967:覇者の頂
書籍版マギカテクニカ13巻、1/19(月)に発売となります。
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一つ一つが致死の一撃。その隙間を掻い潜るようにして、ヴァルフレアへと刃を届かせる。
餓狼丸の刃が黒く染まるほどに刃は届くようになり、そしてそれと共に【三位一体】も輝きを増す。
だが、一瞬でも気を抜けば途端に消し飛ばされるような綱渡りだ。
実際、ヴァルフレアからの反撃を対処しきれずに吹き飛ばされてしまった者もいる。
ヴァルフレアがあまり広範囲の攻撃を放ってこないため蘇生対応も間に合ってはいるが、かなりの勢いでこちらのリソースが削られてしまっていることも事実だった。
最後とはいえ、盛大な削り合いだ。油断をすれば、こちらの戦線が瓦解することになるだろう。
「――――ッ!」
歩法――陽炎。
振り下ろされる拳を、その拳圧に巻き込まれぬように注意しながら退避する。
溢れ出る呪いの炎に触れれば、こちらの体力を削り切るまで燃やされることとなるだろう。
ただの一挙手一投足が、数多の命を喰らい尽くす災厄となる。ヴァルフレアは、そういった類の化け物だ。
(唯一の救いは、動きが機械的だってことだけか……!)
その点については、第四の大公の領域で出現した敵と近い。
感情というよりも機能として、こちらに攻撃をしてきているように思える。
だからこそ、こちらの動きに対する反応は直感的だ。
故にこそ、相手の攻撃は読みやすいとも言える。
尤も、余波だけで吹き飛ばされるような攻撃力である以上、そうでなければとっくの昔に瓦解していただろうが。
(あのドラゴンの姿を出されていれば、とっくの昔に終わっているだろうな)
ドラグハルトと戦っていた時の、あの黒いドラゴンの姿。
あれで空中戦をされていたら、あっという間に戦線は崩壊していたことだろう。
できないのか、あるいはする気が無いのか。どちらにせよ、好都合であることに変わりはない。
緋真の振るった一閃が爆発を巻き起こし、ヴァルフレアの黒い炎を吹き散らす。
その隙に、俺は再び接近しつつ相手の脇腹へと餓狼丸の刃を走らせた。
「後、少し――」
ヴァルフレアの体力が膨大であるが故に、餓狼丸の刃は黒く染まり切りつつある。
コイツの体力総量は膨大だ。とてもではないが、この綱渡りの戦いを続けたまま削り切れるものではない。
やるならば一気に――それこそ、一撃で削り切るつもりでいかなくてはなるまい。
だが、ここいらが札の切りどころではあるだろう。
俺はヴァルフレアからの反撃を回避しつつ後退し、餓狼丸を構え直しながらベルへと告げた。
「始めるぞ、ベル」
『わかっているかとは思いますが――』
「ああ、十分間で決める」
俺の言葉に、ベルは僅かに嘆息を零す。
そして――その、最後のスキルを発動させた。
『終焉の笛は鳴り響く――《ラグナロク》!』
後退したベルが、大きく翼を広げて宣言する。
それと共に、彼女の白い翼が光り輝き、周囲へと向けてその輝きは拡散した。
降り注ぐ光は周囲一帯へ、敵も味方も関係なく羽を模りながら降り注ぐ。
それは、ベルにとって最後のスキル。発動中は動くことができず、他のスキルや魔法を使用することもできなくなる。
発動時間も十分間であり、一度途切れれば丸一日はクールタイムが続く、とにかく使い勝手の悪いスキルだ。
だが、その効果は――
「体が重いかよ、ヴァルフレア」
斬法――剛の型、刹火。
こちらへと振るおうとした腕が鈍るのを見つつ、その下を潜り抜けるようにしながら刃を振るう。
黒い芯に光の尾を引きながら、閃いた刃はヴァルフレアの胴へ確かに傷を走らせた。
その傷は、先ほどまでよりも明らかに深い。あっという間に修繕されていくものの、その生命力を奪い取ったことは間違いないのだ。
「実にじゃじゃ馬なスキルだ。本当なら趣味じゃないが……そうも言っていられんからな」
