962:牙の群れ
書籍版マギカテクニカ13巻、1/19(月)に発売となります。
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無数に姿を現した骨の怪物。
地面から這い出してきたそれらは、状況確認の様子すらなく即座に俺たちへと向けて襲い掛かってきた。
骨の形だけでは元の姿を察することは難しいが、どうやらワイバーン系の骨もいるらしく、皮膜も無いのに空へと舞い上がっている。
こちらに掴みかかろうと襲い掛かってきた人型の骨――恐らくはリザードマンらしきその個体の攻撃を回避しつつ、俺はその背骨を断つように刃を横薙ぎに走らせた。
(……成程)
骨の隙間を狙ったため、さして抵抗もなく断ち切れたスケルトン。
どうやら再生能力は持っていないらしく、地面に崩れ落ちた骨はそのまま動かなくなった。
そして刃に伝わるのは生命力と魔力の感覚。
どうやら、【三位一体】を構成している《奪命剣》と《蒐魂剣》の力が、それぞれ生命力と魔力を奪い取ったらしい。
「アンデッドとは違う、魔力で動いている生命体ってことか」
ただのアンデッドであれば、斬っただけで魔力を奪うことはできなかっただろう。
数の差、そして制空権での有利を埋められてしまった。
バオウ本体が強くなったというわけではないのだが、こちらの手数を封じられてしまうのは何とも痛い。
しかし――
「お前ら、魔法破壊を使え! こいつらはそれで崩せる!」
周囲に声をかけると共に、俺は地を蹴って駆けだした。
襲い掛かる骨の種類は様々。このエリアで見られるものもあれば、そうでないものも存在する。
特に知性らしきものは感じられず、ただ近くにいる相手に攻撃を仕掛けるだけの単純な存在だ。
故にこそ、俺にとっては都合のいい相手でもある。
斬法――剛の型、刹火。
こちらへと襲い掛かってきた骨の一撃を回避しつつ、餓狼丸の刃を同時に走らせる。
今の状態ならば、ただ斬るだけでこいつらを破壊することができる。
そして、その生命力と魔力を全て、【三位一体】の力にすることができるのだ。
ならば――
「お前の手勢、全て俺の力に変えてやるよ」
意識を加速し、更に駆ける。
相手は然したる戦力ではない。魔法を破壊しなければいつまでも復活するかもしれないが、再生できないならそれまでだ。
そういう意味では、【三位一体】を発動していたことは正解であったとも言えるだろう。
足首に噛みつこうとしてきたトカゲの骨を斬り、武器を持ったリザードマンの骨の攻撃を躱しながら前へと出る。
下から掬い上げるようにして放った一撃は、その首の骨へと突き刺さって斬り飛ばした。
奪い取った生命力と魔力、それらは全て【三位一体】の攻撃力へと変換され、更に鋭さを増していくのだ。
(とはいえ、後からも追加されるか)
シリウスがバオウの相手を受け持ってくれているが故に、他のメンバーは出現した骨の対処に専念することができている。
しかし、どれだけ倒しても、後から後から骨は追加されている状況だった。
つまり、互いに手が埋まっている状態。だが、こちらにはシリウスのMPというタイムリミットがある。
HPの消耗を防いでいる《不毀》の効果を発揮できなくなれば、遠からず戦況はバオウ側に傾いてしまうだろう。
故に、それまでに――
「この刃を、お前に通じるまでに鍛え上げる」
歩法――間碧。
骨の群れの内部へと、隙間を縫うように駆け抜ける。
それと共に走らせた刃は、骨の継ぎ目を穿ちその体を破壊していく。
少しでも早く、少しでも多く。こちらが音を上げるのが早いか、或いは餓狼丸が奴に通じるまでに高まるのが先か――
「ジジイと同じ結論ってのは気に入らんが、わかりやすい勝負じゃねぇか!」
笑みと共に声を上げ、餓狼丸の刃を振り下ろす。
リザードマン型はわかりやすい、こいつらは人と大して変わらない動きだからだ。
どこから持ち出したのかもよくわからない武器は受け流し、返す一撃がその身を断ち切る。
そのまま強く踏み込んで、餓狼丸の一撃を叩き込めば――その後に続いて飛び込んできていた獣型のスケルトンは、砕け散るように崩壊した。
