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087:合戦の終わり

連続更新ここまで。












 爵位級悪魔のバーゼストを倒した後は、やはり掃討戦が待っていた。

 こちらの戦場ではきちんと鬼哭を使ったわけではないため、悪魔共はまだある程度は好戦的だ。

 とは言え、指揮官であるバーゼストが倒れたためか、その士気はガタ落ちの状態であったが。

 まあ、それでもある程度こちらに対して敵意を向けてくれるのは好ましい。

 流石に、追い回して背中を斬るのも非効率的だからな。



「そら、もっと気張れお前ら! チマチマしてたら俺が全部貰っちまうぞ!」

「ちょっ、速いですってば先生! ルミナちゃん、ずっとこんな調子だったの!?」

「はい緋真姉様、お父様は先ほどもあんな感じでした」



 緋真とルミナを引き連れて、俺は悪魔の群れへの突撃を繰り返す。

 戦であったとは言え、この戦場は事前に条約の取り決めがあるようなものではない。

 降伏は認められず、そもそもしたとしても殺し尽くして然るべきだ。

 この戦場から悪魔共が一匹残らず消えて無くなるまで、殺して殺して、殺し尽くす。

 それが世のため、人のため――とまでは言わないが。これは単純に、俺の願望に過ぎないのだから。



(強敵には恵まれなかったが、数には満足だ。これほど発散できたのは何年ぶりかね)



 口元を笑みに歪めながら目の前の相手を斬り殺し、受け流して転ばせた相手を踏み潰す。

 敵はまだまだ存在している、殺し相手に困りはしない。

 だが――どうやら、徐々に逃げ出している敵も存在しているようだ。



「先生、スレイヴビーストたちが逃げ出し始めてるみたいですよ!」

「あん? ……使役していた悪魔が死んだからか?」

「名前的にも、その可能性が高いんじゃないかって言われてます」



 スレイヴビースト共がその名前の通り、悪魔共によって使役、隷属させられていたのだとしたら、その縛りが無くなった時点で逃げ出すことも理解できる。

 正直、獲物が減るためあまり望ましい状況ではないのだが、逃げる獣を追うのは流石に難しい。

 というか、追い回している内に時間が無くなってしまう。素直にレッサーデーモン共を狙うべきだろう。

 若干残念に思いつつも、俺はレッサーデーモンに狙いを絞っていた。

 と――その時、幾度か聞いた機械的な音声が耳に届く。



『男爵級悪魔ゼルフが、プレイヤー【ライゾン】によって討伐されました』

『一定範囲内の悪魔の軍勢が弱体化します』


「お……緋真、どっちだか分かるか?」

「今のアバター名は、『クリフォトゲート』のクランマスターの名前です。ってことは――」

「西側か。一体どんな悪魔だったのやら」



 かかった時間的には……妥当と言った所なのだろうか。

 他のプレイヤーが爵位悪魔と戦っている所を見たことがある訳ではないので、基準があまり分からない。

 これがアルトリウスであれば、もう10分程度早く終わらせていただろうとは思うが……今の討伐報告を早いと見るべきか、遅いと見るべきかは判断に困るところだ。

 ともあれ――



「残りは南側か……あっちの担当はどんな連中なんだ?」

「『剣聖連合』ですか? まあ、堅実も堅実、と言った感じの人たちだったかと。一番まともに攻略してると思いますよ」

「……まあ、俺がまともに攻略していないことは否定せんがな。西の……『クリフォトゲート』だったか? そいつらはどうなんだ?」

「あー……」



 手を休めずに悪魔共を斬り殺しつつ、俺と緋真は会話を続ける。

 この辺り、まだ慣れていないルミナは目の前の相手に集中しており、会話に加わってくる余裕は無いようだ。

 余裕のある緋真は俺の質問に対し、若干顔を顰めながら言い淀む。

 そんな珍しい反応に、俺は思わず眉をピクリと動かしていた。



「何だ、苦手な連中か?」

「ええ、ちょっと……ゲームとしての実力はあるんですけど、悪い意味でよくある上位クランというか」

「あん? よく分からんな、どういう意味だ?」

「えーと……クラン内でノルマがあって達成しないといけないとか、長時間プレイしている人たちが多いのはまあいいんですけど、ログイン時間の長さだけ自分たちが偉いと思ってる連中が結構いるとか……」

