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889:混乱する都市











 崩落した壁を乗り越えて、都市の内部へと侵入する。

 幸いと言うべきか、悪魔たちの注意は攻撃が飛んで来た北西側――即ちドラグハルトの軍勢の方へと向いているため、こちらの警備は手薄だった。

 大混乱の最中ということもあり、気付かれずに侵入することができただろう。

 とはいえ、悪魔の姿が全くないということでもないため、注意は必要だったが。



「さて、急ぐか」



 歩法――至寂。


 音を立てず、悪魔の街を走り抜ける。

 至る所にいる悪魔を殺したくはなるものの、いちいち相手をしていたらきりがない。

 さっさと南側まで移動し、壁を破壊するしかないだろう。



(とはいえ、流石に南側は警備が厚いだろうからな……どうしたものか)



 ここはエインセルの本拠地だ。流石にこの中を、誰にも気づかれずに進むというのはかなり困難だろう。

 とりあえずは建物の陰を進みつつ、周囲の気配を確認していく。

 ドラグハルトの攻撃によって、内部の状況はかなり動いているようだ。

 一部とはいえ堅牢な防壁を穿たれ、エインセルの本拠たる城も破壊されている。

 きちんと被害状況を確認してはいないため何とも言えないが、あれはエインセルとて無傷で済んではいないだろう。

 正直、エインセル本人の姿も拝んでおきたいところだったが、そこまで近づいたら流石に見つかってしまう。



「……ふむ、上からの方がいいか?」



 修復したというわけではないのだろうが、元々人間が使っていたころの建物は数多く残っている。

 まあ、その一部はドラグハルトの攻撃によって粉砕されたわけだが――その屋根の上なら、もうちょっと行動もし易いだろうか。

 そこまで考え、否定する。目につかない場所かもしれないが、視界が開けすぎている。

 流石に、全方位を確認し続けなければならないのは面倒が過ぎる。

 隠れながら気配を確認しつつ進んだ方が、目的の達成には近道となるだろう。



(エインセルの奴は、果たしてどうなっているのかね)



 このタイミングでドラグハルトが全力で攻撃してくるのは、エインセルとて予想外だっただろう。

 このような形で城壁を破られるなど、考えもしていなかったはずだ。

 であれば、奴は果たしてこの状況に対してどのように動いてくるのか。



(防衛という前提が崩れたとなると……積極的に打って出るのか? だが、ローフィカルムはこの本拠地の防衛には出てこない。となると――)



 公爵級悪魔を抑えるのに、公爵級悪魔を使うことはできない。

 当然ながら、レヴィスレイトとアルファヴェルムを相手にするのに、エインセル自身が出てくる必要があるだろう。

 特に、レヴィスレイトは配下がいようとも積極的に前に出てくるタイプだ。

 防壁が無ければ、レヴィスレイトたちは容赦なく攻め込んでくることだろう。

 果たして、この状況にエインセルはどのように対処するつもりなのか。



(業腹だが、ドラグハルトの一撃によって戦況は大きく変化した。エインセルに一方的に有利だった戦場は、俺たちにも勝ちの目がある方向へと変化している)



 攻城戦が難しい理由は、何よりもこの城壁を崩すことが難しい点にある。

 堅牢な外壁は、打ち崩すまでに多大な労力をかける必要があるのだ。

 本来なら、エインセルは防衛戦によってこちらを磨り潰してくるつもりだったことだろう。

 だからこそファムはこのような形で俺を送り込んだのだろうし、城壁を崩さなければ勝負にもならないという考えだったはずだ。

 それを、まさかこのような形で達成することになるとは。



(状況をひっくり返すことはできたが……やはり、ドラグハルトがそこまでした理由が分からんな。そこまで消耗して、エインセルと戦えるのか……?)



