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Magica Technica ~剣鬼羅刹のVRMMO戦刀録~  作者: Allen
DH ~Dragon Heart~

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926:プレイヤーの変化











 最後のダンジョンと目される、マレウスの居城。

 その前には多数のプレイヤーが集まってきているが、その数は以前のイベントほどではないようにも思える。

 箱庭サーバの真実、そして移住計画――それらを知り、素直に攻略に興じられるほうがおかしいとも言えるので、この数はむしろ多いほうなのかもしれないが。

 ともあれ、ある程度の数のプレイヤーがこのダンジョンの攻略に乗り出してきていることは事実。

 真実を知った上で戦っている彼らは、ある種同志であるともいえるだろう。



「し……クオンさん!」

「おん?」



 到着してセイランの背中から降りたところで、声をかけてきたのは見知らぬプレイヤーであった。

 まあ、今までの戦いの中でちょくちょく見かけたことのある顔ではあるのだが、名前は知らない人物である。

 腰には剣とメイスを装備したあまり見ないタイプの青年であるが、そんな彼はこちらに対して会釈しつつ声を上げた。



「すみません、突然声をかけて。質問いいですか?」

「質問? まあ、構わんが」



 俺が最前線に顔を出すことなどそれほど珍しくもないと思うのだが、今更何を聞こうというのか。

 ――等と韜晦する意味もないだろう。この状況で、聞くことなど限られている。



「クオンさんは、今回の件ってご存じだったんですか?」

「ふむ、移住の件か?」

「は、はい。そのことです」



 そちらに関する話が来たかと、内心で呟きつつ目を細める。

 ジジイのことについて聞かれる可能性もあるかと考えていたのだが、そちらに関してはまだそれほど出回っていないようだ。

 アルトリウスが緘口令を敷いていたし、ある程度は効果もあるのだろう。

 まあ、それはともかくとして――さて、どう答えたものか。

 あまり関係者であることを知られるとアルトリウスの邪魔にもなりそうだし、ある程度は言い繕っておくか。



「いや、当初は知らなかったな。情報を知った時は驚かされたよ」

「そうなんですか。いつも最前線で戦っていたし、現地人に配慮してる方でしたんで」

「ああ、そういう見方もあるか」



 現地人に関する話は、今まさに議論の的になっている事柄でもある。

 何しろ、ただのAIだと思っていたのだが、自分たちもそれと全く同じ存在であったのだから。

 彼らに対して横柄に振る舞っていた存在は、そのしっぺ返しが戻ってきかねない状況となってきているのだ。

 まあ、先頭を走っていたアルトリウスが融和路線であったため、自然とそちら側に傾いていたプレイヤーが大半だったのだが。



「俺は最初から彼らのことを対等に考えていたからな。肉の体かデータの体かの違い……と言っていたが、まあ俺たちもデータの体だったわけだな」

「あはは……」



 俺の言葉に、青年は苦笑を零す。苦笑せざるを得ないのだろう。

 俺たちが信じていたものは完全にひっくり返されてしまった。

 それを信じられるかどうか、ということはかなり難しい問題であるだろう。

 むしろ、柔軟に受け止められる方が珍しい反応であると言える。

 その辺、どうも若い人間の方が早い傾向にあるようだが――背負うものの違いもある。それも、仕方のない話だろう。



「まあ何にせよ、移住を成功させなければ未来はない。どのような状況であれ、ここを攻略しないという選択肢はあり得ないな」

「……ですね。ということは、クオンさんたちもこれから本格的に攻略を開始すると」

「そうなるな。アルトリウスの方も、そろそろ本腰を入れるだろうよ」



 あいつはどうにも、会社関連で時間を取られてなかなか動き出せない状況だったようだ。

 とはいえ、流石にそろそろ落ち着いてきたし、本腰を入れてくることだろう。



「ま、そちらも頑張れよ。ひょっとしたら、英雄になれるかもしれないぞ?」

「はははっ、ありがとうございます!」



 軽く礼をして去っていく青年を見送って、思わず苦笑を零す。

 英雄など、碌なものではないだろうに。

 だが、それはそれとして、ここで得られる経験は貴重なものとなるはずだ。



(人類のために、最前線で戦った経験か。普通は与太話にもならんが、それが事実になる時が来るとはな)