「ああ……成程、そういう手合いか」



 こういうゲームだ、長い時間プレイしていればいるほど強くなるのは当然である。

 とは言え、それが偉いかと言えば明らかに否だ。やることをやらずにゲームで威張っている連中など、論ずるに値すまい。



「あのクラン、加入条件は無いものですから、他のクランで素行が悪くて爪弾きになった連中とかも集まってて、クランマスターは統治する気が全く無いような人なので……何て言うかもう無法地帯で」

「頭が積極的にやらかしていないだけマシと見るべきか、無責任にも程があると言うべきか……」



 まあ、多人数が集まるゲームなのだから、そういう連中もいるだろう。

 むしろ、一か所に集まってくれているだけ対処がしやすいとも言える。

 何にせよ、あまり愉快な連中という訳でもなさそうであるし、積極的に関わる理由もない。放置しておけばいいだろう。

 悪魔の胸を貫き、抉るように振り抜きながら、俺は軽く嘆息していた。



「正直、こういう自由スタイルでの防衛クエストが一番不安なんですよね、あの人たち。フルレイドまでならいいんですけど、それ以上になるともう纏まり付かずに動き始めますし……街に被害が出てないかどうか」

「……成程、アルトリウスの奴はそれを見越していたわけか」

「はい? 何がですか?」

「いや、何でもない。俺たちには関係のない話だ」



 取り決めを行ったクランたちは、要請が無い限り別の戦場に手を出すことは出来ない。

 だが、それは戦場に限った話であり、街の中の警護を行うことについては特に言及されていないのだ。

 アルトリウスは、西側の街の中で現地人の護衛や救助などを行うつもりなのだろう。

 街に被害が出ることがあれば、それは即ちその場所を守っていたクランの過失だ。

 『クリフォトゲート』の連中が何を言おうと、それは護り切れなかったそいつらに責任がある。

 尻拭いをして貰った上に文句をつけるなど、恥の上塗りにしかならないだろう。



(尤も、護衛に動くにはかなり早い段階で爵位悪魔を倒せていなければならなかった……つまり、俺の動きに合わせたのはそういうことか)



 まあ、どちらが先に来たのかは知らないが、アルトリウスが一挙両得を狙った可能性は高いだろう。

 と、そう言うと少々聞こえは悪いが、どちらかと言えば彼の目的は現地人の保護のようにも思える。

 彼がこの戦場の形態を指定しなければ、全体はもっと混乱していたことだろう。

 その時、王都に被害が出なかったかどうかは――正直な所、保証は出来まい。

 俺とて、一人で全ての敵を殲滅できるわけではないのだ。最終的に勝てていたとは思うが、街への被害は防げなかっただろう。



(まあ、あいつの思惑通りであろうと、俺は好きなように動けて好きなように暴れられた……そこには感謝しておかんとな)



