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Magica Technica ~剣鬼羅刹のVRMMO戦刀録~  作者: Allen
DH ~Dragon Heart~

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908/956

902:最果てに在りし王 その3

書籍版マギカテクニカ12巻が7/18(金)に発売となります。

発行部数が厳しくなってきておりますので、ご購入、レビュー、巻末アンケート等、応援をよろしくお願いいたします。

https://amazon.co.jp/dp/4798638692











 奇妙な状況ではあった。

 強大な力を持つ公爵級悪魔のレヴィスレイトや、その後ろに控えるアルファヴェルム。

 そして、真龍であるシリウスやベル――これほど強力なメンバーが揃っているというのに、エインセルはただ俺にだけ強力な敵意を向けてきていたのだ。

 まるで俺を近づけさせんとするかのような、激しい火砲の数々。

 その集中砲火に晒されながら、俺はその向こう側にあるエインセルの視線を感じ取っていた。



(あの影を斬ったから、ってのは間違いない。エインセルの中にある本体ごとだったのが重要な要素なんだろうが……)



 あの影は、エインセルにとってそれほどまでに重要なものだったのだろうか。

 たとえ一体が倒れたとしても、次の瞬間には別の個体が出現し、即座に穴埋めされてしまう程度のものだと思っていたのだが。

 あれらは、果たしてエインセルにとってどのような存在なのか。



(分からんが、あの影を完全に破壊することはエインセルにとって痛手だということは間違いないか)



 数多の影を出現させ、俺へと集中砲火してきているエインセルは、俺を影たちに近づけさせないようにしているようにも感じる。

 弾幕を張り、俺を接近させないことに注力しているのだ。

 それほどまでに、俺に影を斬られることを恐れているとも考えられる。

 であれば、再び同じ手を用いて攻撃を行いたいところではあるが、生憎とあれはただ『唯我』で斬ればいいというものではない。

 右手の篭手、エルダードラゴンの力が無ければその本質まで届かせることができないのだ。



(エインセルは恐らく、俺がどうやってさっきの攻撃を行ったのかは分かっていない。だからこそ、可能な限り近付けないように立ち回っている)



