965:塔の内部へ
書籍版マギカテクニカ13巻、1/19(月)に発売となります。
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休息を挟み、メンバーの状態を改めて確認し、立ち上がる。
完全回復とまではいかないが、大抵のスキルは再発動可能な状態まで持っていくことができた。
ちなみに、結構な時間を休んでいたのだが、別のプレイヤーがやってくることもなかった。
やはり、このエリアまでは後続の連中も辿り着けていないらしい。
「前のエリアで観戦していたプレイヤー、ボスの情報を共有していたみたいなんですけどね」
「まあ、アイツらは森の道中で苦戦している様子だったからな。あのボスを倒せたとして、この山岳エリアを攻略するのは難しいだろうさ」
飛行する魔物がいるというだけで、このエリアの難易度はこれまでとは比較にならないものとなる。
しかも飛んでいるのは、単純に強力な魔物であるワイバーンだ。
前のエリアで苦戦するレベルでは、このボスエリアに辿り着くことも難しいだろう。
ともあれ、俺たちの休憩を中断されなかったことは都合が良い。
しっかりと回復し、次なるエリアに臨むことができるのだから。
「さて……全員、準備はいいな?」
周囲を見渡しての言葉に、その場にいた全員が首肯を返す。
十分な休息は取れた。後は恐らく最後であろうこのエリアを、全てを出し切ってでもここを攻略するまでだ。
その決意と共に、俺は巨大な塔の前に立った。
入口自体が見上げるほどに巨大なそれは、しかし触れることも無く、俺たちが前に立った時点で自動的に扉を開き始める。
薄暗く、内部が見通しづらかったが、扉が開くと共にサイドにある篝火に火が灯り始め、その様相を露わにした。
「……? 何もない、のか?」
広い空間内には、特に何も見出すことができなかった。
まるで、巨大な筒が縦に突き立っているかのような構造。
登るための階段も見当たらないし、この内部で戦うということだろうか?
それなりに広さもあるし、天井が無いため空を飛ぶことも可能。
だが、全員が戦うには少々手狭に感じる広さでもある。
正直、このエリアで全力を発揮するのは難しいのだが。
そんな懸念を抱いていたところ、前に進み出たアリスが前方を指差しながら声を上げた。
「クオン、あそこ。中央よ」
「ん? 何だ?」
アリスの先導に従って塔の内部へと足を踏み入れる。
すると彼女の言う通り、塔の中央部と思われる場所には奇妙な物体が存在していた。
座布団ぐらいの大きさの出っ張りとでも言うべきか。
床まで含めて彫刻による紋様が施されていたが、そこだけ何も刻まれておらず、逆に目立っている状態だ。
「スイッチ、ですかね?」
「確かに、それっぽく見えるな」
軽く足で触れてみれば、確かに押し込めるような感触が返ってくる。
これを押せということだろうか。周囲を見渡しても他に何かがあるわけではないため、これを弄るぐらいしかやれることは無いようだが――
「アリス、他に何かないのか?」
「私のスキルでも、特に見つからないわね。これを動かすしかないみたいよ」
今いるメンバーの中で、最もレベルの高い《看破》系統のスキルを持っているのはアリスだ。
そのアリスが発見できないとなれば、やはりこれを動かすしかないらしい。
いまいち、どういう仕掛けなのかが分からないが――他にできることも無いなら、やるしかないだろう。
「要するに、コイツを押すしかないんだろ? じゃあやってみようぜ!」
「って、おい戦刃――」
他にできることが無いとなれば決断も早く、戦刃はさっさとスイッチに足を乗せ、止める間もなくそれを押し込んでしまった。
確かに他にできることも無いのだが、もう少し警戒をしてもいいだろうに。
苦言を呈そうと口を開き――唐突に揺れた地面に、すぐさま重心を落として刀の柄に手をかける。
しかし、周囲に敵の気配が現れる様子も無い。そして、その揺れの正体も、すぐさま明らかになることとなった。
「地面が、上がってる?」
「これ、やっぱりエレベーターでしたか」
同じく紅蓮舞姫に手を掛けていた緋真は、周囲を見渡しつつ納得した様子で頷いた。
どうやらその言葉の通り、俺たちが今立っている地面は上へと向かって移動しているようだ。
円形の足場は、周囲に輝く六つの光の帯に導かれるように、上へ上へと向かってゆく。
周囲の景色からして徐々に加速しているようなのだが、それによるGを感じることも無い。
その奇妙な感覚を味わいながら頭上を見上げていたところ、周囲の光の帯に変化が生じ始めた。
「何だ?」
「これは……映像でしょうか。フィルムのような」
遥か塔の先まで続いている光の帯。
それが、横に広がりながら映像を映し出し始めたのだ。
とりあえず近場にあった光の帯を確認してみれば、そこに映っていたのは一人の男に関しての映像だった。
黒い髪の偉丈夫――その姿は、纏っている服装の差異こそあるものの、あの時に目にしたヴァルフレアの人間体そのものであった。
「成程、ヴァルフレアの過去というか、経歴を表しているのか」
黒竜ヴァルフレア。生まれながらにしての強者。
この世に生を受けた瞬間からただ強く――それでいながら、貪欲に力を求め続けた怪物。
その信念は、抱いた理は『弱肉強食』の一言。
目の前に立ち塞がる者を倒し、その力を喰らってより成長していく。
それは、ある種の災害のような存在であったと言えるだろう。
「……エインセルがああなったきっかけの一体か」
かつてのマレウスの箱庭で、最後に生き残った四体のうちの一つ。
それはつまり、その箱庭に存在していた命を殺し尽くした存在の内の一体ということだ。
ヴァルフレアの行動には理由も何もない。
ただ、目の前に立ち塞がった存在を破壊し、喰らうという行動理念だけに従って生きてきたのだ。
最後に立っていたものが勝者であり、最も正しい存在である――その信条こそが、ヴァルフレアの存在を確立させた要因であると言えるだろう。
「他の大公はまだ背景らしい背景もあったようだが……ヴァルフレアは単純に災害みたいなもんだな」
アルフィニールは狂気に侵された異常者だった。
エインセルは立ち向かわなければならなかった王であった。
そして第四の大公は、己の剣のみに目を向け続けた修羅であった。
だが、ヴァルフレアはもっと単純だ。状況や狂気がヴァルフレアを大公としたのではない。
あの黒竜は、ただ強いからこそその高みまで昇りつめたのだ。
(だからこそ、あの強さか)
他の大公と比較しても、ヴァルフレアの力は別格だった。
あそこまで力を収束させたドラグハルトが、相討ちに近い状況でようやく倒すことができた怪物。
しかも、勝ちにこだわれば勝つ方法もあったのだから、ヴァルフレアの力は底が知れない。
今の俺たちでも、果たしてヴァルフレアに勝つことができるのかどうか――
(いや、今はそれはいい。考えるべきは、この先に待っている存在だ)
ヴァルフレアの映像記録を辿ると共に、エレベーターはどんどんと上空へ登ってゆく。
これだけの演出があるのだ。その先にいるのは、まず間違いなくこのダンジョンの最奥に位置するものだろう。
弱肉強食を理としたヴァルフレアのダンジョンならば、そこにはまず間違いなく戦いが待っている。
果たして、そこで待っている敵はいったい何者なのか――
「……もう、答えは出るか」
Gを感じないためわかりづらいが、エレベーターは徐々に減速してきている。
つまり、このエレベーターも終わりが近い。
このダンジョン最後の戦いの相手を、己の目で確かめることとしよう。





