927:4つのダンジョン
とりあえずの事前準備は完了し、ダンジョンの内部へと足を踏み入れる。
外観では、単純に外壁に囲われた城といった印象だった。
まあ、その外壁に奇妙な文様が描かれ、それがゆっくりと明滅している辺り、演出にも凝っている印象であったが。
そこに魔法的な効果があるのかどうかは、専門家ではないので全く分からなかった。
ともあれ、外観からでは普通の城であったものの、開け放たれた入り口からは中を覗き込むことができない。
黒い渦のようなものが道を塞ぎ、奥の光景を遮っていたのだ。
「ふむ……上から飛び越えることはできないんだよな?」
「ええ、そのようですね。ドーム状の障壁に覆われているということです」
素朴な疑問に対し、水蓮は後ろからそう答える。
この壁の奥にある城がマレウスの本拠地であるというのなら、そこに直行できるような手段は封じられていることだろう。
まあ、それは仕方のない話だ。可能であれば手っ取り早かったが、最初から期待していたわけではない。
「とりあえず、入ってみることとするか」
ここで観察ばかりしていても始まらない。
今回はクランのメンバーもいるためスペースを取っているし、入り口で立ち止まっていても邪魔になるだけだ。
とりあえずはその黒い渦の中へと足を踏み入れ――その瞬間、周囲の景色が一変する。
「話には聞いていましたけど、こんな感じですか」
「ふぅん……」
そこに広がっていたのは、体育館ほどもあるような広いスペース。
すでに多数のプレイヤーがたむろしていたが、重要なのはその先にある五つの門だろう。
それぞれデザインの異なる門は、うち四つが開け放たれ、中央にある一つだけが閉ざされている。
順当に考えれば、あの先にマレウスが待ち構えているということだろう。
「成程、こんな感じか。あの四つの門が、例の大公に関連しているらしいダンジョンに繋がってるってことだな?」
「そういうことみたいですね。ということは……あの肉っぽい感じのところがアルフィニールですかね?」
「門までキモイわね」
緋真が指さしたのは、左端にある門。
その材質は、奇妙なものではあるが光沢のある肉のような物体であった。
アルフィニールと戦った今では特に疑問に思うこともないが、何とも悍ましい姿である。
他にある門は、黒地に対して金で装飾された豪華な門、同様に黒ではあるが装飾などは一切ない重厚な門、そして木造でどこか和風なイメージのある門となっていた。
「イメージではあるが、あの装飾されているのがエインセルだろうな」
「装飾がなくて重そうな門がヴァルフレアで……消去法で、あの木造のが例の四体目ですかね」
大公が情報元になっているという点が事実ならば、緋真が口にしたイメージでほぼ間違いはないだろう。
まあ、エインセルとヴァルフレアは若干当てずっぽうではあるが、おそらく合っている筈だ。
さて、それはそれとして――
「問題は、どう進めるべきか、だな」
「どのエリアについても、ある程度までは情報が出てきてますけど……どれもこれも難しそうですね」
さすがに出現から一週間もたっていれば、ある程度内部の情報は出てきているようだ。
尤も、攻略の報が無いという辺り、難易度も相応に高いのだろうが。
まあ、難易度が高いことなどは最初から分かっていた。どのようなものであれ、攻略する以外に道はないのだ。
「それぞれ、どんな内容になっているのかはわかるか?」
「そうですね……まずアルフィニールのところは、例によって大量の敵が出てくる感じのようです。物量が多いので中々進めていないみたいですね」
ある意味予想通りと言えば予想通りな状態に、思わず苦笑してしまう。
本人が退場した後でさえ、アルフィニールの性質は変わらないらしい。
ともあれ、そのエリアは継戦能力を要求されるということだろう。
「で、エインセルっぽいところは、爆撃を掻い潜りながら先に進んでいくエリアらしいです。塹壕の中を進んだりとか、そんな感じの」
「……嫌な思い出が蘇るな」
まあ経験がないわけではないのだが、どちらかというと軍曹たちの方が得意そうなエリアである。
正直あまり足を踏み入れたくないタイプではあるが、経験はあるためある程度有利に進めることはできるだろう。
正直軍曹たちに任せたいところではあるが。
「次は推定ヴァルフレアのところですけど、ここはオーソドックスなダンジョンスタイルみたいですね。どんどん地下に進んでいく感じの……ただ、全ての階層にボスがいて、それがかなり強いみたいです」
「ヴァルフレアの弱肉強食のイメージってことなのかしらね?」
純粋に戦闘能力を要求されるタイプのエリア。それはそれで、中々に興味深い内容だ。
しかし、オーソドックスなダンジョンとなると、探索にはそれなりに時間を要することだろう。
途中で撤退が可能なのかどうかも気になるところだ。
もしも徒歩でしか戻れないとなる場合、かなりの難易度になってしまうことだろう。
「で、最後のエリアなんですけど……発動系のスキルと魔法が封じられて、パッシブでしか戦えなくなるエリアみたいですね。他に比べてエリアの環境そのものは平和ですが、武器を持った人間っぽい存在が次々襲い掛かってくるとか」
「ほう……そりゃまた、妙なエリアだな」
四体目――即ち、ジジイが討伐した大公。
名前も能力も不明であるのだが、もしもそれが大公の能力であったというのなら、ジジイにとっては大層相性のいい相手であったことだろう。
当時からジジイが天狼丸にリソースを集中させるスタイルであった場合、その能力はほぼ影響を及ぼさなかった筈だ。
「なぁ師範、たぶん思ってることは同じだよな?」
「そう言われるのはちょいと癪だが……だが、恐らくそうだろうな」
ここまでの話を聞いて、俺たち久遠神通流が最も興味を持つエリアがどこであるか。
それは考えるまでもなく四つ目のエリアとなることだろう。
スキルを使わず、ただ己の武器と技術のみで戦う――まあパッシブスキルは有効という点はあるようだが、何にせよ俺たちにとっては何とも好みのエリアであると言えるだろう。
「本来であれば、四つのエリアそれぞれに分散して情報を集めながら進みたいと考えていたのですが……この状況では、四つ目に人気が集まりすぎますね」
全体のまとめ役を担っている水蓮であるが、こいつ自身も第四エリアに進みたいという欲求からは逃れられなかったらしい。
まあ、俺としても同意見である。この四つの中では、俺たちにとって実りのある戦いができそうな場所は四つ目のエリアに他ならない。
それに加え――
「ジジイだけが四体目の大公を倒したってのも気に食わん。まあ、本体はもういないんだろうが……その片鱗ぐらいは、俺たちも楽しませて貰うとするか」
「はははっ! そうだな、先代ばかりが楽しんでちゃいかんだろ!」
戦刃が同意し、ユキや巌もそれに首肯する。
そして後ろに並ぶ門下生たちも、どうやらこの意見に異論はないようだ。
こいつらも、自分たちの強みを生かすことだけでなく、自分たちにとって何が修行に繋がるかはよくわかっている。
久遠神通流全体として、やはりこのエリアを外すことはできないだろう。
「なら、決まりだな。まずは、四つ目のエリアを探索する。ジジイにばかり楽しませてやるものかよ」
「了解だ、楽しもうじゃねぇか!」
上機嫌で先陣を切って歩いていく戦刃の様子に肩を竦めつつ、その後を追う。
大公そのものとの戦いを経験できないことは残念ではあるが、その一端程度であればここで体験することもできるだろう。
この先に待つジジイとの戦いまでに少しでも研鑽を積んでおきたい――その足掛かりのために、利用させて貰うこととしよう。





