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892:合流と異変











「ありがとうございました、クオンさん。おかげで被害無くここまで来れました」

「何、期待された仕事をこなしただけだ。まあ、あの女狐には一言……いや、二言、三言は言いたいことがあるが」



 ようやっと合流できたアルトリウスの礼に、軽く肩を竦めながらそう答える。

 軽く周囲を見渡してみたが、生憎とファムの姿を見つけることはできなかった。

 こちらからの苦言を避けるために隠れているのか、あるいは他にも何かを仕掛けようとしているのか。

 まあ、あの女が何もせずにいるとは思えないし、何かしらやらかしていると考えておいた方がいいだろう。



「正直、門を破ろうと思ったら、数時間は攻防を続ける必要があったでしょうね。完全解放すら、受けきるための準備があったかと」

「お前さんの解放なら破れるんじゃないか?」

「自信がないとは言いませんが、何度も見せていますからね。対策は打っているかと」



 確かに、アルトリウスの切り札は、これまでに何度も使ってきているものだ。

 用意周到なエインセルが、その対策を準備していないとは考えづらい。

 正攻法で戦っていれば、必ずや厄介な状況となっていたことだろう。



「それにしても、ドラグハルトがそのような手段を選択するとは……」

「やはり、予想外だったか?」

「ええ。あれだけのエネルギーを放出すれば、しばらく戦闘行動はできない筈です。しかし、そのエネルギーの使い道がエインセルとの決戦を速める手段だったとなると……正直、エインセルとの決戦に彼は出て来られないかと」

