957:関門
前方で立ち止まったアリスのところまで進み、全体を停止させる。
その先に広がっていた光景を目にし、俺は深く嘆息を零した。
デコボコと、いくつも突き出している岩が並んだ光景。それだけ見れば少々足場の悪い山の光景であるのだが――
「あれ、全部グレイヴリザードか?」
「全部じゃないわ。ただ、結構な数がいることは事実ね」
「……成程な。それで、上空にはあのワイバーンの群れか」
上を見上げれば、旋回するように飛行しているワイバーンたちの姿。
そのすべてを相手にしようとすれば、かなりの苦戦を強いられることとなるだろう。
つまるところ――
「ここは要するに、アイツらの狩場ってわけか」
幸い、傾斜はそれほどきつくはない。戦おうと思えば戦える相手だろう。
しかしながら、この数を一度に相手をすれば、どうしても消耗は避けられないだろう。
この先に進むにあたって、回復アイテムを消耗してしまうことは避けたいところではある。
「集合、作戦会議だな」
後ろを振り返ってそう告げれば、緋真たちに加え師範代たちもこちらへと寄ってくる。
顔を突き合わせて情報を共有し、俺たちは揃って眉根を寄せることとなった。
「別に勝てねぇわけじゃないんだけどな」
「しかし、見えている罠を相手に消耗するのも馬鹿馬鹿しい話だ」
好戦的な戦刃とはいえ、状況を分かっていないわけではない。
ここでの消耗は避けるべきである、という考えには同意を示していた。
その言葉に、巌もまた頷きつつも頭を悩ませている。
「上空のワイバーンだけを誘き寄せ、先に戦うのはどうでしょうか?」
「順当ではありますが……どの程度の距離を寄せるのかは微妙なところですね。中途半端ではトカゲたちが動き始めそうですし」
ユキの提案に対しては、水蓮がそのように言及する。
これに関しては俺も同意見だ。わざわざこんな形で待ち受けているのだから、それを崩すような真似をすれば何らかの反応を示すことだろう。
まあ、馬鹿正直に突っ込むよりはその方が可能性はあるだろうが――果たして、上手く行くかどうか。
「引き寄せることができたとして、距離を取りすぎて新しいワイバーンを追加されても意味が無い。試してみる価値はあるが、どこまで期待できるかは難しいところだな」
「ならどうするんだよ、師範。一気に広範囲をぶっ飛ばして、地上のトカゲ共を丸ごと薙ぎ払っちまうか?」
「……案外、それも悪くないかもしれんな」
力押しも力押しな戦刃の提案であったが、こちらにも一考の余地はある。
地上を一気に片付けることができるなら、後はこれまで通り上空のワイバーンに対処すれば良くなるからだ。
両方から一度に、大量の数に責められることが問題なのであって、その数を減らせるならば問題はなくなる。
尤も、そのための方法については考える必要があるだろうが。
「ふむ……多少は派手に魔力を使うことも考慮に入れるか」
消耗考えるとMPの消費も抑えたいところではあったが、今のところはポーションの数にも余裕はある。
変に長引くような戦い方をしても消耗することに違いは無いし、ここで一気に使うことも選択肢に入るだろう。
今のところ、作戦としては二つ――釣り出しか、範囲攻撃か。
どちらも選択肢としてはあり得るが、果たしてどうするべきか。
「水蓮、お前はどう考える?」
「要するに、地道に時間をかけて削るか、多少の消耗を織り込んで一気に削るか――という選択ですね。どちらもアリだとは思いますが、どの程度時間的余裕があるのか次第ではないですか?」
「時間の余裕ねぇ……それも微妙なところではあるんだがな」
果たして、俺たちにどの程度の時間的余裕が残されているのか。
聞いたところでその答えが返ってくるわけではないのだが、あまり時間をかけない方が都合がいいこともまた事実だろう。