斬法――剛の型、輪旋。
更に刃を反転、大きく踏み込みながらの薙ぎ払いは、当たるを幸いにとスケルトンの群れを一文字に断ち斬る。
普段であればテクニックを使ってより広範囲を攻撃しているところだが、生憎と【三位一体】を使用している状態だ。
残念ながら、今は広範囲を攻撃する手段は無い。
手っ取り早く一気に片付ける、とはいかないだろう。
「しッ」
歩法――縮地。
こちらへ攻撃を仕掛けようとしてきた大トカゲの骨へと先手を打って接近し、その前足を斬り飛ばす。
バランスを崩して地面に崩れたその骨へと、俺は餓狼丸の刃を断頭台の如く振り下ろした。
首の骨に食い込んだ刃は瞬く間にそれを斬り落とし、動き回る骨をただの骸へと還す。
より強い敵を斬った方が、それだけ多くの生命力と魔力を奪えるのだ。
可能であれば、強敵を斬った方が効率は良いだろう。
であれば――
「狙うは大物、ってわけだ」
離れたところに見えている、大型のスケルトン。
サイズとしてはレッサードラゴン程度だろう。元となった魔物は何なのかわからないが、まず間違いなく亜竜であると思われる。
あの骨が持っている生命力と魔力は他の個体よりも大きなものであるだろう。
より多くの力を集めるのに、これほど都合のいい存在もあるまい。
無論、それだけ斬るのには苦労する相手だろうが――
「シリウスの邪魔をされても面倒だから、な!」
近くにいた骨を片手で斬り捨てながら、俺は鎖を伸ばして大きく跳躍する。
骨の群れのど真ん中、そこに餓狼丸の切っ先を突きさしながら着地して、さらに深く身を沈めて周囲一帯を薙ぎ払う。
崩れ落ちる骨の群れを掻い潜りながら、姿勢を低くしてさらに先へ。
目指すは、その顔をシリウスの方向へと向けているドラゴンの骨だ。
「邪魔は、させるものかよ」
今、シリウスの戦いに横槍を入れられるのは避けたい。
あいつが崩れれば、この戦線は崩壊することになるだろう。
故に、あの骨は俺の手で破壊する。
歩法――烈震。
骨の群れを潜り抜けたところで、深く身を沈めて一気に加速する。
どういう感覚器官で動いているのかは知らないが、あのドラゴンの骨も俺の接近を察知した様子であった。
こちらへと空洞の視線を向けたドラゴンの骨は、唸り声を上げるように動きながらその腕を振り上げる。
レッサードラゴン程度のサイズとはいえ、人間よりも大きい怪物だ。
筋肉が無くともその膂力を受ければ、容易く吹き飛ばされてしまうだろう。
「一応、視覚はあるんだな、お前」
歩法――陽炎。
だが、その動きからして視覚で情報を得ていることは理解できる。
故にこそ、視覚を惑わす動きは、骨と化した怪物に対しても有効であった。
急制動をかけた俺の動きを捉えきれずに、骨の巨腕は地を叩く。
その肘関節へと向け、俺は餓狼丸の刃を正確に走らせた。
(こいつ相手でも、十分に斬れる!)
際限なく上がり続ける、餓狼丸の切れ味。まさか、このテクニックをここまで活かせる機会が訪れようとは。
肘関節を切断し、ドラゴンの右肘から先を地に落とす。
肉体があればこうはいかなかっただろうが、所詮は魔法で動いているだけの骨の塊だ。
魔法を破壊してしまえば、その接合も斬り落とされるだけである。
だが一方で、その一部を破壊しただけでは骨のドラゴンも止まらない。
痛痒を覚える様子もなく、ドラゴンはこちらへ食らいつこうと、未だ鋭い牙の残る大顎を開き――鎖を伸ばして体を引き上げた俺は、その頭上へと到達した。
「ドラゴンだろうが――さっさと、骸に還れ!」
骨の顎は空を切り、伸び切った首が俺の眼下に晒される。
その継ぎ目へと向けて、俺は正確に餓狼丸の刃を振り下ろした。
確かな手応えと、生命力と魔力の感触。切断されて地に落ちた首はそのまま転がり――体の骨もまた、バラバラになって崩れ落ちた。
そんな骨の山からは視線を外し、俺はシリウスの状態を確認する。
(残りMPは僅か。回復をしている余裕もない。ならば――)
そろそろ、あの怪物とも決着をつけるべきだろう。
その決意を固め、俺はシリウスと殴り合うバオウへと餓狼丸の切っ先を向けたのだった。