「ふむ、やはりそうなるか」



 どうやら、俺の考えていた懸念は正解であったらしい。

 一方で、その理由についてはアルトリウスにも分からないようだ。

 一体何故、自分の戦いを放棄してまで決戦を早めたのか。



「回復する手段はあると思うか?」

「技術的に、かなり厳しいとは思うのですが……何か当てがあるからこその行動という可能性は考えられますね。一応、注意はしておいた方がいいかと」



 やはり、ドラグハルトが退場したとは考えない方がいいか。

 奴の目的からしても、エインセルとの戦いを放棄するとは思えない。

 何かしらの方法で、戦いに参戦してくることだろう。



「まあ、ドラグハルトのことは一旦置いておくとして、ここからはどう動く?」

「なるべく早く、エインセルとの決戦に持ち込みたいですね。向かうべきは中央の城館ですが……」



 アルトリウスが視線を向けた先、大要塞の中央にそびえる城館。

 だがそこは、ドラグハルトのブレスが直撃したことにより、ど真ん中が崩れ去った廃墟と化していた。

 流石に、この戦場が続いている以上はエインセルも健在だろうが、無傷ということはないだろう。

 ともあれ、エインセルと戦うのであれば向かうべき場所はあそこだろうが――



「ただで向かわせてくれるとは思えんな」

「ですね。しかし、早期の外壁突破が彼にとって想定外であるなら、体勢を立て直される前にできる限り距離を詰めておいた方がいいかと」

「確かに、道理だな。なら、さっさと進めておくこととするか」



 とはいえ、こちらはまだアリスが帰還してきていないため、フルメンバーで進められるわけではないのだが。

 こういう都市内だからこそ、アリスがいた方が助かる状況ではあるのだが、戻ってきていないのでは仕方がない。

 しばらくは、慎重に進めるよう意識した方がいいだろう。



「……『キャメロット』は、メンバーの侵入が完了したようです。こちらはこちらで動き始めます」

「合わせなくてもいいのか?」

「ここで足並みを揃えようとしても、クオンさんは逆にやり辛いでしょう? 情報の共有程度に留めておいた方がいいですよ」



 確かに、こういう雑然とした場所でのゲリラ戦となると、集団ではむしろやり辛い。

 独自に動けるのなら、その方がいいだろう。



「了解。気を付けろよ」

「ええ、そちらも。決戦で合流しましょう」



 互いに頷き、その場を離れる。

 さて、大公級悪魔との戦いとはいえ、一応はワールドクエストの体を成している場所だ。

 であれば、何かしらのステージギミックが立ち塞がることになるかと思うのだが。

 まあ、何が立ち塞がろうとも、それを乗り越える他に道はない。

 まずは、慎重に事を運ぶとしようか。



「さてと……緋真、ルミナ。準備はいいか?」

「私は大丈夫ですけど、アリスさんはいいんですか?」

「今は連絡できんからな……あの女狐め」



 仕事を請けることは許容したものの、何とも面倒な状況にしてくれたものだ。

 まあ、アリスがこちらに合流できない以上は仕方がない。俺たちだけで進めるしかないだろう。



「とりあえず、他の連中も動き始めているし、さっさと動くぞ。エインセルがどんな手段で反撃してくるかも分からんし、注意しろよ?」

「了解ですが、皆さんはどうしますか?」

「門下生たちは好きにさせておけ。放っておいても戦うからな」



 師範代を始めとした門下生たちも、既にこの場に到着している。

 あいつらの実力なら、兵器で武装した悪魔たちが相手でも後れを取ることは無いだろう。

 まあ、爆撃の的にされたら流石に対処に困るかもしれんが、それでも全く対処できないということはないだろう。



「それじゃあ、どう進みます? シリウスを縮めますか?」

「……そうだな」



 街中のフィールドとなると、本来の姿のシリウスでは進みづらい。

 特に、隠れながら進むということは不可能だろう。あの巨体では、どうしたところで目立ってしまう。

 最低でもサイズを縮める必要があるし、従魔結晶に戻すことも選択肢であるだろう。

 だが――



「いや、ここは隠れず進む。正面から迎え撃ってやるさ」

「大丈夫ですか……?」

「ある程度目立っておいた方が、他も動きやすくなるだろうからな」



 それに、エインセルが何か手を下してくるのであれば、早めにその情報を手に入れておきたい。

 このまま、すんなりと進むはずも無いだろう。

 奴がどのような手段を有しているのか、まずはそれを確かめるべきだ。



「また無茶な方法で進みますね……まあ、行きますけど」

「ああ、その意気だ。それじゃあ、堂々と先に進むとするかね、シリウス!」

「グルルッ!」



 俺の言葉に頷き、シリウスはずんずんと足音を立てながら進み始めた。

 エインセルがこちらのことを注意しているなら、シリウスの姿はすぐにでも目に入るはずだ。

 こちらに対し、何らかのアプローチを仕掛けてくるなら、これで標的になりやすくなるはず。

 それに、シリウスを目立たせることには、もう一つ理由もある。



(余計なことをしなければ、切り札をギリギリまで隠すことができる……あとは、いつこれを切るか)



 エインセルとの戦いには、いくつかの切り札を用意した。

 ベルの存在もそうなのだが、他にもいくつか、誰も知らないであろう手札を準備しているのだ。

 エインセルの手札を探り、その上でこちらの手札を隠す。そのためには、シリウスを盾にするのが最も都合が良い。

 まあ、無茶をさせてしまうことは事実であるため、気を付けて行った方がいいだろうが。



「けど、エインセルはどう動いてきますかね?」

「分からんが、何もアクションをしないということは無いだろうよ。俺たちもドラグハルト達も、いい加減この都市の中に入ってきた。もし、こちらを一網打尽にしようとしているのであれば――」



 そろそろ、エインセルも動き始めるだろう。

 ――そう考えようとした、瞬間だった。



「……?」

「ん……これは?」



 具体的な、物理的な影響は何もない。それどころか、魔力の動きすら感じ取れなかった。

 しかしながら、俺たちの直感は、確実に何らかの変化を感じ取っていたのだ。

 言語化することはできない、しかしながら確かな違和感。

 まるで波紋を広げるように、都市の隅々にまで広がって行ったその感覚。

 一体何なのか――それを、説明することはできなかったが。



「お父様、悪魔の様子がおかしいです」

「……一体なんだ?」



 ルミナの言葉の通り、プレイヤーたちと戦っている悪魔に変化が生じる。

 兵器を武器に、ゲリラ戦のように戦っていた悪魔たち。

 その身に、まるで血のような赤黒い何かが張り付いていたのだ。

 正体は分からないが、先程の違和感による変化であることは間違いないだろう。



「注意して進むぞ。周囲の変化にも気を付けろ」

「……了解です」



 何が起こるか分からない。故にこそ、周囲の状況にも目を配りつつ、シリウスを先へと進ませたのだった。











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