ベルの最後のスキルである《ラグナロク》。
その効果は、効果範囲内にいる味方に対してベルのステータスの半分を加算し、敵に対しては減算するという効果だ。
第五段階の真龍であるベルは、全てのステータスが三桁に近い数値となっている。
つまりは、全てのステータスが最低でも50近くは上昇することになるという、規格外もいいところな効果であった。
尤も、一気にステータスが上昇することでどうしても感覚のブレが生じる。
すぐに慣れるとはいえ、若干の時間は必要だった。
「……!」
ヴァルフレアは機械的な反応なれど、ベルによって引き起こされた事象であることは理解したのだろう。
ベルを止めるため、その意識を彼女の方へと向ける。
黒い炎は地を這う刃となって顕現し――それを、光を纏うシリウスの刃が斬り払った。
「グルルルル……ッ!」
ヴァルフレアの攻撃力は膨大だ。
そのダメージを防ぐために起動した《不毀》も、シリウスのMPを大幅に削ってしまっている。
だが、それでもシリウスは一歩も退かなかった。
この戦いの要が、ベルのスキルであることを理解しているが故に。
「【武具神霊降臨:経津主】!」
終わった後の大幅な弱体化など、今は考えない。
《神霊魔法》の持つ最大の呪文を発動しつつ、俺は再びヴァルフレアへと接近した。
輝く餓狼丸の刃は、今や常に防御力の貫通を付与された状態だ。
元々の攻撃力自体も大幅に強化されるため、今や餓狼丸の完全解放状態にすら届くであろう威力となっている。
その一閃は、ベルの方へと注意を向けていたヴァルフレアの首へと確かな傷を負わせて見せた。
血が吹き上がり――けれど、その傷はあっという間に修復される。
「一刀で断つには、まだ遠いな!」
削り取った生命力を喰らい、【三位一体】はさらに輝く。
俺の攻撃力を無視できるものではないと判断したか、ヴァルフレアの注意は再びこちらへと向けられた。
振るわれる腕には確かな殺意が宿り、爪を模った魔力とそれに伴う呪いの炎はこちらを確実に殺すために牙を剥く。
尤も――それが向けられるよりも早く、俺はヴァルフレアの懐にまで潜り込んでいたが。
「しッ!」
斬法――剛の型、刹火。
足は止めない。相手の攻撃のインパクトに合わせ、こちらも刃を振るいながら背後へと回る。
鎧の隙間を縫った斬撃はヴァルフレアの血肉を喰らい、更にその鋭さを増してゆく。
最後のテクニックたる【三位一体】に、攻撃力の限界は存在しない。
ヴァルフレアを斬れば斬るほど、その刃は鋭く研ぎ澄まされてゆく。
「――緋真ッ!」
「はいっ!」
ヴァルフレアが腕を振り上げる。
周囲をまとめて薙ぎ払うつもりであろうその一撃へ、緋真をインターセプトに入らせた。
紅蓮舞姫の刃は爆炎を纏い、その衝撃によってヴァルフレアの腕を上に逸らす。
それと共に、入り込んだ戦刃が撒き散らされた炎を喰らい、その大太刀の威力を大幅に高める。
「大人しくしなぁッ!」
振り下ろされた大太刀は龍の爪を顕現させ、ヴァルフレアは反撃のために腕を振るう。
互いの一撃は激突と共に衝撃を放ち――戦刃は、その衝撃を受け流しながら横へと回避した。
そしてその刹那、ユキの放った氷が一瞬だけヴァルフレアの足を固める。
「よくやった!」
斬法――剛の型、輪旋。
そして、大きく弧を描いて振るった刃が、ヴァルフレアの脇腹へと突き刺さる。
より深く食い込んだその一閃は再びヴァルフレアのHPを奪い、その輝きを増してゆく。
そしてそれと共に、俺は一旦ヴァルフレアの体を蹴って、その勢いで後退しながら距離を取った。
ヴァルフレアの放った反撃の拳はそれと共に回避して、俺は餓狼丸を正眼に構え直す。
「頃合いだ――行くぞ、餓狼丸」
握る柄が、胎動する。
吹き上がる炎が腕を這いあがり、頬を黒く染め上げてゆく。
「この五分間で、殺し切る」
その決意と殺意を込めて、俺は再びヴァルフレアへと向けて地を蹴った。





