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868:広域の攻防












 ファムからの警告というか犯行予告は横に置き、俺たちは早くもアルトリウスの作戦に対応することとなった。

 まあ、こちらに攻めてくる部隊への破壊工作と敵拠点への襲撃、そのどちらが好みかと問われれば微妙なところなのだが。

 しかし、ここまで散々邪魔してきたこともあり、俺たちのことはすっかり警戒されてしまっている。

 ここいらで、別の動きに変えていくのも悪くは無いだろう。



「しかしまぁ、予想通りといえば予想通りだったな」



 エインセルがどのような形でこちらに攻めてきているかという疑問については、『キャメロット』内で既に幾度も議論が交わされている。

 基本的には、山脈を越えた中央エリアで前線拠点を築き、そこを足掛かりにしてこちらに攻め入ろうとしている状況だろう。

 北の方はドラグハルトが抑えているためあまり警戒していないが、アルトリウスはある程度広い範囲を警戒し、偵察を走らせている。

 この山脈が無かったらかなり面倒なことになっていただろうが――まあ、それはいいだろう。



「それで、この山脈の向こう側にもエインセルの前線拠点があるってことですか?」

「断定ではないが、可能性は高い――というか、そうじゃなければ非効率に過ぎる。エインセルも、流石にそんな面倒な真似はしないだろう」



 エインセルは、大量の資材や兵器と共に山を越え、中央側に侵略してきている。

 だが、それら全てを奴の拠点から持ち出しているとなると、あまりにも非効率的だ。

 普通であれば、山脈の近くに前線拠点を構築して資材を集積し、そこから部隊を再編制して攻めてくるだろう。

 つまり逆に言えば、山脈近くには奴らの前線拠点がある可能性が高いということだ。



「とはいえ、攻めるのも容易ってわけじゃない。何しろ、敵が一度集結してるってことだからな」

「人数も、集まっている兵器も、相応に多いわよね」

「そういうことだ。正攻法で攻めるとなると、正直かなり難しいと言わざるを得ないな」



 戦うだけならば何とかなるだろう。だが、破壊するとなると困難であると言わざるを得ない。

 俺たちだけでは、これを完全に攻め落とすまで持ち込むことはできないだろう。

 だが、敵陣を混乱させるには十分だ。



「……予想通りといえば予想通りだけど、いたわね、ワイバーン」



 双眼鏡を手に、山の向こう側を観察していたアリスがそう告げる。

 ここは、悪魔によって掘られたトンネルがあった場所。

 方角的には、そのトンネルが続いていた方向に、悪魔たちによって使役されたワイバーンの姿があったのだ。

 まあ、何も不思議に思うようなことはない。こちら側に拠点を築いていたなら、そこに運び込むための資材を配置した場所もあるだろう。



「空から行けばすぐに到着できますけど、めっちゃ警戒されてますよね」

「そうだろうな。わざわざワイバーンを飛ばしているんだ、かなり警戒されていることは間違いなかろうよ」



 拠点、およびトンネルの破壊。撤退した悪魔たちは、その情報を既にエインセルまで報告していることだろう。

 悪魔たちは、再びトンネルを掘ろうとするのか、或いはその拠点を放棄して別の方法で攻めてこようとするのか。

 どのような選択を取るかまでは全く不明だが、あそこにワイバーンが飛んでいる以上はまだ残っているのだろう。

 さて、であればどのように攻めるべきか。



「空を飛べばすぐに接近できるだろうが、どうしても発見される。当然、盛大な歓迎が待っているだろうな」

「正面から戦うのは、流石に厳しいですよね」

「ワイバーンだけなら何とかなるだろう。前の戦いぶりからも、空を飛びながらの戦いでは基本的に有利だったからな」



 あのワイバーンは魔法に対する対策はしているものの、空戦での戦闘能力は低いことが分かっている。

 うちのテイムモンスター達ならば、問題なく対処できるレベルではあるだろう。

 問題なのは、敵の拠点に配置されているだろう対空防御だ。

 シリウスならばその直撃にも耐えられる――と思っていたのだが、例の粘着弾を喰らうと流石に困る。

 体重が重いだけに、墜落した時のダメージは洒落にならないことになってしまうのだ。



(あのバリスタ、仰角はそれほど高く狙えないとは思うんだが……流石に、警戒せざるを得ないか)



