向けてくる。
俺の対応を読んでいたのだろう。この距離ならば外すことは無いと、その左手に収束した光は空中にいる俺へと放たれ――俺のすぐ横を掠めて、虚空を貫いた。
「ッ、この距離でさえ!?」
そもそも、俺という存在の位置を誤認している状態なのだ。
どのような攻撃であったとしても、俺が『不羈』の理を使用している以上、マレウスは正確にこちらを捉えることはできない。
そして、マレウスがその衝撃から立ち直るよりも早く、《空歩》によって虚空を蹴った俺は、天狼丸の一閃によってマレウスの腕を斬り飛ばした。
吹き飛んだ腕は宙を舞い――収束していた魔力が暴発する。
それに合わせて天狼丸を振るい、己に襲い掛かろうとしていた衝撃波を打ち消して、俺は再び《空歩》を使って飛び出した。
同じく魔力の衝撃波に晒されていたマレウスは、地面に向けて墜落するように吹き飛んでいる。
地上へと落下していくその体は再びノイズに包まれ、先ほどと変わらぬ無傷の体が出現した。
(攻撃が通じていないわけじゃないが、全回復もされているのか?)
どれだけダメージを与えても回復されてしまうのは厄介だ。
やるとすれば、一撃で殺し切るような攻撃を当てることだが――さて、果たして天狼丸の一撃でも殺し切れるのかどうか。
だが、確実に痛みは与えられている。俺の攻撃が、全く通じていないわけではない。
ならば、やることは単純だ。
「死ぬまで殺し続ける」
「流石は、私の見込んだ新たなる人類! ならば――まだまだ、乗り越えてくれるでしょう!」
地に着地したマレウスは、両腕を広げて大きく構える。
その刹那、周囲に広がる星雲は、更なる変貌を遂げた。
それは正しく、銀河と呼ぶべき星々の渦。
そこに、果たしてどれほどの力が込められているのか、見た目からでは想像することもできない。
眩い星々を頭上に浮かべたマレウスは、どこまでも愉しげに俺へと向けて宣言する。
「さあ、魅せてください。貴方の、更なる輝きを!」
どこまでも、人間の可能性を妄信する、その確信に満ちた表情。
唾棄すべきそれに殺意を燃え上がらせながら、俺はマレウスの次なる手へと向けて肉薄した。