 合戦礼法を使うような戦いに、満足できる強さではなかったとはいえ爵位持ちの悪魔を二体。

 これだけの大立ち回り、そうそうできるような機会はあるまい。

 俺にとっては大層益のある話だった。ただそれだけのことだ。

 これだけのことができるのならば、今後も彼の話には耳を傾けておくべきだろう。

 受けるかどうかはその時に判断するが、少なくとも耳に入れる価値があることは確かだ。

 次に何を言ってくるか、少々楽しみに思いながら悪魔共を薙ぎ払い――その音声が響いたのは、ちょうどそのタイミングだった。



『男爵級悪魔ミアファが、プレイヤー【皐月森】によって討伐されました』

『全ての爵位級悪魔が討伐されました』



 どうやら、南側も戦闘が終了したらしい。

 どうせ今回も同じように、南側の悪魔共が弱体化するのだろう――そう思っていたのだが、それに続いたのは全く異なるインフォメーションだった。

 それと同時に、俺たちの周囲にいた悪魔、その全てが黒い塵となってその体を崩壊させてゆく。

 それは動いている個体も、倒れている死体も同じ。全てが黒い粒子と化して、上空へと立ち上ってゆく。



「こいつは……」

「お父様、あれを見てください!」



 ルミナの声に従って後方へと視線をやれば、街の向こう側から――他の三つの戦場からも、黒い粒子が立ち上ってきているのが見て取れた。

 どうやら、この現象は全ての戦場で発生しているらしい。

 上空に立ち上った黒い粒子は渦を巻き――やがて、一点に収束を始めていた。

 黒い渦と化したその物体は、徐々にその大きさを収縮させ――それと共に、そこから発せられる気配も巨大化していく。

 俺は思わず息を飲み、同時に口元を笑みに歪めていた。

 ――その気配には、身に覚えがあったからだ。



「――やってくれるものだ、人間」



 渦と化した黒い粒子の中、姿を現したのは一体の悪魔。

 レザーのような光沢を持つ黒い衣装、そしてその合間から覗く白い肌と、燃えるような赤い髪。

 その鋭い真紅の双眸を、悪魔――ロムペリアは余すことなく俺へと向けていた。



「任せろなどと言うから任せたというのに……全く不甲斐ない」

「それで、部下の尻拭いでもしに来たのか、ロムペリア」

「フン、どうでもいいことだ。貴様ら程度、滅ぼうが滅ばなかろうが、大局に差などない」



 冷酷に告げられた言葉に、俺は僅かに視線を細める。

 やはりと言うべきか――この悪魔からの総攻撃は、この世界中で発生していたようだ。

 こいつの言うことが確かであるならば、確かに小国一つ守り切った所で大勢に差などないだろう。

 しかし――そこに、ロムペリアは言葉を付け加えていた。冷酷に凍り付いていたはずの表情に、それまでには無かった、凄絶な笑みを浮かべながら。



「だが――貴様は別だ、クオン・・・

「……ほう?」

「認めよう――いいえ、認めるわ。王の言葉は本当だった。それを体現する人間は確かに存在した。ならばこそ、貴様こそが、私たちにとっての真なる敵となる」



 それは取り繕ったものではない、ロムペリア個人としての言葉。

 圧倒的に格上のレベルである筈のこの悪魔は、俺を対等な敵であると認めていたのだ。



「故に――」

「――――ッ!」



 ロムペリアの気配は、まだ薄い・・

 だがそれでも、以前とは異なる具体性を持っていた。

 彼女の姿は一瞬揺れ、同時に感じた悪寒に、俺は即座に刃を振るう。


 斬法――柔の型、流水。


 刹那、眼前に移動……否、転移してきたロムペリアが、手に纏った魔力を赤い刃へと変貌させて振るう。

 その一閃に即座に反応し、刃を合流させ――その重さに、俺は顔を顰めていた。

 とんでもない重さだ。まるで巨岩が落下してきたかのよう。

 ほんの僅かにその軌道をずらし、その刃が当たらない場所まで体を移動させた俺は、即座に反撃のための刃を振るっていた。



「《斬魔の剣》――!」



 その赤い魔力の剣も、結局は魔法だろう。

 であれば、《斬魔の剣》ならば斬り裂ける――そう判断し振るった刃は、僅かながらにロムペリアの剣に食い込んだところで止まっていた。

 完全に威力負けしている。今の俺の攻撃力では、こいつの魔法は消し去れない。

 鍔迫り合いのような形で刃が止まり、俺たちもまた動きを止め――しかし、ロムペリアはそれ以上力を込めてこようとはしなかった。

 ステータスの差は隔絶している。力押しをすれば、容易に押し切れることだろう。

 だが、ロムペリアはそうすることなく、納得したように声を上げていた。



「やはり、ね……今の一撃、貴様以外であれば誰であろうと殺せていた。つまり、貴様だけだということよ、王の語る『価値ある人間』というものは」

「……テメェは、何を言ってやがる」