 今この場に集っているプレイヤーたちは、様々な思惑を抱えていることだろう。

 ただゲームの延長線上として捉えている者、未来のためという使命感に駆られた者、世界に名を知らしめるという野心を抱いた者、生存を願って悲壮な決意を固めた者――この戦いに対する捉え方は千差万別だ。

 戦いに臨む理由など何だっていい。必要なのは、最後まで戦い抜くという覚悟だけなのだから。



「……案外、空気感は悪くないですね。もうちょっと切羽詰まってるかと思いましたけど」

「これで、こっちの世界サーバが本当に壊れかけのギリギリだったら話は別だろうが、幸か不幸かまだ余裕はあったからな」



 青年の背中を見送って、緋真は意外そうに眼を瞬かせた。

 俺たちの世界サーバは稼働率が落ちてきているとはいっても、まだ多少の余裕はある。

 少なくとも、一ヶ月以内に全てが崩壊するなどというほどの切羽詰まった状況ではない。

 今のところは、最前線が混乱するほどではないのだろう。



「エインセルとの戦いで長期戦を選んでいたら……どうなっていたでしょうね?」

「さてな……今の状況を肯定もできないが、否定することもできんかもしれんな」



 アリスの言葉に軽く嘆息を零しつつそう返す。

 この箱庭での戦いが今のように進んできた経緯には、俺たちが密接に関わっている自覚はある。

 俺たちが存在しなければ、今このタイミングでマレウスとの決戦に入ることはできていないだろう。

 そもそも、大公との戦い自体には入れていたかどうかすら怪しいところだ。

 その流れになっていた場合、果たしてマレウスと戦うまで俺たちの世界サーバを持たせることができていたのかどうか――もしもの話でしかないが、怪しいところだ。



「まあ、移住のことはそっちの連中に任せるさ。俺たちは、俺たちの仕事をするだけだ」

「……ですね。行きましょうか」



 まずは、『エレノア商会』の連中が設置した石板に登録を行う。

 負けるつもりはないが、いざという時のリスポーン地点や、帰還のスクロールの出現地点は更新しておいた方がいいだろう。

 さすがに、もう一度拠点からここまで移動してくる羽目になるのは面倒だからな。

 そちらの方へと足を運べば、既に『エレノア商会』の面々によって露店が開かれている状況だった。

 基本的には消耗品や装備の修理がメインだが、既に生産設備まで持ち込まれているらしく、割高だが装備の製造まで請け負っているらしい。

 この状況でも、実に商魂たくましいことだ。



(人が増えるとトラブルも出てきそうではあるが……まあ、エレノアがその辺りを警戒していないはずもないか)



 用意周到な彼女のことであるし、その辺りはきっちりと準備を整えていることだろう。

 あまり気にせず登録したところで、周囲を確認していた水蓮が戻ってきた。



「師範。簡単にですが、情報を集めてきました」

「仕事熱心だな。何かわかったか?」

「簡単にですが……どうやら今入ることのできる四つのダンジョンは、大公に関連したものであるようです」



 水蓮の言葉に納得し、首肯する。

 四つ入れるエリアがあるという話を聞いていたし、納得できる情報だ。

 問題は、それぞれの性質がどのようなものであるのか、そしてどうしたらそれを攻略したことになるのか、であるが。



「まだそれぞれのエリアをクリアしたプレイヤーはいないのか?」

「今のところは、確認できていないようですね。しても情報を秘匿している可能性はありますが」

「それは追及していても仕方ないからな。あとは自分の足で調べた方が早いだろうさ」



 いるかも分からない連中を探すよりは、自力で情報を集めた方が手早く済むだろう。

 果たして、どのような状況となっているのやら。

 自分の目で、確かめてみることとしよう。











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