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886:結論











 唸りを上げる餓狼丸は、早速周囲からHPを吸収し始める。

 餓狼丸の能力については、既に数多くのプレイヤーに周知されている状態だ。

 この襲撃者たちも、餓狼丸のことはとっくの昔に警戒していたことだろう。

 しかしながら、餓狼丸による吸収は、いかなる方法でも防ぐことのできない代物だ。

 そのエリアから外に出るしか無いのだが、あまり広くないこの場所では、よほど隅に寄らない限りは影響を脱することはできないだろう。



「落ち着いてHPを回復しろ! 吸収量はそこまで多くはない!」



 シズクの言う通り、単独で見れば餓狼丸のHP吸収はそこまで大きなダメージではない。

 防御力を無視して割合で吸収することから、頑丈な相手でもダメージを通せるという点が便利な程度だ。

 元より、餓狼丸の能力の本質はそこではない。吸収に伴う攻撃力上昇こそが、もっとも重要な能力なのだから。



「『破命衝』」



 斬法――剛の型、穿牙。


 《蒐魂剣》により形作った蒼い槍。

 その光に黄金の輝きを纏わせながら、俺は待ち構えるプレイヤーたちへと一気に駆け寄った。

 タンクが共同で発動する防御スキルは、確かに頑強極まりない。

 しかしながら、それらのスキルであろうとも、魔力(MP)によって形作られている効果であることに変わりはないのだ。

 俺の突き出した槍の一撃は、タンクたちが構える障壁へと正面から突き刺さり――その後ろにあった盾とプレイヤーごと貫いて見せた。



「がッ!?」

「その程度で防ぎ切れると思ったか?」



 魔法ほど効率的に破壊できるわけではないが、《蒐魂剣》はMP消費型スキルに対しても効果を発揮できるのだ。

 とはいえ実際のところ、共同発動した《フォートレス》系のスキルに対しては、槍のテクニックでなければ効率的に破壊することはできないのだが。

 防御系スキルの頑丈さは、魔法破壊で攻撃した程度で何とかなるものではないのである。

 とはいえ、一度防壁を破ったことは事実。崩壊した障壁を乗り越えて、タンクたちへと肉薄する。

 生半可な攻撃では殺し切れない。で、あるならば――



「《練命剣》、【命輝練斬】」



 斬法――柔の型、零絶。


 肉薄と共に首筋へと突き付けた刃。

 静止状態であったそれを、上半身の動きだけで振り抜く。

 鋭い刃はスキルによって強化されている敵の肌を滑らかに斬り裂き、その首を刎ね飛ばす。



「――――ッ」



 そのまま身を沈め、崩れ落ちるプレイヤーの体で身を隠しながら、更に後衛の方へと向けて肉薄する。

 タンクは邪魔だが、単体だけでは脅威とは言い難い。

 それよりも、未だに脅威なのは後衛からの攻撃、特に強力な魔法による波状攻撃だ。

 それを防ぐためにも、素早く後衛の魔法使いを片付けねばなるまい。

 そう考えながら後衛へと接近しようとした瞬間――俺の足元に、薄っすらと輝く魔法陣が現れた。



「《蒐魂剣》、【断魔鎧】」



 防御を発動しつつ、魔法陣のエリアから身を躱す。

 次の瞬間に現れたのは、地面から生える鋭い岩の牙。

 設置型か、或いは俺が移動した瞬間にタイミングを合わせたのか。

 どちらにせよ、その反応は決して悪くない動きだ。



「……流石に、腕がいい連中もいるか」



 『キャメロット』のような精鋭揃いというわけではないが、ドラグハルト側にも悪くない腕のプレイヤーがついている。

 それを惜しいというつもりは無いが――前に立つなら容赦はしない。

 俺が足を止めたことで、連中もタイミングを合わせられたらしく、大量の魔力が一気に活性化する気配を感じる。

 大量の魔法、それも広範囲の攻撃を叩き込まれれば、流石に俺とて無事では済まない。

 彼らにとっても、それが決め技であり、最大のチャンスであると認識していることだろう。

 間違いではない、正しい考えだ。尤も――



「俺がそれを警戒していない、なんてのは見通しが甘すぎるな」



 俺の呟きが、彼らに届くことはない。元より、聞かせるつもりのない言葉だ。

 波状攻撃の第一陣となる魔法は今まさに発動し、魔力の収束と共に強力な魔法となって顕現する。

 こちらへと殺到してくる、いくつもの魔法。それを目にしながら、俺は餓狼丸を脇構えに構えた。



「《オーバーレンジ》――《蒐魂剣》、【破魔蒐閃】」



 刹那――餓狼丸より、蒼い光が周囲へと向けて展開される。

 その直後、俺へと向けて殺到してきた魔法は着弾と共に炸裂し、しかしその破壊力を蒼い光の内側にまで伝えることはない。

 それら全ては、魔力へと分解されて餓狼丸の刀身、そこに宿る《蒐魂剣》の蒼い光の根元へと吸収されているのだ。

