873:輸送襲撃作戦
高速で飛行していたため、後ろにいたワイバーンたちは振り切れている。
しかし、斜め前方にいる悪魔の隊列の上には、別のワイバーンたちが飛行していた。
護衛なのか、それともある程度拠点に近いからか。どちらにせよ、あの部隊を襲撃するには上空のワイバーンたちが邪魔だ。
「ルミナ、先に上空を抑えてくれ。セイランは俺が下に降りてから向かわせる」
「了解しました、お任せください!」
まあ、正直なところあの程度の規模ならシリウスだけでも十分に殲滅可能だが、色々と確かめておきたい部分もある。
ルミナに頭上のワイバーンを任せ、俺たちは一気に地上へと向けて降下した。
悪魔たちも俺たちの姿に気付いたようだが、生憎と個人携行の火器程度では対空防御には向かないだろう。
何より、真っ先に降りて行ったシリウスには、生半可な攻撃では通用しない。
流石に少々同情心を覚えつつ、俺は地上付近まで到達したところでセイランの背中から飛び降りた。
地面を転がりながら勢いを殺し、そのまま地を蹴って悪魔の集団の方へと走り出す。
シリウスが悪魔を踏み潰しながら着陸したのは、それとほぼ同時であった。
「シリウス、サイを抑えろ! 他はこちらで対処する!」
「グルァアッ!」
俺の言葉に威勢よく咆哮を上げながら答え、シリウスは砲門を向けてくるサイへと突撃する。
正面から避けることもなく向かうため、当然ながらその攻撃の直撃を受けるが、シリウスはまるで気にした様子もなくサイへと食らいついた。
背中に付いた檻と、その中にいる悪魔ごと叩き潰すようなその攻撃に、サポートは不要と判断して悪魔の方へと向けて駆ける。
悪魔たちは、混乱に陥りつつもこちらへと銃口を向けてくる。
歩法――烈震。
だが生憎と、こちらを捉えるにはシリウスに気を取られ過ぎた。
対処の迷いが抜けていないその判断の隙に、俺は即座に近場にいた悪魔へと肉薄する。
「『生奪』」
銃口を掻い潜るように、低い体勢のまま接近し、放った一閃。
たとえ最低限の強化であったとしても、敵がただのデーモンであれば問題なく通用する。
横薙ぎに放ったその一撃は、デーモンを胴から真っ二つにしてみせた。
消滅していく悪魔の死体を踏み越えて、更に敵部隊の内部にまで侵入する。
「緋真、あまり爆発させ過ぎるなよ!」
「分かってますよ、今は破壊しませんって!」
悪魔たちが運んでいるのは、大きなコンテナに車輪のようなものを付けた代物だ。
サイに引かせているので、ある種の馬車のようなものなのだろう。
どんなものが入っているのかは分からんが、アレが今回の目的になるだろう。
(数はそれほど多くない。殲滅は余裕だな)
こちらに向けようとした銃身を上へと弾き、そのまま悪魔の懐へと肉薄する。
左手の拳は相手の胸元へと寄せ――踏み込んだ足が、爆ぜるような音を立てた。
打法――寸哮。
内部へと浸透する衝撃が、悪魔の心臓を叩き潰す。
口から緑色の血を吐き散らして崩れる悪魔を尻目に、周囲の状況へと視線を走らせる。
元より、大して数は多くない状況だ。注意しなければならないのはサイ程度である。
その注意すべき敵も、今はシリウスによって叩き潰されているところだ。
「――《練命剣》、【命輝一陣】」
こちらから注意を外している悪魔の首へと生命力の刃を飛ばし、その首を斬り飛ばす。
首をなくして崩れ落ちる悪魔の体は、地面に倒れるころには塵となって消滅していた。
周囲を見渡し、残る敵の姿が無いことを確認して、俺は改めて車輪付きのコンテナの姿を確認した。
サイがシリウスによって攻撃されたが、何とかコンテナは横転せずに済んでいる。
その内部には、何か動くものの気配は無いようだった。
「確かに、輸送部隊だったみたいですね」
「さて、何を運んでいたのかね?」
