963:鎧を超えて
書籍版マギカテクニカ13巻、1/19(月)に発売となります。
情報は順次、活動報告とツイッターにアップしていきますので、ご確認ください!
ご予約はこちらからお願いします。
https://amazon.co.jp/dp/4798640352
テクニックによって白く輝く餓狼丸の切っ先をバオウへと向け、地を蹴る。
シリウスと正面から殴り合っているバオウであるが、未だ目立ったダメージはあまり多くは無い。
まともに通ったダメージは、ダウンした瞬間に緋真が鎧の中へと叩き込んだ《臨界融点》ぐらいなものだろう。
正面から殴り合っていたシリウスの攻撃すら、大きなダメージには繋がっていないのだ。
それは偏に、この怪物の防御技術が巧みであるからだろう。
シリウスの《不毀の絶剣》すら初見で防いで見せるその技術は、まさに驚嘆に値するものだ。
(中途半端に削っている余裕はない。ここで殺し切る)
歩法――烈震。
深く前傾姿勢で地を蹴り、バオウの下へと一気に駆ける。
シリウスを警戒するバオウは、こちらに対してはそれほど大きな注意を向けていない。
今は餓狼丸も吸収が働いていないという点も大きいだろう。
現状、俺はあまりバオウに対してダメージを与えられていないのだ。
そして、俺の攻撃では奴に通じづらいという点も大きいだろう。
つまるところ、俺はバオウにとって警戒の対象ではないのだ。
「だからこそ、やりようはある」
必要なのは、いかにして攻撃を届かせるかという一点。
あの巨体を持つバオウには、どうしたところで致命的な部位への攻撃が行いづらい。
もう一度奴をダウンさせることができれば楽なのだが、そうそう上手くはいかないだろう。
今の状態で、攻撃を届かせるしかないのだ。
(こちらの警戒をさせないまま攻撃ができるのは一度が限度。それ以降は、シリウスと連携しながら隙を探る必要がある)
その一撃を与える際に、最も有効な部位はどこであるか。
即座にその判断を下して、俺はバオウへと肉薄する。
バオウの目はこちらを捉えてはいるものの、目の前のシリウスに集中している状態だ。
シリウスが消耗しつつあることも、バオウは既に把握しているのだろう。
今は、シリウスを仕留めることを優先しているのだ。
「ならば――」
接近したこちらを一瞥し、バオウは巨大な足で蹴りを放つ。
蜻蛉の構えのまま姿勢を低く、掻い潜るようにその一撃を回避して、俺はバオウの軸足へと肉薄した。
シリウスはそれに合わせるように接近し、相手の注意はそちらへと向けられる。
重心は軸足に乗ったまま、注意はシリウスに向けられ、こちらへの優先度を下げた状態。
――まさに、絶好のタイミングであった。
斬法――剛の型、白輝。
踏み込んだ足が爆竹でも鳴らしたかのように音を立てる。
足元の地面は爆ぜ割れ、その名の如く白い輝きだけを残したその軌跡は、鎧の足関節部分からその内側へと吸い込まれる。
そして――何の抵抗もなく通ったその刃は、バオウの左アキレス腱を一太刀の下に断ち斬って見せた。
『ガアアアッ!?』
流石にアキレス腱の断裂には多大な苦痛があったか、バオウは絶叫を上げながら片膝をつく。
それでも、視線と防御だけは外さぬままに大剣を構え、振り下ろされたシリウスの爪を受け止め、流してみせた。
その技量は驚くべきものではあったが、生憎と体勢が崩れていることに変わりはない。
そのまま叩き潰すように、シリウスは再び振り下ろした腕に強く力を籠める。
一方でバオウの力も負けてはおらず、足の力が入らぬままでもシリウスの力に拮抗していた。
「だが、おかげで斬りやすくなった」
動きを止めたならば、こちらにとってもやり易い。
どのような方法であれ、シリウスが動きを止めていられる時間はそれほど長くはないだろう。
その間に、バオウにとっては致命ともいえる一撃を叩き込む。
今の餓狼丸ならば、それも可能であるはずだ。
深く、意識を集中させる。
狙うは一点、相手の意識から外れているその場所。
