951:寄生竜樹トネリュド
トネリュドという名の、その魔物。
外見は、無数のツタや根が絡み合って構成された、巨大な蛇だ。
頭部だけは木のような質感で、その形状はドラゴンに近い。頭だけが西洋竜の蛇、といったイメージの造形だ。
尤も、その体は全て植物のツタや根によって構成されており、そもそもドラゴンどころか爬虫類なのかすらも定かではない。
何とも、奇妙な魔物であった。
「――っと」
その姿を観察していたタイミングで、横薙ぎに襲い掛かってきたツタの一撃を屈んで回避する。
真の姿を現したからとて、木に偽装していた時から攻撃の頻度が落ちるわけではない。
むしろ、隠す必要がなくなった分なのか、積極的に攻撃を仕掛けてくるようになったようだ。
鞭のように不規則な軌道を描くそれらを躱し、斬り捨てつつ、俺は少しずつトネリュドへと接近してゆく。
(寄生か。ブラッドトレントは寄生されていただけってことかね?)
そんなことを考えつつ足元に違和感を感じて跳び離れれば、俺がいた場所を木の根が貫いてゆく。
どうやら真の姿を現したとしても、地面の下からの攻撃が無くなるわけではないらしい。
面倒なことだが、元より攻撃が弱まることなど期待していない。それもあるということを念頭に置いておけばいいだろう。
「――『呪命衝』」
斬法――剛の型、穿牙。
攻撃を躱したそのタイミングで間合いの内まで入った俺は、トネリュドの頭へとめがけて《奪命剣》の槍を解き放つ。
黄金の光を纏いながら真っすぐと伸びた闇は、トネリュドの側頭部へと確かに突き刺さりその身を穿った。
流れ込んでくる生命力の感触は、明らかに先ほどよりも多い。
どうやら、今度はしっかりと攻撃も通じているようだ。
(とはいえ、あまり効いてはいないか)
今の一撃は、確かにトネリュドの頭部を刺し貫いていた。
しかし、急所と思われるその場所への攻撃でも、トネリュドには然したる痛手にはなっていなかった様子であった。
蛇の形をしているとはいえ、奴はあくまでも植物の塊。
どうやら、通常の生物にとっての弱点はあまり意味がない様子であった。
「……面倒だな」
頭上から襲い掛かってきたツタの一撃を回避し、次いで避けた方向から飛来した攻撃を戻した餓狼丸の刃で斬り飛ばす。
俺のスキルは、弱点に対する攻撃で発動する類のものも多い。
このまま適当に攻撃をしているだけでは、どうしても総合的なダメージは下がってしまうだろう。
それと、こうして攻撃に使われているツタについては、どれだけ斬ってもダメージにはならないらしい。
一体どうなっているのかと舌打ちしつつ、俺は餓狼丸を掲げて告げた。
「貪り喰らえ、『餓狼丸』!」
刀身が唸りを上げ、黒い闇が溢れ出す。
周囲の生命力を啜り上げながら攻撃力を増していく餓狼丸は、広く展開してくる植物にはよく効くことだろう。
どのように攻撃が通じるかは分からないが、まずは攻撃力を上げておく。
少しでも、この魔物に対するダメージを増やしておくべきだ。
歩法――間碧。
トネリュドの攻撃はひどく不規則で読みづらい。
俺でも完全に回避はし切れず、度々迎撃を選んでいるため、他の仲間たちにとってもやりづらいことだろう。
尤も、直撃を受けるようなことは無く、きちんと迎撃はできているようではあるが。
そんな攻撃の隙間を縫うように走り、俺は餓狼丸の刃を振るった。
「――『命餓一陣』!」
下から掬い上げるような斬り上げで飛び出した生命力の刃は、襲い掛かるツタを斬り裂きながら生命力を喰らい、巨大化する。
その後ろを追いかけるように、俺は深く身を沈めて地を蹴った。
歩法――烈震。
放ったテクニックが作り上げた、僅かな隙間。
そこに体をねじ込むようにしながら、トネリュドとの距離を一気に詰める。
流石に地面の下からの攻撃には対処できないが、それらが飛び出してくるのは俺が走り抜けた後の話だ。