「簡単なことよ――」



 食い込んだまま離れない太刀を手放して攻撃しようかと悩んだが、ロムペリアの剣がフリーになった時点でこちらはアウトだ。

 こいつに攻める気が無いならば、今はそれに甘んじるしかない。

 そう判断したその瞬間、ロムペリアはずいと俺に顔を寄せていた。



「――貴様は必ず、このロムペリアが打倒するわ。私の敵……私だけの、宿敵よ」



 刃がずれている。今ならば一手、こちらの方が速い。

 舌打ちし、刃を手放して密着体勢からの打法を放とうとし――その瞬間、ロムペリアの姿がその場から消え去っていた。

 そして再び上空に姿を現したロムペリアは、周囲をじろりと睥睨して言い放つ。



「貴様ら人間に未来などない。我ら悪魔の手によって滅びる運命だ。それに抗えるなどと思い上がっているならば――無駄な抵抗を続けるがいい」



 奴は興味などないというように――いや、恐らく俺以外の人間には事実興味を持っていないのだろう、まるで路傍の石に語り掛けるように、そう言い放っていた。

 そして、それこそが俺たちの、そしてこのゲームの真なる目的なのだろう。

 世界を滅ぼそうとする悪魔を打倒し、人々の生きる場所を取り戻すこと。それこそが、最初にして最後の目標。



「――さらばだ。精々、足掻いてみせろ」


『ワールドクエスト《悪魔の侵攻》を達成しました』

『グランドクエスト《人魔大戦》が開始されます』

『イベント中の戦闘経験をステータスに反映します』

『イベント成績集計中です。発表は後日GMより行われます』

『報酬アイテムの配布は成績発表後に実施されます』

『レベルが上昇しました。ステータスポイントを割り振ってください――――』



 ロムペリアが姿を消すと共に、怒涛の勢いでインフォメーションが流れ始める。

 その音を聞きながら、俺は地に転がっている太刀を拾い上げ、奴の消えた中空をしばし見つめ続けていた。






















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:30

■ステータス(残りステータスポイント:6)

STR:24

VIT:18

INT:24

MND:18

AGI:14

DEX:14

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.30》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.20》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.19》

 《MP自動回復:Lv.16》

 《収奪の剣:Lv.16》

 《識別:Lv.17》

 《生命の剣:Lv.19》

 《斬魔の剣:Lv.12》

 《テイム:Lv.15》

 《HP自動回復:Lv.16》

 《生命力操作:Lv.12》

サブスキル:《採掘:Lv.8》

称号スキル:《妖精の祝福》

■現在SP:36






■アバター名:緋真

■性別:女

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:29

■ステータス(残りステータスポイント:4)

STR:24

VIT:17

INT:21

MND:18

AGI:16

DEX:16

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.29》

マジックスキル:《火魔法:Lv.25》

セットスキル:《闘気:Lv.18》

 《スペルチャージ:Lv.17》

 《火属性強化:Lv.16》

 《回復適正:Lv.11》

 《識別:Lv.16》

 《死点撃ち:Lv.19》

 《格闘:Lv.18》

 《戦闘技能:Lv.17》

 《走破:Lv.17》

サブスキル:《採取:Lv.7》

 《採掘:Lv.10》

称号スキル:《緋の剣姫》

■現在SP:34






■モンスター名:ルミナ

■性別:メス

■種族:ヴァルキリー

■レベル:3

■ステータス(残りステータスポイント:4)

STR:25

VIT:18

INT:32

MND:19

AGI:21

DEX:19

■スキル

ウェポンスキル:《刀》

マジックスキル:《光魔法》

スキル:《光属性強化》

 《光翼》

 《魔法抵抗:大》

 《物理抵抗:中》

 《MP自動大回復》

 《風魔法》

 《魔法陣》

 《ブースト》

称号スキル:《精霊王の眷属》

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