 シリウスは、空中では鈍重だと言わざるを得ない。

 高速で飛来する砲弾が相手では、回避することは困難だろう。

 まあ結局のところ、対空防御が準備されている拠点には、空から接近することは避けるべきということだ。

 一方で、地上から近づくことも別に楽というわけではない。

 迫撃砲、グレネードランチャー、塹壕に防塁。現在確認されている兵器だけでも、姿を晒しながら近づくことは困難だと言えるだろう。

 必然的に、取れる手段は限られてくるわけだが――



「……まあ、とりあえずはやるしかないか」

「ああ、やっぱり?」



 ちらりと横目にアリスを見ながらの言葉に、当の本人は僅かに苦笑を零す。

 結局、空からだろうが地上からだろうが、発見された状態で近づくことは困難なのだ。

 であれば、発見されずに近付くしか方法はない、ということになる。

 当然、それを成し遂げられるのはアリスだけだろう。



「山の斜面から見下ろして【フェイズムーン】を使うか、それとも気付かれないように【ムーンゲート】を繋ぐか、どっちがいいかね?」

「それは立地次第ね。とりあえず、【フェイズムーン】の方が手間が少なくていいけど」



 出入口を両方設置しなければならない【ムーンゲート】よりは、確かにフェイズムーンの方が手間は省けるだろう。

 無論、射程の限界はあるため希望通りになるとは限らないのだが。

 まあどちらにせよ、まずはあの拠点まで近づかなければ始まらない。

 ある程度まで接近したら地上を走り、あの拠点の状況を確認してみることとしよう。











 * * * * *











 こちらの行動の大まかな流れについてはアルトリウスと共有し、そのまま山の中へと入る。

 アルトリウスは俺たちが攻撃を仕掛けた後に接近することになっているが、やはりどうしても敵の砲撃や爆撃に狙われるという危険が拭えない。

 そのため、ある程度までは隠れながら近づき、俺たちの攻撃によって敵陣が混乱したところに強襲を仕掛けるべきだ。

 まあ、理屈は分かるのだが、姿を隠しやすい山の近くでなければ通用しない作戦である。

 山脈から離れた場合には、また別の手が必要になるだろう。

 ともあれ、利用できるものは巧く利用するべきだ。山の斜面から、木々に隠れて見下ろした敵の拠点――その姿に、俺は思わず眉根を寄せる。



「ふむ……これを理想的と見るか、厄介な状況と見るべきか……判断しづらいところだな」



 悪魔たちの前線拠点、そこには想像通りの光景が広がっていた。

 ワイバーンたちが空を舞い、地上にはいくつもの兵器が配置されているその姿。

 砲身が向けられているのは、基本的に山の中――通常利用する山道の方向だろう。

 トンネルへと戦力を向かわせるのに加え、山から向かってくる俺たちの軍勢を狙い撃ちにするためのものだ。

 まあ、そんな山にバカスカと砲撃を撃ち込んで、あのトンネルが無事だったのかは知らないが。

 つまり――



「まだ撤退していなかった、ってことですか」

「トンネルの再利用の判断があったのか? だが、一度場所が割れたトンネルなんぞ、再利用できるものでもないだろうに」



 エインセルがそのような判断を下すか、という点には疑問が残る。

 流石に、トップまでは報告を上げていなかったのだろうか。

 或いは、トンネルを放棄してもそのまま防衛拠点として活用するつもりだったのか。

 まあどちらにせよ、あの場にエインセルの軍勢が残っていることに変わりはない。

 あれを壊滅させられれば、エインセルの懐にもそれなりの打撃を与えられるだろう。



「距離的には……【フェイズムーン】は届くよな?」

「ええ、ギリギリね。ただ、場所は手前にならざるを得ないけど」

「それは仕方あるまい。兵器は外周部分にあるし、それも悪くはないさ」



 とりあえず、アルトリウスたちが近付きやすくするために、兵器の破壊は狙いたいところだ。

 それに加えて、指揮官と思われる悪魔の暗殺もか。

 流石に上位の爵位悪魔が出てきた場合には厄介なことになるため、撤退も視野に入るだろうが――



「……まあ、状況次第だな。俺たちは揃って地上の兵器破壊、ルミナとセイランは上空から来るワイバーンの迎撃、そしてアリスは指揮官の暗殺ってところか」

「さっきと変わらないわね。大丈夫なの?」

「順当な割り振りなんだ、仕方あるまい。強いて言うなら、俺は悪魔狩りに専念するから、兵器破壊は緋真とシリウスに任せるって程度だな」



 俺たちが目立てば目立つほど、アリスは仕事をし易くなるだろう。

 とはいえ、悪魔を殺せば他の悪魔に察知される。その仕組みがある以上、アリスは手出しがしづらい状況だ。

 敵の指揮官のみの暗殺、それが必要となるだろう。



「一応、ここに【ムーンゲート】を仕掛けておいて、ヤバくなったら撤退だ。いいな?」

「了解、それじゃあ、行くとしましょうか」



 無言のまま、アリスは魔力を励起させる。

 さて、予定通りに行くかどうか――こちらからの積極的な攻撃、出鼻は挫かれないようにしたいところだ。











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