900:最果てに在りし王 その1
書籍版マギカテクニカ12巻が7/18(金)に発売となります。
発行部数が厳しくなってきておりますので、ご購入、レビュー、巻末アンケート等、応援をよろしくお願いいたします。
https://amazon.co.jp/dp/4798638692
崩れ去った城館――未だその形の一部を保っているとはいえ、それは最早城とは言い難い代物だった。
瓦礫の山に等しいそれを、更に壊滅的なまでに破壊しているのは、他でもない公爵級悪魔レヴィスレイトだ。
巨大な鎧へと姿を変えたレヴィスレイトは、その強大な攻撃力を以て城を、そこに座すであろう相手を攻撃している。
だが、宙を駆ける火線と、度重なるような爆発音が、その巨体を遮っていた。
「あれが……」
火を噴いているのは、地上に立ち並ぶ黒い影の数々が構える兵器だった。
黒い影の中に黄金の輪郭が躍るそれは、まるで炎のように揺らめきながら武器を構えている。
そして――その後ろに立つのは、鎧を纏う一人の男。
ドラグハルトに比べれば小柄ではあるが、それでも偉丈夫と呼んで相違ない体躯。
黄金に輝く髪をなびかせ、黒い影を従えながら、巨大な鎧姿を冷徹に見つめる者。
『大公、エインセルッ!』
「白龍の生き残りがいたとはな。これについては、我が失態だ」
こちらの姿を認め、しかしまるで動揺した様子もなく、エインセルはそう呟く。
そしてそれに続くのは、地面より湧き上がるように出現する黒い影の軍勢だった。
やはり、あれらはエインセルが直接出現させていたもののようだ。
そして、それらの影が手に持っていたのは――
「チッ、防げシリウス!」
「グルッ」
シリウスが、咄嗟に翼を広げて防御態勢を取る。
奴らが持っていたのは、一目で見るには槍のような武器であった。
だが、先端には確実に銃器のようなものが付いている。銃剣ならぬ銃槍――槍衾に構えながらこちらに銃口を向けている影たちは、何列にもわたってこちらを警戒していた。
そして、その最前列は、まるで躊躇することもなくこちらに銃撃を放ってくる。
それらは、シリウスの翼に突き刺さると共に、小規模な爆発を断続的に巻き起こした。
(やはりグレネードランチャーの類だが、先程と同じ防御貫通か防御無視の性質を有していると考えた方がいいか)
シリウスが攻撃を防いでいる間に、光を展開したベルが影の群れを撃ち貫く。
しかし、光に貫かれて消滅した傍から、新たな影が地面より出現し、同じように武器を構えて隊列に並んだ。
ベルの攻撃規模にも劣らぬ、戦力の補充。それも、アルフィニールのようにただ無秩序に生み出すのではなく、全てが統制された動きを見せていた。
「……厄介な」
断続的に届く爆発は、シリウスの《不毀》を貫通することはできない。
しかしながら、それを見てもエインセルに動揺はない状態だった。
どうやら、《不毀》のMPを消費していることは気づいているらしく、断続的な攻撃でシリウスを縛り付けると共にMP切れも狙っているようだ。
特に問題なのは、こちらに対してそれだけの戦力を出現させたにもかかわらず、レヴィスレイトの方に向けている戦力が減っていないということだ。
果たして、コイツの戦力追加に限りがあるのか。一切不明であるが、今の涼しい表情を見るに、俺たちに対応する戦力の追加は大した問題ではないようだ。
「仕方ないか。緋真、全力で行くぞ」
「様子見してる場合じゃない、ですかね」
様子見は様子見ではある。だが、そこまでのんびりとしていられる余裕はない。
今のままでは、これ以上エインセルの手札を見ることができないのだ。
故に、まずはこの軍勢を片付けてみせなければなるまい。
その決意を込め、俺と緋真はシリウスの後ろから両側に飛び出した。
「……来るか」
エインセルは俺たちの動きを逃さず、銃槍部隊の射線を二つに分ける。
どちらにも油断せず対処するその姿勢に内心で舌打ちを零しつつ、俺は餓狼丸を掲げて告げた。
「貪り喰らえ、『餓狼丸』!」
「焦天に咲け、『紅蓮舞姫』!」
溢れ出す漆黒の霧と紅蓮の炎。