 そうなると少々難しい。エインセルは、俺があの攻撃を行えるから警戒しているのだ。

 簡単に使えない攻撃であるとバレてしまっては、俺に対する警戒が薄れてしまう。

 今、俺が奴の警戒を請け負っているからこそ、他の面々が自由に動けているのだ。

 これが無くなってしまえば、戦いはより難しくなってしまうことだろう。



「どうしたもんかね、これは……」



 思わず舌打ちを零しつつ、こちらへと向けられた攻撃を回避していく。

 こちらの攻撃は影たちを散らしはするものの、それに対してエインセルが反応することはない。

 やはり、『唯我』による攻撃以外は通じていないようだ。

 これだけの戦力が揃っていながら、エインセルに対して有効な手段を持っているのが俺だけというのはいただけない。

 何とかしたいところだが――そんな歯がゆい思いを吐き出したその瞬間、離れた場所で爆発的な熱量が出現した。



「――『紅蓮舞姫・灼花繚乱』!」



 逆巻く炎の内側から現れたのは、炎の衣を身に纏う緋真だ。

 右手には紅蓮舞姫を、左手には篝神楽を。紅蓮に燃え上がる二刀を手に、緋真は影の群れへと向かって行く。

 当然、影たちはその迎撃のために銃槍を放ち――緋真が放った炎は、それらを全て空中で焼き消して見せた。

 さらに、地面を舐めるように広がったそれは、銃槍を構えていた影たちをまとめて炎で包み、焼き払っていく。



「……チッ」



 ほんの僅かに、エインセルの舌打ちが耳に届く。奴もまた、緋真の狙いを理解したのだろう。

 何故なら、緋真の放った炎は影たちを焼き尽くしただけで消えることは無く、そのまま周囲を燃やし続けていたからだ。

 補充のために現れた影たちは、そのまま炎に焼かれて次々と消滅していく。

 根本的な解決手段でこそないが、耐久力の低い影を相手にするには有効な手段であった。



「邪魔をするな、小娘」

「するに決まってるでしょう、戦なんだから」



 放たれる爆撃が炎を吹き飛ばし、それを上書きするかのように紅蓮の炎が放たれる。

 エインセルの消火手段が『可燃物を吹き飛ばす』以外に存在しないなら、際限なく炎を放てる緋真の方が有利だろうか。

 破壊力同士の鼬ごっこ、際限のない蹂躙の応酬。

 だが、緋真は周囲に炎を広げることに集中しているため、エインセルへと接近することはできないようだ。

 ならば――



「――ギアを上げていくとするか」



 久遠神通流合戦礼法――終の勢、風林火山。


 意識を一気に加速させる。

 緋真が広範囲に延焼させたことで、俺への攻撃の圧力は減っている状態だ。

 現状、右手の篭手のクールタイムは終わっていないため、もう一度先程の攻撃は行えない。

 だが、エインセルへと圧力をかけていくには絶好の機会だろう。


 歩法――陽炎。


 揺らめく炎の中を、一気に駆け抜けていく。

 圧倒的な熱量ではあるが、こちらに対してはその影響を発揮しない。

 目指すは炎の向こう側、忌々し気にこちらへと構えているエインセルだ。

 緋真の攻撃は有効ではあったものの、残念ながら俺から意識を外すほどではなかったようだ。



「――Panzer」



 エインセルの足元より、影が這い上がる。

 姿を現したそいつらが手に持っているのは、長大な火砲。

 率直に言えばロケットランチャーの類であった。



「チッ」



 間髪入れず発射されたそれに、俺は舌打ちと共に強く地を蹴る。

 外見は俺の知るものではなく、どの程度の性能なのかまでは把握できない。

 だが、その爆発に巻き込まれれば無事では済まないだろう。


 歩法――烈震。


 体勢を低く、地に伏せるような姿勢で一気に駆ける。

 ロケットランチャーの弾速は存外に速い。その射角から軌道を想定し、潜り抜けるようにしてその先へと足を進めた。

 当然ながら、ロケットランチャーは連射は利かない。攻撃を撃ち切った影たちは、再び地面に潜るように姿を消して、次なる個体が出現しようとしていた。

 しかし、流石にそこまでの時間を与えるつもりは無い。



「Landmine」



 その声と共に、地面に収束する魔力の気配。

 前方に設置されたそれを回避していれば、再びロケットランチャーを放つだけの隙を与えることになるだろう。

 ならば――



「《練命剣》、【命輝一陣】!」



 地面を擦るように、縦に生命力の刃を放つ。

 その一閃は、エインセルの仕掛けた魔力を反応させ、激しい爆発を巻き起こした。

 舞い上がった砂煙は互いの姿を隠し――俺は、地を蹴って跳躍する。

 《空歩》を使って空中を足場とし、そのまま煙の中へと突っ込めば、俺の足の下を何本もの火砲が通り過ぎて行った。



「――『生奪』」



 餓狼丸に二色の光を宿らせて、砂煙の向こう側へと跳ぶ。

 その先で――姿を明確に捉えられるまでに接近したエインセルは、忌々し気な視線で俺を睨みながら、腰に佩いた軍刀を抜き放った。

 刹那の間に、俺とエインセルは交錯し――煙の中に、眩く火花を散らす。



「エインセルッ!」

「魔剣使い……!」



 俺の一撃をエインセルが刃で弾き、反転。

 振るった刃は鎬を削り、俺たちは至近距離で睨み合うこととなった。

 互いに、胸裏にあるものは憎悪のみ。どうやらエインセルは、先の攻撃によって俺を明確な敵として認識したようだった。



「貴様は一体何をした……あの剣は、一体何だ」

「説明したって、理解できないだろうよ」



 エインセルの軍刀を弾き、後方へと跳躍する。

 その刹那、俺が立っていた場所の足元から、何本もの銃槍が剣山のように突き出してきた。

 この状況でも、変わらず影の出現はできるらしいが、その姿も一瞬で消え去る。

 やはり、この悪魔は俺と影を直接的に戦わせたくはないようだ。



(そんなにも損耗を避けたいのか。この影たちを?)



 この影は、それほどまでに重要なものなのだろうか。

 分からないが、少なくとも俺の刃の届く範囲に出現させないようにしていることは理解できた。

 ならば、この至近距離にこそ俺の活路はある。

 尤も、離れた場所に出現してこちらを狙っている個体については、今俺から迎撃することは難しいのだが。

 しかし――後方から飛来した攻撃が、こちらを狙っていた影たちを的確に消し飛ばして見せた。

 攻撃を放ったのは緋真やルミナ、そしてベル。しかし、それだけではない。

 遠方より放たれる銃撃の数々が、俺を狙う影を的確に撃ち抜いていたのだ。



(軍曹も配置は完了したか。それに……アルトリウスも)



 近づいてくる大量の足音は、既にこの決戦の場に足を踏み入れつつある。

 それらに背中を押されるようにしながら、俺は再びエインセルへと肉薄したのだった。











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― 新着の感想 ―
影の消耗を恐れているというか、それ以外の攻撃を意に介していないようですね。 緋真の炎も厄介な攻撃とは認識していますが、鼬ごっこの範疇で…… 光の真龍達が敗北した原因もその辺にありそうですが…… 唯我…
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