「『呪命閃』!」
そうして接近したトネリュドの胴部へと向け、俺は上段から餓狼丸の刃を振り下ろした。
同時に展開された漆黒の刃は、ツタで構成された体を斬り裂きながら生命力を喰らう。
瞬間、色褪せて枯れ落ちていく体であるが、次の瞬間には盛り上がってきたツタによって体は修復されてしまった。
そして反撃とばかりに飛び出してきたツタと根の攻撃を、こちらも迎撃しながら走り続ける。
(生命力を奪えてはいるから、効いていないわけじゃない。だが……致命傷を与えるには程遠い)
弱点が不明という点が何ともやりづらい。
見た目は蛇だが、やはり植物の魔物なのだろう。
思えば、今までに相手をしてきた植物系の魔物も、全体的に弱点が分かりづらかった。
そういう時にどうしていたかと言えば――
『――弱点付与に集中するわ。攻撃はお願い』
――アリスのスキルによって、強制的に弱点部位を発生させていたのである。
後方から飛来した矢がトネリュドの胴体に突き刺さり、そこに赤い刻印が出現する。
スキルによって付与された点は、たとえ本来弱点ではない場所であったとしても、弱点部位として判定されるのだ。
「《練命剣》――【命衝閃】!」
歩法――烈震。
生成するのは生命力の槍。
長大な突撃槍と化した餓狼丸を携え、紅の刻印へと向けて一気に駆ける。
トネリュドの全体像は、シリウスすらも超えるほどの巨体だ。
その一点に対する弱点付与など気が付いてもいないのか、この怪物の反応に変化はない。
そもそも、あらゆる攻撃が脅威ではないと思っているのか、実に反応は鈍かった。
故にこそ――
「少しは、反応を見せてみろ!」
斬法――剛の型、穿牙。
強く地を踏み締め、流星の如く突き出した黄金の槍。
その一閃は寸分の狂い無く赤い刻印へと突き刺さり――
『――――ッッ!!』
その瞬間、トネリュドは声のない絶叫を上げた。
巨体でのたうち回り、周囲へと無作為にツタの群れを伸ばし続ける。
あらゆる方向から襲い来るその攻撃を回避しながら後方へと下がり、俺はトネリュドの動きを観察した。
今の攻撃は、確かにダメージが通ったようだ。どうやら、どのような攻撃も通らないというわけではないらしい。
「グルルルッ!」
そうして体勢を崩したトネリュドへと、暴れまわるツタを物ともせずにシリウスが接近した。
ツタも根も気にせずに突撃したシリウスは、その鋭い爪をトネリュドへと食い込ませながら押さえつける。
ダメージにのたうち回っていたトネリュドはそれを避けることはできず、地面に叩きつけられることとなった。
そのまま、シリウスは鋭い牙をトネリュドの体へと突き立て、そのツタを食いちぎり始める。
流石にこれは効くのか、トネリュドも暴れ回ってその拘束から逃れようとし始めた。
「流石に、あれには近づけんな」
シリウスの重量はかなりのものであるが、体格ではトネリュドの方が大きく、総重量でも向こうが勝っていることだろう。
それでも力が拮抗しているのは、相手を仰向けに押さえつけているが故だろう。
だが、それはあくまでも拮抗。シリウスが少しでも気を抜けば、トネリュドはすぐさまその拘束から抜け出してくることだろう。
可能な限り、今のうちにダメージを積み重ねた方がいいのだが。
――その刹那、ふと感じた悪寒に、俺は咄嗟に視線を走らせた。
「っ!?」
そして、襲い掛かってきたその存在に、俺は目を剥きながらも反射的に迎撃する。
それは、地面から襲い掛かってきた木の根ではない。
先ほど、俺が切り落としたツタの一部であったのだ。
見れば、地面に散らばっていたツタの一部が自ら動き始め、行動を開始していたのである。
「……どういう生き物なんだ、コイツは!」
――その言葉に応えるかのように、斬り落とされたツタたちは一斉にこちらへと襲い掛かってきたのだった。