 一番分からない、というか不気味な点はそこだ。

 奴は金龍王や女神と戦うために、大公級の力を奪うことを目的としていたはずだ。

 だというのに、エインセルとの戦いで戦線離脱するような真似をした理由が分からないのである。

 もしくは、俺たちと同様、急速に回復するような手段があるのか。

 ファムならば何かしら掴んでいる可能性はあるが、今それを尋ねている状況でもない。



「……はぁ、分からんな」



 大きく嘆息を零しつつ、街の路地裏を静かに駆け抜ける。

 エインセルの軍勢は統率が取れているが故に、この辺りでたむろしているような悪魔はいない。

 特に今はまだ、敵性勢力が侵入してきているとは考えていない筈だ。

 内部を巡回しているとしても、それほど多くは無いだろう。



(……とはいえ、流石に皆無ではないか)



 僅かに捉えた敵の気配に、俺は物陰へと身を隠す。

 奥から歩いてくるのは、武器を携帯して巡回している悪魔の姿。

 数は二体、気付かれる前に殺し切ることはできるだろうが、わざわざ危険を冒す必要もない。

 そこは気配を先読みして導線を避けつつ、さらに南へと向けて進んでいく。



「さて……」



 小さく呟き、黒く染まった餓狼丸を握り直す。

 移動の間、刀を抜いたままというのもなんとも落ち着かないが、餓狼丸の発動は維持し続けなければならない。

 それに、辿り着いて解放したとして、果たしてどのように壁を破壊するべきか。

 まあ、【餓狼呑星】を使いながら《練命剣》の威力の高いテクニックを使うしかないのだが――中々、消耗には気を付けなければならないだろう。



「……そろそろか」



 南側の門を確認し、そこから少し東側――動線からして、あの白龍王の泉から一直線に進んできた場合の位置。

 マップである程度の位置を確認しつつ、その目標地点にマーカーを付ける。

 軍勢で通り抜けるとなると、ある程度大きく破壊する必要があるわけだが、さてどうやったものか。

 そんなことを考えながら辿り着いた南東側の外壁で、俺は壁の上を見上げて眉根を寄せた。



「しっかり防備は整えてるか。切り崩したら、残りの時間で上も破壊しておくかね?」



 この辺りに防衛兵器を集中させているということは、俺たちが白龍王の泉を拠点にしていることはバレているのだろう。

 ならば、可能な限り防衛兵器も破壊しておくべきだ。


 この壁を破壊するのに、【餓狼呑星】を最低でも三回は使う必要があるだろう。

 そうすれば、解放の残り時間はほとんど残らなくなってしまう。

 いかにして効率よく、壁上の防衛兵器を破壊したものか。

 その辺りは考えておくこととして――まずは、餓狼丸を解放することとしよう。



「――我が真銘を告げる」



 胎動する餓狼丸から、黒い炎が肌を伝って侵食する。

 普段であれば、強大な悪魔と相対した時にしか使わない最後の切り札。

 それをこのような場所で切るのは、ある種ドラグハルトのやり方に近しいものであるだろう。

 まあ、こちらはそれをリカバリーする手段があるからこその作戦なのだが。



「怨嗟に叫べ――『真打・餓狼丸重國』!」



 ここには大見得を切るような相手もいない。

 詠唱もそこそこに餓狼丸を解放し、俺は改めて破壊するべき壁を見上げた。

 餓狼丸の開放時間は五分。のんびりとしている時間は無いのだが、流石に壁を攻撃すれば俺の存在も気づかれるだろう。

 そうなれば、後は大暴れするしかなくなってしまう。

 アルトリウスたちには、さっさと辿り着いて貰いたいところだ。



「《オーバーレンジ》、《練命剣》【練煌命刃】」



 掲げた餓狼丸に、極大の生命力が収束する。

 巨大な刃と化した生命力は、俺が持つテクニックの中でも最大限の威力を有する一撃だ。

 それを、俺は更に強化する。



「――【餓狼呑星】」



 黄金の光は漆黒に染まり、黒炎を吹き上げる。

 その光景に、流石に悪魔たちもこちらの存在に気付き、防ごうと反応するが――流石に、これを防ぐにはもう遅い。


 斬法――剛の型、白輝。


 強い踏み込みと共に、振り下ろした神速の一閃。

 それは、強固な石材で構築された大要塞の外壁を、まるで紙のように易々と斬り裂いたのだった。











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