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Magica Technica ~剣鬼羅刹のVRMMO戦刀録~  作者: Allen
DH ~Dragon Heart~

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911:最果てに在りし王 その12











「ずっと、考えていた。何ができるのか。何がしたかったのか」



 突如として視界がブレ、目の前の光景が変わる。

 エインセルへと刃が届く距離から、若干離れた場所へと。

 俺が先程までいた、周囲をエインセルの攻撃に囲まれた場所。

 そこに立っていたのは、ここに来る前に戦ったプレイヤー、月影シズクであった。



「お前……!」

「苦しかったけど、思い出したよ。俺は……アンタ達みたいに、活躍したかったんだ!」



 俺の姿が消えたことに、エインセルは僅かに困惑した様子を見せる。

 だが、攻撃の途中で目の前に出現した相手を逃すつもりもないのだろう、その砲門は迷いなくシズクへと向けて火を噴いた。

 その砲弾が着弾する、その刹那。シズクは、こちらを指差しながら不敵に笑い、叫んだ。



「出し抜いてやったぞ、『剣鬼羅刹』!」



 直後、エインセルの放った砲弾はシズクへと直撃し、その爆炎の中に彼の姿は消える。

 確か、どちらかと言えばタンク寄りの構成であったはずだが、それでもあの攻撃に対して無防備に耐えられる者は居ないだろう。

 爆炎の中、HPを全損させたシズクは光となって消滅し――その手に持っていた札が、燃え上がった。



「何ッ!?」



 刹那、虚空より顕れたのは漆黒の鎖。

 それらは、迎撃しようとしたエインセルの軍刀ごと、奴の体を絡め取って拘束した。

 エインセルへと中指を突き立てて消えてゆくシズクは満面の笑みだ。どうやら、ここまで狙っていた展開であったらしい。

 あれは、恐らくファムが用意した札だろう。あのクソアマ、持ち手の命と引き換えに発動する類のアイテムを持たせておいたらしい。



(俺がシズクを殺していたら発動していたってか。あの女、そっちに傾いたらどうするつもりだったんだ)



 或いは、俺がその選択肢を取らないと確信していたが故か。

 全くもって迷惑極まりないが、その選択が今こうして実を結んでいる。

 複雑な思いを抱きつつも、俺はエインセルへと向けて地を蹴った。

 命を代償とした呪術でも、大公を拘束できるのはほんの僅かな時間だけだろう。

 その間に、可能な限り有利な盤面を作らなくてはならない。

 ほんの一瞬で軋み始める黒い鎖に舌打ちしつつ、俺はエインセルへと肉薄して――それとほぼ同時に、馴染みのある気配が出現した。



「――『復讐神の宣誓ソング・オブ・ネメシス』」



 滲み出るように姿を現した、赤いフードの暗殺者。

 アリスは、完全解放の発動と共にエインセルの背後へと出現し、その刃をエインセルの首へと突き刺した。

 エインセル自身は当然のように耐えるが、それでも完全解放の発動条件は満たすことができたようだ。

 赤黒い紋様を全身に纏ったアリスは、拘束を砕いたエインセルから跳び離れて構える。



「クオン、こっちで隙を作るわ」

「……ふん、貴様程度に何ができる」



 攻撃を加えたにもかかわらず、アリスは姿を消すこともなくそう宣言した。

 対し、刺されたエインセルは不快そうな表情を隠しもせず、出現させた砲門をアリスへと向ける。

 今のアリスはそれを受けても死ぬことはないが、果たして何をするつもりなのか。

 エインセルから殺意を向けられたアリスは、しかしそれに恐れを抱く様子もなく、インベントリから一枚の札を取り出した。



「三枚目の札……効果は、バフの付与と増幅」

「強化した程度で、我に届くとでも思い上がっているのか?」

「ええ、勿論。だって――付与する効果は、『ヘイトの集中』だもの」



 そう告げて――アリスは、手に持った札を破り捨てた。

 瞬間、彼女の足元を中心に、八方へと向けて光の線が走る。

 これが、ファムの準備していたものだというのか。あれだけの時間をかけて準備したモノであれば、確かに効果はあるのだろうが――



(隠れて戦うことがメインのアリスに、ヘイト集中の効果だと?)