バオウの技量は高い。そうであるが故に、警戒されている状態では攻撃を通すことは難しいだろう。
故にこそ、鎧に覆われているその場所こそが、奴にとっての死角となるだろう。
「――――」
バオウは、シリウスを押し返して立ち上がろうとしている。
だが、アキレス腱を斬られた足では上手く力が入っていないようだ。
であれば、奴の次なる手段は周囲の骨どもを操ってシリウスの邪魔をし、その間に体勢を立て直すといったところか。
――だが、その時間を与えるつもりはない。
斬法・奥伝――
「――狙うべき場所は、見えている」
――剛の型、鎧断。
バオウの膝を足場に肉薄、白く輝く刃の一閃は、バオウの脇腹へと突き刺さる。
そして、その刃はシリウスの《不毀の絶剣》が付けた傷へと寸分違えることなく突き刺さり――その鎧を斬り裂いて、内部にまで一閃を届かせた。
「おおおおおッ!!」
切っ先、その先端にまで神経が通っているかのような錯覚。
連動する肩から腰、そして足首に至るまで。全ての力を、余すことなく逃さずに、餓狼丸の刀身へと伝えていく。
そして――振り抜いた鎧断の一閃は、バオウの鎧の胴部と留め金を破壊して、その胸から腹部にかけてを外部に晒してみせた。
『――――ッ!?』
己の鎧が破壊されたというその事実に、バオウは驚愕と共に動きを止める。
無理も無いだろう。物理と魔法、どちらに対しても高い耐性を持っていたその鎧を、まさか上から破壊されるとは思っていなかった筈だ。
流石に動揺を隠しきれなかったバオウは動きを硬直させ、その隙に疾走してきた緋真の一撃が、バオウの腹部へと突き刺さった。
『――オオッ!』
炸裂する炎に押され、バオウはダメージを受けながら後退する。
だが、その視線は未だこちらを捉えたまま。
油断などなく、当然ながらその殺気が衰えることも無かった。
危機だからこそ周囲の骨たちも攻勢を強め、こちらを包囲するように迫ってくる。
守りを固めるのではなく、より攻めへと転じるその姿勢は敵ながら見事であった。
「……鎧が破壊されても、まだ防御力は高いですね」
「鱗はこっちで斬る。ダメージは通してやれ」
俺が地を蹴ると共に、強引に立ち上がったバオウは刃を振るう。
どうやら、俺に対する警戒はこれまでとは比較にならないレベルで高まっているようだ。
防御力と回避力、その両方を大きく減じたとはいえ、攻撃力についてはさほど変化していない。
奴の攻撃を対処し損ねれば、その時点でこちらは消し飛ぶことになるだろう。
歩法――陽炎。
急制動をかけることによってその攻撃を躱し、更に足場にしながらバオウへと接近する。
その体は非常に大きく、立ち上がっている状態では胴部に攻撃が届かない。
更にバオウは足を振り上げ、こちらを踏み潰さんと攻撃してくる。
シリウスが動きやすくなるとはいえ、笑っていられるような状態ではない。
「鎖よ!」
左手の鎖を伸ばし、鎧の残骸へと巻き付ける。
それと共に跳躍すれば、俺の身は勢いよく引き上げられてバオウの胴へと肉薄した。
腕に巻き付ければ、そのまま捕まって振り回されかねない。
俺は《空歩》を使って更に跳躍、こちらを振り払おうとした腕を躱し――
「はあああッ!」
斬法――剛の型、穿牙。
次の一歩で地を蹴って、餓狼丸の切っ先をバオウの胴へと届かせた。
先ほど斬ったことで更に攻撃力を増した餓狼丸は、強靭なバオウの鱗を容易く貫いてその肉へと到達し、血を噴出させながらその身を斬り裂く。
そして、そのまま落下しつつ体重を利用して大きく傷を広げ――入れ替わるように、炎を翼のように纏った緋真が宙を舞った。
「邪魔は、させないッ!」
まず振るうは左の篝神楽。
現れた竜の爪を模した炎は、振るわれたバオウの腕を迎撃する。
そして、次いで放たれた紅蓮舞姫の一閃は、俺の付けた傷を正確になぞるように振り下ろされ、バオウの身を内側から直接焼き焦がしていく。
しかし、それでもなおバオウは怯むことなく、着地した俺たちへとその巨大な刃を向け――
「――ルォオオオッ!!」
――空間を裂く一閃が、銀色の軌跡を宙に残し、駆け抜けた。