コンテナの扉を叩き、特に鍵がかけられらている様子もないことを確認する。
扉を開き――その内部に、いくつもの木箱が積まれている光景が目に入ってきた。
隙間に刃を差し込み箱を開けば、中には例のグレネードランチャーが収められている。
個人携行の火器。どうやら、こいつらはこれを運ぶのが仕事であったようだ。
「ふむ。ローフィカルムの転移で輸送していたわけじゃないのは幸いだったな。これなら、輸送部隊の襲撃は十分に視野に入る」
「でも、結構警戒されそうですね」
「まあ、それは仕方あるまいよ。警戒されたならされたで、その防衛部隊ごと潰してやれば済む話だ」
それよりも、問題はこの武器である。
これが運ばれているということは、別の拠点で生産されて、エインセルの要塞へと持ち込まれているということだろう。
通常であれば、その工場を破壊するのが常道なのだが、ローフィカルムのせいでそれもままならない。
残念ながら、元を断つという戦法は取れないのが現状だった。
「マップ的には……この街か。ここではこの小型グレネードランチャーが作られているのか?」
「どうでしょうね。その先の街っていう可能性もあるけど」
「まあ、動線としてはそこを通ることは間違いないだろう。この道を抑えておけば、輸送を阻止はできるだろうさ」
尤も、常にここを張っているわけにはいかないため、全ての輸送を防ぐことはできないのだが。
とはいえ、これで敵の物資の一部を奪うことには成功した。
これを繰り返せば、エインセルの懐にも多少はダメージを与えられるだろう。
「それで、この物資はどうするんですか?」
「こいつらは既に手に入れたことのある武器だからな……インベントリに入らないわけじゃないが、わざわざ手に入れるほどのものでもないだろう」
まあ、このコンテナに積まれているものがすべて同じものなのかは分からないが、いちいち箱を確かめて検品するのも面倒臭い。
というか、いつまでもこの場に留まっていれば、いずれワイバーンが飛んできて戦闘になってしまうだろう。
それを迎撃しながら検品する、という手も無くはないのだが、流石に時間がかかりすぎるだろう。
「破壊してしまって構わんだろう。頼むぞ、緋真」
「了解です。ちょっと下がっててください」
この手のものを破壊するなら、燃やしてしまうのが最も手っ取り早いだろう。
馬車からは距離を取りつつ、緋真が火をつける様子を見守る。
銃自体は金属とはいえ、コンテナも箱も木製だ。火をつけるのに困りはしないだろう。
火力の高い緋真の魔法は、あっという間にコンテナを紅蓮の炎で包み込んだ。
これで、この物資はまとめて破壊することができただろう。
「さてと……これなら、他の場所でも同じ作戦が使えそうだな」
「近い内に対策されそうだけど、まあその時はその時ってことね」
「そうだな。対策されるなら、それはそれでこちらも対処するまでのことさ」
さて、次はどこに向かうべきか。
輸送がされていることは確認できたことだから、街から街への道を重点的に見ていくべきだろう。
であれば――次は、東の方角にある街を狙っていくべきか。
「……よし。先生、そろそろ大丈夫そうですよ」
「了解だ。それじゃあ、また出発するか」
上空の対処も終わり、セイランたちも戻ってきている。
もうこの場所に用は無いし、先に進むこととしよう。
舞い降りてきたセイランの背に乗り、俺は改めてマップの方角を確認した。
「それじゃあ、次は向こうの方角だな。アリス、また確認は頼むぞ」
「了解。見つからなくても文句は言わないでよ?」
「別に、そっちはメインの目的じゃないんだ。見つけられたらで構わんさ」
さて、次なる物資は見つかるかどうか。
それも期待ではあるが、あくまでも主目的は拠点となる場所の確認。
あまり中央側から離れないうちに、いい場所が見つかることを願おう。