であれば、多少消耗したとしても先に進むことにするべきか。
多少の回復アイテムを使うことになるとはいえ、全体から考えればまだまだ余裕のある数だ。
札を切って進むことも、時には選択する必要があるだろう。
「よし、それなら――地上は一気に片を付けるとするか」
正直、ここで足止めを喰らうのもあまり面白くない。
釣り出し戦法をするにしても、後から敵を追加されては意味が無くなってしまうのだ。
であれば、一気に殲滅した方がリスクも少ないだろう。
「攻撃するのは主に俺のテイムモンスターたちと緋真だが……他に参加できる奴はいるか?」
「お兄様、それであれば私が」
「そういえば、お前たちも魔法を併用した構成だったか。ああ、参加できる奴は参加していいぞ。ただ、消耗しすぎには気を付けろよ」
俺の言葉に手を挙げたのはユキだった。
確かに、薙刀持ちの彼女たちは魔法も伸ばしているスキル構成となっている。
全員が全員というわけではないのだが、どこか緋真を意識したステータスなのだ。
それであれば、魔法攻撃として参加することも可能だろう。
「よし、それじゃあ準備だ。攻撃した瞬間に相手も動き出すだろうから、残りの連中も戦う準備をしておけよ?」
他の門下生たちにはそう告げて、俺はテイムモンスターたちを呼び寄せる。
特に広い範囲と威力を誇るのはシリウスだろうが、他のメンバーたちとて引けは取らない。
この威力であれば、グレイヴリザード程度ならば一気に消し飛ばすことができるだろう。
まあ、あまり地形に破壊を及ぼさないようにしたいところではあるが。
「シリウスはブレス、ルミナとセイランは魔法だが……ベル、お前はどうする?」
『私のブレスは幅が狭いですから、魔法の方が範囲としては有効でしょう』
確かに、ベルのブレスはレーザーのような形だったか。
薙ぎ払うように撃てば広い範囲にも攻撃できそうだったが、効果が限定的になってしまうことも事実。
それであれば、素直に魔法を使った方が広い範囲に効率よくダメージを与えることができるだろう。
「よし、それじゃあ並べ。互いの邪魔をしないようにな」
地上にはシリウスとベルが並び、その頭上でルミナたちが飛行する。
ドラゴンの隣に並んだ緋真をはじめとする魔法メンバーは、グレイヴリザードの群れを前に範囲攻撃の準備を開始する。
そして――
「――放てッ!」
シリウスのブレスを皮切りに、全ての範囲攻撃が一斉に解き放たれた。
シリウスの放つ衝撃波のブレス、上空から降り注ぐセイランの雷、そして無数のレーザーを乱舞させるルミナとベルの魔法。
その隙間を埋めるように緋真の放った爆炎が薙ぎ払い、他の門下生たちの魔法も追従する。
まあ、緋真の魔法とユキの魔法はそれぞれ別の場所を狙っていたが――ともあれ、その範囲攻撃の数々は、まるで絨毯爆撃のようにグレイヴリザードの群れを蹂躙する。
その光景を目を細めながら観察し、俺はふと気配を感じて眉根を寄せた。
(……正解だったが、見通しが甘かったか)
やがて攻撃が止み、上空のワイバーンたちはこの攻撃に対して反撃のために接近してくる。
そして、それとほぼ同時――薙ぎ払われたはずの地上で、大きな気配が蠢いた。
えぐれた地面の中央、そこから姿を現したのは、グレイヴリザードを三周りは巨大化させたようなドラゴンの姿であった。
名前はグレイヴドラゴン。恐らく、というかほぼ間違いなくグレイヴリザードの上位種であろうその怪物は、怒りにその瞳を燃やしながら轟く咆哮を上げる。
「ォォオオオオオオッ!!」
「……アレも含めての罠だったか」
地上と上空、全ての数の暴力に加えて、あの化け物。
全てを相手にすれば、こちらもただでは済まなかっただろう。
思った以上に正解だったであろうこの選択に苦笑を零しつつ、俺は餓狼丸を引き抜き足を踏み出した。





