968:極限の一刀
書籍版マギカテクニカ13巻、1/19(月)に発売となりました。
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「怨嗟に叫べ――『真打・餓狼丸重國』!」
餓狼丸の刀身が、黒い炎を噴出させる。
白く輝いていた【三位一体】の刃すらも染め上げて、その鋭さを極限のものへと高めていく。
その気配に、ヴァルフレアは俺の方へと最大限の警戒を向け、その剛腕を振り下ろした。
魔力を帯びた爪による斬撃、そしてそこから吹き上がる黒い炎。
触れれば消し飛ぶであろうその一撃に、俺は餓狼丸の刃を合わせ、前進した。
「はああッ!」
攻撃力が大幅に上昇した今の餓狼丸であるなら、それを斬り払うことも可能だ。
そして、《蒐魂剣》の力も含む【三位一体】は、破壊した魔力のエネルギーすらも吸収して攻撃力を上昇させる。
それと共に強く踏み込み、ヴァルフレアの懐へと潜り込み――横に振り払う拳の一撃を、身を深く沈みこませて回避する。
それと共に放つ一閃は、ヴァルフレアの踵へとその刃を潜り込ませ、腱を断ち斬って見せた。
(まだだ――)
がくりと、ヴァルフレアの体が沈む。
あっという間に再生させられる程度のダメージであるとはいえ、構造上アキレス腱を斬られて動きが鈍らないはずがない。
その体が沈んだ隙に、俺はヴァルフレアの背後側へと回りこんだ。
翻した一閃は、背中からヴァルフレアの肩口を斬り裂き――俺はそのまま、後方へと跳躍した。
「チッ」
鋭く穿つような後ろ回し蹴り。
その一撃を紙一重で回避しながら、俺は黒く輝く餓狼丸を構え直す。
ベルの発動した《ラグナロク》によって、ヴァルフレアのステータスは大きく減少している。
そうでなければ、今の攻撃を避け切れるかどうか。
それだけの弱体化を重ねてなお、これほどの怪物なのだから恐ろしい存在だ。
(――もう、少し)
ヴァルフレアの注意がこちらに向いた瞬間に、緋真が刃を翻して跳躍する。
炎を纏い、二つに分かれた刃の一撃。
ティエルクレスの刃たる【双穹】は、緋真の振るう二刀へと宿り交差するように振り下ろされた。
鋭い剣閃であるが、しかしヴァルフレアの身には僅かに傷をつける程度。
だが、吹き上がる爆炎が、ヴァルフレアの体勢を僅かに傾かせた。
歩法――縮地。
その炎に隠れるようにしながら、再び接近。
黒く輝く餓狼丸の切っ先を、ヴァルフレアの喉笛へと向ける。
しかし、ヴァルフレアは体勢を崩したままにこちらへの迎撃を選択した。
握り締められた拳が、黒い炎を纏いながら振り上げられる。
刹那――
「付け直しよ」
再び姿を現したアリスが、ヴァルフレアの首に刻まれた赤い紋章に、再び刃を突き立てた。
時間経過で消える筈の紋章は再び刻まれ、アリスはすぐさまヴァルフレアの肩を蹴って再び姿を消す。
不意打ちとなったアリスの攻撃は流石にダメージが通ったようで、ヴァルフレアも僅かに動きが鈍り――俺は、振るわれたその腕の下に潜り込むように肉薄した。
そのまま、この怪物の脇腹に刃を滑らせ、そのまま奥へと走り抜ける。
その身に届いた刃は肉を裂き、生命力を奪い取って、餓狼丸の刃を更に研ぎ澄ませた。
(……ッ!)