 今まで使う機会はなかったが、【破魔蒐閃】は《蒐魂剣》最大のテクニックだ。

 あらゆる魔法を吸収し、攻撃力に変換して撃ち返す――【因果応報】にも似た性質を持つが、溜めが必要になるため汎用性には欠けるだろう。

 だが、この状況においては、非常に強力な力を発揮するテクニックである。



「どこまで吸収できるのかはよく分からんが……ここまでうってつけの舞台も中々無いもんだな」



 タイミングを合わせての、魔法による波状攻撃。

 だからこそ、放たれる魔法の数も威力も、一切遠慮のない強力なものだ。

 それらの破壊力に晒されて、しかし蒼い光はまるで揺らぐことはない。

 それどころか、大量の魔力を吸収し、その輝きはどんどんと増していくばかりである。



(【因果応報】のように、受けた魔法の性質を引き継ぐとはいかないか。だが――)



 数えきれないほどの魔法に晒され、眩く輝き続ける《蒐魂剣》の力。

 その輝きに、シズクたちも異常に気が付いたのか、放たれる魔法の手は徐々に減って行くこととなった。



「まさか……」



 確かに、遠距離からの波状攻撃は、俺にとっての弱点であると言える。

 だが――



「弱点を突こうという考えそのものが、扱いやすい餌だってことだ」



 大量のプレイヤーがいたがために、吸収した魔力の量は公爵級の攻撃にも引けを取らないほどとなった。

 その破壊力を、一切の加減なく彼らへと叩き返す。


 斬法――剛の型、輪旋。


 蒼い光が、その輝きを増す。

 そして、踏み込みと共に放った横薙ぎの一閃は、中空に一瞬だけ蒼い軌跡を残し――次の瞬間、その軌跡をなぞるように、膨大な魔力が解き放たれた。

 一瞬の静寂――そして、解き放たれた大破壊。それは、俺を襲うためだけに作られたこの空間を蹂躙し、立ち並ぶプレイヤーたちをまとめて吹き飛ばしたのだった。



「ふむ……流石に、【因果応報】の方が扱い易かったな」



 残心と共に刀を構え直し、そう呟く。

 【破魔蒐閃】による攻撃は、プレイヤーの数々のみならず、このエリアそのものまで破壊してみせた。

 どうやら、ここは地下空間であったらしく、その天井部分をブチ抜いて地上まで繋げてしまったようだ。

 しばらく暗かった場所に日光が差し込み、眩さに目を細める。

 さて、ブロンディーの奴は一体どこに飛ばしてくれたのか。

 何となく予想は付くものの、確認するのはもう少し後にするべきだろう。

 何しろ、俺を取り囲んでいたプレイヤーたちは大半が消し飛んだものの、まだある程度残っているのだから。



「狙いは悪くなかった。こちらも、無傷とはいかんかったからな」



 最初に狙われた時、全ての攻撃を防ぎ切ることはできなかった。

 ある程度は被弾したし、完勝であるとは言えないだろう。

 まあ、ダメージは自動的に回復してしまったのだが。

 だが、その被弾によるダメージは、間違いなく彼らの作戦によるものだと言えるだろう。



「ッ……ちく、しょう」



 苛立ちの混じる声と共に、瓦礫の中から一人の男が立ち上がる。

 この作戦を主導していたであろう、月影シズク。

 多くのプレイヤーを巻き込み、ブロンディーの協力をも得て、俺を倒すためだけにここまでの作戦を立ててみせた。

 正直に言えば、見事の一言である。ただの一般人でしかないこいつが、良くもここまでの動きを見せてくれたものだ。

 故にこそ、俺に対して敵愾心を抱いている彼に対し、俺としてはあまり敵意を抱くことはできなかった。



「……お前さんには同情するよ。色々とな」



 始まりがどこにあったのかは、よく知らない。

 だが、あの女狐の口車に乗せられ、人類を救う戦いの障害の立場にさせられてしまったことには素直に同情する。

 後で真実を知った時、この若者はひどく思い悩むことになるだろう。

 だが――



「それでも、俺の前に立つなら斬るだけだ。それでも立ち上がるか、小僧?」



 黒く染まった餓狼丸は、未だにその牙を剥いたままだ。

 俺の視線を受け、シズクは俯きながら歯を食いしばり――それでも、立ち上がってみせた。

 そんな若者の姿に、俺は胸中で小さく笑みを浮かべる。

 この状況で尚、覚悟を示すのであれば。俺もまた、それに応じることとしよう。











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― 新着の感想 ―
そういや、久遠神通流は元々対人戦特化の流派でしたよねぇw シズクさん、門下生になれば見込みはありそうなんだけど、 ここまで敵対しちゃうと難しいかな? あとは餓狼丸の錆になるだけだろうけど、 立ち上が…
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