それらが、立ち並ぶ黒い影たちを包み込む。
しかし、それらの影響下に置かれても、黒い影たちが動揺するような様子は無かった。
やはり、個々の意志のようなものは無いのか。しかしながら、奥で沈黙するエインセルは指示を出しているような様子もない。
ある程度は自律的に行動できるということだろう。
歩法――陽炎。
ある程度視界が塞がれたとしても、影たちの動きには澱みがない。
その射線を緩急をつけて躱しながら、俺は彼らへと向けて刃を振るった。
「《練命剣》、【命輝一陣】」
余裕がある状況であれば【咆風呪】を使っていただろうが、この影たちの視界を塞いでも効果があるのかは分からない。
それに、こちらの視界が塞がれてしまうことの方がリスクが高いとも言えるだろう。
影たちの射撃を躱しつつ放った生命力の刃は、影たちを斬り裂いてその身を霧散させた。
だが、すぐに新たな影が補充され、戦列は変わりなく並んでしまう。
(ベルがまとめて消し飛ばしても意味が無かったんだ。となれば、多少削ったところで意味は無いか)
「なら、これで――【紅桜】!」
俺に続き、緋真は紅蓮舞姫から火の粉を放つ。
断続的に巻き起こる爆発は、黒い影たちを大量に消し飛ばし――やはり、何事も無かったかのように戦力は補充される。
この影たちは、どれだけ倒したところで意味は無いと考えるべきか。
ならば――
歩法――烈震。
再び発動したベルの魔法、それによって影が消し飛んだ隙を狙い、その先へと飛び込む。
狙うべきはエインセル本体。この軍勢を抜かれた時、奴はどのような反応を示すのか。
エインセルは、ちらりとこちらに視線を向け――
「――Landmine」
小さく呟かれたその声に、俺は咄嗟にその場から横へと跳躍した。
その刹那、俺の目の前にあった地面が黒く染まり――黄金の炎が、火柱の如く噴き上がった。
僅かに見えたのは、地面から這い出るように現れた黒い影だ。
あの黒い影そのものが、爆発と化して俺を吹き飛ばそうとしたのである。
(どこからでも出現して、火力を発揮できる配下。エインセルに近ければ近いほど、その出現に制限がなくなる――ってところか)
能力に不明点は多いが、基本的な傾向はそんなところだろう。
性質は単純ではあるが、それを理解していたとしても対処はしづらい。
アルフィニールと違い、エインセルには隙が少ないのだ。
適当に戦力をばら撒いているのではなく、的確に配置してこちらを追い詰めようとしてくるのである。
「チッ……!」
次々に現れ、炎を上げる黒い影に、俺は後退を余儀なくされる。
普通に接近しようとしても、今の攻撃によって邪魔をされるだけだ。
影が出現するタイムラグからしても、単純に隙を突いた程度で何とかなるようにも思えない。
そして距離を開けたことで、再び銃槍を装備した影たちが出現し、こちらへと銃口を向けてきた。
とにかく隙が少なく、面倒なことこの上ない。おまけに、少ない手札でこちらに対処してこようとする。
手札を隠そうとする動きすら見て取れるのだ。こうなると、こちらも切り札の切り方を考えなくてはならない。
頭を悩ませる事象ばかりの状況に顔を顰め――そこに、声が届いた。
『お父様、その……お父様に、言伝を頼まれました』
「言伝? 誰からだ?」
『それが――』
『――私ですよ、魔剣使い殿』
想像だにしない事象に、思わず眼を見開く。
パーティでしか使えない筈の内部通話。そこに割り込むように声を伝えてきたのは、他でもない公爵級悪魔アルファヴェルムだった。
一体どのような方法で声を伝えてきたのか、理解に苦しむような事象ではあるのだが、今その仕組みを聞いている場合ではないだろう。
「チッ……言いたいことは山ほどあるが、細かくは聞かん。話すことがあるなら手短にしろ」
『ええ、勿論。単純に、協力の申し出です』
予想できる内容ではあった。そして同時に、本当に来るとはという驚愕の思いも。
だが、この状況下では詳しく話をしている場合でもない。
軽く舌打ちを零しつつ、俺はアルファヴェルムの声に耳を傾けたのだった。