しかし、それでもヴァルフレアが止まることは無い。
膨大な魔力が、黒い炎が、その爪に纏わりついて極大の斬撃と化す。
斬法――剛の型、輪旋。
その一撃に対し、俺は正面からの迎撃を選択した。
受け止めなければ、後方にいる味方に当たる。
この攻撃規模では、咄嗟に回避することは難しいだろう。
無論、俺が無事に済むとは限らないが――
「――止まれッ!!」
刹那、虚空から出現した黄金の鎖が、ヴァルフレアの右腕に纏わりついた。
それは、刻印を輝かせたルミナが放った魔法。
ヴァルフレアの剛腕とて、ルミナの持つ最大限の魔法であれば止めることは不可能ではない。
振り切られることなく、不完全な形で放たれた黒竜の爪は、餓狼丸の一閃によって受け止められ、その魔力を吸収した。
ここでルミナの刻印を使わされてしまったことは厳しい。だがそれでも、この僅かな時間こそが千金に値する。
「おおおッ!」
斬法――剛の型、白輝。
だが、それでも決めるにはまだ早い。
爆ぜるような踏み込み、神速で振り下ろす漆黒の太刀。
研ぎ澄まされた餓狼丸の刃は、ヴァルフレアの体をその鎧の上から斬り裂いて見せた。
だが、それでも、この怪物が斃れることは無い。感情の見えぬその顔に、ただ戦意と殺意だけを乗せて拘束の鎖を引き千切る。
刻印を使って尚、こんな短時間しか拘束することができないとは。
「本当に……大層な化け物だ」
あまりにも攻撃力が高すぎる上に、黒い炎が邪魔すぎる。
紙一重で回避しながら張り付き続けるのが理想なのだが、その攻撃力のせいでどうしても距離を取らなければならないのだ。
それが可能であったなら、もう少し早く事を進めることができていたのだろうが――
「それでも、決着は近い」
歩法――陽炎。
放たれる爪の攻撃を回避しながら、再びヴァルフレアへと接近する。
先ほどの攻撃によって更に威力を増した【三位一体】は、普通にヴァルフレアに通用するレベルの威力にまで高まってきている。
だが、それでも万全を期するべきだ。故に、限界ぎりぎりのタイミングを見極める。
ヴァルフレアの横合いへと潜り込んだ俺は、薙ぎ払う左手の一撃を更に接近しながら下を潜り抜けるように回避する。
次いで振り下ろされる右手は黒い炎を纏い、こちらを確実に仕留めようという殺意が込められていた。
「――――ッ」
風の勢の性質を強め、即座に加速する。
掠ることすら許されないその攻撃を、肉薄しながら潜り抜け――抜き胴の形で刃を走らせ、脇腹に一筋の傷をつけた。
そして反転、翻した刃は止まることなく、ヴァルフレアの左踵を斬りつける。
こちらへと体を向けようとした、その軸足を傷つけられてヴァルフレアの動きは揺らぎ、けれど即座に再生してその体を支える。
だが、それでも一手の時間を稼げたことは事実であった。
斬法――剛の型、鐘楼。
下から掬い上げるように放つその一閃。
直線的に伸びたその一撃はヴァルフレアの目を狙い、僅かな間だけではあるが左目の視力を奪う。
だが、俺はあえてその死角には回らず――
「クェエエエッ!」
横合いから閃いた雷光が、ヴァルフレアの頭を貫いた。
大きなダメージにはなり得ないだろう。ヴァルフレアにとっては、無視しきれてしまう程度のものでしかない。
けれど――死角からの攻撃は、奴に一瞬の躊躇を与えるには十分なものであった。
その一瞬の隙に、地を這う氷がヴァルフレアの下半身を固め、その動きを縫い留める。
コイツにとっては障害にすらなり得ない、ただの小石程度のものでしかないのだろうが――
「時間だ――【餓狼呑星】ッ!」
抜け出すための、ほんの一手の動き。
その僅かな時間、こちらがフリーで動けるだけでも十分だった。
完全解放の時間は一分を切った。ベルの《ラグナロク》の発動時間も似たようなものだ。
故に――この一刀で、全てを断ち斬る。
斬法――剛の型、白輝。
黒い炎を吹き上げる餓狼丸。
狙うは一点、アリスが付与した首筋の刻印。
黒い残光だけを宙に描く早太刀は、しかし防御のために掲げた腕によって阻まれ――
「おおおおおおッ!!」
その腕ごと、ヴァルフレアの首を斬り飛ばしてみせたのだった。