 本来であれば、タンクたちが使用するであろう効果。

 確かに、『復讐神の宣誓ソング・オブ・ネメシス』の効果の中であるならばそれも意味はあるだろう。

 しかし、ただそのためだけに、あれだけの時間をかけて用意をするものだろうか。

 そんな俺の疑問を他所に、アリスの使用した札は効果を発動する。

 タンクのプレイヤーたちが使うものとは比べ物にならないほどの、圧倒的なまでのヘイト集中。

 その効果は、展開された陣の内部に存在するすべての敵から、標的を移させるほどのものであった。



「ッ……!?」



 そしてそれは、エインセルとて例外ではなかった。

 俺へと向けられていた強力な敵意と殺意、それらが全てアリスへと移ってしまったのだ。

 デバフではなく、バフであるが故の効果。故にエインセルとてその効果から逃れられず――周囲で飛び交っていた火線の全てが、アリスへと向けて集中する。



「っ、アリスさん!? それはいくら何でも……!」



 解放を使用したアリスは死ぬことはない。

 だが、その衝撃もダメージも、余すことなく受け止めることになるのだ。

 故にこそ、緋真はアリスを案じて声を上げる。

 しかし、降り注ぐ爆炎の中、その隙間から僅かに見えたアリスは――確かに、笑っていた。

 これならば、確かに『復讐神の宣誓ソング・オブ・ネメシス』の効果は最大化することだろう。

 だが、違う。アリスの狙いは、そしてファムの狙いはそこではない。



「やっと、クオン以外を――私を見たわね、大公サマ?」



 爆炎の中で、その衝撃に晒されながら。アリスは、その目を見開いた。

 ――銀色に輝く、月の瞳を。



「――《月光祭壇:闇月》」



 それは、アリスの得た新たなる種族スキル。

 アリスにとっては切り札と言えるそのスキルの発動と共に、彼女の背後に銀色の月が浮かんだ。

 暗い夜空と、それに浮かぶ巨大な月。それを幻視させる月光の祭壇。

 その効果は――月の光を見たすべての敵に対し、強制的に『放心』の状態異常を付与すること。

 魔眼では目を合わせなければ発動しなかったその効果を、広域に対して適用するというものだった。

 コストは、1秒間の維持につき10%のMP消費。どれだけ長く維持しようとしても、十秒間が関の山というその効果――



「それでも、十分すぎる――そうでしょう?」

「ああ。見事だ、アリス」



 地を蹴る。アリスの見せる月の光に、完全に足を止めてしまったエインセルの背中へと向けて。

 アリスが、そしてファムが狙っていたのはただこの十秒なのだ。

 あまりにも短く、けれど大公エインセルを仕留めるには十分な、その時間。



「――【餓狼呑星】」



 テクニックにより白く輝いていた餓狼丸が、再び黒い炎に染め上げられる。

 その気配にすら、エインセルはこちらに振り返ることも無く――


 模倣――『唯我』。


 餓狼丸の切っ先は、吸い込まれるように真っ直ぐと、エインセルの背中を刺し貫いた。

 次元を断ち、エインセルという存在の内部すらも貫いて、ただその中心に座す王の命脈へと。

 ――今度は、それを遮るものは存在しなかった。全てが、月の光に魅せられてしまったが故に。



「……ここに、復讐は完遂せり」



 そして、アリスの身を覆っていた赤黒い紋章が、弾けるように姿を消す。

 その光は空を奔り、アリスへと砲門を向けていた全ての影たちを貫き、消滅させる。

 そして今度こそ、その影たちが復活することはなかった。



「……よもや、このような結果になろうとはな」



 エインセルは完全に静止していた。そうであるが故に、俺の剣もまたエインセルの存在を完全に捉えている。

 アルフィニールの時のように、中途半端に殺し切れないという事態にはならなかったようだ。

 俺が餓狼丸を引き抜くと共に、エインセルは軍刀を取り落とし――それでも、崩れ落ちることなく両の足で立ち尽くす。



「エインセル、一つ問いたい」



 そこに、コツコツと足音を立てながら最前線まで出てきたのは、先程完全解放の一撃で場の制圧を行っていたアルトリウスだった。

 この展開まで読んでいたから、コイツもそこで切り札を切ることを決意できたのだろう。

 何とも、あの女狐頼りな作戦になってしまったものだ。



「貴方がかつて経験した全ては、あの魔女によって仕組まれていた出来事の筈だ。ならば何故、貴方は――」

「――王に叛逆しなかったのか、か」



 アルトリウスの問いに、エインセルは振り返りながら笑みを浮かべる。

 それはどこか、自嘲じみた歪んだ表情であった。



「我が、総てを。ただ、無為な結果に終わらせることは赦されぬ。それが、最期に残った我が責務――王としての、責務だ」

「……王としての」

「王に成らんとする者よ。王たらんとする者よ。心するがいい――貴様が背負うべき、責務をな」



 ただ、静謐にそう告げて――エインセルは、光の粒子となって消滅したのだった。



『――ワールドクエスト《最果てに在りし王》を達成しました』











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― 新着の感想 ―
ファムの深謀遠慮もなかなかチートですねぇ…… この展開を読んでいたのであれば、アリスに渡した札の方はともかく、 シズクに渡した札は使い方次第じゃクオンが窮地に立っていたわけで…… しかし、アリスの種…
シズク・・・シズク!!!まじシズク!!! 今回の戦いもとてもよがっだ。。。
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